つらつら日暮らしWiki〈曹洞禅・仏教関連用語集〉 - 具足戒
【定義】

比丘比丘尼が護持すべき戒法のこと。『四分律』に依れば、比丘は二五〇戒、比丘尼は三四八戒を護持すべきであるとされる。具足戒という呼称は、この戒法を護持するときには、無量の戒徳を修行者の身体に円満具足することを意味する。なお、この原始仏教以来守らねばならないとされてきた戒法については、大乗仏教からは声聞戒とされた。

中国では、『梵網経』『瓔珞経』などの大乗戒・菩薩戒の影響で、比丘・比丘尼が声聞戒受戒した後、十重四十八軽戒の菩薩戒を受けることになっていた。日本では、鑑真和上の来日により比丘戒(声聞戒)を受けられる状況となったが、伝教大師最澄が、声聞戒を受けずに菩薩戒だけをもって出家受具したことにすると定め(『顕戒論』)、その影響もあって最澄死後七日後に比叡山には大乗戒壇が設置された。このため、「具足戒」の理解についても、注意が必要だが、基本は比丘戒を意味していたとして良い。
唐の感通のはじめ、年甫三十なり。たちまちに出塵をねがふ。すなはち釣舟をすてて、芙蓉山霊訓禅師に投じて落髪す。豫章開元寺道玄律師に、具足戒をうく。 『正法眼蔵』「行持(上)」巻

【内容】

具足戒とは、基本は声聞戒比丘戒を意味するものであるが、曹洞宗内の議論で、菩薩戒も指すという見解もあった。
具足、即ち是、菩薩戒なり。華厳経疏巻第十四に曰く、具足戒の言義に二種含む。一には則ち大比丘戒、二には則ち菩薩戒なり。 石雲融仙『叢林薬樹』巻上

これは、清涼澄観(738〜839)の『華厳経疏』巻15「浄行品第十一」からの引用である。なお、確かに澄観はこのように述べるのだが、中国仏教界全体から見ても、かなり珍しい見解である。そのため、同文を扱った別の洞門学僧は以下のように批判した。
華厳の疏、已に義含二種と云り、比丘戒をも菩薩戒をも、共に具足と称するときは、決定して六祖の具戒は、菩薩戒なりと証拠し難し、其上高僧伝等の中、一一の比丘戒を以て、具足と称せり、独り六祖の一伝のみ、菩薩戒なりと定めんや、 一丈玄長『禅戒問答

以上の通りで、『高僧伝』などの文献で「具足戒」と表現する時には、基本は比丘戒だとしているのである。よって、『叢林薬樹』の見解をこそ、特殊なものと位置付ける方が良いと思う。