「あなた、楽しいのはわかりますが、飲みすぎじゃない?」
「貴之がご馳走してくれる酒はうまい。なっ、貴司」
お父さんがそういうと、みんなが僕をみた。
ちょっといたたまれない気持ちになる。
「うん。ちょっと僕、お手洗い行って来る。食事中にごめんなさい。」
僕はその部屋を出ると、来るときに見つけていたトイレのほうに足を向けた。
「はぁ」
ついため息がでちゃう。
せっかく兄さんがご馳走してくれてるって言うのに、ダメだなぁ、僕。
あの女の人、里美さんって言ったかな、の話を兄さんの口から聞くと
どうしようもなくイライラした気持ちになる。なんでだろう。
ううん、判ってる。これは多分嫉妬ってやつ。
僕の兄さん。僕だけの兄さん。
僕だけの大切な兄さんが取られてしまうような、そんな感じがして、
どうしようもなく不安になっちゃう。
たとえば、里美さんと結婚しても兄さんが僕の兄さんであることには
違わないけど、兄さんの中に僕が入っていけない時間が増えるのなんてヤだ。
わがままだけど、ヤだ。
トイレにつても別にすることもなく、洗面台の前に立って時間を潰す。
鏡に映る僕の顔はちょっと不快そうで、とても醜い。
こんな僕じゃ、兄さんも嫌だろうな。
「ごめんなさい」
ちいさく声に出してみると、なんだか悲しくなって、ちょっぴり涙がでた。
「あっ」
ぼやけたか視界の中、鏡の向こうに兄さんが映ってる。

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