貴司の声が弱々しく響く。俺ってば、励ましに来たはずなのに泣かせてどうすんだか。
貴司は自虐的に泣く。自分の不満のためではなく、不満をもてあます自分を
悲しんでなく。見ていると、俺はつらくなってくる。
なのに、そんな貴司をみてると、なんていうか、こう、ギュってしたくなる。
俺ってば、鬼畜かもしんない。ごめんな。
しかし、これは由々しき問題だ。家を出るという理由が「俺の理性が決壊し
そうだから」なんて、その対象を目の前にしてどう説明したものか。
神の味噌汁・・・あー、しょうもな。俺も相当てんぱってる。
「本当にまだ何にも考えてないんだ。」
言いながら俺は自分の狡さに呆れる。
貴司だってこんなの信じはしないだろうに。
俺はいつだってお前のことを考えてるつもりなのに、気が付くと傷つけてる。
「そう、なの?」
貴司が顔を上げる。ここぞとばかり俺は言い募る。
「ああ、第一、就職したばっかりだし、敷金とか払えるわけないだろう」
ナイスな言い訳に、やれやれと思う。
「兄さん、ずっと一緒に家にいて?ね。」
貴司の上目遣いに抗する力なんて、俺にはない。顔がしまりなく緩みそうに
なるのを必死の思いで引き締める。
人間に尻尾がなくてよかったと思う瞬間だ。もしあったら俺の尻尾はバッサバッサ振りまくりだ。

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