神暦2年 アラナダ・紺華神王私闘事件

●神暦2年 第二回神国連合会議の休み時間の廊下にて


「やあ、アラナダの氷虎デフィス」 

「? あんたは……(誰だっけ?まだ神王の名前あんまり覚えてねえんだ……)」

      「ああ、思い出した!」

     (ぽん。手のひらを打つ。そして、笑顔で指差す)   

「金沙の鬼神シャリ!!」 




         ――――周りにいた者たちはみな凍りついた――――


「……」  (微笑のままフリーズ)

「……だったよな?」  (素)

「………………ちょうどいい」  (冷たく笑う)

「は?」

「会議終わったらちょっと顔貸してもらえるかな?」  (キン。笑顔で刀の鯉口を切る)

(ぴくっ) 「あぁ゛? 喧嘩売ろうってのか?」

「体育館の裏で。待ってるよ、氷虎デフィス」  (くるっ、すたすた。去っていく)


「……なんだあいつ……いきなり因縁つけてきやがって……なあ?」  (周りを振り返る)

「『紺華の鬼神シャラ』」

「は?」

「あんた……さっきのやっぱ冗談じゃなかったのかよ! それにしてもキツイぜ」

「間違ってたか? だからってそんなにキレなくてもいいだろ」

「あのね、金沙はあの大商人ホーハイホクの国よ。神王の地位を金で買ったとか」

「シャリっつったら天使の舞う国だぜ! 神王に着任早々後宮を建設したっていう」

「……あー……なんとなく噂だけは聞いたことはあるような。で? 今の奴は?」

「こんかのシャラ」

「……まぎらわしいな」  (真剣)

「手段を選ばないお金儲けの国じゃないわ。紺華は私たちと同じで貧乏でしょうね」

「神王になってまでハーレムなんてシャリ以外考えねえだろー。女の子囲うなんて無粋だよな!」

「イメージの悪い奴らだな。じゃあさっき言っちまったのは……」

「要約すると『金と女』」

「……わかった俺が悪かった」

「直接話したことはないけど、紺華はいろいろと凄惨な噂を聞くところよね」

「血に飢えた鬼神ってな」

「彼は紺華の統一に戦術面で貢献したらしい。それなりのプライドがあるのだろう」

「……まあ、とりあえず謝っとけばいいだろ」



●その他の人々

「(わーヤンキーの喧嘩だ。なんかおもしろそう……!)」


「面白れぇ……こいつは見に行かねぇとな。あんたもどうだい」

「うむ……」


「私ら……何やら悪く言われてませんか?」

「心外ですね全く。(おのれ青っぽいのめ、ライネちゃんから離れろおおおお!!!)」




●会議後、体育館裏(?)

「やあ、よく来たね」

「ああ。あのな、さっきのは…」

「ああ、さっきはちゃんと自己紹介しなくてごめんね。おれは紺華の鬼神シャラだから。
      まあ、たぶんこれで忘れることはなくなると思うけど」  (にこやかに刀を構える)

「待て。確かにひどい間違いだったことは認めるが、ほんとに全く悪気はねえ」

「別に謝ってくれなくてもいいよ。どうせあんたとはいっぺん戦ってみたかったんだ」

「は?」

「噂の氷虎ってのがどの程度のものか見てみたくてね。それともやめとく? 紺華の血みどろの歴史は聞いたかな」


         「……俺は売られた喧嘩は買う」

「そうこなくちゃ」

         「鬼神ってのがどの程度のもんか見てやるよ!」


――戦闘開始。




●ギャラリーの皆さん@建物の陰

「よしよし……始まったばっかりみてぇだぜ」

「む、海首の。おぬしも見に来たのか」

「あちゃー。ああ、一応見届けに来たんだけどさ。止めねーでいいのか?」

「アラナダの神王さんもわりと強そうだから大丈夫じゃない?」

「さぁて、どうなるかな。俺はあの紺華の奴に賭けるぜ。いい眼をしてやがる」

「確かにあれは手練れだな。だがあやつの剣には仁がない。荒灘の神王の構えには真っ直ぐな心が見える」

「そんなことまで分かるのか? そういやあんたらの武勇伝も聞いてるけどさ」

「そういうお前もリヴァイアサンを倒した勇者様じゃねぇかよ」

「あいにくオレの力は海上限定でな! 陸じゃあからっきし弱いのさ☆」

「あれ? ベルナ神王。どうしたの? その猫」

「その辺歩いてたので危ないから連れてきたんですよー。いったい何が始まるんですか?」

「男と男の誇りを賭けた戦いよ。おぬしは下がっているがよい」

「これ以上近づいたら危なそうだもんね」




●戦闘中

デフィス、劣勢。


「ねえ、アラナダには人間よりペンギンの方が多く住んでるって本当?」

      「てめー馬鹿にしてんのか!」

  「いや、ほんとに知りたいんだけど」

        「知るか!!」

            「わかんないのかー。じゃあさ、アラナダでは人口数えるときに白くまの数も入れるって本当?」

                「んなわけねーだろ!!」

      「だってアザラシ猟のライバルなんでしょ。資源管理のためには人間と同様に頭数把握しとかないとまずいじゃん」

「もっともらしい理屈つけてんじゃねえ!! だからって一緒に数えねえよ!」

             「ペンギンと白くまどっちの方が好き?」

                 「んなこと訊いてどーすんだよ!!」

                       「……あ、わかった。可愛いほうでしょ」
「……ッ……!」
                  「ああ、今ので確実にわかった。でもペンギンって泳ぐときは速くてかっこいいって本当?」

   「うるせー黙れ」



●戦闘が続き…

デフィス、息が上がっている。少し離れているシャラ、動きを止める。

「……なんか思ったほど強くないんだけど」

      「くそッ……」

「アラナダの氷虎ってのも大したことないね。がっかりだよ。いわゆるご当地ヒーローってやつ?」

      「……」

「最近まで全然聞いたこともなかったし、期待したのが間違いだったかな」

      「……(やっぱりこいつ俺の言いまちがい根に持ってやがる)」

「まあ、もこもこ着膨れした連中の中では一番ましに動けたって程度か」  (ため息)


                     (…………ぷちっ。)


 
                      ――氷虎発動。――


  「アラナダを馬鹿にするんじゃねええええええええええ!!!!!」  (郷土愛)

 
                      戦闘力3倍。一気にシャラに迫る。

「なっ…!?」


                ギィン!!!

            デフィスの渾身の一撃! シャラはかろうじて受け止めた!

「(重い!!)」

          二撃目。      
           
                 ガキィン!!!

                                  カシャーン!!

刀を弾き飛ばされ、シャラは倒れる。

その喉元に、デフィスの刀の切っ先が。


「これがアラナダの底力だ。よく覚えとけ」

「……」




          「くぉをるらぁああああっっっっ!!!!!!!
                何をやっとるかっっ!!!!!!!!」

          「アラナダ神王デフィス!! 刀を納めなさい!!」
 

「……はッ!? 俺!?」

「やあ見つかっちゃったね。まずいねこの状況。主にあんたが」  (倒れたまま降参ポーズで笑う)

「てめっ…!」

      「刀を納めなさい!!」

兵士が数人、デフィスを取り囲み、腕を掴む。

「どういうことだかちょっと聞かせてもらおうか!!! 来い!!!」

「……大丈夫ですか紺華神王」

「ああ大丈夫、平気平気」  (起き上がる)

(引きずられながら) 「おい待て! 何被害者みたいな態度取ってんだ!! 発端はお前だろ!」

「ん? もともとの発端はおれじゃないでしょ」

  「おいおい紺華の兄ちゃんよ。先に抜いたのはお前さんだろ? 負けたからってそいつはないぜ」

  「侮辱を看過できずに決闘を望んだのはおぬしであろう。よもや言い逃れするわけではあるまいな?」

  「そこから見てたんだけどよ。この二人合意の上で戦いはじめてたぜ」

「そうなんですか?」  (険悪)

「そーだ! 見てただろ! もっと言ってやってくれ!」

  「途中までは鬼神さんのほうが勝ってたよ」

  「そうですね、デフィスさんはかなり一方的にやられてました」

「そ……そこまで言う必要はねえが……」

「証人がこんなにいるんじゃ仕方ないね。じゃあ行こっか」

「なんでてめーが仕切るんだよ。おい! こいつも引っ張ってくれ!」

「貴様にも仕切る権利はない!!! 喧嘩両成敗だからな!!! ゆくぞリシュ!!!」

「はいソウエン様! 衛兵、紺華神王もしょっぴいてください!」


(兵士に引きずられるシャラとデフィス)

「あーあめんどくさいなあ……別に後悔はしてないけど」

「てめ……いつか後悔させてやる……」

「ん? それは楽しみだな。いつにする?」  (にこっ)

「あなたがた何を話してるんです?」  (険悪)

「仲直りの話だよ」

「……なんでもねえ……(げんなり)




●叱られた後

「なんで罰が愚民の使う便所の掃除なんだーーーーッ!!!」

「すごい! 一般人用なのにここもちゃんと動く水洗トイレなんだ!」  (じゃーーーー)

「前から疑問だったんだが……堆肥にもしないで水に流す、だと……!!」

「あ、デフィスんとこにはないんだね(哀れみの目)。うちは城に一台だけあるよ。壊れてるけど」  (じゃーーーー)

「どうでもいいだろ! とっとと終わらすぞ!」  (デッキブラシで床をこすりだす)

「そうだデフィス、あの最後のすごい技、もっかい見せてよ! どうやんのあれ」  (じゃーーーー)

「見せねえよ! あと水流して遊ぶなもったいねーだろ!」

「なぁんだ、あれはまぐれか」  (じゃーーーー)

「……てめーのその手にはもう乗らねえよ。つーかこんなもんで戦って出せるか」  (ごしごしごし) (剣は没収中)

「かつてデッキブラシで少女が空を飛ぶ時代があったってガ・ネムドが言ってたよ。あれくらい出せるって」

「どんな時代だ!! つーかお前も反省しろ。くそ、とんだとばっちりだぜ」  (ごしごしごし)

「でもきっかけを話したらソウエンもシンリュウもおれを同情の眼差しで見てくれたじゃん。
      ……あれはあれで辛かったけど」  (ごーしごーし)

「金沙の鬼神シャリか!? あの程度…」  (ごしごしごし)

「ソレもう言わないでくれる?」  (零度の声音)

「てめーこそ着膨れとか言いやがっただろーが」  (ガン飛ばし)

「だって事実でしょ? みんなそんなかっこしてるなんて考えただけでうきうき笑い出したくなるな」  (ごーしごーし)

「てめーいつかその格好でブリザードん中に叩き込んでやる」  (ごしごしごし)

「望むところだね。あんたもそのかっこで紺華の夏を体感するといいよ」  (ごーしごーし)


(がらっ)

「あなたたち、ちゃんと仲良く掃除してますか!?」

「「 してマス!! 」」

「そうですか……なら良かったです (笑顔)  (ぱたん)

「……」 (ごーしごーし)

「……」 (ごしごしごし)

「………司啓……皇国……いつかきっと………」  (ごーしごーし)

「は? なんか言ったか?」  (ごしごしごし)

「……ん? 何でもないよ? (スマイル)  (ごーしごーし)




 ―完―



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2009年02月08日(日) 08:47:46 Modified by ID:H/qQjSwCxw




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