なんか怪獣イラスト/怪獣の話などのてきとうwiki

 


  【作:てきとう怪獣】

※:ここはクリプトン社のキャラクター『ボーカロイド』を使用した二次創作小説のページです。

☯ 登場キャラクター ☯
◆電波初音
◆常識人レン
◆明るいリン
◆ほがらか戒人
◆おおらか迷子

【電波小説】3人の探求者:第9話


鳥たちがさえずり出すと、とたんに音が戻って来たような気がする。
遠い音が街の隅々まで流れ込み、朝のすがすがしい空気感が満ちてくる。
さっきまでの虚無のような深潭にいた自分自身の記憶が、夢のようだ。
戒人は、ずっと車の中でノートパソコンで調べ事をしていたが、熱心と言うより夢中になっているように見えた。
初音が車の屋根をノックするまで、二人の帰還に気づかなかったくらいだ。
戒人はすぐにドアを開けて、パソコンを持ったまま外に出てきた。
「やあ、首尾はどうだい?」
「完璧よ。レクストン君がサポートしてくれると心強いわね」
収納して短くなったトリモチ棒をかざしながら初音が言うと、戒人は後ろで呆然としているレン少年に話しかけた。
「そうかあ、で・・・どんなヤツだった?」
「ば、バケモンだ・・・一瞬しか見ていないけど、あえて言うならスターウォーズのチューバッカに近い・・・いやぜんぜん違う!もっと獣じみた巨大な獣人だった!」
身震いするレン少年に、初音が横の壁をサイリウムライトで照らしながら言った。
「レクストン君が見たのって、もしかして、これ?」
「うわああ!それだそれっ!!なんでそんなポスターが!?」
たまたま車の近くの壁にあった張り紙に、初音が目を留めたのだった。
それには写真とともに、こう書いてあった。
『【さがしています】・・・逃げたペットを探しています。アリクイの成獣、体長1メートル30センチ、性格は人なつこい・・・』
「迷子ペットのポスターか。それにしてもこの写真、どう見てもアリクイの顔じゃないと思うんだけどね!」
戒人が残っているのが不思議なくらい古ぼけたポスターを、まじまじと見ながら感心している。
「これは、アリクイの成獣と言うより、ミロドンの子供じゃないかしら」
初音は写真を見て、こともなげにそう言うが、レンには驚愕ものの話だ。
「ミロドンって、絶滅したナマケモノの先祖でしょうが!」
「図鑑で見るミロドンにかなり近いじゃない。しかも体長4メートル、ミロドンの大きさとぴったり符合するわ。多少、獣人らしい・・・つまり現在のナマケモノっぽいのは、ちょっとは進化があったと言う事じゃないの?」
「そんなものが、ペットとして飼われていたのか・・・」
「現地で捕獲した人も扱っていたペット業者も、よほどの素人ね」
「まったくだ・・・。というか絶滅動物かあ・・・」
レンは感慨深くうなだれた。
「そのミロドン、どこへ行ったかレクストン君わかる?」
「左の壁に消えた、そう思う」
「左の壁は無人の工場跡ね。確か壁に穴が何カ所かあったわ。つまり、そこに棲んでいるのよ。いつか、カメラを持って探しに行きましょう」
金輪際ごめんだ!とは、鏡音少年は言わなかった。
未確認生物ハンティングというものは、危険で迷惑でも、あらがえない魔力で惹き付けられてしまうものだ・・・知的好奇心がおう盛な男児なら、心が動いて当然だった。
かと言ってわざわざ、人懐っこく突っ込んでくる巨大動物をもう一度探しに行くのも無謀ではあるし、微妙なところだ。

「この『赤い毛髪』があれば、次のターゲットもかなり楽に釣れるはずよ。助かったわ、レクストン君。これから学校でしょう?」
トリモチから毛髪を採取しながら、初音が振り向きもしないで横の座席に座っているレン少年に語りかける。
「学校か・・・」
シートに沈みそうに脱力しながら、レンは大儀そうに携帯電話を取り出した。
「あ・・・もしもし岡村。今日は学校休むと阿部先生に伝えてもらえないかな・・・なんだか奇妙な体験をしてしまって、学業に身が入りそうにないんだ・・・大丈夫だよ、阿部先生にはひとこと『初音』と言えば、ぜったいに一発で納得してくれるから・・・」
そのような通話の後電話を懐にしまい、またぐったりした。
かつて教え子の女子生徒に多大な迷惑と冒険を強いられたという教師の顔が、少年の脳裏に浮かぶ。教師の苦労が、ちょっとだけ分かった気がした。
ゆるやかに走るフォルクスワーゲンは、次の目標へ向かうにあたってひとつの分岐点に差しかかっていた。レンを自宅に送るか否かで道が違ってくる。
「ベラフォンテ君」
「鏡音レンだと言うとろうが・・・」
「レクストン君は今日、休むわけね。だったら次のポイントも見物していきなさいよ・・・運が良ければアオウオが見られるわよ」
「アオウオって何・・・」
「まあこれをごらんなさいな」
初音は助手席へ身を乗り出してノートパソコンを取ると、それを広げて保存しておいたサイトを開いてレンに差し出した。
虚ろだったレンの目が、急に輝いてきた。
「おお?これは・・・」
サイトは『青魚倶楽部』と銘打ってあり、巨大な魚の写真が載っていた。
見出しを読むと分かるが、大陸や海の話ではない。
日本の、利根川の話だ。
利根川で1.5メートルを超える巨大なアオウオがヒットする事実は、あまり知られていなかったが、これはその専門サイトだ。
(※作者注:このサイトも巨大アオウオ話も実在します)
「めったに釣れない事で有名なアオウオだけど、この赤い毛髪があれば確率は3倍よ。どうせ休むなら、ちょっと見学して行きなさいよ」
「そうだな・・・なんだか面白そうだな!」
つまり、次の目標はアオウオなのだった。
アオウオのウロコがぜひとも欲しいと戒人は言う。
世間的に知られている魚であり、未確認生物のミロドンもどき等とは趣が全く違っていた。急に現実的な世界が開けたように、レン少年は感じて元気づいた。
こうして戒人が運転する車は、東京を横断し、多摩川の反対側にある利根川へと進路をとった。

 

それほど急いだわけでもないが、未だに早朝と呼べる時刻に、利根川に到着した。
レン少年は東京の利根川だと思っていたが、じっさいに着いたのは東京をはるかに超えた気水域に近い下流のようで、おどろくほど広い川だった。
戒人は初音の『スマートフォンだと思っていたもの』にノートパソコンの情報を転送しておいた。予備電力はあるが、一日がかりの冒険になるかも知れず、パソコンの電力は温存しておきたい。
こうした冒険に備え、初音は携帯デバイス用にシガーソケットからの充電アダプターを用意しているので、今後はこちらがメインになる。
朝は釣り人の時間だ。
河原にはちらほらと、人影が見え隠れしている。
それを見渡しながら戒人が言った。
「さあて、さっきずいぶん調べたんだけどね・・・けっこう大変かもよ。アオウオは」
「知っているわ。だからどうしてもこの赤い毛髪が欲しかったの。アオウオと本気で向き合うなら、磯釣り用のタックルがたくさん必要になるわ。でもあいにく、さすがのあたしにもそんな予算はないの」
確かに、そんな予算があるならレンタルピアノを借りてくる事を考えるか、普通の新品キーボードを購入して納得した方がいいだろう。
車の上にあるトランクから、初音は1メートルほどの長い包みを取り出した。
「だから、あたしが所有する最大級の竿を持って来たわ。どこかのバカなメーカーが発売した5.4メートルの振り出し式鯉竿・・・1メートル10センチクラスの鯉を引き抜く事を前提に作られているから、カツオの一本釣りだってできるわよ」
「リール竿じゃあないんだ・・・しかも一本?」
「予算の都合よ。贅沢は言わないの・・・後は体力勝負かしらね」
初音ミクと鏡音レンの視線が、戒人に集中した。
貧乏くじを引いたとは、当人は思っていないようだ。
「そうだね、俺がやるしかないみたいだねっ!」
戒人は元気いっぱいだった。
彼はいつでもそうだ。レンは戒人が疲れているところを見た事がない。やる気満々だった。
それを確認してか、あるいは関係ないのか、初音が行動開始を宣言した。
「まずは釣れそうなポイントを探すところから始めるわよ」

こうして、アオウオ捕獲作戦が開始される運びとなった。


 



 
 ↑何となく描き直した


【電波小説】3人の探求者:第10話


利根川で、アオウオ釣り作戦が始まった。
初音が周りを見回して、釣果のありそうな場所を探す。
「どこがポイントかしらね。地元の人に聞くのが一番なのだけど・・・あ、あの子たちに聞いてみようかしら」
そう言って、ツカツカと歩き出す初音ミクを、鏡音レンが羽交い締めにした。
「なにをするの。ほら、あの子たち行っちゃうじゃない」
「人じゃないッ! あれは人じゃない!!」
遠目でよく分からないが、全体に黒っぽく、骨のように細く頭が大きい4、5人の子供たちは、何かキャッキャと話し合っていたようだが、初音の姿を見ると、次々と川に飛び込み、それっきり浮かんでこなかった。
「はあ・・・非日常には慣れているつもりだったが、こう来るとは・・・」
「なになに?どうしたの?」
初音を放して青ざめている鏡音レン少年に、釣り竿をチェックしていて見ていなかった戒人がやってきて、話しかけた。
レンは少し言葉を選ぶのに時間がかかりそうだったが、初音は反射神経で思った事を口にした。
「変なのがいたのよ。リトルグレイかしらね」
「河童、と考える方が自然だと思うが・・・」
ようやく落ち着きを取り戻したレンが、川面を見ながら言った。
それに対する初音の言葉は、ややずれたものだった。
「このへんに、鉱山とかないかしら」
そのような質問に、鏡音少年も戒人も、真面目に答えた。
「は? 東京近辺に鉱山なんて聞いた事ないけど・・・」
「このへんにはないよ。事前に調べてあるからね」
「仕方ないわね。これで我慢しましょう」
初音が取り出したものは、金属製の筒であった。
鉄パイプなどを加工した手製であることは、一目でわかった。なおかつレンは、それが非常に凝った加工品である事も、よくわかった。
『そのへんの学生過激派』などが使う『手製鉄パイプ爆弾』などより、はるかに優れた性能を有する『何か』であることも、わかりたくはないが、わかった。
その『まるで信管のような』先端部分に手をかけようとした初音の腕を、鏡音レン少年は、全力で阻止した。
「なんでいちいち止めるのよ!」
「だーっ!!爆弾禁止!爆弾禁止!!」
「いいじゃないの。ダイナマイトほどの破壊力はないし、せいぜい大きな音がするだけ。いちばん手っ取り早い漁法なのよ」
「ダイナマイト漁法は禁止だー!! いや、知らないけど・・・とにかくそっとしておいてあげてくれ!」
手製爆弾の取り合いをしていた初音とレンだったが、戒人が何の気もなしに近づいて来て、そこに置いてあるものを拾うようなさりげなさで初音の手から爆弾を取り上げて、一件は落着した。
ちなみに先の初音発言『鉱山とか』だが、過去にじっさい、鉱山からダイナマイトをくすねて使ったことがあるらしい。
証拠はなく、後になって初音が妙にダイナマイトの運用に詳しいのが明らかになった事から推測されるだけであるが・・・。

「と、とにかく、この事は口外せず、そっとしておいてあげよう・・・」
「そうね、そこまで言うなら捕獲はやめておきましょう」
「ははは、よく言うじゃないか、『河童は水神様』だって・・・大事にすれば大漁を約束してくれるかもしれないよ?」
そのような会話がかわされ、一同は少し川下に移動を始める。
やや未練がましそうに川を見る初音に、レンが話しかける。
「それよりアオウオだ・・・めったに釣れない魚なんだろ? 河童の事は忘れて集中し、気合いを入れていかないと・・・うわ! あれか?あれがアオウオか?」
川の真ん中に浮かんだ黒い物体を指して、鏡音少年が叫ぶ。
「違うわよ。あれはただのトネッシー・・・正体はアシカだろうと言われているわ・・・まあアシカにしてはちょっと大きい気がするけどね」
「なんだかヌマッシーに似ていないか?」
「興味深いわね」
北海道の湿地帯に棲むと言われている未確認生物、ヌマッシーは初音もレンも、一度目撃している。それと関連があるとすれば確かに『興味深い』のだが、当のトネッシーはすうっと潜航して、再び現れるか知れないので、これも忘れる事にした。

初音はここぞというポイントを見つけて陣取った。
基本的にぶっ込み釣りをリール無しで再現する事に決めたようだが、これは釣り竿を操る戒人がこの手の釣りに関して素人なので、アタリにあわせる必要のない釣り方にするためだ。
リールが無いため良くて竿の長さの2倍しか仕掛けが届かない。実際には水深やら竿の角度やら釣り人の立つ岸やらを計算に入れると、けっきょく竿の長さ分くらいしか届かない事になる。
半径5メートルの半円が圏内になるわけで、アオウオを狙うには心もとないにもほどがある。
足下に見える距離に、珍しい魚が泳いでいる確率というものは、極めて低い。
鏡音少年も、その点を口にしてみた。
「こうしてみると、けっこうピンポイントだな・・・大丈夫か?」
「巽音君、これをじっと見つめて」
「鏡音だってのに・・・さっきの赤い毛髪か?それがなにか・・・」
店では売っているが、ふつうの釣り人は買い求めない巨大な釣り針に、件の赤い毛をくくりつけ、毛針にしたものをアオウオの仕掛けにしている。
初音はそのハリス部分を持ち、毛針を時計の振り子のように揺らし始めた。
「・・・・・」
レン少年は、言われるままにそれをじっと見つめた。
次第に、その毛針から目が離せなくなってきた。

針が揺れる・・・。
赤い毛髪がたなびく・・・。
それは、独特の赤さだった・・・。
それは、言い知れぬ動きでくねっていた・・・。
鏡音レン少年の手がそれに触れようと自然に伸びた・・・。

突然、針をとろうとする鏡音レンの手を初音がぴしゃりと叩き、レンは我に返った。
「な、なんだ・・・?一瞬、引き込まれそうになったぞ!」
「人間でこれだもの。動物は迷わずくわえて持ち去って行くわよ。それが魚くらい本能の動物になると、問答無用でパクリといくと言うわけ」
「な、なっとくだ・・・」
ミロドンもどきの毛には、なにか動物を惹き付ける魔力のようなものがあるらしい。
もし、かつて古代に生息したオリジナルのミロドンが、同じような毛なみを持っていたとしたら・・・絶滅した理由も、なんとなくわかるというものだ。
「まあアオウオだけではなく、全部の魚が寄ってくると思うから、重いぶっ込み釣り用の中通しオモリを付けておいたわ。針は大きいから、まず中型の鯉はかからないと思うし、とにかく仕掛けごとどんどん引っ張られたら、それが大型の魚というわけ」
「なるほど、それ以外は無視していいんだね?」
戒人も話に加わって来た。
ここで初めてアオウオ対策会議は、核心に迫ったようだ。
来る途中の車内でも情報交換などは行われたが、戒人とレンの場合は、とにかく利根川を実際に目の当たりにしないと、話しても始まらない。
大物釣りも利根川も、ふたりは初めてだからだ。
まず川を見せる事が大事だと思い、初音はここに到着するまで作戦の要点は話していなかったのだ。
じっさいには飲み込みのいいふたりであり、話せばけっこう色々と理解したはずなのだが・・・。


 

【電波小説】3人の探求者:第11話

作戦会議は具体的に、魚がかかった時の事までに及んだ。
「戒人は知っていると思うけど、魚がかかったら、絶対に竿を立てておかないとダメ。横も良くないし、前に倒したらまず間違いなくラインを切られるわよ」
「力を柔らかく受け止めればいいんだね。駆け引きが必要かな」
「リール付きの竿ならドラグを緩めたり泳がせたりして、こちらの自由度が高いけど、5.4メートルのこの竿だと、とにかく相手の頭をうまく誘導して、疲れるまで延々と、8の字を描くように泳がせるのが理想ね。そううまくいくとは思えないけど」
「質問!」
元気よく手を挙げたレン少年を、初音は偉そうにゼスチャーでうながした。
「さっき見た釣り入門サイトでは、大鯉を釣ったら直径1メートルの専用アミで救い上げて取り込む、と書いてあったけど、見たところここにはないようだが」
「いちいち専用品なんて揃えていられないわよ。あたしが年にどれだけの土地で巨大魚と格闘しているか知っている? そんな高価なもの買っていられないし、大きめの鯉だって魚体が痛むのを気にしなければ、小さな手アミでも充分取り込めるわ・・・今回は、ウロコだけが目的だからコレよ」
「ペ、ペンチ?」
「そう、あたしが川に飛び込んで魚を抱えて、コレでウロコを一枚はがせば作戦終了よ。後はリリースするだけ・・・岸の上まで引き抜く必要はないの」
「飛び込むって、その格好でか?」
「何かまずいかしら」
利根川についてから、初音はいわゆるオーバーオールを着込んでいる。
理由は単純で、最近よく聴くお気に入りの曲、『カモン・アイリーン』のプロモーションビデオで、ケヴィン・ローランドが着ているのを真似しているのだ。
しかしそれは、非常に縁起が良くないと、レンは言う。
 ローランド率いるバンドの名前は、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ。
 『デキシーズ』ミッドナイト・ランナーズ。
 『溺死ーズ』ミッドナイト・ランナーズ・・・。
「いやははは、俺とした事が、何をトンチンカンな事で悩んでいるんだ? そんなものは単なる偶然というかコジツケと言うか・・・ダジャレ以下だっ!」
自らの非科学的な発言に、思わず赤面するレン少年の肩を、初音が痛いほど叩いた。
「そうね、いいところに気づいたわ。危うくデキシーズで溺死するところだった・・・ちょっと待ってて、何か必要があるかと、水着も着て来たから」
さっさとオーバーオールを脱ぎ捨てて、競泳選手用としか思えないネイビーブルーの水着に変身した。
男二人がそれを見て歓声をあげる。
「うわーさすがミクちゃんはどんな水着でも可愛いなあ!」
「へーえ、本物の水泳選手みたいでカッコいいなあ! これならたぶん溺死の心配もないしね、ははは・・・って、今日は4月並の寒さだって言うから、溺死は免れても風邪をひくんじゃないか?」
「そんな事もあろうかとほら、たき火の準備もしてあるわよ」
初音が指差す方向、折り畳みスコップで掘って石を積み上げた突貫工事のかまどがあった。いつの間にやら、手際のいい事だ。
「しかし燃料が・・・」
「古新聞を来る途中拾っておいたわ。それにこのフォールディングアックスとワイヤーソウで薪を切ってくる事もできるし」
「そりゃご丁寧な・・・これだけ揃ったら、朝食はバーベキューも可能だな」
「あるわよ。小型のバーベキューコンロが。食材もクーラーに詰めてきたし」
「はあ・・・しかし主食が」
「ハンゴウ炊飯の準備ならあるわ。いつもの事だもの」
「水は・・・」
「どこかに水道があるんじゃないかしら。この折り畳みポリ容器に入れてくるわ。なければ折り畳み布バケツで川の水を汲んで、小型浄水器で地道に作りましょう」
先ほど聞いた釣りタックルが専用のアミもなく、非常にシンプルだった事を、鏡音レン少年は思い出した。
すると、車からここまで運ばされた荷物は、ほとんど朝食関連だったのか・・・。
それにしても、車の上に取り付けたトランクひとつに、よくぞ色々詰め込んだと、本気で感心した。
いつも、何の気なしに繰り広げられる冒険に付き合っているだけだが、意外な初音の実力、その一端をかいま見たように、レン少年は思った。
もっとも思いたったらその場所から、なんの準備もなくいきなり旅立つ事も多いようだが。

では、釣る戒人と朝食の準備をするレン、と言う具合に役割分担するべきだろう。
そう思って、食材を確認したが、意外と量があった。
「おや? けっこうたくさんあるな・・・って、これ3人前じゃないのか? 俺ん家に来る前に買ったんだろう?」
「念のためよ。巽音君はアオウオに興味を示してついてくるかもしれないと思ったから」
水着姿でガサガサ震えていた初音が、巨大な釣り竿に苦戦している戒人を見ながら、そう言った。
ちなみに『ガサガサ震えている』というのは、間違いではない。
防寒用に持って来たアルミブランケットで身体をくるんでいるからガサガサしているのだ。震えているのは風に当たっているこの薄いシートであり、中の初音は全く寒さを感じないのか、平然としていた。
「よし! ハンゴウ炊飯とバーベキュー準備完了! なんだか行楽に来たみたいだな・・・戒人の方はどうかな」
「射程距離を欲張って、竿より1メートル長いラインにしてみたのだけど・・・それと長くて中調子のロッドに振り回されて、あたしが指示したポイントに振り込めないでいるみたいね。でも何度かやっていれば、そのうちできるわよ」
「そうか・・・おっ?言っている側からポイントに投げ込んだぞ」
戒人は初音に言われた場所に、仕掛けを投げ入れる事に成功した。
そして、オモリが水底に沈み切る前に、さっそくアタリがあった。

「つれたよー! でも1メートルもない魚みたいだ」
釣り竿を操り、魚を水面近く引き寄せる戒人が、比較的余裕で言った。
かかった魚が、フナ釣り職人が仰天するようなものすごい勢いで右に左にぐいぐい引いているのだが、大物釣りの素養があるのか、全く動じてなかった。
「そうね、これは80センチの鯉だわ。逃がしましょう」
戒人の前に出て、片足を川になんのためらいもなく突っ込んだ初音が、ハリハズシを右手に、ラインを左手に持って魚に近寄った。
その様子を見て、鏡音少年は思わず声をかけた。
「お、おい・・・それ、人面魚じゃないか?」
「あ、そうね・・・そうだわ・・・リリース!」
「ええ〜?逃がしたっ!? まだ写真取っていないのに!」
「だって、珍しくないもの」
たった今、初音が逃がしてやった人面魚は、雑誌やテレビなどに登場するいわゆる『頭部に人の顔に似た模様がある魚』ではなかった。
模様のない黒い鯉であり、頭頂部に逆さに付いた顔は色ではなく『立体的な凹凸』で再現されていた。果てしなく不気味な人面魚だ。
鏡音レンは、携帯電話カメラを起動中だったが、間に合わなかった。
「め、珍しくないのか?あれ・・・」
「あたしは全国でよくみるけど?それに小さな鯉じゃないの。惜しくないわよ」
「いや俺は一度も見たこと無いし、80センチもあればもはや巨大生物だと思うぞ!この日本ではな」
「ちょっと認識にずれがあるようね」
「初音の方にね」
「面白い事を言うわね、この子は」
初音は、戒人の方振り向いてそう言った。
戒人の答えは、当たり障りのないものだった。
「うーん、その件についてはコメントを控えさせてもらうよ」
そう言って、すぐに仕掛けを回収し、また振り込み始めた。
彼も初めて人面魚を見たはずだが、気にする様子はない。
初音も今の目撃事件はなかったかのように、普通に自分の足をタオルで拭いているので、レン少年も言いたい事は山ほどあったが、自分の任務に戻る事にした。
『一日の始まりは朝食にあり』という自身の考えを貫き通し、なおかつ、妹のリンにせがまれての中間報告、忙しくて人面魚どころではない。
しかし『人面魚どころではない』と割り切りつつある自分を客観的かつ懐疑的に見下ろす常識人としての面もまた、健在だった。

早い話が、この3人の中で、いちばん気苦労が多い少年であった。

 

【電波小説】3人の探求者:第12話


利根川にアオウオを釣りに来た初音ミク、鏡音レン、戒人の3人だったが、希少な魚がそう簡単に釣れるわけがない。
最初にかかったのはただの人面魚だった。
気を取り直して、戒人が仕掛けを投げ込む。
うまい具合に狙ったポイントに波紋が広がった。
そして、またしてもオモリが沈み切らないうちに、アタリがあった。
今度はさっきより大きな魚のようだ。

鏡音少年は、仰天した。
突然、目の前で水泳選手が飛び込んだかのように、川が飛沫をあげてはじけたからだ。たった今、『水泳選手が飛び込んだかのよう』と自分で形容したわけだが、次の瞬間には右後方の人物を確認していた。
水着姿の初音が、そこに居た。
つまり、いまの飛沫は彼女が飛び込んだためではない。
予測不能な行動を特徴とする初音だが、とにかく今回は彼女ではない。
すると、戒人が釣った魚が、今の飛沫をあげたのか?
レンはごくりと唾を呑み込んだ。
竿を両手で構え、踏ん張る戒人の表情にいつもの余裕は無い。
目の前の川面が再び波打った。
「で、でかい!2メートルはあるぞ! これがアオウオか!」
水面下の魚影を見て、レン少年が興奮して叫ぶ。
じっさい、2メートルもの魚が川を泳いでいる姿を近くで見ると、言い知れぬとてつもない迫力があった。
一種の畏怖さえ、感じさせた。
手に汗握る少年の横に、初音が並んだ。
「違うわね。これは大きな鯉よ・・・逃がしましょう」
「ええー?」
踏ん張りつつ少しずつ下流へ引っ張られる戒人と、レン少年が同時に声をあげた。
いくらアオウオではないからと言って、もったいない話だ。
しかし初音はさっさとハリハズシを手に、川へ入った。
自分より大きな魚に取り付き、目に手ぬぐいを巻き付ける。
その様子を、鏡音レンはハラハラしながら見守った。日本では普通あり得ないような巨大魚だ。かつて北海道の十勝川で2メートルを超えるイトウが穫れたと言うが、公式の記録かどうかはわからない。
それくらい2メートルの魚は珍しいのであるが、その巨大な魚が腹を白銀に輝かしている姿は、目を奪われるほどの量感があった。
初音は大鯉をさっさとリリースしてしまい、戒人の手元には張力を失った竿の脱力感が残った。
大きなうねりを残して、ゆったりと泳ぎ去る鯉の後ろ姿を、レンと戒人はずっと見送っていた。

「音楽が聴こえるわ」
「なんだって?」
未だに川の中に立って、仕掛けを手にする初音が突然妙な事を言い出し、岸の上の男二人は思わず聞き返す。
「あっちからかしら・・・これは映画『ジョーズ』の音楽ね」
「そう言えば・・・ああ、あれだ」
レンの指差す方向、はるか向こう岸の河原で、ブラスバンド部かなにかが練習をしているようだった。遠目に楽器の輝きが、かろうじて見てとれる。
「確かに、聴こえてくるね・・・あれえ?」
初音の後方20メートルくらいの水面が盛り上がった。
「今の大鯉か?」
「・・・違う!もっと大きいよ」
「ホオジロザメかっ!!」
ジョーズの音楽がレンに暗示をかけたようだ。
そんな少年を、初音は川の中から冷たい目で見つめた。
「ここは利根川よ。ホオジロザメが居るわけないじゃない。常識よ」
「い、言われた・・・初音に常識を問われた・・・」
ショックを受けるレン少年だが、巨大な何かが水面下に居て、接近してくるのは事実だった。
「もしかして、これを目指しているのかしら?」
手にした仕掛けを水に入れた初音は、それをルアーのように動かしてみた。
水中に居るものは、明らかにそれに反応する。
初音の周りを回るように近づいてくると、その姿が明らかになった。
「で、でけえ!3メートル近い魚だっ!これが・・・」
「アオウオね。さっそくいただくわ」
初音が仕掛けから手を放して、腰のベルトに付いた工具入れからペンチを取り出す。
しかしそこでアオウオは加速して、初音が落とした仕掛けに喰いついた。
「危ない!ラインから離れろ!ケガするぞ!」
戒人が叫ぶより早く、初音は水中で身を翻し、戒人と魚を結ぶ道糸の同軸線上から逃れた。
赤い毛髪の付いた毛針を呑み込んだアオウオは、さっきの鯉と同様、下流へと走り出す。
さっきの大鯉でさえ、戒人は踏ん張りきれなかった。
3メートルの巨大魚ならなおさらだ。
釣り竿を立てたまま、下流へと引き回されてしまう。岸から離れられると厄介なので、そこだけは何とか踏ん張る必要があるが、左右の航跡であれば、流して泳がせ、疲れさせる方がいいと、戒人は判断した。
むしろ、自分が走って引っ張ってやれ、くらいの積極さも発揮している。
「よおおし!こっちだこっちだ!」
じっさいに戒人は走り出した。
アオウオはあがきながらも、それに牽引される。
「ま、まってくれ!」
アミも無ければペンチも持たないレン少年は、一瞬どうするべきか迷ったが、次の瞬間には戒人を追って走り出している。
初音は岸に上がり、悠然とマリンシューズを履いている最中だった。

決して全力疾走ではなく、小走り程度だったが、竿を持ちつつ川のアオウオに対処しながら走るのは大変だ。
しかも、河原は障害物でいっぱいの場所である。コンクリの堤防も岩場も崖も、戒人は器用に飛び越えて下流へ下流へと進んだ。
「どいてくださ〜い!」
何人かの釣り人に向かって叫ぶと、釣り人たちは驚いて後ろに下がり、戒人も魚もたくさん並ぶ投げ釣り竿と、そのラインの下を見事にくぐり抜けてみせた。
驚愕の目で巨大魚を見送る一般釣り人たちに、後から追っていくレン少年が、すいません、おじゃましましたと律儀に頭を下げて回った。それに遅れて、水着姿でペンチを持った初音がすたすたと走り抜ける。
普通の釣り人たちにはどうにも、意味不明の状況に思えたに違いない。

やがて、川の地形のせいで湿地帯みたいになった場所へ来た。
足場も悪いが、なにしろアシなどの背が高い茂みが邪魔で仕方が無い。しかし戒人は、かまわずに茂みに飛び込んだ。
そこでは、小さな者たちが車座になって歓談していた。
突然の乱入者に、キャッキャ言いながら驚き、後方の水たまりにいっせいに飛び込む。
「ごめんね〜河童さんたち〜」
戒人が足を止めずに振り返り、水たまりから半分顔を出している連中に謝った。
「ええ〜?また出た!・・・あいや失礼っ!すいませーん」
続くレンが、河童さんたちに手を合わせて謝罪して行った。
バカな人間たちを、水面から目を出して見送る彼らだったが、その後にやってきた初音と目が合うと、とたんに水中に潜ってしまった。
自分たちを捕獲しようと考える人間は、なんとなく分かるのかも知れない。

続いて、雑草がぼうぼうと生えている開けた場所に来たが、ここでは走ってくる戒人に驚いて、草むらから何かの動物がいっせいに、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
大きさとそのジャンプ力から、ウサギかと思ったが違う。ぜんぜん違う。
何十匹、いや何百匹もの蛇だった。
それもただの蛇ではない・・・平たくて、全長が短く、しかも異様に胴体の幅があり、身体が普通の蛇ほど柔らかくしならない。
どう考えても通常の脊椎動物らしく、肋骨が胸にしかついていない骨格を思わせる動きで、それらが3月兎のごとく、狂ったように垂直ジャンプを繰り返していた。
遅れて来た鏡音少年は、始めて見るその光景に、思わず足を止めた。
「な、こいつはもしかしてツチノコか!!」
「幻の現象、『ツチノコ乱舞』だわ。まさかこの目で、しかも利根川で見られるとは運がいいわね」
追いついて来た初音すら、感心して魅入っていた。
「おお〜い、君たち見捨てないでくれよ〜」
下流の方から孤軍奮闘している戒人の声が聞こえてくる。
「仕方がないわね、写真に撮りたいけどアオウオが優先次項よ。行きましょう」
「あ、ああ・・・」
非常に決断力のある初音はさっさと走り出し、決断力は人並み以上にあるが初音以下のレン少年は、よろよろと、時々跳ね回るツチノコを振り返りながら走り出した。


 

第13話、執筆中・・・。

またまた重大な間違いを発見。
利根川のアオウオにふさわしい舞台は、東京の利根川ではなく、ずっと下流の気水域ではないか?と言う事で修正。
つか今まで利根川だと思っていたものは、地図で改めると荒川でした・・・。
印旛沼よりも向こうの川なんだ・・・無知ですまん。

続きは【電波小説】3人の探求者-第13-16話となる予定ですが・・・。
16話まで続くのかは未定。
ある日突然、楽器が無くなった!というアイデア以外、何もかも未定のまま、
よくぞここまで書いたと自分で感心。


  ◆◆もくじ◆◆

【電波小説】3人の探求者-第1-4話
【電波小説】3人の探求者-第5-8話
【電波小説】3人の探求者-第9-12話
【電波小説】3人の探求者-第13-16話
【電波小説】3人の探求者-第17-20話
【電波小説】3人の探求者-第21-24話
【電波小説】3人の探求者-第25-28話
【電波小説】3人の探求者-第29-32話
【電波小説】3人の探求者-第33話-最終話

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