法学Ⅰ第一回(垣内)

法学Ⅰ第一回(水１)

目次

０　はじめに
１　法律学における『議論』の重要性
２　議論の基本形(何を問うか) ：権利義務の存否
３　論拠の諸相
５　勉強する上での注意点
６　事務連絡

本論

０　はじめに

この講義のねらい…法学を今後学ぶにあたって必要な基礎知識と思考方法を学ぶ。専門への準備、初習者への導入、そのお手伝いをさせてもらう。

かっては退官間近の大家の役目だった。元法相の三日月章氏の法学入門、「自分の学問の集大成を示さねばならないので緊張するものだ」と述懐しておられた。

垣内秀介教官専攻：民事訴訟法裁判官の和解勧試
　　　　　　　　　　　　　　民事訴訟法第８９条・・・裁判官による和解の試み、および和解を試みさせること
　　　　　　　　　　　　　　紛争当時者間の話し合い、裁判官（所）も話し合い決着をすすめることができる。公益規範

なぜ法律を学ぶのか ------- いろいろなレベルでの回答がありうる。後回し。

今回は法学へのおおざっぱなイメージについて触れる。

法学についてのイメージ

事例１（教科書P１）

Xさんは、配偶者と１歳の長男と一緒に週末のドライブに出かけ、その帰りに高速道路の渋滞にぶつかった。渋滞の最後尾にいたところ、やはり週末のドライブをしていたYさんが運転する乗用車に追突されて車が炎上、後部座席にいた配偶者と長男は焼死、Xさん自身も、かろうじて脱出はできたものの、入院６ヶ月を要する重傷を負った。追突の原因は、勤務するZ会社が課したノルマを達成するためにYさんが連日仕事に追われ、疲れていたのに高速道路を走行したため、居眠りをしたことにある。マスコミの中には、Z会社の実名入りで事件を大きく報道したものもあって、Yさんを非難する抗議の電話、ファクシミリ、電子メールなどがZ会社に殺到したために、Z会社はYさんを懲戒解雇した。他方、Xさんも入院が６ヶ月に及び、その後もリハビリのために通院が必要である上、後遺症のために仕事が十分にこなせる状況ではないため、結局、勤務していたA会社から解雇されてしまった。

Q１関係者は？

　　　　　　　　　　　　A会社　　　　　　　　　　　　　　Z会社

　　　　　　　　　　　　X　　　　→　　賠償請求（権利）（義務）　→　　　Y
　　　　　　　　　　　　配偶者
　　　　　　　　　　　　長男
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　マスコミ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(非難した人々)
Q２どのような問題があるのか

Yの過失

　　　　　↓
過失とは？＝はたすべき注意を怠った
　　　　　↓
Yに過失があるかどうかというのはどういう問題か？
　　　　　↓
　　　Yの責任
　　　　　↓
民事 Xに対して賠償金
刑事警察＝国に対して過失致死罪
道義上 Xに謝罪

Z会社の責任 → 誰に対してなのか（社会全体）（ XとY ； Xに対しては謝罪の必要）

A会社 Xの解雇には法的要件必要。雇用契約にしたがって裁判所に解雇無効を訴えることができる。（裁判所は解雇無効命令をだせる。）

Z会社もYの解雇は有効か、要件を満たしているのか。
マスコミ → Yさんの名誉侵害
非難した人々 → 判明すれば迷惑行為

問題は

X は Y に対し賠償請求する権利をもっているかどうか

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　↓

権利を基礎づける必要条件＝要件～ Y の過失

⇒ 対立する立場であり、一義的には定まらない

A ⇔ X 、 X ⇔ Y 、 X ⇔ Z 、 Y ⇔ Z

⇒ 法律学における「議論」の重要性へ

１　法律学における『議論』の重要性

必ず議論・対立がともなう。対立しているのが法律学、Ａ説、B説、Ｃ説、D説,,, 一義的ではない。
　　　　　　　　　　↓

(１) 法律学の本質としての議論

　　　　　　　　　　↑反論

法を正確にあてはめれば答えが出る、出るはずだ、という考え
　　　　　　　　　　↑

(２) 法律が存在することの意味：法的な正しさに関する一元的な見方と多元的な見方

法的な正しさに関する一元的な見方＝条文主義＜一義的、主権者の命令・決定、正解はただ一つ＞

　　　　　　　　　cf.1 専制君主ナポレオン民法典「イデオローグどもめ！」
　　　　　　　　　cf.2 ローマ帝国ユスティニアヌス法典（「解釈を許さない」と明記、一元的な正しさを主張）

⇒ 一元論と多元的な見方の対立
～正解が一つと言えても、『どれがその一つなのか』、と対立してしまう。哲学的レベルと現象レベル＝対立は常態

なぜ議論が対立するのか
　　　　　　　↓

(３) 解釈の余地

法が一定の規範を定めていても常に解釈という作業が伴う

法律の規範性の例 民法７０９条（不法行為による損害賠償）
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したものは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

⇒ 規範は言葉によって表現される

例「故意」「過失」というそれぞれの語の定義は？
（「故意」＝違反すると知っていて行う行為）、では「故意」のレベルは？

個々に条文の定義規定をおいて対処することもあるが、常に解釈が介在してくる

また、条文のみならず、実際の事実関係が問題になる

言葉は事実を解釈して説明するもの。すでに説明段階で「解釈」が内在する。

まとめ
1. 規範は言葉によって表現される
2. 事実は言葉によって解釈される

必然的に法は解釈を内在し、解釈の幅を巡って対立が存在する。

では、その議論は何を問うのか

↓

２　議論の基本形(何を問うか) ：権利義務の存否

権利義務の存否＝民事の基本型　　　　　　　　　　　(cf. X の行為は犯罪にあたるか → 刑事の基本型)

事例１Ｘは権利をもつか
　　　Ｙには義務があるのか

Ｘは権利をもつ／もたない（Ｙには義務がある／ない）という議論・主張

　　　　　　　　　　　　　　↓

　　　　　　　　　　　　　　論拠が必要

３　論拠の諸相

(１) seinとsollen

sein 事実「～である」（存在）と sollen 当為「～すべき」（規範、価値判断）

「事実（存在）」という命題と「規範（当為）」という命題
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　⇒ この位相（次元）の差をはっきり区別すること！

注）ただ、法においては sollen と sein はまざり合い、からみ合う。「こう解釈すべきであるから～である。」- sein と sollen の混ざりあい
「～だ」と言い切る sein に対し、sollen（規範）は「解すべきである」と言う。微妙

次回へ

(２)形式論と実質論

(３)解釈論と立法論

５　勉強する上での注意点

必ず六法を持ってくる

１. 何が問題なのか（どういう意味なのか）ーーー問いの立て方自体も問題にする（その答えはなぜなのか）

２.人間に関するあらゆることが法律に関わるーーー技術屋ではダメ。他の分野が必要。

法を深く勉強するには語学が必要。英語 + ドイツ語 + フランス語（ラテン語、法歴史学には必要）

雑誌
学生を対象にした法学入門