小五の夏だったか、その日は水泳の授業があった。
みんながさっさと準備をしてプールへと向かうなか、俺の水着が見当たらなかったんだ。水泳は好きだったからどうしても休みたくなかった。
幸い家が学校から近かったから、学校の電話を借りて母親にもってきてくれるよう頼んだんだ。
すぐに母親の車が到着して、水着を受けとった。
着替えるために急いで教室に向かって走った。
もう誰もいないだろうと入った教室には友達のYがいた。
Yはいわゆる美少年で、女の子にとにかくモテた。実際俺もかわいい顔だな、と思っていたし。
俺「あれ、まだいたの?」
Y「うん。」
俺「早く着替えていこうぜ。」
Y「そうだね。」
なんて、何気ない会話をしながら着替え始めた。
俺はさっさと着替え終えたがYはもたもたして着替えるのに手間取っていた。
俺「あーもー。遅いなぁ!手伝ってやろうか?」
そう言って強引にYのTシャツを取り去った。
そのときだった。突然でびっくりしたのか、恥ずかしかったのか、Yが、いやっ!といって両腕で胸の辺りを隠すようにした。
それを見た瞬間、ドキッとしてしまった。Yの白い肌、対象にたっぷりと赤い唇。上目づかい。
次の瞬間、本能だったのか何なのか、Yを抱きしめていた。Yは、えっ?と驚いた表情をしていたが抵抗はしなかった。
俺の目線より少し下にあるやわらかな髪の毛からシャンプーかなにかの、いい匂いがする。
俺「ねぇ、キスしてみたい…」
なんでそんなことを言ったか覚えていないが、本心だったのだろう。
もちろん断られるだろうと思った。これからずっと変態なんて呼ばれるのかな…そんなことを考えながらも、Yをはなさなかった。
しかし、予想に反してYはこくりと頷いた。また上目づかいで俺を見つめてくる。
俺「目、とじて」
Y「うん…」
俺はゆっくりとYの赤い、ふっくらした唇に自分の唇を重ねた。
Y「んっ…」
瞬間、頭のなかで電気が走るような感覚がした。足はがくがく震えていたかもしれない。
唇をはなし、見つめあった。Yの頬はうっすらピンク色に染まり、その表情は何よりも美しく見えた。
いつの間にかYの腕が俺の背中に回されていた。もっとしてもいいのか、と勝手な解釈をして、もう一度くちづけた。
舌を入れてみる。嫌がるかと思ったが、意外。すんなりと受け入れてくれた。
舌と舌を絡ませ合う。Yの甘い唾液を求めるように、俺の舌はYの中を泳ぎ回った。
俺が唇をはなそうとすると、今度はYが俺のほうに舌を入れてきた。
驚いた。でも、うれしかった。

静かな教室。どこかから聞こえる生徒の騒ぐ声、蝉の鳴く音。
始業のチャイムがなり響く。
名残惜しみながら、唇をはなす。
数十秒、どちらも無言だった…
俺「プール、いこっか。」
Y「うん。」
二人手をつないでプールへ行った。なにごともなかったように授業に参加。

少し遠くで他の友達とじゃれていたYと目があった。
そのときの俺だけに向けられたすこし恥じらうような微笑みは一生忘れないだろう。
おわり。

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