TREEセミナー@東邦大学理学部 - 第13回TREEセミナー(2008年6月27日)

生命圏環境科学科×第13回TREEセミナー


6月27日(金)13:00〜14:30

場所:東邦大学理学部5号館2階5207教室 (東邦大学理学部へのアクセス

湖岸植生の保全と再生


西廣淳
東京大学農学部生命科学研究科保全生態学研究室

*生命圏環境科学科の授業の一環として行います.

要旨

関東平野の大部分はかつて広大な氾濫原で、大湖沼、小さな沼、汽水湖、河川といった多様な特徴をもつ環境に、それぞれ個性のある湿地生態系が存在していたと考えられます。しかし現在では都市化や農業の近代化のため、かつて湿地の生態系を構成していた多くの生物が絶滅しつつあります。私は、関東平野に残る湿地再生の可能性を生態学の目で見出し、引き出すことによって、自然の恵みをもっと享受できる社会の構築に役立ちたい、と考えて勉強をしています。

今回のセミナーでは、霞ヶ浦と印旛沼で進められている自然再生のための事業について説明しつつ、それと関連して私が取り組んでいる研究について発表します(主に霞ヶ浦の話題について扱う予定)。北総にキャンパスのある東邦大学に、関東平野の湿地再生につながる研究や取り組みをしたい、と思ってくださる方が増えることを願って。

霞ヶ浦では、絶滅危惧種を慎重に保全しつつ、湖岸植生再生の新手法を、実践を通して開発する取り組みを行っています。これらの取り組みは順応的管理によって進められており、絶滅危惧植物アサザの個体群回復、コンクリート化された湖岸での植生帯の再生といった成果が得られるとともに、事業を通して生態学的仮説が検証されつつあります。

また、霞ヶ浦に残存している比較的良好な湖岸湿地植生での研究からは、水位変化や富栄養化といった連続的な環境変化が、今後、生態系の非線形な崩壊を招く可能性が示唆されつつあります。

埋め立て・干拓が顕著な湖沼である印旛沼では、自然再生のための水位管理という画期的な試みが開始されています。この取り組みの内容や成果はまだ限定的ですが、沈水植物再生の兆候が確認されるなど、興味深い結果が得られつつあります。


2008年6月27日ポスター