法１第９回　垣内クラス

法学１　9回

３民事訴訟制度と民事紛争に関わるほかの諸制度

レジュメ

３民事訴訟制度と民事紛争に関わるほかの諸制度

（１）紛争当事者による紛争解決行動（前回）

（２）民事紛争の解決方式の諸類型　～　概観と整理

第三者による介入のあるなし、手続き内容の側面、ＡＤＲの担い手の側面から整理し直す

第三者介入のあるなし

第三者の介入なし　・・・　前回、紛争当事者による紛争解決行動（紛争の認識、紛争回避 or 相対交渉、合意 or 不合意）
第三者の介入あり →　２つの類型　調停型と裁定型

調停型と裁定型

調停型手続き
当事者間に解決内容について合意が成立、あるいは成立させるような手続き。そのために第三者が介入する。

細かくわけるとさらに分類　斡旋（第三者が具体的な解決策の提案を行わない、解決策は当事者にまかせる　）　⇔　狭い意味での調停（第三者が当事者に解決策の具体的な提案を行う　）を区別

具体例

民事調停制度：民事調停法で規定。当事者間の話し合いをすすめ,和解を成立させることを目的とする手続き。
法に拘束されず、
当事者の互譲により、条理にかない、実情に即した解決をめざす。

家事調停制度：家事審判法
離婚など家庭関係における調停（離婚など家庭関係における紛争では裁判よりも話し合いによる解決が望ましい、という考え、政策）

裁判官による和解勧試
民訴89条「裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問はず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。」
　↓
訴訟手続きの中で行われるが、理論的には裁判外の紛争解決（ＡＤＲ）とみなすことができる。
訴訟上の和解: 和解が成立したらもう訴訟はしない。→　裁判の終了
　～　では、なぜ裁判外の手続によって裁判が終了するのか？

　　　　　　　＝　処分権主義～自らの権利主張を自らの判断で決定

裁定型手続き
解決についての当事者の内容合意を必要としない

　　　　　　　　　→第三者の裁定に強制力　～　合意がなくとも紛争解決

仲裁と訴訟

仲裁：
当事者が前もって仲裁手続に合意　→　仲裁する第三者である仲裁人を選任　→その仲裁人の仲裁判断が当事者を拘束する。
具体的な解決内容については合意が必要ないが、入り口「仲裁するかどうか」についてのみ合意が必要。しかし、その結果に異議を唱えることはできない。（出口に強制）また、紛争内容（の解釈）についても合意が必要なため、あまり利用されることはない。

訴訟：　合意をまったく必要としない。～　仲裁との最大のちがい
紛争解決の入り口、訴訟の利用については合意の必要なし、一方が裁判所に手続申立すれば開始。
入り口（紛争解決手続の開始）でも出口（紛争解決）でも強制力が働く。全く当事者の合意に依拠しない（権力的）。
紛争解決手段の中では最も強制力が強い　→　最終的手段　＜強制的に解決＞

しかし、ここでの解決とは判決のこと。現実には一片の紙切れにすぎない。訴訟によって判決をだしても、それは相手を判決文で観念的に拘束するに過ぎない。解決策を実行させるには、強制執行という手段が必要。
強制力＝権力が必要。あくまでも合意ではなく強制
　また、例えば、判決で100万円支払えといわれても、一銭も財産のない場合はどうしようもなくなる。いくら強制執行しても無理。
⇒　本当に解決されたと言えるか？　法律上での紛争は解決したが、社会的に当事者の利害関係の対立は解消されたか？
　　→法律的には判決がでれば最終的に解決したといえるが、それが必ずしも社会的・実際的な解決であるとはいえない。訴訟は万能ではない（他に比べて強制力は強いが）

ＡＤＲの担い手による区別　～　アドホック型と機関型

アドホック型：　ad hoc （いきあたりばったりというニュアンス）
cf. ラテン語　「 for this (purpose), for only a specific, immediate purpose」という意味で使用。反対語はプロピタルホック propter hoc それゆえに、元からその目的で。哲学では偶然か必然かをさすのに使う。ウェーバーだったっけで見かけた気がする。
個々の事件につきたまたまそこにいたちょうど良い第三者に頼む。
ex. 「貸した金を返せ」と同じサークル生がもめている。そこに同じサークルの先輩が通りがかって「５千円づつ２回に分けて払え」～どこにでもある事例

⇔

機関型：民事紛争解決，ＡＤＲを業としている業者、あるいは一定の常設機関が紛争解決にあたる。

社会的、法律的に大きな意味があるのは機関型である。
↓
機関型の分類　：　機関型には以下の3つの種類がある。

１司法型　→　民事調停・家事調停・裁定　～　裁判所自身が行う訴訟以外の紛争解決方法

２行政型　→　多数の自治体、行政機関が行う。公害などの調停、労使紛争の調停・あっせん（労働委員会）国民生活センターや消費生活上の苦情処理・市町村の法律相談所など。

３民間型　→　民間業者がＡＤＲを行う。日本交通事故紛争処理センター・ＰＬセンター（ Product Liability 業界ごとに製品・製造物のトラブルを処理）弁護士会の仲裁センター ( 東京第一、第二弁護士会、大阪弁護士会、etc ボランティアの弁護士がＡＤＲを促す)など。　　　　　　　　　　　
民間型の活動内容　～　ほとんどが調停型（解決内容について当事者間で合意を形成しようとする）仲裁はほとんど使われない。（弁護士会の活動も仲裁センターという名であるが、実態は調停が多数）
仲裁には仲裁にしたがうという強い事前合意が当事者間に必要だが、得られる事が少ない。訴訟による裁判官・裁判所の強制に訴えがち。
↓
第三者に対する信頼が欠如しているのか？

　⇒　根本的な原因　＝　紛争解決に対する関心の程度が当事者によって異なること

Ｘ　・・・　早く解決したい（金を取り返したい）
Ｙ　・・・　別に解決しなくともよい（先延ばししたい）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　関心・ニュアンスの違いが存在

　仲裁　・・・”解決する（解決しようとする）”ことについて（当事者が）一致しないと難しい　→　現実には仲裁は少ない

（３）成立した解決の効力

効力の内容

紛争が解決、解決内容が当事者を拘束
例 : ＹがＸに百万円支払うという内容で解決　→　支払いの効力が生じる
→　法律上、いったん解決した内容に従わないことは通らない、仲裁でも和解でも調停でも同じである

和解

～　民法に規定がある。民法第１４節和解　第６９５条　「当事者が互いに譲歩してその間に存する争いをやめることを約する」と「効力を生ずる」（拘束力をもつ。やっぱりイヤだ、と言っても従う必要）
　　　　　　　　　　　　　　　　↓

民法　契約として和解を規定、契約の拘束力（＝合意）が和解の効力を支える

　　　　　　　　　　　　　　　　↓
ただちに強制執行ができるわけではない。和解という契約にもとづく法律的権利が認められるだけ。

　　　　　　　　　　　　　　　　紛争（元来の権利・不法行為・消費貸借の主張）
　　　　　　　　　　　　　　　　↓　
　　　　　　　　　　　　　　　和解契約
　　　　　　　　　　　　　　　　↓
　　　　　　　　　　　　　　　契約上権利（実体権）
　　　　　　　　　　　　　　　　↓
（強制的に実行するためにはあらためて）訴訟

「和解契約」自体に強制力があるわけではない。が、「和解契約の成立」を言えれば訴訟には勝てる。
⇒
いったん合意が成立（和解契約）すると、（強制実行のための）訴訟においては元の紛争で主張できたような権利は主張できない。

例：金を返さなくていいと言ったじゃないか → 元の消費貸借契約じたいは有効

訴訟では、元来の紛争点には戻らず、和解契約の内容に基づいて判断する。（和解契約が無効だという主張はできる。）
すなわち、
独立した権利関係の発生（＝和解契約）⇒ 勘違いによる和解契約 or 和解契約が成立していないことは争えるが、訴訟においては和解がいったん成立したらそれ以前を遮断、もどらなくて良い。

→ 調停も原則同じ、合意成立したら和解という新たな契約関係が発生

⇒ ただし、裁判所の行う和解は特別の地位をもつ ～民事訴訟法第２６７条和解調書等の効力
確定判決と同一の効力＝既判力・・・ふつうの和解解決よりも強い、判決と同じ効力

既判力と執行力（給付判決に生じる）

疑問：第２６７条は判決のもつすべてを含むのか？ ← 学説には「既判力は生じない説」が存在
しかし、執行力をもつのは間違いない。和解調書を裁判所にもっていけば民事強制執行手続をすぐに開始できる。和解調書を債務名義とみなす。

債務名義 ＝強制執行手続開始ができる文書

民事調停民事調停法第１６条裁判上の和解と同一 → 裁判所が関与していれば民事訴訟法第２６７条確定判決と同一の効力 → 債務名義
家事調停についても同様
↓

調停型・・・裁判所が関与しているものはすぐに強制執行ができる特別なもの

→仲裁は？
最初の仲裁合意が強制力の根拠、仲裁合意＝契約とみなす。契約上の権利が発生、しかしはだかの合意（単なる合意の効力しかもたない）にすぎない。
↓
＋仲裁法第４５条１項確定判決と同一の効力
しかし、仲裁判断にもとづく強制執行には強制執行をより容易にする効力がある。（詳しくは省く）

いずれにしろ和解（合意成立）→ 調停（当事者の内容合意あり）、仲裁（当事者の内容に関する合意なし）ともに当事者を拘束

↓

拘束力の根拠

「その解決の正当性は何に由来するのか？」

根拠

和解・調停・仲裁の場合

当事者自身の意思による合意(契約)

仲裁の場合も最初に仲裁合意、拘束力についても当事者に合意が存在。

当事者が、自分の意思で決めたということ。当事者の意思がその正当性を担保する。根拠となる。

民法の大原則 → 私的自治の原則

民事の権利・義務については当事者が自分の意思で決定・処分できる。（処分権主義）
← 憲法の幸福追求権説近代民法の根本原則（歴史的）、私的自治の根拠については民法第一部の契約の根拠、根拠の由来でまた扱われる

⇔

訴訟の場合

当事者の合意に依拠しない → 当事者の意思に根拠を求められない。遮断されている。

→ では、何に依拠するのか？
概ねのコンセンサス＝実体法に従う、実体法の適用である

『当事者の意思に反するかもしれないが法で定めているから拘束してもよいとする』

↓
解決の根拠をここに求めると

実体法が「正しく」解釈され、適用されること

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　が最も問題となる。

実体法の「正しい」解釈適用

実体法を正しく解釈し適用しているということ。
すなわち、

１事実関係の認定　　　　　　　　　　　　　　　　⇒ 正しい事実認定

２規範のあてはめ、要件認定　　　　　　　　　　　⇒ 正しい実体法の解釈、正しい実体法の適用

正しい実体法の解釈と
正しい事実関係の認定＝真実発見が要求される。
１　真実発見の要請が民事訴訟では重要なテーマ　→　証拠法の目標　逆に「真実発見」のために証拠法が定められる
２　実体法の解釈・適用が正しい　→　裁判官が法律の専門家であることが「正しい実体法の解釈と適用」を担保する。正しい解釈・適用を支える１つの制度的保障

参考
司法制度改革　～　陪審制の導入　ー　刑事：裁判員制度の導入
陪審制　→　
１　事実認定に限定（真実発見に限定）
２　裁判官が「法の（正しい）解釈」…　訓練が必要

では何が正しい解釈か？　＝　「解釈論」ー　実体法学の課題

↓
しかし、１、２を実現するためには様々な制度的保障が必要。様々な制度的保障によって民事訴訟が担保される。
↓

３手続保障

１、２　だけができればOKか　⇒　人は神ではない、不完全

常に問題は生じる。現実には１. 事実認定をまちがった　２.解釈をまちがった判決がありうる
では、その判決は拘束力を持たないのか？
判決の正当性は失われる、効力を失う、とすると、永遠に議論が続く、水掛け論が続く　＝　何も解決されない。紛争がいつまでたっても続く。
↓
それを防ぐためには仮に１.間違えた２.間違えた　としてもその判決に正当性をもたせる必要がある。
正しさの客観的確定が不可能であっても効力をもたせねばならない

⇒　手続保障　＝　当事者が訴訟手段において、争う機会（言いたい事を言う機会）、十分な手段が与えられていた、保障されていた

与えられていた以上、解決がたとえ過っていたとしても自己責任である

手続き保障があったことで解釈の正しさが担保されている。２の正しさを追求する機会が与えられていた。
（理念的には２の正しさは目標。それを目指す。その目標を目指すこと、手続き的に保障すること、がまた解釈の正しさを担保する）

現実には手続保障が十分ではない場合には解釈の正しさが確保されない。よって効力をもたせるべきではない。

再審制度が認められているのも同じ理由　…　手続き保障

訴訟の場合、根拠は
「実体法の正しい解釈適用」　…　客観的正しさは不可能
十分な手続き保障　…　によって補う
どのような手続保障かは民事訴訟法で規定、民事訴訟法の授業で扱う。

ここまで紛争解決の効力、正当性、正当性の効力について見てきた
↓ダメおし

(４)紛争解決、権利保護と民事訴訟制度

では民事訴訟制度を設ける意義は？～他の制度との関係をどう位置づけるか

民事訴訟制度・・・実体法にもとづく正当性
ＡＤＲ・・・・・・当事者の意思にもとづく正当性（私的自治の原則）

一般に流布している考え … 強制的な解決より、当事者の意思にもとづく自主的な解決の方が望ましいのではないか
格言「どんな貧しい和解でも豊かな判決に勝る」

ＡＤＲ（当事者の意思にもとづく解決）の利点

紛争が訴訟よりも迅速に安く解決できる。
解決の内容が柔軟に、妥当に解決できる。紛争の実態に即した解決。
訴訟が訴訟物に限られるのに比較して、訴訟物に限らず広範に一挙に解決できる。すなわち幅の広い合意ができる。
自分で納得して行うため、法的な解決が即社会的解決に結びつきやすい。履行可能性が高い。

訴訟～感情的しこりが残る ⇔ 和解～合意による解決、当事者間の感情的関係を修復できる。
ＡＤＲの活用によって裁判所の負担を減らせる。リソースを他に回せる。

訴訟によって強制的に解決するよりも当事者の意思によってＡＤＲをすすめるべき

→ 司法制度改革教材Ｐ８８から「司法制度改革審議会意見書」Ｐ９２ＡＤＲの拡充・活性化（２００１）
↓
ＡＤＲ法の制定（有斐閣Ｐ1071 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律）
思想 … 第一章目的第一条「紛争の実情に即した迅速な解決」、自主的解決が望ましい

→ では、民事訴訟制度の独自性は？

和解・調停の合意内容は法に定められている内容と一致しないことが多い。
権利の保護（法の実現）の観点からは、法律上各人に権利が認められているにも関わらずそれと異なる解決を勧めることになる。（規範・理念 sollen からの逸脱っちゅうことか？）
民事訴訟制度の独自性、意義 ↓

実体法上認められた権利をきちんと保護する

ただーし！権利の保護、それ自体が争いのタネになる
だって各人は一人一人違うんだもん。それぞれに権利／義務がある。その内容は無限。浜の真砂はつきるとも世に紛争の種はつきまじ
かって最高裁の事務総局は調停のＰＲとして調停読本を発行（Ｓ２９）。その中の調停イロハがるたが裁判所の調停の部屋の壁に貼ってあった。
例「ロンよりは義理と人情」「リヅメではできる和解」「ケンリギムなどと国にもの言わず」
→ 丸く納めるためには義理人情が重要という考え。しかも総本山である裁判所に貼ってあった！
→ Ｓ５０年代消滅したようであるが、戦後２０年ほどは裁判所によってＡＤＲ（訴訟外紛争解決）は勧められていた。
余談大笑いw

つまり、法律が（権利義務を）定めていようと、私的自治の原則から義理人情による解決は当然ＯＫ！が、国がＡＤＲを推進すると、法の適用＝権利の保護と大きく矛盾してしまう
↓
しかし、選択は当事者にまかせるべき。当事者が納得して自主的にＡＤＲを選択するのが望ましい。

自主的 ← ここ重要！
「民事訴訟による権利の実現がしにくいから」ではマズイ！
少なくとも当事者には裁判によって自分の権利が実現できる機会が十分に与えられることが重要。
例：訴訟によって５００万円の権利が実現するのに１００万円で泣き寝入りはダメ！アクセスのし易さを確保した上で当事者に選ばせるのがフェア

↓

公共財としての裁判所の法解釈（判例）