最終更新:ID:9tz54TUxfA 2008年05月18日(日) 11:46:50履歴
「りくにぃ」
りくがランドセルの中身を明日の時間割に入れ替えていると、
弟のあきとが部屋に入ってきた。
「おまえ、ちゃんとノックしろよ」
「りくにぃ、練習つきあってよ」
あきとは、兄の咎めなどどこ吹く風といった様子だ。
「練習…?」
「うん」
「キャッチボールか?」
「うぅん」
「じゃぁ何だよ」
弟の考えが読めずに、りくの声にわずかな苛立ちがこもる。
あきとは後ろ手でドアを閉め、答える。
「お医者の練習」
「お医者…?」
手を止めてあきとの方に向き直ったりくは、
不思議な生き物でも見るような目で弟をみつめる。
「お前、4年生にもなってお医者さんごっこがしたいのか…?」
「違うよ!」
呆れたような、馬鹿にしたようなりくの口調に、
あきとは頬を紅潮させる。
「ごっこじゃなく、練習!俺、医者になるんだ!」
「医者ぁ?あきとが?」
「そうだよ!」
りくは自信満々に胸を張っている弟に近づき、頭をグリグリと小突く。
「ちゃんと勉強しなきゃ医者にはなれないんだぞ」
「うるさいなぁ!もう、いいから早くそこに座ってよ!!」
あきとは焦れてバタバタと腕を振りまわして喚く。
「はいはい」
気の短い弟をからかうのが楽しいりくは、しかし、
これ以上苛めると本格的に癇癪を起こしそうな気配を感じ、黙って従うことにした。
りくがベッドに腰かけると、あきとはその向かいに椅子を持ってきて座った。
ご丁寧に首からはおもちゃの聴診器をさげている。
「はい、どこが悪いですか?」
「え?…えーっと…その、お腹が痛いです」
それを調べるのが医者じゃないだろうか、と思いながらも、
りくは大人しく弟につきあう。
「それでは、服をまくってください」
「はい」
シャツをたくし上げると、あきとが聴診器をりくの胸に当てる。
ヒヤッとしたその硬質な感触に、りくの肩がわずかに跳ねる。
「……」
「ほかに痛いところはありませんか?」
「…いいえ」
あきとは真剣な顔つきで、ピタピタと聴診器を当てていく。
しかし、顔が近いため、かすかに肌に息がかかり、
りくは徐々に居心地が悪くなってきていた。
「それでは、服を脱いでそこに横になってください」
「へ?」
一通り診察モドキをした後言われた言葉が、りくは一瞬理解できなった。
どうせすぐに飽きるだろう、そう高をくくっていたのだ。
「もういいだろう」
「まだだよ、これだけじゃ何の病気かわかんないじゃん!」
しかし、りくの予想に反して、あきとの「お医者の練習」は本気だった。
「いやだよ」
「なんで?」
「だって…恥ずかしいだろ…?」
りくはうつむいてぼそぼそと答える。
「変なりくにぃ。いつも一緒にお風呂入ってるのに、なんで恥ずかしいの?」
不思議そうにそう言って、あきとは、りくの顔を覗き込もうとする。
事実、お互い裸など見慣れているのだが、
小5にもなって弟とお医者さんごっこしているという状況のせいか、
それとももっと他の理由のためか、
りくは服を脱ぐのが妙に気恥ずかしかった。
「しょうがないなー、じゃあ、カーテン閉めてやろう」
あきとは窓際に歩み寄ると、カーテンに手をかける。
「やっぱり、もうやめよう」
「いやだ、もっとやる」
りくはわずかに哀願をこめて止めるよう言ってみたが、
あきとはそのままカーテンを閉め、戻ってくる。
いつも共働きの両親の代わりに弟の面倒をみているりくは、
自身の淋しさも相まって、弟には甘かった。
宿題をやれ、早く着替えろ、と兄貴面をしていても、
弟に強く言われると大抵のことはきいてしまうのだ。
それを理解しているあきとは、言い出したらきかな癖があった。
結局、しぶしぶとシャツを脱ぎ、ベッドに横になった。
裸の上半身に触れる空気が、妙に粘っこい気がした。
あきとは、さっそく兄の腹に触れる。
ふと、目に入ったおへそをつついてみた。
「ちょ、ちょっと!…っ!」
りくはわき腹をヒクつかせて派手に身をよじる。
「あきと、くすぐったい!」
もっとくすぐったがらせようと、あきとはやわやわと指を動かしてみたが、
りくはそれ以上派手なリアクションを起こしてくれなかった。
胃の辺りを少し押し、尋ねる。
「痛いのはここですか?」
「いいえ」
次々と触れたり、押したりしてみる。
よく見ると、兄の身体が、たまにピクッと引きつっていることに気付く。
あきとは、先程の野望を叶えようと、攻撃の手を広げることにした。
まず鎖骨をなぞる。
窪みの部分の感触が心地よくて何度も撫でると、兄は身体を強張らせて顔を背けた。
白い喉がさらされ、あそこも後で診察しなくちゃ、とあきとは思った。
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