租税判例のデータベース。


事件の概要

俳優である個人A氏が自ら出資して設立し、現在はその親族が経営する同族会社B社に対する保証債務を履行するために、原告所有の土地及び建物を譲渡したことについて、その譲渡所得の計算上、所得税法64条2項に規定する保証債務の特例(*)が適用されるべきであるとして争われた事件。
争点は、確定申告期限において、求償権を行使することが不可能であったか否か。
他に居住用財産の居住用部分の算定方法についても争われているが、今回は触れない。

保証債務の履行のために資産を譲渡した場合に、求償権を行使することができないこととなったときは、所得がなかったものとする特例。

判決要旨

 保証債務の特例の「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に当たるかどうかの具体的な判断基準について判断するに、確かに、国税当局の列挙した事情が基準時に存した場合には、主債務者が弁済不能の状態にあるし、将来の求償の余地がないことが容易に認められるというべきであるが、本件保証債務の特例が適用される場合が、そのような事情がある場合に限定されると当局が主張するのであれば、それは誤りであるというほかない。
 すなわち、前記判断基準が主債務者が事業を継続している場合について、何らかの法的倒産処理手続きが開始されていることを要するという趣旨であれば、主債務者がいわゆる私的整理を行うに至った場合は、むしろ法的倒産処理手続きなどは開始されていないのが通常であるという実態を無視した形式論との批判が妥当する。
 また、前記判断基準は、求償権を行使する保証人側の事情に触れていないが、保証人と主債務者の関係いかんによっては、他の債権者と同等の立場で弁済を受けることもできないこともあり得るから、たとえ債務者に一定の財産があったとしても、保証債務を履行した保証人が、全額の求償はもちろん、全く求償を受けられないことが確実になっていると、評価される場合もあり得るものというべきである。
 したがって、債務者の資産状況、支払能力などの債務者側の事情だけでなく、求償債権を行使する債権者側の事情などの客観的事情を相互考慮したうえで、前記基準時において求償債権の回収の見込みのないことが確実となった場合か否かを判断するのが妥当である。
 B社は、確定申告期限において、債権の見込みがなく解散を免れない情勢にあった上、その財務状況は、原告が求償権を行使しても求償債権回収のめどが立たず、求償権の行使を断念せざるを得ない状況にあったものである。
 これらの点に、B社の経営が原告の社会的な信用力に相当程度依存しており、A氏が他の債権者と同列に求償権を回収することが困難な立場にあったことをも併せ考慮すれば、A氏が求償権を行使して債権回収する見込みのないことが確実な状況にあったと評価するのが相当である。
 課税庁は、その取り扱いの基準を本件に当てはめると、A氏は法人の代表者などには該当しないし、B社はA氏の求償権を放棄することによってもなお債務超過の財務状況であるとはいえない旨主張しているが、前者の点については、A氏が本件課税庁の取り扱いにおける「法人の代表者等」に当たると解釈する余地は十分あり得るところであるうえ、本件に関しては、A氏とB社との特殊な関係を考慮しなくとも、求償債権の回収は困難であると認められることは既に説示したとおりであるし、後者の点が失当であることも、これまでの説示に照らし明らかである。
 以上によれば、確定申告期限において、A氏がB社に対し、求償権を行使しても、求償債権を回収する見込みのないことが確実な状況にあったというべきであるから、本件保証債務の特例の適用が認められるべきである。

検索情報

参考文献・資料

『税のしるべ』(平成20年4月14日)P.6
TAINS Z888-1245

関係法令等

所法64二

裁判情報


事件番号 平成17年(行ウ)448号
事件名
裁判年月日
法廷名
裁判種別

原審・上訴審

[[]]控訴せず確定
[[]]

類似/参考判例等

H160414さいたま地裁判決?

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

フリーエリア

どなたでも編集できます