【定義】
江戸時代の
学僧・
面山瑞方
禅師による『
般若心経』への提唱。題は内外ともに『般若心経聞解』だが、末尾には『般若心経称提聞解』ともある。刊行は文政10年(1827)臘月釈尊出山日に
法孫の大智が跋を付し、京都書林・天王寺屋市郎兵衛により、吉祥林蔵版(吉祥林は面山師開闢の
永福庵?の林号)として刊行された。書字は寺西正三郎、彫刻は加藤勘輔である。なお、刊行費用は177件の志納金により賄われたことが、同書末尾の名簿から伺える。
【内容】
大智の跋によれば、面山禅師の『般若心経聞解』は展転書写されてきたものだったようで、いつ頃の提唱であったのかも明記されておらず、本文中からも知ることは出来ない。ただし、「称提」の名を冠する、面山禅師の他の文献からすれば、宝暦年間以降であろうか。内容は、まさに
婆婆面山の称に相応しく綿密な内容で、円熟味を感じられるものであるから、若い頃のものではあるまい。『般若心経』の題から始まり、その全文について詳細なる
提唱がされている。
一方で、提唱の中には以下のような一節も見える。
祖師門下の心経は専ら普遍智蔵なりと参学すべし。只箇の普遍智蔵心、下も地獄界より、上み仏界まで箇箇面面含識して、欠たる事なし。今日、坐蒲団上に安住するが仏祖正伝の頓悟成仏、刹那に前後円成する、間に髪といれぬなり。此れ則ち有情非情同時成道なり。 2丁裏、カナをかなに改めるなど見やすくした
このように、祖師にとっての『般若心経』について、特に「心」に注目をして註釈し、
坐蒲上に安住する無分別なる同時成道こそが、その肝要なる道理であることを示した。