北海道の夏。
その夕方頃はやや涼しく、慣れない暑さに弱った少年達にはなんとなく心地よい時間帯だろう。
勿論、窓を開けて、虫除けをして、電気をつけずに、自分達の好きなことをする。
愁と同じ年頃の子ども達は、テレビゲームが多い。
けれど、愁は変わっていて、いつもの通り学校を出たばかりだった。

 汗で濡れきった愁の体には風が涼しすぎるくらいで急いで帰ろうと、走るスピードを速める。
だが、校門を出て少し走った曲がり角で、一番会いたくない奴に出会った。
いや、出会ってしまったと言うべきか。
「あ。っっっっ! あき……。」
 愁は目が合った後、すぐに目を逸らしたが、それを逆手に取るように明文は言い放つ。
「何で目逸らすの……? いっつもいっつも、帰りが遅いと思ったら、浮気? しゅ・う・タン?」
 口を少し笑わせた明文の言葉は独特の嫌味たっぷりだった。
――何で……。 愁は、逸らした目を見開いた。
手に思いっきり力が入っていたことに気付く。
ゆっくりとそれを解いて、明文の方を見直した。
 今度は明文が目を逸らしていた。
「ったく、あの先生も変態だよなぁ。放課後に生徒呼び出して、愁タンなんて呼んでるんだから。」
 嫌味は続いていった。
「だって……。…だって………。」
 言い訳しようとするが、次第に声が小さくなり、しばらく沈黙が続く。
が、明文の言葉によって破られる。
「じゃあさ。ここで、愛してるって言って? 俺とヤりたいって言って見てよ。」
 明文は言われる言葉がストレートならばそれだけイイと以前言っていた、
愁はストレートなほど恥ずかしいと思っている。
前には、学校の廊下で、好きだからヤらせてくれ、だとか言わせていたこともあったが、
いずれもワンパターンなものに変わりはなかった。今の言葉を見れば分かると思うが。
「……あき……愛し――」
「小せぇよ。」
 言葉を遮るように、怒鳴ったが明文も周りを気にしているように見えた。
明文は更に催促した。
「言えよ。」
 愁の服が汗で引っ付いていたのは今始まったことではないが、初めより濡れてきているのは確かだった。
「あ、あき……愛してる……俺……あきとヤりたい……。」
 目線を逸らしたままだったし、それに、最初のときと何も変わっていなかった。
が、明文は何も言わず、笑みだけを浮かべて愁に近づいた。
愁はヤバいと感じたが、そのときにはもう、明文が駆け出していて、腕を引っ張られ、
近くにある明文の家に連れ込まれた。
 ――きっと……また……ヤられるんだろうな……。 
明文とは数えるほどしか経験がない。実際、まだ、痛みを覚えることもあるし、恥ずかしくて死にそうだった。
「んで。いつから?」
 一瞬、愁は何のことか分からなかったが、すぐに理解して返した。
「つ、ついこないだ……。」
 やっぱり目を逸らして言った。
「何で、あんな奴と? 俺じゃだめ?」
 質問攻め……まさにそんな感じで、繰り出される質問。
愁は例にならって目を逸らすばかりで、何もか答えず頬を赤らめた。それを見て明文は、鼻で笑った。
「結局、俺とは嫌ってか?」
 最後の質問が、愁の心の本当の部分をチクチクと刺激した。
「ち……違うよぉ。」
 グスッとすすり泣きながら、いかにも誤解だと思っているように答えた。実際、それが本音だ。

 ――そう、いつもそうだ。すねてそっぽを向いたとき、背を向けたとき……。お前のキスはいつも急だ。

 ふと、頭によぎった疑問。
しかし、明文のいつもの強引なキスに気を取られて、思考が止まった。
「んっ……。」
 結局いつも、キスで感じすぎて流れていく。体が勝手に求めていく。
「愁の汗の匂い……好きだよ。」
 微笑というよりも笑みを浮かべて言った。
皮肉にも、それは浮気相手との時の汗だったが、そんなこと2人とも気にしていなかった。
 明文の手が直に触れて、その動きが変わる度に愁がぴくっと反応する。
すでに、シャツは殆ど着ていなくて、汗に明文の唾液が少しずつ混じっていった。
「あっ……。」
 平凡すぎるくらいの反応にも、明文は痛いくらいだったが、じっと堪えそのまま上半身を刺激する。
「あ…あっ、そっそこ、やっ……。」
 明文は刺激を止めた。
 あえぎ声が途切れた部屋には、2人の、はぁはぁと上がりかけた息の音だけが響いた。
「もっと……し……て……。」
 途切れ途切れだが、今度は目を逸らさずに、愁の方からはっきりとねだった。
実は、明文はこれを待っていたりする。
「下も脱がせて欲しいの?」
 そして、いつもの意地悪な質問。それに、愁は頷き、雰囲気はいよいよといった感じだ。
明文は、もう我慢の限界だ。目の前には、汗で濡れた愁がいる。
目を閉じれば、ただその先のことだけ広がって……。とても、我慢のできる状態じゃなかった。
「ごめん。い……入れたい。」
 明文のごめん、など何ヶ月ぶりなんだろう。と、一瞬思ったが、愁はさっきと同じように躊躇うことなく頷いた。
 明文のソレもある程度濡れていたが、そう簡単に入るはずもなく、
ただ、あてがうばかりだったが、少しずつ愁から漏れる淫らな声で明文のは硬さを増していた。
「あ……、あきぃ。」
 いかにも、欲しいを言わんばかりの顔と声。
それに、ふっと見とれた瞬間に先の、ほんの先だがグッと押し込まれた。
瞬間、愁は初めてのときのあの痛みを思い出す。
「あぁあ……いっ痛い!」
 思わず愁の口から漏れる。
 慣らせてから入れれば良かったものの、どちらの頭にも今の欲望を満たすことしかなく、
そんなこと少しも考えなかった。
「ご、ごめん。」
 明文も気付いたように謝る。愁は痛みを堪えて少し笑った。
「だ、大丈夫だから。つづけて……。」
 声が震えて、いかにも痛そうないい方だったが、
それが、いまの愁の精一杯の愛情なのかもしれない。
 明文はゆっくりと体重をかけていった。ゆっくりと。
 元々、愁は天性の受けというか、なんとなく中性的である感じだった。
事実、体は受けることに慣れてくるのも早かった。繋がっている所をジワジワと濡らしていった。
そして、次第に心地良さも生まれてくる。少し2人の声が戻ってきた。
「あ……んっ…。」
 そんな激しい動きはしていないものの、2人は確実に快楽の頂点までスピードを上げていた。
 良く見ると、汗以外のものでも、そこら辺どろどろだったが、やっぱり2人は気付かずに、先に進む。
「あっ…やっ……、んっ。」
 はたから見ていると、愁は感じているようにしか見えない。
が、実際は酷く痛いのを我慢しているのではないだろうか。と、明文が罪悪感を覚えた。
「あっ、あっ、………………。」
 明文が見たときにはそれが、なんと言っているか分からなかったが、すぐに愁が言いなおした。
「す、好きぃ。あきぃ。」
 それが、快楽から出た言葉ではなく本音であることは確かだった。
それはきちんと、明文に届いて、また絶頂へのスピードを早めた。

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