相沢が一人で教室に入ってきた。
「お前、2年のアイドルと一緒に登校しやがって!羨ましいーーー!」
「あーあっちから頼んできたんだよ。あんま興味ねぇ。」
「ちょwwおまwwwムカツクwwwww」
何人かが相沢を取り巻いて輪になって盛り上がっている。
「お前、いい加減一人に絞れよな!」
「だよな。こっちも迷惑するんだよ。」
「何で迷惑?俺、興味ないって言ってるんだぜ?」
「うっせ。それがいいって女共が騒ぐだろ!」
「あー・・でもしょうがねーよ。俺、女にあんま興味ないし。」
「これだ・・だからモテるヤツってムカツクんだ。」
「だな。一人くらい分けろよ相沢!」
「勝手に持ってけよwww」
慣れた態度でクラスメートの執拗な突っ込みをサラリと交わす。
これも毎朝の恒例行事みたいなもんだ。
「勝手にって・・・OIOI!余裕だよ!」
「それが出来たら苦労しねーんだよ!」
「俺にどうしろっつーんだよwww」
「だからお前がなぁ・・」
「あーほら、授業始まるぞ。」
相沢は男達の輪を抜けてこっちに向かって歩き出した。
「はーったく、毎日毎日。」
「モテる男は辛いねぇ。」
相沢が俺の隣に座ってため息をつく。
これも毎朝のやりとりだ。
「俺は女なんてどーでもいいのにな。」
「そうやってフラフラしてるから文句言われるんだろww」
「しょうがないじゃん。好きでもない女と付き合えってか?」
「いやぁ・・そうは言わないけどさぁ。」

じりりりりり・・・・・

授業開始のベルが鳴った。
俺の方をじっと見ていた相沢がポツリと呟く。
「俺が本当に欲しいもんは一生手に入らないんだよ。」
「え?」
相沢のセリフに反応した時には既に先生が来ていた。
相沢ほどの男が手に入れられないって何でだろう。
大抵の女だったらこいつが本気になればオッケーと言うはず。
TVに出てるようなアイドルか?
それとも立場的に告白できない人?
授業中、俺は色んな事を考えていた。
普段あまり自分の事をペラペラ話さない相沢だ。
聞いても答えてくれないかもしれない。
でも俺達は親友同士だし・・。
いや、親友だと思っているのはひょっとして俺だけか?
・・・だめだ・・・凹んできた・・。
大体本当の親友だったら相談してくれるはずだよな。

まとまらない頭でグダグダと脳内会議をしている間に授業は終わっていた。
「おい、大丈夫か?」
相沢が肩に手をおいて揺すっている。
俺はビックリして
「はぁ!?・・・触んな!」
とヤツの手を振り払ってしまった。
相沢が驚いた顔でこっちを見ている。
くそっ、そんな顔してても男前なのな。お前って。
俺は自分の言った言葉に動揺した。
そして驚いて固まっている相沢を見てもう一度動揺してしまった。
「お・・・っ俺っ・・俺はっ・・・。」
周囲がガタガタと動き出す。
起立・礼が終わると次は体育だ。
着替えて体育館に集合しなくてはいけない。
ざわざわと周囲がザワつきホコリが立つ中、俺はコブシを握って座り込んだまま動けなかった。
頭の中で考えていた事を現実と混同してしまい、まさかそれを説明するわけにもいかない。
説明してもいいのだが、今の俺の状態では言葉が上手く出なかったのだ。
「おい、どうしたんだ?」
心配して声をかけてきた相沢に返事をせず、
ガタン!と立ち上がった俺は
「お、俺、頭痛!!!」
と言ってその場から走って逃げた。
走りながら、俺はバカだ・・・!と、幼稚な考え方しかできない自分を
責め立てていた。
「おい・・・!待てょ・・・・・!」
相沢の言葉が追いかけてくる。
俺は自分の幼稚な考えが恥ずかしくて、その場から消える勢いで走っていた。
ガムシャラに廊下を走っている途中で始業のベルが鳴る。
もう体育はサボるしかない。
そう思い、屋上を目指して階段を駆け上っていた。
屋上で一人になろう、少し冷静になってさっきの態度を謝ろう。
鍵のかかった屋上のドアの前に辿り着くと、少し乱れた息を整えた。

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