なんか怪獣イラスト/怪獣の話などのてきとうwiki

 


  【作:てきとう怪獣】

※:ここはクリプトン社のキャラクター『ボーカロイド』を使用した二次創作小説のページです。

☯ 登場キャラクター ☯
◆電波初音
◆常識人レン
◆明るいリン
◆ほがらか戒人
◆おおらか迷子



【電波小説】3人の探求者:第17話


鏡音レン少年は、妙な疲労感とともに、路地を歩いていた。
先頭を行くのは戒人、続いて初音ミク。
道なりに行って、先の袋小路にあるという自動販売機で、買うだけの行程。
しかし異様に暑苦しい男たちが立ちふさがるのは、これらの道に共通する標準仕様だろうか・・・?
付き合っていると、なんだか頭も痛くなってくる連中ばかりに出会う。

とにもかくも、そういった男どもをなんとかやりすごし、3人は自動販売機があるという袋小路に行き着いた。
それは、基本的に先ほどと同じ造りの路地だった。
大きな建物とそれを囲う比較的高い壁、それにめり込むように設置された自販機といった感じだった。
大きな建物は工房、袋小路はL字型という違いはあったが。
 自動販売機は、比較的新しい・・・と思うのは、前回の販売機が昭和40年代から置いてあるような古くさい機械だったので、そう感じるだけだった。
じっさいには昭和50年代にあったコーラ瓶の販売機に近いテイストのある、かなり古い自販機だ。
それに歩み寄る戒人とレン少年だったが、初音が突然レンの肩に手を置き、哀れむように憂いのこもった眼差しで少年の目を見つめ、言った。
「レクストン君・・・自動販売機の中に、人は入っていないのよ・・・」
「知っているよお!!」
何故か泣きたくなるのをこらえ、レン少年は前に進んだ。
その背中に、初音がさらに一声かけ、肩越しにあるものを手渡そうとした。
「落ち込まないで・・・これで元気を出しなさい」
「俺はバナナ大好き人間じゃないよおー!!」
これが、思い込みの激しい初音特有の勘違いだった。
レン少年をバナナが好きで好きでたまらない人間だと、誤解し続けているのだ。
今回それに『自動販売機の中には人が入っていると思い込んだ少年』という、新たな誤解が加わったという訳だ。
それ以前に鏡音レンという名前を全く覚えず、レクストンとかベラフォンテとか巽音とか好きなように呼んでいるという問題もあったが。

「で、なん種類かあるようだけど、どの瓶を買えばいいんだ?」
「あたしにバラの花の善し悪しなんて分からないわよ」
「バラの花なのか?この販売機の商品は・・・」
レン少年は、まじまじと自販機をのぞき込んだ。
確かに、瓶の中に種らしきものがたくさん詰まっている。
レン少年と初音は、しばらく商品を見比べた後、後ろの戒人に視線を動かした。
一度この自販機を利用した事がある戒人は、にこやかに言い放った。
「うん、俺もよくわからないんだ。でも上に行くほど高価なものらしいよ」
「じゃあ決まりね、いちばん高いのを買えばいいのよ」
「ケチケチして何度も足を運ぶはめになるよりは、いいか・・・」
鏡音レンは江戸っ子らしい割り切りで、そう判断した。
そして懐から赤い縁取りのデッキを取り出し、アルファイバーカードを改めていたが、そのデッキに初音が手を添えて言った。
「君は出さなくていいわ。これは普通の人の手にはなかなか届かない特別なカード・・・あたしたちは何度も触れているけど、レクストン君にはきっと、一生の宝物になると思うから」
「そ、そうか・・・じゃあそうしよう」
レン少年を思いやるその心情は美しいのだが、次に出た初音の台詞は、あまり美しいとは言えないものだった。
「戒人、カード出して」
「ははは、言うと思った・・・ミクちゃんのそう言うところが好きさ!なんてね」
戒人はいちばん高価とされる赤いデッキを迷わず取り出し、カードを十枚くらい引き出した。
「赤いデッキのカードは通常の3倍の値段で取引されるんだ。これが10枚で超最高級の瓶がひとつ買えるね」
「まあた赤くて3倍か・・・」
「赤ラベルのバラの種ね・・・これは最高級の瓶の、さらに3倍は高価だと言われているから。あたしも見るのは初めてだけど」
「これまた赤くて3倍か・・・」
「この自然界の、真理のひとつなんじゃないかしら・・・」
「いやいや、俺が思うに1978年以前にはそんな真理なかったんじゃないかなあ・・・というか、自然界の真理じゃないだろう。むちゃくちゃ人為的な匂いがするぞ」
そんな事を言いながら、一同は赤ラベルの瓶をひとつ手に入れた。
ちなみに、ラベルを読んでみると『真蒼のバラの種』と書いてあった。
どうもラベルの赤は『値段が3倍』を誇示するためのものらしく、商品の方はまったく関係のない青いバラ、という事のようだ。


次の場所は、やや離れていた。
少し道に迷いつつ、なんとか赤いフォルクスワーゲンに戻った3人は、車に積んであったスポーツドリンクを一口ふた口飲んだ後、すぐに出発した。
現在位置さえよく把握していない戒人は、迷わずに車を進めた。
ゆるやかに、しかし停滞なく走るワーゲンの後部座席で二人の少年少女が話し合っている。
「次はギルドに出店してる店で物々交換するだけだから、楽よ」
「前回も、前々回もそんな事を・・・」
初音がバラの種をポリポリついばみながら次の行き先を説明し、それを聞いたレンが意見しようとして、止まった。
少年は目を丸くして、左手で赤ラベルの瓶を持ち、右手でバラの種をつまんでは口に運んでいる初音を、しばらく見つめていた。
「・・・なによ」
「いや、それ・・・たったいま、苦労して手に入れたバラの種・・・」
「あまりおいしくないわね・・・」
「だったら食うんじゃな〜い!!」
「大丈夫よ、まだ半分くらいは残っているから」
そう言って、初音はペースを落とさずに種をついばみ続ける。
「まだ半分って、その調子だとあっという間に全部なくなるわっ!!つかうまくないならなおさら食うんじゃな〜い!」
「一理あるわね」
そう言って初音はバラの種をつまむのを止め、瓶のフタを閉めた。
「一理どころか・・・ああっ、3分の1になっちゃったよ」
「出来れば、種は多ければ多いほど次の取引で有利になるんだけど」
「食ったのは初音だろう・・・って、もう怒る気力もない」
「手を出して。これ食べて元気出しなさい」
初音は赤ラベル瓶のフタを開けて、レンの手にバラの種をごっそり出してやった。
レンは自分で言った通り、疲れた声で初音にいちおう言ってみた。
「・・・・・・これ食ったら、俺は余計ヘコむと思わないかい?」
「変わった体質ね」
それには答えず、レン少年は黙って掌を傾けて、バラの種を初音が持つ瓶の中へ流し込んだ。
それを見つめていた初音だったが、やがて瓶の中に手を入れて再び種をつまみ食いしようとする。
やはり黙ったまま、鏡音レン少年がその手を静かに、しかし力強く押さえる。
食べようとする初音。
阻止するレン少年。
両者無言だったが、どうやらその間に、かなりの力で駆け引きが行われている模様だった。
ふたりは真っすぐに見つめ合い、バラの種が入った瓶をめぐって押し合い、引き合いし続けていた。そんな少年少女たちをミラー越しに見た戒人は、状況が分かっているのか分かっていないのか、軽くはははと笑っていた。

そんな楽しいドライブの末、赤いワーゲンは賑やかな都心部へ来ていた。
風景から察するに、新宿近辺だろうと、レン少年は思った。



 

【電波小説】3人の探求者:第18話


賑やかな新宿も、裏にはさびれた路地もある。
そんな裏道のひとつに、一同は降り立った。
車を運転してきた戒人も、行き先は知らなかった。
先導するのは初音ミク。
その後ろには鏡音レンが従っていた。
全員、新宿は歩き慣れているはずなのに、まるで別な街のように馴染まない。
そのような一角だった。

初音が、建物と建物の間にできた、狭い隙間を指して言った。
「ここからしか、ギルドには行けないわね」
「行けないってことはないだろう・・・」
「あたしの言葉を疑うのね。じゃあ他の道を探してごらんなさい」
そのように言われ、鏡音レン少年は思わず後ろの戒人を顧みた。
戒人にだって、初音の言葉の意味は分かりはしない。首を傾げるだけだった。
自分にも分からない、戒人にも分からない、では彼女に従うしかないのだろうか?
しかし、この新宿で特定の場所に行くのに、道がひとつというのは不自然な話だ。
なにか釈然としないレンは、腕を組んでしばし考え込んだ。
そんな少年にはかまわずに、初音は説明を続けた。
「今日は、あちらから行っても道が無くなっているはずよ」
よく分からない表現に、レン少年はやや戸惑った。
「道が無くなっている?」
「曜日によって突然出現する壁があるのよ」
「壁が出現?」
「あちらから回り込んでもダメ。今の季節、路地がビアガーデンに様変わりしているもの」
「路地がビアガーデン?」
「あとは東と西からだけど、東は今、道の真ん中に30メートルの縦穴を掘って、なにか工事中だし」
「30メートルの縦穴?」
「西にはなぜかコンクリ製のモアイが出没して、道をふさいでいるの」
「モアイ?」
「他にもこの下にある下水道を通って、ギルドの前まで行けるのだけど、最近白いワニが出るというウワサがあるわ。危険は避けるべきじゃないかしら」
「白いワニ?」
「高層ビルからパラシュートで降下する方法も考えたわ。でも新宿では禁止されているみたいね」
「新宿では?」
「もちろん、他の建物伝いに行く方法もあるわ。でもこの界隈で塀より高いところは、エイリアンビッグキャットのテリトリーらしいから危険ね」
「エイリアンビッグキャット?」
「そんなわけで、この路地裏を行くのがいちばんいいのよ。巽音君、なんなら他のルートを試してみる?」
レン少年は、ぶんぶんと首を振った。
目の前に『普通の道』があるわけで、好んで危険の種類すら分からない経路をたどっていく必要性など、まったくなかった。

レン少年は、ビルとビルの間に出来た路地をのぞき込んだ。
すると、路地の奥から二人の男が歩いてきて、初音とレンの間を通り、通りに停めてあるごく普通の営業車に乗り込んだ。車はそのまま、こともなげに発進し、走り去る。
その後ろ姿を指しながら、レンが初音に質問した。
「今の人たちは・・・?」
「ギルドの登録者でしょうね」
「ええと、今着ていたのは・・・」
「ブロンズアーマーにブロンズヘルムといったところかしら」
男たちの、甲冑をならす音が、鏡音レン少年の耳にまだ残っている。
「・・・それで、腰に付けていたのは・・・」
「グラディウス、小剣みたいね。本物かどうかはわからないけど」
「聞くのを忘れていたんだけど、ギルドって何・・・?」
「世田谷区冒険者協会・・・その新宿支店ね」
「はあ、冒険者・・・あんなのが出入りしているのか?」
「甲冑の事?みんな驚くのがあたしには意外なのだけど」
「驚くよ、普通・・・」
「君はテーブルトークゲームする時、それっぽい格好しないの?」
「しない」
路地の入り口で話し合ったまま、なかなか一歩を踏み出さないレンと、初音の肩を戒人が叩いた。
「さあ、議論はそこまで。行こうよ」
「もちろんよ」
「あ、ああ・・・嫌な予感はするけど」
3人は、路地に入るために一歩を踏み出そうとした。
すると、前方でL字型に曲がっている塀の上を、黒い何かが横切った。
一瞬、黒い犬かと思ったが、違う。
どうも大型犬ほどもある黒猫だと考える方が、自然なようだ。
レン少年は、ひとつかぶりを振った。
「不吉な予感もするけどね」
半ば諦めたような面持ちで、少年は一歩を踏み出した。

試練は、ほぼレン少年の予想通りに現れた。
路地を塞ぐ7人の男たち・・・。
奇妙な表現ではあるが、それらは自分の想像の範囲外な人種である事も、想定の範囲内だった。
やはり、始めて出会うタイプの輩であり、言葉でうまく説明できない。
強いて言えば、メタル暴走族・・・だろうか。
パンクやヘビメタが入っているようだが、安っぽいテレビドラマで登場する、間違った描写の暴走族を思わせる連中だった。
そして、今まで出会った中では、いちばん頭の悪そうな面構えでもある。
男たちは、何を好き好んでか、狭い路地で円陣を組んでしゃがみ込んでいた。
そして、まだ初音が何も言わないうちから3人を一瞥し、口を開いた。
「あんだー、オメェらぁあ〜おぉ〜?」
やや肥満傾向だがパンクスタイルで革ジャンの男がそう突っかかってきたが、横着なのか立ち上がろうとまではしなかった。
「ちょっと通してくれないかい?」
戒人はいつものほがらか笑顔でそう言うが、その簡単な日本語さえ通じているのか怪しいものだった。
「あんだとぉ〜おぉ〜?」
「あんだこのぉ〜おぉ〜?」
「あんつったいまぁ〜おぉ〜?」
「あんだおぉ?こらぁ〜おぉ〜?」
「あんだっつうんだぁ〜おぉ〜?」
「あに言ってんだ〜おぉ〜?」
残る6人も凄んでみせるが、やはり立ち上がろうとはしなかった。
自分たちに詰め寄るために立てば、無理矢理に身体をねじ込んで押し通ろうと思った戒人たちだが、これでは通れるものも通れない。
もう一度頼み込んでみるのがいいだろう。
「あのだね、そこを通してもらいたいのだけど・・・」
戒人が繰り返し説得し、初音はカバンからスティックを取り出し、レンは初音を羽交い締めにした。
どうやらリーダー格らしい男は、ようやく立ち上がって戒人に詰め寄った。
「いちいちるっせぇなぁ〜おぉ〜?」
「そう言わずにだね」
「うっせえなぁ〜おぉ〜?」
「まあとにかくだね」
「えらそぉ〜にいってろよぉ〜おぉ〜?」
「その、しゃべり方には何か法則が?」
「法則なんてないよ。うがっ!あ”ぁぁ!うっせぇなぁ〜おぉ〜?」
男はさらに戒人に詰め寄ったが、どちらかというと腹相撲の様相だった。
「ボッコボコにすっぞぉ〜おぉ〜?」
「やめたほうがいいよ・・・俺そうとう強いからねえ」
「うっせぇ!てめえなんて片手でボッコボコだぜぇ〜おぉ〜?」
「じゃあこちらも片手でお相手しよう。指相撲でね」
「じょうとうじゃあぁ!指へし折ってやっぜぇ〜おぉ〜?」
こうして戒人とリーダー格の男は、指相撲を始めた。
このとき初めて、6人の男たちも立ち上がり、勝負を観戦し始めた。


 

【電波小説】3人の探求者:第19話

狭い路地で、壮絶な戦いが始まった。
最初、戒人は男をなめ切っていた。普通に戦えば、これはもう間違いなく圧勝していただろう。7人全員を叩きのめす事だって可能だ。
しかし、事が指相撲となると、別なようだ。
意外と強敵だ。
6人のパンク系メタル暴走族は、ペイントした顔をぎらつかせて、勝負に熱中している。
全力で取り組んでいるにもかかわらず、なかなか勝てないのだが、戒人は焦らなかった。
むしろポーカーフェイスを発揮して、余裕ぶってみせる作戦に出た。

いつものほがらか笑顔で、戒人は楽しげに言った。
「どうしたのかな?僕はまだ実力の半分しか出していないよ〜」
それに対し、メタル暴走族男は同じように余裕の顔をして応える。
「へっ!こちとらフルパワーの30%しか出していないぜぇ〜おぉ〜?」
「僕の言う実力は、通常出力の半分、つまり25%のことだよ」
「なに言うとぉが!こっちゃ巡航出力の30%じゃあぁ!つまり15%の力しか出していないんじゃあぁ〜おぉ〜?」
「本気を出したら、君なんてひとひねりなんだけどねえ」
「てめえごときにフルパワーはださねぇから安心しなぁ〜おぉ〜?」
「少し広い世間を教えておかないとねえ、ヒマじゃないけど、あえてもう少し勝負を付き合ってあげるよ」
「どうしても勝てねぇ相手がいる事をおしえたるぜぇ〜!時間をかけて、絶望をあじわうがいいぜぇ〜おぉ〜?」
「本気を出せばひとひねりなんだけどねえ」
「すこし身の程を知る時間をあたえるぜぇ〜おぉ〜?」
汗ばみながら、ふたりは指相撲を続けた。
6人のメタル暴走族たちもまた、手に汗握って勝負を見守った。
鏡音レンもまた、珍しい勝負に魅入りそうになった。
しかし、初音ミクはあまり興味がないようだった。
「つまらない勝負しているわね・・・原始的すぎるわ。行きましょう、巽音君」
「え?ああ・・・いいところなんだけど」
メタル暴走族が立ち上がった事で、路地には若干の余裕ができていた。
細身の初音とレンは、難なくそこをすり抜けて通過した。
「後で戒人もきてちょうだい」
振り向きもせずに初音が指相撲に熱中する青年に言い残し、戒人もほがらかにそれに応えた。
「なあに、頃合いをみて、かるく、畳み掛けて、終わらせるから、先に行ってて」
笑顔は朗らかなれど、もう片手で手を振る事はしなかった。
なおかつ、目は笑いながらも視線は相手の指から一瞬も離さない。
レンはその様子を時々振り返って見ながら、歩いていた。男子である以上、こういった勝負に無関心ではいられないのだろう。
しかし、初音の腕が首に絡み付いて引きずり始めると、観念して早足で初音について歩いた。

新宿の一角に、少々広い敷地を確保した建物がある。
それは、かなり妙な建築物だった。
古くさい情緒と風格があるにもかかわらず、様式がまったく不明だ。
大雑把に西洋、オリエント様式だと思われるが断言できない。
やたら柱が多い構造物で、城の一部を切り取って街の真ん中に置いたような印象もあった。そのような隙だらけの建物のあちこちに、露天商が陣取っている。
そして商品を買い求める者、くつろぐ者、談笑する者、さまざまな人々が落ち着いた様子で歩き回っている。
金属音にレン少年が振り向くと、一抱えもあるカナトコで業物を鍛えている鍛冶屋の姿が見受けられた。
甲冑姿を始め、各国の民族衣装をやや着崩したような人々は、場所だけでなく時代さえも見失いそうな錯覚に陥らせてくれる。
しかし、決して仮装して野外立食パーティーという趣ではない。
完全に、生活の一部として染み付いているような、板についた異国情緒だった。

厳重な警備どころか、塀の所々が普通にアーチになっていて、人も車も猫だって自在に出入り可能だ。
不思議な光景に見とれていた鏡音少年だが、ふと振り返ると初音がいない。
よく見回すと、庭の一角で物干し場に店を開いている古着屋の衝立てごしに、オーバーオールとアイヌらしい民族衣装を交換している彼女の姿をみとめた。
オーバーオールを受け取った店の主人は、その意外な手応えに戸惑っているようだった。服を探っていると、やがてポケットから赤いラベルの瓶を見つけ出す。
「そ、それは違います! うっかりしてました!」
レン少年が、店主に頭を下げて赤ラベルの瓶を取り戻した。
『まったく、大事な瓶ごと売るとは、いったい・・・』
なにをやっているんだ?と言おうとして少年は振り向くが、またもや初音の姿が消えてしまっていた。
よく探すと、井戸の近くの店で、今度はアイヌ衣装を売り払い、サリーかなにかを身体に巻き付けている初音が見受けられた。
親切な店主が『着物の懐から君の携帯が出てきたよ』と言って初音に手渡しているのが、やや離れたレンにもわかった。
彼は、オーバーオールを着た初音を覚えて、迷子にならないように見つける目安にしているのに、こう衣装がコロコロ変わっていたのでは、すぐに迷ってしまいそうだった。しかも今着ている衣装を売り払うたびに、ポケットに入れているアイテムを無くす可能性すらあるわけだ。
それ以前に、赤ラベルの瓶を物々交換に来た本来の目的を、すでに見失いかけている。
どうやらここは、レン少年が初音を先導して歩くべきだと思った。

初音は、米軍放出品らしい将校服で落ち着いたようだ。
上着だけはサイズが合わないので、黒いTシャツだったが、元より黙っていればそうとうな美女で通るくらいで、まったく問題はない。
さっきのアイヌ衣装とサリーも悪くないとレン少年は思った。まったく本当に、黙ってさえいてくれれば、ちょっとしたモデルくらいの見栄えがするのだが、とつくづく考えさせられる。ついでに言うと、昔に祖父が誉めてくれたとかいう理由で続けている子供っぽい髪型も変えると、なお良いかもしれない。
 さて、この建物にはあらゆる法則がなかった。
部屋はどれもトイレと風呂以外ドアがない造り、中心部とか食堂とかいう発想も無く、かなりてきとうな場所にかまどが新造されていたり、建築物内でテントも当たり前のように立っている。冬は吹きさらしになるのだから、それも当然か。
一見、段差が多くあり、半地下部分、吹きさらし部分、中二階部分の組み合わせで不便そうだが、実際のところバリアフリーの通路を辿っていけば、たいていの場所に足が届くようにも配慮されていた。
もっとも出店やテントのおかげで、必ずしも通行可能とは限らないが・・・。

どう考えても住み着いているとしか思えない者も、確かに居る。
そんなひとりに、初音が瓶を差し出して言った。
「赤ラベルのバラの種があるのだけど、これを若水と交換してくれる店はあるかしら?」
「ほほう、これはまた珍しい・・・そうだな、山田さんところなら、赤ラベルを欲しがりそうだな・・・若水があるかどうかは不明だがの」
初老の男は、水パイプを吹かしながら、のんびり言った。
横から見ていたレンは、思わず初音に詰問する。
「え・・・?ここで次のアイテムと交換できるって言っていたのに、なんだか話があやふやみたいに聞こえるけど?」
「5割の確率で入手可能、と言ったところかしら。なにしろ若水は希少アイテムだから」
「5割かあ・・・で、若水って何?」
「猛毒よ。でも若返りと長寿をさずかる事もあるわ。そのためには致死量の2倍ほど飲まなくてはならないけどね・・・七転八倒した末に、力強く立ち上がるか、そのまま冷たくなっているか・・・レクストン君、試しに飲んでみる?」
平穏を旨とする鏡音レン少年は、首をぶんぶん振って意思表明した。
「基本的に、滋養強壮系の薬品の生成には有り難いものだから、高価で取引されるわけよ」
「まあ、毒でも少量なら薬になると言う話もあるけどね・・・。ところで、その赤ラベルの種とどっちが価値あるんだ?」
「基本的に同じくらい・・・このバラの種は、なんだか美容の薬に使われるそうよ。危険な若返りよりも、市販の乳液よりもいくらか効果のある化粧水のほうが、ある意味価値があるとも言えるわね。だからとかく不足しがちなのよ、この種・・・なんでいちいち邪魔するのよ!」
言っているそばから瓶のフタを開けて中身をつまみ食いしようとする初音の手を、レンが全力で阻止したために会話が中断してしまった。
さっきこの赤ラベルの瓶をポケットに入れたまま服を売っていた件とあわせ考えて、これから先はレン少年がこの瓶を持ち歩く事になった。
大事な物々交換のアイテムを、忘れたり食ったりする初音の神経は、慎重で思慮深いレンには信じがたい類いのものであった。


 

 

【電波小説】3人の探求者:第20話


初音ミクは、山田さんに言った。
「赤ラベルのバラの花と若水を交換したいのだけど」
鏡音レンは、懐から赤ラベルの瓶を出して、山田さんに見せた。
「こりゃあ、助かるなあ! と言いたいところだけど、うちでは若水を扱っていないのだよ・・・なにか別な商品ではダメなのかい?」
麦わら帽子をかぶってキセルを吹かした山田さんは、建物内にミカン箱やら樽やらを寄せ集めて作った出店のまん中でテレビを見ていたが、初音が持ち込んだ商談にかなり興味を示した様子だ。
「おっと、よく見ればこの瓶、中身が5分の1しかないなあ、でもこれだけあれば、色々助かるなあ・・・う〜ん、若水かい?あれは今、吉田さんとこにしかないんじゃないか? あ、吉田さんはバラの種を欲しがらないと思うよ」
バラの種がぜひとも欲しい山田さん。
若水を持っている吉田さん。
なかなか思うように話が進まないものだ。
「じゃあ、こうしましょう。この店で交換できる一番いいもの出してくださらない」
「そうだなあ・・・うん、これなんかどうだ」
山田さんは、足下の長持を開けて一振りの剣を取り出した。
鏡音少年は本物の武器など見たこと無いが、これは真剣だと直感した。
「オリハルコンの剣だ!これとなら・・・いやまてよ、瓶の中身は5分の1だったっけ・・・じゃあこっち、オリハルコンのナイフでどうだ?」
「上等ね。商談成立だわ」
初音と山田さんは、左手で握手した。これがギルドの作法らしい。

 世田谷区冒険者協会・新宿支部・・・通称ギルド。
ここでの目的は、『若水』を手に入れる事だった。
どうも直接入手は無理だと思った初音は、物々交換を繰り返して目的のアイテムに到達する作戦に切り替えたようだ。
鏡音レン少年は、真蒼のバラの種と違ってナイフをかじる心配はないと、安心して初音に持たせていたが、彼女がナイフの柄を握ると微弱な振動と光が刃から発生するのがやや気になる。レンが握っても、特に変化は現れなかった。
不思議なアイテムもあるものだと、感心した。
「大村さんは・・・いたいた」
体格の良いヒゲ男を見つけた初音が、足早に歩き出した。
ヒゲの男は祝日の射的のような出店の中に居座り、テレビを見ていたが、彼女の持っているナイフを見て身を乗り出してきた。
「そりゃ、山田さんところのオリハルコンナイフじゃないか! よく売ってくれたなあ・・・」
「赤ラベルのバラと交換したのよ。これとなにかいいもの、交換してくださる?」
「そりゃあ、もう、なんだって好きなものを一品、持っていってくれ!」
「商談成立ね」
ここではやけに話が早かった。
この店は山田さんところ以上に武器が豊富だったが、初音は迷わず矢が2本だけささった矢筒を取った。
「これ、欲しかったのよ・・・魔力のこもった矢じり付きの矢。一本あたしがもらうから、レクストン君持っていて」
「え?取引に使うのは半分だけ?」
初音は矢筒に一本残して少年に渡し、一本を持って何も言わずに歩き出す。
そしてしばらく行くと、独り言をつぶやいていた。
「さて、この矢を欲しがりそうな人、いたかしら・・・」
彼女の脳内に、アイテム同士をつなぐ明確なサイトマップは存在しないらしい。
とにかく周りを見回して、商品を欲しがりそうな人を思い出す方式のようだった。
つまり、先の事を考えていないのである。

矢を片手に、初音は建物内をうろついた。
途中、黒猫が前を横切りそうになったが、彼女が矢をかざすとびくっと立ち止まった。身体を低くして、総毛立っている。
やがて身を翻し、あっという間に姿を消した。
鏡音少年は、思わず目を丸くして自分の持つ矢筒を改めて見た。
「へえ、魔力がこもっているって、本当なんだ・・・」
「この矢を使えば、危険な式神不要で相手を倒せるわ」
「・・・暗殺なら、普通に毒矢を使えばいいのでは?」
「それも一理あるわね」
そのような事を言い合いながら、しばらくは建物内をうろつく。
どう考えても100以上の小部屋があり、ドアがないため通路を辿れば全てチェックはできるのだが、広い場所に陣取る出店も含めてどこの誰に取引を求めたものか、さすがの初音もすぐに思いつかないらしい。
立ち止まって、少し考え込んだ。
すると後ろから、中年女性が声をかけてきた。
「ちょっと、そこの・・・初音ちゃんだっけ? アンタが持っているの、封魔の矢ではないかい?」
通路にテーブルを置いて店を開いている女性だったが、どこか占い師を思わせるのは、扱う商品がクリスタルだからだろう。
今までポータブルテレビを見ていたようだが、すでに目は初音が手にする矢に釘付けだった。
「よかったら、あんたが欲しがっていた石をいくらでもあげるからさ、その矢と交換してくれないかい?」
探していた取引相手が、向こうから商談を持ち込んできた事になる。
世の中、あんがい楽に事が運ぶ場面も、時にはあるようだ。

水晶売りのおばさんと初音は、いくつかのやりとりをしていたが、その間、レン少年はふらふらと隣の小部屋にある店に惹き付けられていた。
民族楽器が、壁に床にずらっと並んでいる。
正面のショーウィンドウに入っている篠笛には、何故だか特に惹かれた。
欲しいと思ったが、昨日キーボードを買ったばかりで、現金の持ち合わせがほとんどない。そもそも、ギルドの商品には何故か値札そのものがないのだが。
少年は、思い切ってテレビを見ているターバンを巻いた店主に話しかけてみた。
「あ、あのう・・・これっていくらですか・・・?」
「特に値段は考えていないなあ。君は何か珍しいものを持っているかい?その矢筒の矢なら、ここの楽器半分と換えてもいいぞ」
「いや、これは大事な預かりものだから・・・あ、これはどうですか?」
ポケットからみっつのカードデッキを取り出す。
「この赤いのは、価値があると聞いたのですが・・・」
赤デッキを差し出すレン少年を、店主はおごそかに手を差し出して制した。
「それは、非常に希少なものだ。簡単に交換してはいけないよ。青いデッキもかなり価値があるが、それは困った時に使えばいい。この篠笛となら、黄色いデッキで充分さね。もうひとつ楽器をつけてもいい」
こうして、レン少年は篠笛とバンジョーを手に入れた。
篠笛はかなりの名器らしく、早速試しに吹いてみたが、風音が心を吹き抜けるかのような、悲しげな響きが魅力だった。バンジョーもまた普通ではなく、なぜかウクレレのようにひたすら軽い音色で、聞いている者の身体まで軽くなってくるようだった。

「見てくれ!楽器をふたつも手に入れたぞ!」
レン少年が振り向いて初音に話しかける。
「いい選択眼を持っているわね。あたしがいづれ手に入れようと思っていたのに。こちらも護功石をたくさん手に入れたわ」
喜び勇んだレン少年と、喜び勇んでいるらしいが無表情すぎて分からない初音は、並んで立ち去ろうとした。
その背中に、先ほどの水晶売りが声をかけた。
「そこの、初音ちゃんのお友達、あんた、あんただよ。珍しい運命を持っているわね」
これは明らかにレン少年の事を言っているので、当人も振り返らざるを得ない。
「珍しい運命ですか・・・? あの、このギルドの人々や初音と比較すれば、平凡きわまる人間ですよ、俺は・・・」
不本意そうに鏡音少年は言うが、水晶売りのおばさんはそれは聞き入れず、目を細めて独白のように言葉を綴った。
「そう、君は本当に珍しい運命を持っている・・・君はこの先、この世の神秘を目撃する事になるわ」
「いや、そういうのは散々見たし、繰り返しますが初音に比べると・・・」
「本当の神秘は、まだ見ていないのでしょうね、ごめんなさい・・・あたしは本職の占い師ではないから、わかるのはここまで」
「そ、そうですか・・・」
レンは、どうにも腑に落ちないような顔をしていた。
これまで以上の神秘など、想像もつかないのだから、それは当然だった。



 



21話執筆中・・・。

つか、17、18話は多すぎる重複表現が多すぎる。
いつかこのページ全部まとめていつか直そうかと思っている次第。

↑重複表現を少々修正。『そして』がいっぱいあるんだな・・・。


次のページは【電波小説】3人の探求者-第21-24話となる予定。



  ◆◆もくじ◆◆

【電波小説】3人の探求者-第1-4話
【電波小説】3人の探求者-第5-8話
【電波小説】3人の探求者-第9-12話
【電波小説】3人の探求者-第13-16話
【電波小説】3人の探求者-第17-20話
【電波小説】3人の探求者-第21-24話
【電波小説】3人の探求者-第25-28話
【電波小説】3人の探求者-第29-32話
【電波小説】3人の探求者-第33話-最終話

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