ハネイさんの会計監査・北国編
ハイネルの神王、ルシメル・ハネイの仕事は行政の管理。
それぞれの神国で愚民から搾取した税金が公正に使われているか、税金を扱うものが不正を行っていないかを監視するのが役目である。
そのため、数年から十数年に一度各国に出向いて会計監査を行うのだが…
ルシメル・ハネイ:
「今年の訪問先は北方の4カ国か…何事もなければ良いが…」
各国の神王は若干クセのある人物ばかり。行く先々で様々な事態が勃発する。
そんなわけで、この仕事に若干の憂鬱を感じなくもないらしい。
<訪問先その1 アラナダ>
(応接間に通されると、お茶ではなく白湯が出される。お茶請けの類は何も見あたらない)
ハネイ:
「…いただきます…。」
デフィス:
「茶菓子も出せず申し訳ない…今年はいつも以上に食糧不足で…」(げっそり)
ハネイ:
「い、いえ、お構いなく。」
(答えながら会計の書類に目を通す)
デフィス:
「菓子どころか茶を買う予算すら出せなかったんだ…!」(堪えきれず涙がこぼれる)
ハネイ:
「うっ・・・!!」(収入の数字を見て絶句)
(しばしの間、もらい泣きで書類の数字がぼやけて読めなくなる…)
覚え書き。
『アラナダでは不正をしようにも資金が足りない。
よって、不正を行うのはほぼ不可能。』
<訪問先その2 ベルナ>
ハネイ:
(会計報告を読み始める)
飼い猫:
「にゃー。」
ハネイ:
「え?」
飼い猫:
(のしのし、…ずしっ。)
ベルナ神王:
「あっこらニボシ!お客様のひざには乗るなって何度言ったら…!」
飼い猫(ニボシ):
(ハネイのひざの上に居座り、動く気配なし。)
ハネイ:
「それは構わないのですが…
毎年多額の予算が計上されている『ネコ科動物保護費』というのは一体。」
ベルナ神王:
「え?名前のとおりネコ科動物を保護する費用です。」
ハネイ:
「保護する目的を説明していただきたいのですが。」
ベルナ神王:
「あ、それは愚民の洗脳のためですよ。」
ハネイ:
「ご自身の趣味のためではないのですか?」
ベルナ神王:
「愚民の洗脳のためです。」(真顔)
ハネイ:
「趣味のためではないのですか。」
ベルナ神王:
「もちろん。」(真剣)
(監査終了後)
ハネイ:
(あんなに真剣な表情は初めて見たな…)
覚え書き。
『愚民を洗脳する方法は、各国の神王に委ねられている。
そしてそれは時として、神王の趣味によって決められている。』
<訪問先その3 リヴァス>
ヴェイ・ルース:
「…どうぞ。」
ハネイ:
(渡された書類に目を通す)
「…何も問題はありませんね。」
(あっという間に終了。)
ハネイ:
(仕事が早く終わるのは良いのだが、微妙に長居しづらい感じがするのは何故だろう…?)
ヴェイ・ルース:
(…未来を知っていると、どうしても気まずい……。)
(…数千年後、ハイネルがリヴァスに滅ぼされるということを、ルシメル・ハネイは知る由もない…)
<訪問先その4 ジィーア>
ジィーア神王:
「えーと、申し訳ありませんが少々お待ちください…今、会計報告書を持ってきますので。」
ハネイ:
(出されたお茶を飲みながら待つ。)
(やがて、隣の部屋から悲鳴と物音が聞こえてくる)
「わーーッ!!」
(どさっ!ばさばさべさべさ…)
「神王さま?!」
「書類の山が崩れて必要な書類が埋まった…
ごめん、ちょっと掘り起こすの手伝って…!」
(がさがさばさばさ…)
(…ずずっ、どささささっ!)
「うそ、別のところも崩れた!?」
「そちらは私が片付けますから!埋まった書類をお探しください!」
「あ、あたしも手伝います!」
「あ!その書類は踏んじゃだめ!!」
「え?!」
(――そして、出されたお茶がすっかりぬるくなったころ。)
ジィーア神王:
「大変お待たせしました…(ぜー、ぜー…)」
ハネイ:
「…お疲れ様です。」
覚え書き。
『ジィーアでは待ち時間が長い。』
(監査終了後)
ハネイ:
「今年の監査は全て終わりか…これでようやく我が国、ハイネルに帰れるな。」
(仕事をやり遂げ、安堵と清々しさが入り混じった気分でつぶやく。
胸に沸き起こるのは望郷の思い、目を閉じればハイネルの山々や部将たちの顔がまぶたに浮かぶ…)
(…その横で部将から何か報告を受けていたジィーア神王、言いづらそうな表情でハネイに声をかける)
ジィーア神王:
「あのー、非常に申し上げにくいんですけど…
たった今、『東への街道が大規模な雪崩で埋まって、復旧まで一週間くらいかかりそうだ』って知らせが。」
ハネイ:
「 え。 」
覚え書き、追記。
『 監査が無事に終了しても、真っ直ぐ家に帰れるとは限らない。 』
(完)
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2008年08月28日(木) 21:18:43 Modified by li_mei