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  【作:てきとう怪獣】

※:ここはクリプトン社のキャラクター『ボーカロイド』を使用した二次創作小説のページです。

電波小説/二人の冒険者
著者:てきとう怪獣
  • 全10話- ☆完結しました

【電波小説】二人の冒険者:第7話


はるばるやって来た北海道。
未確認生物ハンティングに使命感を燃やす初音ミクと鏡音レンは、とうとうその姿を目の当たりにする事になった。

「ヌマッシー!」
「70年に一度くらいしか見れないのに、ついているわね。あら?メモリ容量とフォーマットと電池が・・・」
「機材はちゃんと管理しろと言っただろうが〜!!」
「よし、と・・・あらら?真っ暗」
「レンズのフタは外せと言っただろうが〜!!」
ふたりがあたふたしている間に、クマとヌマッシーの格闘が始まった。
いや、正確にはヌマッシーの一方的な勝利で終わった。
飛びかかるヒグマを器用に鼻先に乗せ、くるくる回して放り出すと、仰天したクマは一目散に茂みの中に逃げ込み、あっという間に消えた。
そして戦いに勝ったヌマッシーは、道沿いに向こうへパタパタと歩き出す。
「ああ、行ってしまうぞ!!」
「使えないカメラね。追いましょう」
「だから機材のせいにするなって・・・追おう!」
問答無用、とばかりにふたりは駆け出した。
レンの携帯電話カメラもあるが、起動している暇はない。
野生動物としては遅いヌマッシーも、この草木がうっそうと茂る森では、なかなか早い。追跡はかなり難儀した。
そして、ぼっちゃんという音とともに、追跡は終わった。

「川に入ったぞ!」
ヌマッシーが、森の中を流れる川に飛び込んだ。
小さな川だったが、体長2、3メートルくらいのスリムな首長アシカが泳ぐには充分な水深があるようだ。
あっという間にヌマッシーは泳ぎ去った。地上をパタパタ走るさまからは想像できないほど優雅に、素早く・・・。

70年に一度目撃される沼の主が、見れるなどとは思ってみなかった。
ただ、痕跡を見れれば幸運であると、そのくらいの希望を持って来た。
それ出会えたのだから、満足すべきなのだろうか?
それにしても、撮影のチャンスがあったのに、逃した事が惜しい。
鏡音レン少年は、ヌマッシーが消えた川を見ながら、1分ほど放心していた。
続いて、何を考えているのか分からない無表情と遠い目で、やはり川を見続けている初音ミク、その手にしているデジタル一眼レフカメラに視線を移す。
 彼が自分でカメラを構えなかったのは、初音の方が写真撮影に詳しかったからだ。
だが彼女の写真技術は、どうもポートレートや風景撮影で発揮される類いのものらしい。とっさにスクープを激写、などという場面には向かないのだ。
ありていに言って、どんくさい。
『これなら自分で撮影した方がよかったかも・・・』
後悔先に立たず。
今さら思っても仕方が無い事なのだが、やはり未練だった。

「とにかく、この目で見たんだ・・・それでいいか」
ようなく踏ん切りがついて、レン少年が来た道を戻ろうとした。
その時、携帯電話が震え出した。
取り出してみると、メールが届いている。
「戒人からか・・・『元気してるー』ってのんきだなあ。絵文字は相変わらず間違っているし・・・」
そう言って携帯を懐にしまいかけたが、その途中で未だに川を見ている初音に視線が止まる。
「まてよ、なんでメールが届くんだ?・・・電波?」
「見えるわ・・・数多の言葉たちが、風に乗ってこの大気を彷徨っているのが」
「ファンタジーだなあ。でも初音が言うと間違いなく電波だ。つまりここは圏内なんだな?」
レンはあたりを見回したが、森は進むほどに深く暗くなっている。
街のふもとで圏外だったのに、より人里離れて電波が届く・・・納得しかねる状況だった。

不思議がる鏡音少年の耳にエンジン音が届いた。
「え・・・?」
驚いている間に、音の主が姿を現した。オートバイだった。
「DT50・・・やはりヤマハのエンジンはいいわね」
視線を川から道に、ちょっとだけ動かしながら初音がつぶやく。
ヤマハのエンジンにこだわりがあるようだが、それはいい。
オートバイは今二人が来た道を辿ってきたのだ。こちらに向かっている。
「俺たちを追って来たのか・・・? あれ?」
レンたちの姿が見えているはずなのに、減速しない。
そしてそのまま、彼らのかたわらを通り過ぎてしまった。
ライダーは、気のせいか街で見かけた気がする男だった。確信は無いが、立ち寄った店の誰かだったと思われる。
そしてバイクの荷台にくくり付けられた段ボールにも見覚えがある。アマゾンと英字で表記された、馴染みの箱だった。
「森の中に、配達・・・?」
「この先に“未知の者”がいるのよ。行きましょう」
そう言われても、じっさい行かなくてはならない理由など無い。
だが、この時もまた鏡音少年は不調だった。
自分の意志がうまく機能せず、良い決断が出来ない状態だ。色々あったので、当然なのかも知れない。
そのため、初音の言葉に引きずられるようにして、バイクの消えた方角へ、歩を進める結果となった。

道は川沿いになっていた。
そしてやや進むと、橋に出くわした。
木造で多少古いが、それなりに整っていて、決してかけっぱなしで誰も通行しないという橋ではなさそうだ。
さっきの配達バイクも、ここを通っていったものと思われる。
橋の先は、比較的道が整っていた。
あくまでも今までに比べれば、の話だが・・・。
そして、今までとは何か空気感が違っている。それは言葉の比喩ではなく、じっさいに空気の匂いが違っていた。湿度、気温も上昇しているようだ。
「温泉の匂いがするわね」
「地図にはないぞ・・・本当に、幻の秘湯があるのか?」
「あら?九州で80年に一度しか目撃されない温泉ニワトリのヒナがどうして」
「なにー?写せ、写せ!!」
初音の言う通り、ニワトリのヒナがトコトコと歩いて来た。
それは、アヒル並みの大きさがある以外は、普通のニワトリのヒヨコだった。
ヒナは数羽いるようだが、道を向こうからやって来て、二人の前に来ると立ち止まり、いっせいに見上げた。
そのような猶予があったため、初音でもたっぷりと撮影する事が可能だった。
やがてエサをくれる人ではないと判断したのか、ヒナたちは歩き去る。

「見せて見せて!」
鏡音レンが急かすと、初音はメモリーカードをフォトスタンドに差して渡してくれた。そこに映ったものは・・・。
「うーん、むちゃくちゃキレイに映っているけど・・・キレイすぎて嘘っぽいなあ・・・このへんの木がでかいせいで背景との対比も今ひとつだし、でもまあいいか」
仲良く並んでこちらを見上げるヒナの鮮明な写真。
これほどクッキリ写っている未確認系の画像はあまり例がなく、それだけでなんだか嘘くさいと思われるだろう。
80年に一度しか目撃されない温泉ニワトリ。しかしレンは、追おうと思えば出来るのに撮りなおそうとは何故か思わなかった。気分がおおらかになっていた。
ふたりは普通に、何を打ち合わせるでもなく、再び歩き出した。

思い返せば、ちょっと探索しようと言う程度の探検だった。
日帰り予定で、もうそろそろ戻ってもいい時間だ。
歩き続ける鏡音少年がそう思い始めた頃・・・。
なにか建物が見えて来た。
あろうことか、それは古びた洋館だった。
日本の洋館はいつ頃から建築されたのだろうか? おそらく明治であろうが、この洋館は建てられてすぐに無人化したかの如し廃墟ぶりだった。
そうは言っても若い少年鏡音が思っているより早く、景色は朽ちるものだ。
じっさいには戦後に廃墟化した可能性もあるだろう。

レン少年は、思わず初音の方を見た。彼女の意見はどうであろう。
「あたしには分かる・・・さっき通り過ぎたあたしの一族が、ここにいる・・・」
「さっき?・・・あのバイクに乗った男か」
「違うわ。ヤマハのオートバイよ」
「なんでオートバイと同じ一族なんだよ!」
「あたしの胸にはヤマハのエンジンが脈打っているもの。ヤマハ人造臓器部門の最高傑作、ボーカロイドの証・・・」
「ヤマハに人造臓器部門はねえ!」
「表向きにはね」
「裏にだって絶対ない!あったとしても、それがアンタの心臓だとしても、オートバイの発動機とは別ものだっ!!」
「心が狭いのね」
「どちらかと言うと、広い方だと言われているが・・・」
そんな掛け合いをしながら、ふたりは洋館へ歩き出した。
とくに用事がある訳でも無いが、自然と足が向かってしまった。

【第8話に続く・・・と思う】

 

【電波小説】二人の冒険者:第8話

北海道の人里から少しばかり離れた森の中。
地図にない古い洋館・・・・・。日帰りにはちょうど良い冒険だ。
鏡音レンは、そう思った。

「きょええええええっ!!!」
突然の奇声とともに、近くの灌木が折れとんだ。
「な、なんだー?!」
レン少年は仰天し、のけぞった。
初音ミクは遠い目つきのまま視線をわずかに動かし、折れた木の方を見た。
そこには見知らぬ老人が立っていた。
「ほんの挨拶がわりだ! かかってきなさい!」
異常なスタイルの老人だった。
ちょうどタレントの志村けんを白髪化したような風貌に、古びたローブ、とでも言うのだろうか・・・修道士スタイルで、手にはオークスタッフらしい、異様にねじれた木製の杖を持っているが、たった今木を折ってみせたのはこの杖の一撃ではないようだ。
木陰から飛び出した勢いそのままに、蹴りを入れたらしい。
凄まじい破壊力をもつ体術だった。
老人は、腰を抜かしかけているレン少年と、意思を感じさせない目でこちらを見ている初音を交互に見て、構えを解きながら言った。
「なんだ・・・求道者じゃないのか」

「私の名は呉賢人、学者だ」
「はあ・・・学者さんがなんで森に?」
「ライフワーク、道楽、仕事、色々な理由でな」
レン少年と老人は、すぐに打ち解けた。
見てくれはどうあれ、常識人どうしの会話が成り立ったからだ。
そこに、常識が通用しないひとりが加わってきた。
「あなたが“未知の者”なのね?」
「なんだと? まあそう言われれば、そうなるが」
「ではあたしと勝負しなさい」
「何を言っている? どう見ても武術の心得があるとは思えないが?」
むろん、初音の外観を言っているのではない。
初音は動きに隙がありすぎる。かと言って決してスポーツ武道は不得意ではない。音楽、学問、運動、全てにおいて中の中、平均的すぎる能力の持ち主だった。
平均的な一般人が、武道の達人に敵うはずがない。
勝敗は明らかだった。
それが分からないのだろうか、初音はずいと老人に詰め寄って睨みつける。
「ふははは、これは滑稽だ! いいだろう・・・少し、」
「あなたの負け」
「な、なんだってー!」
「笑ったから負け」
「な、この勝負、睨めっこだったのかっ! ちょっと待て」
「見苦しいわよ」
「うぐっ・・・わ、わかった。負けを認める・・・で、だからどうだと言うのだ」
「トリケラトプスの居所を教えなさい」
「なにっ!それはダメだ!危険すぎる!」
「見苦しいわよ」
「ぬぬ・・・仕方がない・・・ついて来なさい」
この一連の訳分からぬやり取りを、鏡音レン少年は、黙って見つめるしか術がなかった。割り込むにはあまりにもバカバカしすぎるからだ。
洋館の方角に向かって歩き出す老人に、初音がついていく。
レン少年もそれに習う事にした。

洋館の前に立つと、所々手入れをしているのが分かる。
ひと一人分、生活できればいいというメンテナンスの具合だった。
よく見るとこの洋館、石垣の上に立っている。
仔細に調べないと気づかない事であり、むしろ洋館が建築されている事により、下に古城跡があることが分かりにくい。確かに幻の古城だった。
敷地に入った3人は、開けっ放しのドアから館に入っていった。
薄暗い部屋を横切りながら鏡音少年は、初音に声をかけた。
「しかし、なんでこの人がトリケラトプスの情報を持っているとわかった?」
「君の言っている事はあたしには分からない」
「いや、だからどうして初対面の人にトリケラ話を切り出した!」
「勝利の報酬として、当然じゃない」
「いやそうじゃなくて・・・」
「おそらくトリケラトプスの秘密、そのものがこの古城の宝なのね」
「あー、そうかもねっ。ところでこの地に来たときからトリケラトプスにこだわり始めたけど、どこでそんな話を聞いたんだ? 雑貨屋か?」
「子供の頃見た恐竜図鑑、そのページを開いた時、身体に電流が走ったわ・・・これこそあたしの運命なのだと」
「ちょっとまて、ここでトリケラトプスの伝承に行き当たったのは、偶然なのか?」
「何を聞いていたの、運命よ」
「・・・・・・」
レン少年は言葉を失った。
何を聞いても、まともな答が返ってこない。
そんなふたりのやり取りを、時々ちらりと見る呉賢人の目には、若干の哀れみが含まれているようだった。

「さて、落ち着いて話し合おう。私は無謀だと思うのだが」
「あたしたちは、天に誓ったの。トリケラトプスの為に全てを捧げると」
「いや違う、俺は違う!」
手入れされた談話室に入って二人に椅子を勧めると、呉賢人はローブを脱いで洋服掛けにかけた。ローブの下は普通のフィールドワーカー風スタイルだった。
続いて肩までのび放題の白髪と付け髭を外すと、老人と言うよりは初老の男と言った風貌になる。
「悪いがここでは全てセルフサービスだ。そこにペットボトルの飲料があるから、好きなのを選んで飲みたまえ」
「それで、トリケラトプスの情報はどこなの」
「まあ待ちたまえ。この古城の深く、その書物があるが、本自体が貴重な資料なのでケースに入れて密閉保存してある。約束だから君にはコピーを進呈するが、その上でもう一度言わせてもらう。考えなおせ」
「すごいな、初音が当てずっぽうで言った通りだ。世の中、油断がならないなあ」
鏡音レン少年は、妙なところで感心してしまう。
呉賢人は屋敷にふさわしくない機能的なデスクに乗っているパソコンの回りを調べ始める。色々な資料が乱雑に積んであり、すぐには目当てのものが見つからないようだったが、続いてパソコンに接続されているらしい優雅なナイトテーブルに置いてあるプリンターの周りを探し、最後にその横にある古めかしい和風の棚に置いた箱の中で目的のものを見つけたようだ。
調度や様式が統一されていないのは、先の呉達人の家と同じだった。

レンは部屋の中を見回して、またも感心する。
「へー、電気が通っているんですか」
「戦時中、軍が土管を通してライフラインを設置したのでな。今でもそれを使っている訳だ。そら、コピーと一緒にこの口語版をつけよう」
「口語版・・・」
手を伸ばす初音に先んじて、レンが賢人から書類の束を受け取る。
コピーと言うより、レーザープリンターで出力されたもののようだった。
「うん、確かに分かりやすいな・・・でもなんでこんなものが」
「近く、小学生向けの本にして出版する予定だからな。原稿はもうほとんど出来ているのだが、子供に理解できるかどうかチェックしているところだ」
「“明治21年5月、北海道のある村で、ちょっとした騒ぎがありました・・・”か・・・明治21年っていうと・・・ああ、1888年か」
鏡音少年が指折り数えた。歴史の成績はわりと優秀な方だった。
「これが、トリケラトプスの記録なのね」
「トリケラトプスとは書いていない。コナン・ドイルが『失われた世界』を著すよりも20年以上も前の話だ。トリケラトプスという単語自体、日本にはなかったのではないか? その記録はそれでも2番目に新しい話だ。一番新しいのは今から30年ほど前、誰あろう私が目撃した件だ。一番古いのは寛政10年、西暦で言うと1978年・・・」
「90年周期で目撃されているのね」
間髪を入れずに、初音が数字を口にした。学校の成績は全般に極めて普通だが、妙に暗算力と暗記力と暗唱力に優れた一面もあった。

初音とレンは、部屋の真ん中のテーブルからすみの談話用ソファーと低いテーブルの方へ移動して、しばし書類を読んでいた。
賢人は、パソコンの前でなにやら作業している。
「どもー、ついつい長居しちゃってすいませんー、じゃあ私戻りますんで」
先ほど見かけた配達の男が、途中通りかかって呉賢人に挨拶していった。
「こんちわー、先生、後で稽古お願いします」
道着を着た若いのが数人、顔を出した。
「ちゃーっす、アンテナの方、直りましたんで。どもー」
工事の人らしいのがやってきて、そう言った。
鏡音レンは、ちょっと顔を上げて回りを見やった。
「あ、あんがい人が多いんですね・・・ここ、クマが多いのに・・・」
「この辺のクマは、人に手出しをしたりせんよ。ひととおり、私が殴ってやったから、むしろ人を恐れて近づいてこないだろう」
「な、なんて非常識な・・・と言うか、クマに勝てる人間がいるとは・・・むむ?しかし待てよ」
レン少年は思わず書類を読みふけっている初音を見た。
この界隈ではクマが人を避けるのが普通らしい。賢人が無理矢理、力技で作った法則なのだが・・・ということは、逆にこの森でクマが人間に寄ってくる場合はどうだろう。
普通は避けるクマが寄ってくるのだ。それはクマを惹き付ける普通ではない人間と言う事になりはしないだろうか・・・。納得のいく話だった。

 三つの角を持つ謎の生物に関する書類。
1978年、初めてこの地で目撃された時、ある程度の学がある武士階級の者が立ち会って、その特徴などを記している。
その名は牛哉(ぎゅうや?)とか三突鬼(みつき?)などとも言われていると、その武士は記していたので、地元では知られていた存在らしい。
その後、明治に入ってからの目撃も、牛よりも大きく、角が三本あるという点で共通している。そしてもっとも新しい呉賢人の目撃証言は、当然ながら一人称で書き綴ってあった。
このあたりを歩いていて、小高い丘から森を見下ろした時、“それ”を発見した話だった。
書類を読んだ鏡音レンは、内容を本人に確かめてみた。
「目撃談は、ここに書いてある通りなんですか」
「いくらか簡略化してあるな。それと、ちょっと事業で失敗し、借金取りから逃れるために山に隠れ住んだ話は省いてあるが」
「ま、まあ子供向け本ですからそれは・・・その時にトリケラトプスを見たと」
「トリケラトプスか・・・まさにそうとしか言いようがないな。かなり遠くから、沼の水を飲んでいるところを見ただけだが・・・未だ鮮明に思い出せる」

 

しみじみと当時を思い出す賢人に、先ほど配達で届いた段ボール箱を開けて、中から何冊かの本を取り出して読んでいた初音が語りかけた。
「なぜ、ナイトの本があるのかしら」
「な、勝手に開けるんじゃない! と言うか洋書が読めるのか?」
「文字じゃない、行間に秘められた『気持ち』を読むのよ」
「もっともらしい戯れ言も禁止だ! 要するに英語は読めんのだろ? ナイトの本を集めているのは、私が見たその角獣をもっとも的確に再現する事ができるのは、やはりナイトのイラストではないかと思うからだ」
「チャールズ・ナイトの描くトリケラトプスにそっくりなのね?」
なんだかんだ言って話の通じている初音と賢人の間に割り入るように出て来た鏡音少年は、初音の手にするナイトの本をのぞき込んだ。
ジュラシック・パークが登場したくらいの時代に生まれたレンには、非常に古めかしい恐竜図に見えた。
「えっと、要するにアレか、“クラシック恐竜”ってヤツか」
「ナイトの絵は俗にいうクラシック恐竜の代表格とも言えるだろう。60年代以降は恐竜の復元図にも変化が現れ、80年代には現在のモダン恐竜図がマニアの間で幅をきかせるようになった。しかし現実に私の見た“ヤツ”は、角獣は、トリケラトプスは、確かにナイトの描くようなクチバシのついたタイプだった!」

さて、ここまで来たら、鏡音少年も決断しなくてはならない。
危険な野生動物でもあるトリケラトプスが出没する地点にでかけるか、あるいはやはり常識人らしく、引き上げるのか・・・。
レンは前者を選んだ。
ここまで具体的な話を聞いたからには、多少危険でも見に行きたい。
目撃情報は全て、同一地点に限られている。
少し先の小さな池で、どういうわけか200年も同じ地点に枯れずに存在している、水源不明の水たまりなのだそうだ。
とにかくその場所だけでも見ておきたい、レン少年はそう決めた。

書類をまとめながら、初音ミクは賢人に向かって言った。
「ところで、少し南に住んでいる“呉達人”という人をご存知かしら」
「何を言っているのだか・・・普通に考えれば呉さんの身内か親戚だと分かるだろ」
「少年の言う通り、私は達人の父だ。それがなにか」
「その達人という人が言ったの。トリケラトプスはニンジンが好きだって」
「確かに、あのあたりにエサをバラまいておくとニンジンだけが無くなるのは、昔からの伝承通りだな。この館にニンジンはあるかって? 昨日カレーに入れたので、ここにはもうない」
レンは初音のほうを思わず見た。
「なるほど、ニンジンか・・・確か初音が10本ほど持っていたよな」
「半分あたしが食べたけど」
「残り半分は食うなよ。何かの役に立つかもしれない」
レンの目が少年らしく、活き活きとしてきた。

「よし、出かけるとするか」
レンと初音は立ち上がった。その背中に、呉賢人が声をかける。
「ところで、君たちは確か東京からだったな・・・。では、知っているかな?いや、知らないだろうな・・・」
らしくもなく言葉を濁らせる賢人を、初音が急かした。
「なによ、言ってごらんなさいな」
「孫娘が東京で音楽をやっているのだが・・・今は聶隠娘という芸名だという。いや、音楽の世界は広い、孫娘の事なんて知らないだろうな・・・くだらない事を聞いて悪かった。だがいづれもし、どこかで偶然に会うような事があったら、祖父が気にかけていたと伝えて欲しい」
「あの・・・聶隠さんは今、実力派トップアーティストで有名人ですよ?それにあの方は今日、下の実家に居ますけど・・・疲れたからちょっと戻って来たとか言って・・・なあ?」
レン少年が言う最後の『なあ?』は初音に同意を求めるために言った言葉だ。
そして、初音と顔を見合わせて後、視線を後ろの呉賢人が立っていた位置に戻すと、そこにはすでに賢人の姿はなかった。
孫の顔を見るために、文字通りすっとんで帰った事は間違いない。

初音は何も言わなかった。
しかし一度は元気づいた鏡音レンは、なにかとても心強かった後ろ盾を、急に失ったような気持ちになった。いざと言う時助けてくれそうな人物が去り、不安だった。
だが『男が一度決断したからには』と、妙に悲壮な覚悟を背負いつつ、冒険の旅を続ける心づもりになっていた。

【第9話に続く・・・はづ】

 

【電波小説】二人の冒険者:第9話

初音ミクと鏡音レンがバスでたどり着いた街とも言えない寒村。そして呉達人の家から呉賢人の洋館まで、実は一本の道でつながっている。
途中、脇道として沼への小道があり、そこで二人が迷ったのも事実だが、それもまた行き当たった崖を登る事で、やはり本道にすぐ戻る。
そして二人がヌマッシーを追いかけた時のように、じっさいどの道へ入り込んでも、最後はこの本道に還るのだった。
街から続くこの道の最終地点、それが例の小さな池だった。
トリケラトプスが現れるとされる場所である。

「うーん、圏外になってきた。あの洋館が特別に圏内になっていたみたいだな」
「あの館、けっこう人の出入りがあって迷惑だわ。人跡未踏でないと、探検の気分がでないじゃないの」
「そこまでスゴいワガママを聞くのは幼稚園以来だなあ」
「その池もけっこう近いわね。もっと離れてくれないかしら、探検の気分が・・・」
「池に言ってくれよ、そういう苦情は・・・ってオイ!食うなと言っただろ!」
ニンジンをポリポリかじる初音を、レン少年が注意する。
やがて、目的地の池にたどり着く。
確かに初音の言う通り、人跡未踏の趣はない池だった。
多少、周りが踏み固められ、池には『冬期遊泳禁止』の立て札が立っているのだが、これはまあ北海道なので当然だろう。
よく見ると足下にゴミの類いもちらほら見える。
飲み捨てたドリンク缶やコンビニ弁当などであり、これではどうやっても『探検気分』は満喫できない。まあ無理をして味わう必要もないのだが。
しかしこのような場所でも、テレビ局などにかかれば人の痕跡を意図的にカメラのフレームに入れない事で、未開のジャングルに仕立て上げるだろう。

池のほとりに立つとレン少年は、ふと呉達人の言葉を思い出した。
『沼の向こう岸でよく足跡を見かける』
それは、トリケラトプスらしい生物が、あんがい行動範囲が広い事を意味する。この目の前にある、特定の池だけで水を飲むほど神経質な動物ではないようだ。
そして、地元の伝承では姿について記述があるし、牛哉だの三突鬼だの、名前をつけて呼んでいるのは、それなりに知られた存在だと言う事だろう。
外部者による具体的な報告例が、90年に一度なのである。
それはどういうことか。
つまり、トリケラトプスはけっこうこのあたりを自由に歩き回っていて、地元住人は危険だから積極的に関わらない・・・そんなところではないのか。
鏡音レンは、急に恐ろしくなって来た。

「あら?されこうべ」
「な、なんだとおおおおお!!」
白骨死体と言うにはくすんだものが、初音の指差す方向に転がっていた。
よく見ると草木の間に頭骨以外もちゃんと存在した。
むろん、レン少年は死体など見るのは初めてである。
「ななななな、なんでそんな、しかもコレ、へ、変だよお! ぐにゃっと前にせり出していて、牙も生えているし・・・に、人間なのか? もしや人体実験で変異した怪人か、伝説の狼男か・・・それとも翼手?・・・うぎゃあああ!何やってんだー!」
何の躊躇もなく白骨死体から頭骨を取り上げて仔細に点検している初音を見て、レンは思わず悲鳴を上げた。
通常、民間人が軽々しく手に取れる種類の物体ではない。
鏡音少年のように、恐れて後ずさるのが普通だろうが、初音は普通ではなかった。
「何を騒いでいるの。これはクマの骨よ」
「え?そうなの?人間サイズだからてっきり・・・なるほど、獣人じみた異様な形をしているのは獣だからか・・・」
人間ではなく、動物の骨だと思うとやっぱり安心する。
ホラー映画に出てくる異形の怪物でもない、ただのクマならなおさらだ。
鏡音レン少年は、一度は落ち着きを取り戻した。
「よく見なさい。こういうのがそこら中に転がっているわよ」
「え?」
言われて周囲を見回すと、確かに池のまわり、草むらに骨がちらほらしている。
もしかすると、見えないところにまだまだ死体があるかもしれない。
するとレンはまた恐怖に襲われた。
これだけ大量のクマが死んだ原因が、この付近にあるのか?
未知の『死因』への恐怖だった。
そう言えば、洋館の周りには『幻の温泉』がある様子だった。
妙に蒸し暑く、どうも地熱かなにか発生している感じで空気の匂いも違った。
するともしや、これらたくさんのクマたちが死んだ理由は・・・。
火山性の毒ガスが溜まっているせいなのでは?
鏡音は、思わず口を手で覆った。

「怖がらないで。別にこの付近に硫黄ガスが発生する訳じゃないから。この骨をよく見なさいな・・・死因は頭頂部にあるこの穴よ。もちろん外側から力が加わっているから、ただ単に巨大なつるはしで一撃されたようなダメージを負っただけ。他の死体も同じようね」
「ちょっと待てー!それは、ヒグマでさえ一撃で殺す生物がこの場所にいるって事だろうが!やっぱりトリケラトプスは危険なんだー!帰ろう!帰ろう!」
「落ち着きなさいよ・・・トリケラトプスの角は鼻の上にあるのよ。クマに一撃を加えたなら、顎の下から脳天を貫き、頭頂部の内側から破壊されるはず。言った通りこの頭蓋骨は頭頂部の上から力が加わっている・・・だから、トリケラトプス以外の動物なの。これで安心した?」
「そ、そうか・・・あんがい鑑識できるんだな、初音は・・・ははは、そうかそうか、トリケラトプス以外の・・・えええー!?」
恐ろしい何かが居ると言う状況には変わりがなかった。

「ななな、何が居るんだこの森に!?」
レン少年の脳裏に、これまで出会った未知の生物たちが走馬灯のようによぎった。これだけ謎の生物が出没する森だ、この先どんな怪獣が出ても不思議ではないと、改めて思い知らされた。
こんなところまで探索気分で来てしまった自分のうかつさをを呪った。
「何が居るって、たぶんアレじゃないかしら」
小さく初音が鏡音の肩越しを指差した。
少年は、ものすごい反射速度と首よ折れろとばかりの高速回転で、振り向いた。
血走った目が、見開いていた。
『コッ?』
ニワトリが、そんな鏡音少年を怪訝そうに見つめた。
「は・・・?」
初音にクマをも殺す超生物がいることを示唆され、全開の恐怖心とともに振り向いた先に、ニワトリが立っている。それは今まで経験した事のない不思議な感覚だった。
そしてやがて気づいた。
これは『普通』の白色レグホンではない。
ぼーっとしたレンの頭に、ニワトリと目が合った自分自身の視線の角度が、脳内に描かれた客観的な図面で示された。
水平から上方に23度修正・・・。それがレン少年の視線角度だった。
つまり、ニワトリの目を見つめる少年は、やや見上げている。
早い話が、この白色レグホンの目の位置はかなり高い。とは言っても、ニワトリが高い位置に立っているわけではない。
要するに、でかいニワトリだった。

「え・・・こいつは?」
「温泉ニワトリよ。これがクマに一撃を加えた主ね」
そう説明しながら、初音は巨大なニワトリにツカツカ歩み寄った。
「おい、大丈夫なのか?クマを殺したヤツだろう?」
「クマがやられたのは多分、この子に攻撃したから。だから、こちらから手を出さなければ何もしてこないはずよ・・・はっ!!」
初音の回し蹴りが、温泉ニワトリの胸に見事に入った。
「なあにやっとんじゃあああ!!!」
「どのくらいの攻撃で怒るのか、確かめなくちゃ」
「確かめてどうするんだ!分かった時は死ぬ時だろうが!」
「それもそうね」
とりあえず、今の蹴りではニワトリはほとんど感じないようで、ココッ?とか言いながら、初音の顔を見ただけだった。
人間に対する興味はすぐに失われ、足もとの地面をつつき始める。
「トリケラトプスがどれだけ危険か知らないけど、この子の側にいればきっと大丈夫よ」
「そ、そうか、良かったあ・・・」
安心したレンは、急に温泉ニワトリが頼もしく思えてきた。
自分たち人間にクマほどの攻撃力がない事が、逆にニワトリの敵意を誘わないのは、幸運だと言えるだろう。
温泉ニワトリと人間、力に差がありすぎるが故に、共存が可能なのだ。
まあ例外的な人間が先ほどの洋館に住み着いていたようだが、それは置いておくとして、だ。
そしてその安心感が、人の行動に隙を作るのである。

鏡音レンと初音ミク、ふたりはその後も探索を続けた。
ニワトリから離れないように気遣いながら、池の周りを歩いて調べる。
そして空腹である事に気づき、池のほとりで弁当を広げた。
「これはオムレツ寿司、これは焼きそば寿司、これはチャーハン寿司・・・」
初音の作った弁当をほおばりながら、それでもレンは注文をつけた。
「うん、うまい!うまいけど・・・なぜか納得がいかないなあ」
「なにがいけないのかしら」
「いやデザインセンスと言うか、なんというか・・・」
何でもかんでも寿司に仕上げる初音の料理技術は、それなりのものだろう。
しかしなぜか釈然としないのも事実だった。
「寿司は料理の王者・・・有り難く思いなさい。これはカレー寿司」
「うん、うまい、でもなんだかなあ・・・」
そんな事を言い合いながら、何だかんだ昼食を楽しんだ。

「あー・・・よく食った! あれ?」
伸びをしながら、レンはふと右、池の岸を見た。
さっきまでそこに居た温泉ニワトリがいない。
続いて左をみる。やはりいない。
「えっと・・・ニワトリは?」
「さっき水の上を歩いて向こうに行ったわよ」
ポリポリとかじる初音が、さりげなく言ってのけた。
ぎょっとした少年が対岸に視線を移すと確かに遠く、ニワトリはいた。
しかし、きょろきょろ地面を物色しながら、森の中に入るところであった。
「うがっ、ああっ!ニワトリが行ってしまう!何で黙っていた!」
「そういう苦情はニワトリに言いなさいよ」
「何で黙っていたと言っているんだ! それとニンジンを食うなとあれほど・・・・・・・・・」
鏡音レンの言葉が止まった。
言葉だけではない。
身体も硬直したように停まってしまった。
まるで、金縛りにあったかのように。

なぜ、自分は動けないのか・・・。
その理由は3秒ほど考えた後にわかった。
視線だ。
森の中から背中に、視線を感じる。それが五感以外のなにかに反応して、鏡音の動きを封じてしまったのだった。
全身から冷や汗が吹き出た。
全力の勇気を振り絞り、視線が刺さってくる方向に首を回す。
視線の主は、動物だった。
黒っぽく、カバみたいな表皮、ゴツゴツした背中、太く逞しい足・・・そしてその目は、象のように小さく、黒かったが、強烈な意思を放ち、ぎらついていた。
じっさいにはこの動物の視線の先にあるのは鏡音少年の背中ではなく、初音がかじっているニンジンであるようだったが・・・。

「と、と、と・・・」
「トリケラトプス?」
初音が振り向く。
確かにトリケラトプス、としか言いようがなかった。
その体躯はスイギュウ程度であり、子供向け恐竜番組で見るような巨大生物にはほど遠かったが、現実なんてそんなものだろう。
三本の角、襟首のフリル、ほお袋に覆われていないむき出しのクチバシ、旧い恐竜図鑑のトリケラトプスそのものだった。
そのトリケラトプスが、頭を低くしてズイっと一歩を踏み出した。
荷物を引き寄せ、カメラを取り出そうとする初音に覆いかぶさるようにして、レンは彼女が持っているニンジンをもぎ取り、トリケラトプスに向かって投げつけた。
そのニンジンを空中でくわえた恐竜は、いったんそれを地面において、もぞもぞ食い始める。
「逃げるぞっ!」
「写真を」
「いいから逃げるぞ!」
素晴らしい判断力と反応速度は、おそらく持って生まれた才覚だったのだろう。このもりに来てからレン少年は、その能力を開花させたようだ。
初音の手を引いて、全力で駆け出した。
逃げながら、初音の背嚢の中を手で探る。
残るニンジンは、後3本だった。

【第10話に続くかも】


この続きは【電波小説】二人の冒険者 10-11話となります。
ようやく完結です。

◆もくじ◆

【電波小説】二人の冒険者 1-3話
【電波小説】二人の冒険者 4-6話
【電波小説】二人の冒険者 7-9話
【電波小説】二人の冒険者 10-11話

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