呟き尾形の自転 - 混水摸魚
第二十計 混水摸魚「水を混ぜて魚を摸る(みずをかきまぜて、さかなをさぐる)」


 陽明学の祖、明代の王陽明は軍略家としても知られています。
 この時代、寧王が朝廷に対して反乱を起こしまそた。
 陽明は寧王反乱の鎮圧のための、軍司令官でそたが、突然の反乱に、陽明には、まだ戦える準備ができていませんでした。
 そこで陽明は一計を案じました。
 寧王の腹心である李士実と劉養正宛に「一刻も早く打って出るよう寧王に勧めていただきたい。寧王を本拠地から切り離せば、まさに討ち取ることは用意である」という密書を認め、それを捕らえていた諜報員に持たせて、わざと寧王にわたるようにしたのです。
 寧王は、その密書を読むや、李士実と劉養正が敵と内通しているのではないかと疑ったのです。
 その疑いを持ったまま、本人達に今後の作戦を諮ると、二人とも一刻も早く南京を攻略し帝位に付くように言うばかりです。
 こうして寧王は疑心暗鬼に駆られ、出撃する機会を逸してしまいました。
 十日ほど過ぎたころ、寧王はそれが、軍を整えるための策略だったことを知り、歯噛みするが時遅く、王陽明の軍に討ち取られてしまったのです。


 
 混水摸魚は、水をかき混ぜて、何も見えなくなった魚を捕らえよという、相手の内部混乱に乗じて勝利を収める戦略です。
もちろん、相手が混乱しているとは限りませんが、そこは策略。
 混乱していなければ、まず混乱させる工作をし、その後、その混乱につけこむわけです。

 特に、組織というものは、指揮が乱れると、戦力が落ちてしまいます。
 これは、組織が、巨大であればあるほど、言えることです。
 逆に、敵が統一された意志の元に規律正しく行動している場合、集団としての戦力は高いと言えます。 
 ところが、命令系統が混乱すると、各自の行動はばらばらとなり、統一行動は不可能となって、実際の兵力よりも戦力的には低下します。
 こうなると、敵は軍としての行動ができなくなりますから、味方から見ると戦略的な時間確保、彼我の戦力格差、戦略的な”隙”等の形でメリットとなります。
 このメリットを有効に利用するのが、『混水摸魚』です。
 自然と組織の中に派閥や別の勢力が出来てしまいます。
 その中でも一番弱い部分をつき、撹乱工作を行うことで、混乱させれば、組織は機能しなくなります。
 強固なカリスマ性を持った指導者でもない限り、中々一枚岩のようにはいかないものです。
 さて、混水摸魚のポイントとして次の二点が挙げられます。
 1・相手の判断を惑わすかく乱工作をし、指揮系統を乱す。
 2・相手の派閥などの中で、対立の激しいところをターゲットにする。
 といったものです。

 上記のポイントに着目し、積極的に機会を作って、敵を混乱させ、それに乗じて攻撃するのが、混水摸魚であるということです。

 さて、現代においては、混水摸魚は、どのような活用方法があるでしょうか?
 それは、議論などにおいて少数派になったときに使えます。
 少数派になってしまうと、多数決になれば、それは自分の意見は却下されることは明白です。
 そこで、多数派の和を乱します。
 人間というものの結束は、利害の一致や、総論での意見の一致によるものが殆どです。
 そこで、多数派の各自の意見と利害を分析し、多数派の意見が通ったとしても、利害の少ない存在を強調します。
 すると、利害の一致による結束を崩すという、混水摸魚ができます。
 すると、多数派の中でも多数派と少数派に分かれ、多数決に有利になります。
 次に、総論での意見の一致によるものの場合、総論賛成、各論反対ということはよくあることです。
 総論で自分が少数派になったとき、各論に議論をすり替え、議論することで、結束の和を崩し、混水摸魚を実行することが可能です。

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