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事件の概要

Aは、平成13年8月にDから本件土地を44200万円で取得し、その土地の持分の一部を、平成14〜16年にかけて配偶者X1、子X2及び子Bに贈与すると共に、同土地の共有持分の一部を平成15年12月25日に同年の路線価(相続税評価額相当額)の対価でX1及びX2に売買により譲渡した。

Aは、その土地の共有持分の譲渡に係る譲渡損失の金額(11611万円)について、他の所得との損益通算をして平成15年分の所得税の確定申告を提出した。

所轄税務署長は、当該譲渡は時価に比して著しく低い価額の対価による譲渡に該当するものとし、通常の取引価額に相当する価額(時価)と当該対価の額との差額に相当する金額は、相続税法7条に規定する「差額」に該当するものとの認定の下に、X1及びX2に対して平成15年分の贈与税の決定処分等(以下「本件課税処分」という。)を行なった。

X1及びX2は、本件課税処分を不服として、その取消を請求する異議申し立て及び審査請求(いずれも棄却)を経て本件訴訟に及んだ。
裁判所は、課税庁の行なった本件課税処分を違法であるとして、本件判決によりその全部を取り消した。
これに対して課税庁は、控訴期間内に控訴せず本件判決は確定した。

判決要旨

1.相続税法22条にいう「時価」を相続税評価額と同視しなければならないとする必要はないのであるから、そこにいう「時価」は、常に客観的交換価値のことを意味する。

2.同法7条に規定する「時価」と同法22条にいう「時価」を別異に解する理由はないから、同法7条にいう時価も、常に客観的交換価値のことを意味すると解すべきである。

3.同法7条は、時価より「著しく低い価額」の対価で財産の譲渡が行なわれた場合に課税することとしており、その反対解釈として、時価より単に「低い価額」の対価での譲渡の場合には課税しないものである。

4.同法7条にいう「著しく低い価額」の対価とは、その対価に経済的合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行うべきである。

5.相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡ということはできず、例外として、何らかの事情により当該土地の相続税評価額が時価の80%よりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、「著しく低い価額」の対価による譲渡になりうると解すべきである。もっとも、その例外の場合でも、さらに、当該対価と時価との開差が著しいか否かを個別に検討する必要があることはいうまでもない。

6.同法7条は、当事者に実質的に贈与の意思があったか否か(当事者に租税負担回避の意図・目的があったか否か)を問わず適用されるものであるから、同条が、親族間やこれに準じた親しい関係にある者相互間の譲渡とそれ以外の間柄にある者相互間の譲渡とを区分し、親族間やこれに準じた親しい関係にある者相互間の譲渡においては、たとえ「著しく低い価額」の対価でなくても課税する趣旨のものであると解することはできない。

7.負担付贈与通達(平成元年3月29日付直評5・直資2-204)にいう「実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうか」という判定基準は、同法7条の趣旨に沿ったものとは言い難いし、基準としても不明確であると言わざるを得ないほか、「著しく低い」という語からかけ離れた解釈を許すものとなっており、その意味で妥当なものということはできない。しかし、同通達2は、結局のところ、個々の事案に応じた判定を求めているのであるから、上記のような問題があるからといってそれだけで直ちにこれを違法あるいは不当であるとまではいえないというべきである。もっとも、個々の事案に対してこの基準をそのまま硬直的に適用するならば、結果として違法な課税処分をもたらすことは十分考えられるのであり、本件課税処分はまさにそのような事例であると位置づけることができる。

検索情報

参考文献・資料

TAINS:Z888-1280
『税のしるべ』(大蔵財務協会)平成20年6月9日、P.6。
品川芳宣「親族間の相続税評価額による土地売買とみなし贈与課税」税研23巻4号(2008年1月)P.98-101
小林栢弘「相続税法第7条の『著しく低い価額の対価』をめぐる判決(東京地裁19・8・23)の概要とその論点1」週刊税務通信3002号(2008年1月28日)P.36-48
小林栢弘「相続税法第7条の『著しく低い価額の対価』をめぐる判決(東京地裁19・8・23)の概要とその論点2」週刊税務通信3006号(2008年2月25日)P.16-26
小林栢弘「相続税法第7条の『著しく低い価額の対価』をめぐる判決(東京地裁19・8・23)の概要とその論点3」週刊税務通信3013号(2008年4月14日)P.21-36

関係法令等


裁判情報


事件番号 平成18年(行ウ)第562号
事件名
裁判年月日 平成19年8月23日
法廷名 東京地裁
裁判種別 判決

原審・上訴審

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