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「うっ……いっ……うぅぅ」
また陣痛が来た。
なんで私はこんな所に居るんだろう…。
分娩待機室――出産直前の妊婦が案内される部屋で、私は産みの苦しみに耐えてる。
「麻奈実。痛いのか?先生呼ぼうか?」
右手を握り締め、私につきっきりで心配してくれる京ちゃんが居なければ、私の心は耐えられなかったかもしれない。
「う、うん。まだ大丈夫だよ。30分おきぐらいだから」
脂汗が額を流れ、握りしめる手が熱くなる。
下腹部を襲う痛みも、5分ほど我慢していると、徐々に引いていく。
助産師さんの話だと、この痛みが10分間隔になると、いよいよ分娩室に連れていかれるみたい。
でも、まだその時じゃないみたい。

「ねぇ……きょーちゃん」
私は痛みを紛らわせようと、ベッドの隣でずっと看病してくれる幼なじみの高坂京介に話しかけてみる。
「ん、なんだよ」
神妙な表情の京ちゃん。今の私にとって、一番頼りがいがあるひと。
「きょーちゃん。私の言ったこと本当に信じてるの?」
「また言わせるのか?お前が俺に嘘をついたことがあるのか?」
半分怒り、半分呆れ顔の京ちゃんが答える。

「でも…でも。このお腹の子。きょーちゃんの子じゃ……」
私が知らない間にレイプされて妊娠したこと。
名前も知らない中年のおじさんに自分の部屋でも金縛りでエッチされたこと。
妊娠検査薬も、生理も騙されていたこと。
ぜんぶ京ちゃんに話した。私が言う事を信じてくれたのは京ちゃんだけだった。

「誰の子とか、んなことはどうでもいいんだよ。麻奈実と俺の子でいいんだよ。それで世間が丸く収まるのならいいじゃねぇか。な、そうだろ?」
京ちゃんがいろんな人達に頭を下げて回ったことを私は知ってる。
私と一度もエッチしてないのに、京ちゃんは自分の子ということにして私をかばってくれた。
みんなに軽蔑され、時には暴力を受けても決して私を見捨てなかった。
きっといっぱい辛いことがあったと思う。
でも、私の前では絶対に暗い顔は見せなかった。
そんな京ちゃんのやさしさだけが私の支え。

「わたしたち一度もエッチも……ううん、キスもしてないんだよ?」
「バカか、病室でそんなこと言うなよ。さすがにエッチは今は無理だって。今はキスでガマンしてくれ……」
そう言って、私の唇にそっと唇を合わせてくれる京ちゃん。
これが、私にとってのファーストキス。
あの得体の知れない中年のおじさんとの気持ち悪いディープキスは決してキスなんかじゃない……。
「とにかく、今は麻奈実は元気な赤ちゃんを産むことを考えろよな」
やさしい京ちゃん。本当にやさしい……わたし、こんな京ちゃんに甘えていいのかな。

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