Angel Beats!でエロパロ保管庫 - 鬼畜・陵辱 遊佐姫物語
数日前、生徒会長の立華かなでが辞任した。

定期テストの際、ゆりの謀略により彼女の答案用紙が偽造され、
最低成績を収めた。その結果、学校側から不良生徒と認識された。

しばらくして天使と恐れられたかなでが人であったことが発覚。
それはすなわち、死んだ世界戦線の存在意義を根底から覆す要因になった。

ほとんどのメンバーはゆりにその採択をゆだねていた。
彼らは死後を彷徨う哀れな魂たちであり、この世界で
成すべき明確な目標もない者達の集いである。

ゆりが作り出した架空の敵(天使)と抗うという名目で
一時的に結託した集団に過ぎなかった。


「我々が戦っていた意味はあったのか」

「いつまでもこの世界に留まる必要があるのか」

「私たちは道化だ。永遠に生きるのもまた拷問である」

メンバーでこのような疑問や不満を持つものは少なくなかった。

表面上では沈黙を保っていたが、水面下では
いつ反乱がおきるか分からない状態だった。ゆり信者の野田や、
立ち上げメンバーの日向などは戦線の維持に努めようとした。

しかし、陽動班のガルデモや音無な竹山などの新参メンバーは
現体制に不満を持つものが多かった。特にガルデモでは
リーダーだった岩沢が消えてしまったばかりだ。

仲間内の公式見解では成仏したことになっているが、彼女が
消えてしまった明確な理由も解明できないまま無駄に天使と
戦い続けたゆりに対し、入江らは少なからず不満を持っていた。


だが、彼らはまだマシなほうだった。

真に恐ろしいのはこの組織を根本から解体し、
自らのモノとしようとする革新派の存在だった。


「もうあなたの時代は終ったのです」

「っ…」

「これからは私が皆さんをまとめさせて貰いますよ。あなたの活躍ぶりは
 いつもそばで見ていました。十分に参考にさせていただきます」

「あ、あんた……どうして…私を…」

深夜、校内の廊下でゆりは刺殺された。

完全な奇襲だった。

まだ息のある彼女は遊佐に追撃され、すでに虫の息となっている所を
滅多挿しにされてしまった。遊佐は慎重であり、作戦遂行のためには
一切の感情を押し殺すことが出来た。

「ついに息絶えましたか。しかしここは死後の世界。あなたが再生する前に
 別の場所へ連行させてもらいますよ。さあおまえたち、仕事の時間です」

遊佐が手を叩くと控えていた数名の工員が姿を現す。
十代後半だが作業着で身を包んだ彼らは遊佐の部下だった。
全員が規律正しく遊佐の前に整列した。

遊佐はツインテールを指ではじきながら指示を出した。

「ゆりをギルド内へ監禁しなさい」

「はっ」

「場所は新調された牢獄を使いなさい。監視は三交代で行うこと。
 詳しい命令書は後日改めて作成する」

「かしこまりました。遊佐さま」

彼らはゆりの死体を運び出した。
いつ目覚めるか分からないので念のため縄で拘束してからだ。

工員たちの正体は、ギルドで武器製作を行っている従業員達だ。
なぜ彼らが遊佐の配下になっているかは後述する。

「ふ…くくっ…ふふふふ……」

遊佐は窓ガラスを開けて外を眺めていた。
緩やかな曲線を描く陸上トラック。
あの白線で書かれたカーブのように、この世界の
運命が変わろうとしているのだ。すなわち今が転換期。

その革命の中心にいるのが彼女だ。
今までの戦線ではオペレーターとしての任務を
まかされていた遊佐が、内に秘めていた野望を解き放とうとしている。

冷たくも心地よい風が遊佐の髪の毛をなびかせた。

風は一瞬で止まった。遊佐は乱れたツインテールを元に戻しながら
将来のことを考え、またしても口元がにやけてしまうのを自覚していた。

「うふ…うふふふ……くく……くくっ…」

喜怒哀楽に乏しいと仲間内で言われ続けていた。
だが、それは胸のうちに様々な感情を押し殺していたからにすぎない。

遊佐は窓ガラスを閉め、無人の廊下を歩き始めた。
今日はもう遅い。明日からの作戦に備えて英気を養わなければならないのだ。

半月上の月が、彼女をひっそりと見下ろしていた。

翌朝。遊佐は事前に嘘の緊急招集令を戦線メンバー達にかけており、
狭い室内は人でいっぱいになっていた。

適当な場所に座ったりして雑談したり武器の手入れをしたりと、
皆が思い思いの時を過ごしていた。

約束の時間を過ぎてもリーダーのゆりが現れないので、
高松などがそれを心配していたが、遊佐は落ち着いていた。

メンバーは一枚岩ではない。

竹山はPC操作に熱中しており、周りのことが頭に入っていない。
朝寝坊した野田は三十分も遅刻した。直井にいたっては
傲慢にも参加すら拒否したほどだ。新参者であるにも関わらずである。

予定が少し狂ってしまったが問題なかった。

時刻が八時半になったことを確認した遊佐は、
校長机の前に立ち、新たな組織の設立を宣言した。

「皆さん。聞いてください。今日から私がこの戦線のリーダーになります」

あまりにも端的で唐突な発言だった。

高校生達は、遊佐の正気を疑うことから始めることにした。

「はっ。何の冗談だよ。ついにイカれたか?」「ジョークにしてもつまないですよ先輩」

日向とユイがそう突っ込みを入れた。先程まで一つのソファーで
じゃれあっていたメンバー公認のカップルだ。

呑気な顔で寄り添う彼らは、遊佐の目には反乱分子と写ったのだった。

「これは冗談ではありません。証拠を見せてあげましょう」

言い終わると同時に武装した工員たちが部屋に突入してきた。
軍隊レベルで訓練された彼らは一個小隊ほどの規模だった。

「なんだキサマらは!!……おぅ?」

放たれた銃弾が、扉際にいた野田の喉をつらぬいた。
床の上をのた打ち回る彼を踏みつけながら
自動小銃を発射する工員。

パパパ…

短い銃声だったが、野田は完全に絶命した。

三十秒にも満たない一方的な虐殺だった。


「一斉に包囲しろ」 「はっ」


校長室は銃を持つ男達に囲まれてしまった。

武器を所持していた椎名と藤巻は無条件で
射殺され、生き残っている人たちは部屋の中央に集められた。

松下が高松に目配せして隠し持っていた銃で応戦しようとしたが、
音無の視線で止められた。それぞれ無言だったが、無駄な出血はするな
という音無のアイコンタクトは通じたようだ。

遊佐が日向に問いかける。

「日向さん。私が言っていることがまだ冗談に思えますか?」

「……て、てめえ。何が目的だ」

「さっきも言ったでしょう。私がこの戦線のリーダーになるのです。
 あなたは今日から私の配下として働いてもらいます」

「…ゆりっぺはどうするつもりだ? そんなことしたらあいつが黙っていないぞ」

「その必要はありません」

「どういう意味だ?」

「もう捕らえましたから。ある場所で監禁してあります。
 二度と人前に現れることはないでしょう」

「…っ!!」

激昂した日向は遊佐の胸倉を掴み、思い切り殴りかかろうとした。

「動くな。それ以上の蛮行は許さん」

「く…」

日向の側頭部にライフルの先端が押し付けられた。
工員の恐ろしく無機質な声に、日向は制止するしかなかった。
遊佐の服から手を離して歯を食いしばった。

遊佐は凶暴な獣のように目を細めている日向を逆に睨み返し、
乱れた上着を整えながら冷静に発言した。

「日向秀樹さん。あなたは戦線初期のメンバーであり、ゆりさんに
 創設のきっかけを与えた人物です。あなたの存在なしで
 この戦線は成立しなかったといっても過言ではないでしょう」

「…」

「その功績を称え、あなたを三ヶ月の禁固刑に処す。
 先程の私への無礼な振る舞いは、それで水に流してあげましょう」

その場にいる全員が絶句してしまった。

高松は胃の痛みを通り越して眩暈がしてくるほどだった。
個性的なメンバーの集まりであるこの戦線だが、今まで
組織を掌握しようとする者が現れたことは一度もなかった。

戦線の敵といえば椎名もかつてはそうだったが、彼女は孤高の戦士だ。
天使に次ぐ戦闘能力を誇っていた彼女でさせ、今は凶弾に倒れている。
それほど工員たちの動作は鮮やかであり、圧倒的だった。
メンバーたちには、彼らがどんな訓練を受けたのか疑問だったが、
もはや一高校生に抗える存在ではない。

「…ぐっ……うぅ…」

遊佐がユイの首を絞めていた。
日向の禁固刑を聞いたユイが取り乱し、
隠し持っていた短刀で遊佐の心臓を狙ったためだ。

恋人を守ろうとする情熱も愛も、狂気の前では凍り付いてしまう。

「ユイちゃん。そんなに日向さんと離れ離れになのが嫌ですか?」

「は……なし…て……」

「うふふ。苦しそうですね。私はあなたの可憐な歌声が大好きなのですよ。
 でも喉元ごと引きちぎってしまいたい衝動に駆られるのはどうしてでしょう」

「くるし……だ…れか…たすけ…ひなた……せんぱい…」

すでにユイは危険な状態だった。

遊佐は存分に恐怖を受け付けることが出来たと判断し、ユイの
首から手を離した。ユイは床に倒れこみながら生の有難さを
噛み締めていた。顔は鼻水と涙でぐしゃぐしゃになり、
日向のことを考える余裕などなくなってしまった。

もう二度と遊佐に逆らわないと誓ったのだった。


固唾を呑んでいた一人である松下五段は、静かに怒りを燃やしていた。
抵抗する機会を伺っていたのだが、すでに武装集団の包囲下にある。
遊佐の言いなりになるくらいなら一斉蜂起したいのだが、戦おうにも多勢に無勢。

横目で仲間を確認すると、竹山がノートPCを持ちながら震えていた。
高松は大量の冷や汗をかきながら何度の唾を飲んでいる。
大山は腰を抜かしており、すでに戦闘の意思すら失われていた。

一方の音無は思考をめぐらせ、どうすれば犠牲が少なくなるか考えていた。

(ゆりを欠いた俺達は、例えるなら哀れなシマウマどもだ…。抗っても意味はない。
 ならばどうする…? このまま遊佐の手下にでもなればいいのか?
 しかし彼女の真の目的が分からない…。ここはまず時間稼ぎの交渉を…)

音無がそう考えていたら遊佐が新しい指示を出してきた。

「私に従う者は一歩前に出てください。
 その人は今日から私の仲間として認定しましょう」

「…っ!!」

「それと武器を所持している者がいたら今すぐ名乗り出なさい。
 あとで身体検査をしますので、その際に発覚した場合は
 見せしめに拷問します。嘘つきは大嫌いですので容赦しません」


全員の血の気が引いてしまった。


遊佐の冷静な眼差しからは一切の感情が感じられない。
彼女は宣言したとおりのことを実行するのはすでに証明されていた。
重苦しい沈黙の時が流れ始める。

戦っても勝てない。

逆らえば死よりも恐ろしい拷問。

ならば…

選択肢は一つしかない。


全員がそう思った。


最終的に、絶命している椎名、野田、藤巻を除いた全員が遊佐の軍門に下った。
繰り返しになるが、日向は三ヶ月以上の禁固刑が決定している。
場所はギルド内とされた。ユイは見せしめとして川原で鞭打ちの刑に
処されることが内定した。具体的な方法についてはこれから検討される。

直井は銃殺し、牢獄へ強制連行される予定だ。
彼が今回の会議の参加を拒否したと分かった時点で、
すでに工員の主力の大半を彼の捕縛に出動させた。

どちらにせよ抹殺すべき対象だった。催眠術という特殊技能を
持っている彼は、遊佐からすれば限りなく神に近い存在だった。
この世界に支配者は二人と要らない。ここにはひっきりなしに
まよえる魂が訪れるのだが、今後彼のような男が現れた際には
遠慮なく排除する方針を固めていた。

校長室は遊佐の管理室として使用されることが決定し、
新たな支配者の時代の幕開けの象徴となったのだった。

遊佐がリーダーになって一ヶ月が経過した。

校内に響き渡るのは激しいロックサウンド。

今日は遊佐の立会いの上、空き教室で
一時間以上にわたってガルデモの練習が行われていた。

遊佐は用意された席に座って彼女達の演奏を聞いていた。
ガルデモメンバーたちは、遊佐のきびしい目つきに
脅えながら一通りの演奏をこなした。

演奏終了後、ガルデモメンバーを整列させた遊佐は、
左端の者から順にビンタを食らわしていった。

入江やユイは遊佐の理不尽な暴力に耐え切れず、
すすり泣き始めたが、ひさ子は無言で遊佐を睨んでいた。

「まったく。あなたたちは…ふざけているのですか?」

「…」

「まるで演奏に気合が入っていないではないですか。
 ユイちゃんは歌に集中するとギターがおろそかになっています」

「す、すみませ…」

萎縮したユイが必死に謝ろうとするが、遊佐はそれを全く無視する。

視線を合わせないよう下を向いている入江の肩を掴んだ。

「入江さん」

「は、はい」

「ドラムのリズムがワンテンポ遅れていましたね」

「はっ…申し訳ありません…次は必ず…」

「言い訳はしなくていいです。次はありませんよ?」

「は…はい!!」

背筋を伸ばす入江。まるで軍隊のようだった。

次に遊佐はひさ子の指導力のなさを指摘し、口頭注意した。
ひさ子は内心の怒りを必死で抑えながら黙って頭を下げていた。

廊下には六名以上の工員が配置済みであり、逆らえば死を意味するのだ。

遊佐は関根には特に厳しかった。

「関根さん。自分勝手な演奏をするなと何度も言ってきたはずです。
 重低音のバランスが崩れれば曲として成立しなくなります。
 これ以上ミスをするようでしたらベースは没収させてもらいますよ」

「…ち」

「なんですか?」

「ざけんじゃねえ」

「おや? 今のは空耳でしょうか」

「空耳じゃないわよクソオペ子。
 もうあんたの奴隷として演奏するは我慢の限界なのよ!!
 まだ天使と戦ってる時のほうが何倍もマシだったわ!!」

「…口の聞き方がなってませんね」

遊佐は平手を放った。

先程とは反対側の頬に対してだった。
関根は痛みよりも怒りが優先されたのか、
凄まじい勢いで遊佐を睨みつけた。

「死んじまえクソ女」

「…やれやれ。仕方のない人ですね」

遊佐は肩をがっくりと落とし、盛大にため息をついた。
携帯を取り出してある人物を呼び出す。
そいつは一分もしないうちにこの教室にやってきた。

「遊佐。呼んだ?」

「ええ。立華さん。お忙しい所お呼び出ししてすみませんが、
 この関根が私に暴言を吐いたのです。罰を与えるのを
 手伝ってもらえませんか?」

「いいわよ。あなたには仮があるし」

「ふふ。助かります。持つべきものは良き友人ですね」

関根は後ろ手に縛られ、部屋の中央に座らされた。
床の上に女の子座りさせられた格好だ。

遊佐が関根の前に立ち、顎を指で持ち上げた。
屈辱で表情が歪んだ関根が遊佐を見上げる形だ。

「私も鬼ではありません。あなたが土下座した後、
 私の靴の裏を舐めてくれたら許してあげましょう」

「…」

「無言で睨むということは、屈服の意思がないということでしょうか?」

「……死ね」

「…残念です」

関根はスパンキングがしやすいよう椅子の上に乗せられた。
九の字に近い格好だ。縛られているのをいいことに、
スカートを捲くられてパンツを脱がされてしまった。

恥ずかしがる余裕もなく、無防備なお尻に遊佐の平手が飛んだのだった。

パシン

「…っ」

「もう一度いきますよ」

「…うっ」

「謝りたくなったら言ってくださいね。やめてあげますから」

「だ、誰があんたなんかに…く…」

一定の間隔で遊佐がお尻たたきをしていた。
痛めつけられるごとに関根の中で反抗心が生まれ、
余計に遊佐を恨むようになるのだった。

しかし、氷河のように冷酷な遊佐としては、
まだ軽いほうのお仕置きだった。正直な所、遊佐としては
ガルデモの女の子達が嫌ってはいなかった。

ゆり時代はガルデモの陽動には常に関わっていたし、
彼女達との親睦は深かった。しかし今はある目的のため、
心を鬼にするしかないのだった。


「関根ちゃんっ…!!」

思わず声を発してしまったのは入江だった。
親友の関根が痛めつけられているが我慢できなかったのだった。

遊佐は一瞬だけ後ろを振り返り、入江らに残酷な言葉を残した。

「助けたい人がいたらどうぞ名乗り出てください。
 もっと酷い目にあわせてあげますから」

ひさ子たちは部屋の隅に集合させられ、そこで様子を見守っていた。
遊佐による私刑の執行中は、余計な動きはもちろん私語すら
厳禁とされている。従って、今この場で入江も虐待される
可能性は大なのだが、偶然見逃してもらえた。

「関根さんは思ったより強情ですね」

「…」

「もう叩くのに疲れました。今度は別の方法で責めてあげましょう」

遊佐はかなでと目を合わせた。

「立華さん。思ったとおり彼女は簡単に謝ってくれないようです。
 私がやるのも面倒ですから、あなたが好きにしてください」

「へぇ。好きにしていいの?」

「はい。今から彼女はあなたのオモチャです」

「ふふ。それってすごく楽しそう♪」

かなでの微笑む様子は天使ではなく悪魔のそれだった。
ハンドソニックで関根の縄を一瞬で切り裂いた。
その刃を見ただけで女の子達は息を呑んだが、
関根の身体には傷一つついていなかった。

かなでの技能は洗練されているのだ。かなでは関根を
四つんばいにさせ、少しでも抵抗したら死より恐ろしい目に
あうことになると脅しをかけた。

子供のように細い人差し指の先端が、関根の秘所に差し込まれようとしていた。

「うっ……天使……なにを……」

「おもしろそうだから。いじめてあげようと思って」

「あっ…ちょ……やめて……んぁ……」

「こんな楽しいことやめるわけないじゃない」

「あっ……あっ………ああっ……ちょ……ちょっと……はぁ…ん…」

拘束されているわけでもないのに関根はされるがままだった。
両手を床についたポーズでかなでにお尻を見せている。
守ってきた貞操を同じ女の手で汚されているのが屈辱だった。

「関根さぁん。私この前のテストで零点を連発したのよ。知ってるでしょ?
 で、その日の夜に気分転換に食券買ったらね、風で吹き飛ばされたの」

「う…ん……んあぁ……だめ……もう……やめてぇ…」

「その時、関根さんたち演奏がんばってたわね。
 生徒達から食券巻き上げるので必死だったもんね」

「……はぁ……はぁ……はぁはぁ……それ…は……命令で…」

「従った奴も同罪よ。ゆりはもちろん死ぬべきだけどね。
 できれば私に一言謝ってほしいんだけどなぁ」

「ご……ごめんな……さ…」

「なぁに? よく聞こえない」

かなでは関根の口に布を巻いてしまった。
抵抗されたら殺されるので、関根は自力で
外すことは出来なかった。

かなでは遊佐からバイブを受け取り、最後の攻勢に出ることにした。

「そろそろ気持ちよくりたいでしょう? 
 みんなの前で恥ずかしい姿を晒すといいわ」

「むむむむグ…!! …ウんんんんん……!! んんんんんんん…!!」

「よだれ垂れてるわよ。みっともないわね」

「……んんんん!! …ムググググググ!! んンンン!!」

「息が苦しそうね? 一度布を外してあげるね」

「…ぷはぁ!! ゆる…してぇ… 今まで…した…ことは…全部…謝りますから」

「だーめ」

「うそ…つきぃ……はあぁん……」

「そろそろかしら?」

「あっあっあっ……もうイクぅ……あっあっ…あぁああああ…いやぁぁぁぁああ!!」

ついに快楽の波が押し寄せた入江。
上半身を一瞬だけ揺らして液体を垂れ流したのだった。

かなではやっと責めるのを止め、入江たちを見渡した。

誰もが瞳を伏せてすすり泣いている。仲間が陵辱された姿を
見せられたのだから無理もない。しかもかつて敵対していた
天使にされたのだから余計にショックだった。

ところで、立華かなでが遊佐と結託したのは、
一言で言えば元戦線メンバーに対する復讐ができるからだった。
平和主義者のかなでが凶暴化したのは、sssのテロ行為に対抗するためだった。

生徒会長としての義務から、愛すべき馬鹿である不良生徒達を懲罰する日々。
そんなカオスな毎日が、かなでの精神を歪めたのだ。
いつしか懲罰は義務ではなく喜びに変わり、
暴力を振るうのはやむを得ない手段ではなく、快感へと変わった。

かなでの可逆欲求を満たしてくれるのが遊佐だった。

「ガルデモの皆さん。私に逆らうことがどれだけ
 愚かなことが分かっていただけたでしょうか。
 次も真面目に練習しなかった場合はメンバー全員に
 懲罰を与えます。死ぬ気で練習するように」

遊佐は踵を返しながらそう言った。

哀れな女の子たちは涙を押し殺しながら首を縦に振っていた。
遊佐の定期視察で技量不十分と判断されれば罰を与えられるのだ。
今日が丁度その日だった。練習は今までどおりしっかり行ってきたのだが、
可憐なる美姫のスパルタの前では無意味だった。

入江はゆり時代の日々を思い出すたびに涙が止まらなかった。
そして、ここまで辛い思いをするくらいならいっそ音楽活動自体
辞めてしまおうかと考え始めたのだった。

遊佐がここまで厳しいのにも理由があるが、それについては後述する。


遊佐は校長室へ向かった。

入室すると同時に参謀の高松が厳かに頭を下げた。
今日はコーヒーと紅茶のどちらにしますかと聞かれたので
コーヒーにしなさいと即答した。

この部屋にいるのは高松と遊佐、そしてPCで
事務処理に没頭している竹山だけだ。遊佐は竹山が
挨拶してこなかったのでそれをとがめると、
彼は腰を抜かしながら猛烈に謝罪してきた。

遊佐は、二度とこんな真似はしないようにと
伝えて上座に腰掛け、高松から近況報告を受ける。

「本日は特に変わった様子はありません。ギルド内に抑留した
 愚か者たちへの拷問は予定通り実施されています。禁固刑の
 日向は遊佐さまへの絶対服従を誓いましたので、現在は
 武器製造のための強制労働をさせています」

「…ふむ」

「短いですが、報告は以上でございます」

「ごくろうさまでした。…日向もついに私に屈服したか」

「はっ。姫さまへの永久服従を約束してくれました。
 罪人たちの視察を兼ねて、
 後ほどギルドまで様子を見に行かれるのがよろしいかと」

「うむ。そうですね。護衛の工員たちに出動命令をかけておきなさい。
 視察開始は午後にします。それまで少し早いですが、私は昼食を取ってきます」

「はっ。姫さま」

高松がお辞儀すると遊佐が席を立った。
慌てて竹山も規律して頭を下げる。

それを横目で見た遊佐は、唇だけで笑いながら
ゆっくりと扉まで歩いた。緊張と静寂に包まれた室内。
ドアノブに手をかけようとして彼女の動きが止まる。

「ところで、高松」

「はっ。何でしょうか姫さま」

「先程のコーヒー。少し苦かった」

「…っ!! も、申し訳ありま…」

「言い訳する前に教えなさい。ミルクは
 入っていたようでしたけど、砂糖もきちんと入れましたか?」

「そ、それは…!!」

「そのシマウマのような顔は図星のようですね。
 あまり私を怒らせないで下さい」

遊佐は土下座している高松へ近づいた。
もったいぶるような歩き方をしているので
余計に恐怖感を与えていた。

高松は大粒の涙を流しながら命乞いを始めた。
彼はゆり時代と同様に参謀を任されている。
遊佐から見ても彼の頭脳は優秀だったからだ。

参謀といっても、実際の仕事は報告書の作成や
事務連絡がほとんどだったが、製造管理の
竹山と同様に重宝される存在だった。

遊佐の冷酷な瞳が高松を見下ろしている。

「そんなに私が怖いですか?」

「うぅ……あう…」

「そんなに泣かないで下さい。こっちまで気の毒になるじゃないですか」

「…っ。姫さま…! どうか護慈悲を」

「…あなたは私の右腕になってくれる存在。
 あまり邪険にしたくありません。
 今日のところはこれで許してあげましょう」

遊佐はソファーに腰掛け、左足を軽く持ち上げた。
そして無言で高松を見ていた。

高松は理解するまで時間が掛かったが、察したと
同時に遊佐のもとへ駆けつけ、慎重に足を手に取った。

「私が良いと言うまで舐めなさい」

「は、はい…姫様」

恐る恐る靴の裏に舌を這わせようとする。

高松が生き残る方法は、他になかった。

________

その日の午後、十人以上の護衛をついた遊佐は、
ギルド内を黙々と歩いていた。

今回は護衛の一人に松下五段を同行させている。
アサルトライフルを構えた彼は、今や立派な護衛として
遊佐の信用を得ていた。

ギルド内は底冷えがして嫌な空気が流れていた。
かつてゆりの指示の元で武器貯蔵、製造のために
作られた地下施設だ。

遊佐は髪の毛がじめじめしてうっとおしかったので、
気分転換に松下と雑談していた。床や天井を見ながら口を開く。

「湿気が多くて最悪な環境ですね。あまり長居したい場所ではありません」

「はい。そのようで」

「松下君は生前の記憶がありますか?」

「記憶でございますか? あいにく、よく思い出せません。
 高校時代に柔道をしていたということしか…」

「ふむ。記憶がないパターンというやつですか。
 せめてやり残したことや後悔していることが分かる手段があれば…」

遊佐は手を顎に当てたまま独り言をぶつぶつ言い始めた。
考え事をするときの彼女はいつもこうなのだ。
遊佐を刺激しないよう、松下は黙って歩調を合わせていた。

松下は遊佐を横目で見ながら、その美しさに見とれていた。
あまり表舞台に出てこなかった遊佐とは、
全くと言っていいほど面識がなかった。

こうして間近で彼女の透き通るような肌を見ていると、
どんな男でも魅了されるんじゃないかと思った。
かすかに揺れ続ける金髪は宝石のように輝いており、
見た目の麗しさだけなら確かに姫君にふさわしい。

丁寧な物腰や上品な口調も特徴的だ。
ゆりとはまるで正反対。


「松下君は恋人はいますか?」

「…っ」

唐突な質問に立ち止まりそうになる松下。
すぐに気を取り直して返答する。

「いえ、自分は戦うことが任務でした。暇な時間さえあれば
 山に篭って修行する生活です。色恋沙汰とは無縁でした」

「左様ですか」

「はっ」

「…でもその年なら彼女の一人くらいは欲しいと思うでしょう?」

「はい…欲しくないと言えば嘘になります」

「ふむ。他の人たちも同じように考えているのでしょうか?」

「他の人と言うと…我々戦線メンバーのことでありますか?」

「そうです」

「……高校生という年齢を考えれば、誰もが異性に
 興味を持っていると思います。それは当然でありましょう」

「ふむ…」

遊佐は再び考え事に戻ってしまった。

松下は彼女の真意が分からなかったので困惑していたが、
今は仕事中なので余計なことを考えていてはいけないのだ。

ライフルを構える手に力を入れてあたりを索敵する。
もっとも、彼が気を張らなくても、
すぐ後ろをついてくる工員たち(護衛)がいるから敵なしの状態なのだが。

「それなら、いい人でも紹介してあげましょうか?」

「なっ…?」

遊佐の発言はまたしても唐突だった。
仰天した松下が慌てて確認を取るが…

「遊佐さま…? それは一体どのような意味で…」

「ふふ。冗談です」

「…っ」

「そんなに驚かないで下さい。本当にただの冗談です」

遊佐は珍しくクスクスと笑いながら歩みを進めた。

ギルド最深部へ到達するまで、彼女はずっと機嫌が良かった。

「遊佐さま!!」 「姫さま…!!」 「姫さま、ご機嫌麗しゅう…!!」

工員たちは作業を中断し、訪れた遊佐姫に頭を下げていた。

さて、少し話は変わるが、
遊佐は自らをこの世界の支配者として君臨する女王と定義したかった。
だが十代という年齢を考えれば、女王ではしっくりこないので、
姫と呼ばせることにした。配下の者に対しては、遊佐さま、
もしくは姫さまと呼ばせることが決まりになっている。

遊佐は彼らの中から主要な幹部を集め、整列させた。

「本日もお勤めごくろうさまです。皆さんの働きによって学園の
 治安が維持されていると言っても過言では在りません。
 今日までの働きには感謝しております」

「はっ…」

「ですが、現状に満足して怠けてはいけません。怠惰は罪です。
 ノルマを達成しなかったものに対しては今までどおり罰を与えなさい。
 反逆者に対しては拷問を実施します。各員いっそう努力するように」

「かしこまりました。姫さま」

「よろしい。では解散としましょう。チャーさんだけここに残って」

「はっ」

幹部達は散り散りになり、生産ラインへ戻っていく。

一人だけ残されたチャーと呼ばれた男はこの工場の責任者だった。
とても高校生とは思えない風貌をしているが、遊佐の支配を
根底から支えている真の協力者だった。

二人は工場から少し離れた場所へ歩いていく。
そこにはいくつもの牢獄が並んでおり、牢屋の前には
武装した警備兵(工員)が並んでいる。

遊佐たちが通ると姿勢を正して敬礼してきた。

遊佐は満足そうな顔で優しく問いかける。

「皆さん。ごくろうさまです。ゆりの部屋はどこでしょう?」

「はっ!! こちらでございます。姫さま」

「うむ」

鉄製の頑丈な扉が開かれていく。
漆黒の闇の中、変わり果てたゆりの姿がそこにあった。
両手に手錠をされ、片方の足は鎖で繋がれている。
鎖の先には鉄球があり、絶対に脱走できないようになっているのだ。

遊佐は勝ち誇りながらゆりに話しかける。

「久しぶりですね。リーダー」

「……あんた、もしかして遊佐?」

「いかにも。今はこの世界の支配者を名乗っています」

「ふ…。根暗で引っ込み思案なあんたが支配者? まさに世も末だわ。
 その根拠のない自信がいつまで続くかしらね。戦線メンバーたちだって
 馬鹿の集まりじゃないわ。いつあんたに牙をむくか」

「ずいぶんと減らず口が叩けるようですね。正直驚きました」

「伊達にリーダーはやってなかったわよ。この程度のことで
 屈服するような器で組織の頂点に立てると思う?
 いつかあんたを倒す奴がこの世界に現れるわ」

「…先日、竹山君に協力してもらって憲法を作りました。
 その内容によると、私への暴言は硬く禁じらています。
 未来の反逆者となる者とその疑いのある者まで
 全て罰せられます。分かりますか?」

「…っ!!」

ゆりにその意味が分からないわけがなかった。
内臓を鷲掴みにされるような恐怖に気を失いそうになった。

「あなたを拷問すると言ったのです。
 その強靭な意志を粉々に砕いてあげましょう。
 生まれてきたことを後悔するほどに」

「……ゲス女め。どうやったらそこまで腐ることが出来るの」

「そんなに怖い顔すると美人が台無しですよ、ゆりさん。
 私は拷問するといいましたが、それは無能な一般人の場合です。
 あなたの今までの功績を考慮すれば、少し刑を軽くしてあげても」
 いいと考えています」

「…」

「私の足を舐めてください。服従の証です」

遊佐は黒い靴下を脱ぎ始めた。初雪のように白い肌が露出するが、
その美しさを堪能する余裕のあるものなどここにはいない。
普段は黒タイツを履いているが、今日は靴下のみだった。

ミニスカートからすらりと伸びた足のラインは、女性らしい膨らみを持っていた。

高松に対しては靴の裏だったが、ゆりには生足を舐めることを許可している。
元リーダーへのせめても気遣いだった。

ゆりっぺは拷問されるよりは千倍マシだと自分に言い聞かせ、
遊佐の足を手に取ったのだった。

遊佐は別の牢屋に監禁してある椎名と野田をこっそりと除いた。
彼らもゆりと同じように厳重に拘束されている。
遊佐は二人と話をしようとは思わなかった。

野田はゆりのことを絶対に裏切らない潜在的反逆者。
椎名は天使に次ぐ戦闘能力を誇る危険人物。
取り合えず閉じ込めておけば一安心と言うものだ。

かなでは利用価値があるので、例外的に泳がせている。


遊佐がチャーに振り向いた。チャーは常に遊佐の後ろを歩いていたのだ。

「チャーさん。彼らは捕虜であり、存在そのものが悪です。
 彼らの処遇に関しては任せます。いかようにしていただいても結構」

「はい。恐れ入ります。姫さま」

飴とムチの政策だった。遊佐は捕らえた捕虜のほとんどを工員たちの
エサにしていた。戦線メンバーの他にもNPCたちも連行されている。
若い女がわんさかいるものだから、彼らにとっては最高の褒美となった。

工員たちが遊佐に従うのも、ゆりへの不満とこれらの快楽が重なったためだ。
最初は本当に小さな組織だった。遊佐がある日、チャーの元を訪れ、
『おい。おっぱい見せてあげるから私の言うこと聞いてよ』
と言ったのが全ての始まりだった。

暗い地下で武器を作り続けた工員たちにとって、目が覚めるような出来事だった。
彼らは天使が人間だと分かったことで、ゆりへの不信感が溜まっていたのだ。

もちろんそれだけではない。

遊佐は自身の理想とこの世界への疑問を彼らに問いかけた結果、
精神的にも服従させることにしたのだ。

遊佐はこの世界の不条理に怒っていた。

次から次へと行き場のない魂がやってきては成仏して消えていく。
空しさだけが残る行き場のない暗闇。消えたものがどうなるかも
分かりはしないのだ。まずは成仏する理由と定義を明らかに
しなければらならない。世界の心理を掴むのが目的だった

以前からゆりのやり方は嫌いだった。
音無のように右も左も分からぬ者を戦線に強引に勧誘し、
無意味な戦闘に導いていく。

この組織を是正する力が必要だった。

あいにく、時間ならほぼ無限に用意されている。
永遠の生は苦痛でしかないが、遊佐にとっては好都合だった。

試しに少数の特殊部隊を編成して訓練を施し、
やがてその規模を拡大していった。血気盛んな若者達は、
新たな生きる目的を与えてくれた遊佐に感謝した。

世界の心理を理解したいのは、全ての者の純粋な欲求だった。
そのための多少の犠牲ならやむを得ないと納得していた。



遊佐は弾薬を仕分けている日向に話しかけた。
大量のマシンガンの弾を各ケースごとに慎重に入れている。
欠陥品がないかどうか目を光らせていた。

「お久しぶりですね。日向さん」

「はっ。遊佐さま」

「あなたの働きぶりは私の耳にも届いております。
 もう少しがんばっていただければ、やがて戦闘部隊への
 復帰も考慮してあげましょう」

「はっ。身に余るお言葉であります。反逆者、ゆりの支配から脱した今、
 姫さまへ忠義を尽くすことに生きがいを感じております」

「うむ。結構なことです。それでは…」

遊佐は左手の甲を差し出した。

意味をすぐに察した日向は片ヒザをつき、
姫君の手に軽くキスをした。これこそが
理想的な主従関係の証だった。

遊佐は満面の笑みを浮かべ、護衛と共に
ギルドを去っていったのだった。


遊佐の支配力は圧倒的だった。

彼女の策定した憲法によると、彼女の悪口を言った者や、
反逆を企てようとする者、敬称を使わない者、または
その疑いがある者まで全て罰せられる。

ちなみに、秘密警察隊を校舎や寮内に分散配置してある。
反逆者たちが集会を行っているところや、武器を調達してる
様子を発見して密告するのが仕事だ。

秘密警察に抜擢された者は試験で選抜し、
成績が特に優秀な者のみとされた。
与えられる報酬も相当なものだった。

武器の管理も徹底しており、ギルドで生産した全ての武器、弾薬は
戦線の共有財産とされた。従って、たとえ銃一丁粗末に扱って
壊しただけでも『戦線の共有財産を破壊した罰』として懲罰の対象になりえる。
また、生産した全ての製品は遊佐の管理化(実際は竹山)におかれ、
使用は戦闘部隊のみに許された。

これを不正に他の組織や個人に受け渡した場合、
厳しい拷問を受けることになる。この拷問を担当するのも
秘密警察であり、彼らの『鬼の懲罰部隊』として校内で有名になっていた。

個人の能力や所有物に対しても監視の目は伸びる。
明らかに多くの武器弾薬を保有する者、直井のように
超能力が使えてしまう者などは反逆者候補筆頭として、
銃殺刑の対象になった。存在そのものが悪というわけだ。


ここで問題なのは、遊佐が支配者の地位を手に入れたことに
多大なる優越感を感じ始めていることだった。


遊佐は1階の廊下を歩いていた。
現在は授業中なので基本的に出歩いている生徒はいない。
sssの隊員は例外だが。

自動販売機前に差し掛かったとき、曲がり角から走ってきた
生徒と衝突してしまった。

「きぁあ!! すみません大丈夫で…」   

「…」

「ひぃ…ゆ、遊佐さま!! 申し訳ありません!! 
 わ、わわ私は…急いでおりまして…!!」

「…」

尻餅をついていた遊佐は無言で立ち上がった。
常に無表情なので感情を読み取ることは難しい。

ぶつかってしまった生徒、入江は土下座するような
勢いで謝罪し続けていた。

だが彼女は内心あきらめていた。遊佐を怒らせれば
即拷問されてもおかしくないからだ。
また、捕らえられた女達がギルドで慰み者に
なっている噂はよく聞いていた。
もしくは関根のように天使の玩具にされるかもしれない。

どれだけ謝っても無駄だろうと思っていたが、
念のため声を張り上げていたのだ。

「服を脱ぎなさい」

「…え?」

「服を脱ぎなさいと言いました。二度同じことを言わせないで下さい」

「は…はいっ!! かしこまりました」

入江は半ばヤケクソになりながら上着を脱ぎ始めた。
授業中とはいえ、ここは往来があるので
いつ他の生徒達や教師に見つかるか分からない。

しかし、遊佐の冷たい視線で背中が震え上がってしまう。
逆らうと言う選択肢は初めから存在しなかった。

「可愛らしい下着を着けていますね。全部脱ぎなさい」

「はい…」

ついに、一糸纏わぬ姿になった。
裸体を同性にじろじろと見られるのは苦痛だった。
頭のてっぺんからつま先まで舐め回すように見られていた。
入江は直立不動の状態で震えるばかりだ。

遊佐はすっと手を伸ばし、入江の肩に触れた。
血の通っていない氷のように温度を感じさせない手。
入江は畏怖から身体全体を緊張させた。

「私が怖いですか?」

「…っ」

「泣いていても分からないですよ。
 私の顔を真っ直ぐ見なさい」

「…」

「助けて欲しいですか?」

「はい……。姫さま…どうか…お許しを」

「ふむ…」

遊佐は顎に手を当てながら自分の世界に入った。
考えごとをする際の仕草だ。

入江はもう裸を見られては恥ずかしいという感情すら
消え失せてしまい、誰かが助けに来てくれないかと考えていた。

この世界で遊佐に逆らう勇気のある人などいないだろうが、
入江は最後まで希望を捨てたくなかった。

「背中にムチ打ち」

「…!?」

「…をしようと思っていました。でも考えが変わりましたよ。
 私のサディスティックな欲望を満たすために
 あなたの美しい身体を汚すのは惜しい」

「…っ!!」

「元友人として、あなたには特別に慈悲を与えましょう」

「遊佐さま…!!」

「反省と服従の証として私の足を舐めることを許可しよう。
 その場にひざまつきなさい」

「はい…喜んで…」

入江は涙をぬぐいながら這いつくばった。
遊佐は適当な所にあった椅子を持ってきて腰掛ける。
左足を差し出して入江に靴下を脱がせるよう指示した。

「姫さまの足…すごく綺麗…」

「ふむ。犬のように這いつくばってるキサマを見るのは心地いい。
 丹念に舐めてみなさい」

「はい…」

入江の舌が足の指を舐め始めた。
壊れ物でも扱うかのように慎重にゆっくりと味わっていた。
入江は傲慢に見下ろす遊佐の視線から妙な感覚を味わっていた。

やがて足の裏も舐めてしまい、足首からふくらはぎまで舌が伸びていった。

「みっともない。よだれを垂らしていますよ。
 こんなところを他の生徒たちに見られたらどう思われるでしょうね?」

「…」

「ふふ。冗談ですよ。おまえは本当に可愛いですね。顔を上げなさい」

「はい…」

「目を閉じて…。決して動かないように…」

「…ん……」

それは姫君の愛の口付けだった。
入江にとってはまさに驚天動地だ。
懲罰されるはずが親愛の情を示されたのだから当然である。

ゆり時代から遊佐とは友達関係だった。
両者とも大人しい性格なので気が合ったからだ。
基本的に組織に足して従順な女の子達だった。
現体制に移行してからも、入江は遊佐に絶対に逆らわなかった。

噂では、遊佐は下々の者に手の甲や足の裏を舐めさせていたというが、
口付けをされるというのは聞いたことがなかった。

遊佐自身、他人にキスをしたのは初めての経験だ。
なぜそうしたのかは本人にもよくわからない。
子犬のように従順な入江が、あまりにも愛しかったので衝動的にしてしまった。

すなわちこれは、入江は遊佐のお気に入りに認定されたことの証だったのだ。

「入江。キスをしたのは初めてですか?」

「は、はい…」

「私も初めてです。初めてだと意外と難しいものですね。
 今度はあなたからしてみなさい」

「え…?」

「聞こえませんでしたか? 私の唇を味わうのを
 許可すると言っているのです。光栄に思いなさい」

「はい…!! お慈悲に感謝いたします、遊佐さま…!!」

入江は無心で唇を重ねた。恐る恐る遊佐の首に手を回しながら、
身体を密着させる。緊張と興奮で心臓の鼓動が早まるのを感じていた。

透き通るように白い、遊佐の首筋がうっすらと視界に入る。
入江の青い髪の毛とくせのある金髪が少しだけ触れた。
柔らかくて繊細な肌がしっとりと汗をかいていく。

入江の胸中が情熱で一杯になった時、遊佐が不意に口を開いた。

「もうよい。十分です」

「…なんですか? 姫さま」

「もう私から離れなさい。ここだと人目についてしまうでしょうから」

「は、はい!! 失礼しました。つい夢中になってしまって…!!」

遊佐の反応は淡白だった。
先程の接吻が嘘のようにあっさりとしており、
入江に背中を見せてしまった。

服を着るように言われた入江は、慌てて下着に手を伸ばす。
脅えながら遊佐を見るが、彼女はさっさと歩き出してしまった。

どうやら今回は罰を与えられずにすんだのだと思った入江は、
静かにため息を吐いた。軽く唇に触れると、遊佐とのキスの
感触が鮮明に思い出してしまって恥ずかしくなった。

服を着たあとも、入江はそこで立ち尽くしていた。

________

翌日の午後。男子寮の一室に一人の使者がやってきた。
遊佐の命令を受けた秘密警察の人員だ。

「音無結弦。恐れ多くも姫さまから呼び出しだぞ。
 キサマを連行する。5分以内に身なりを整えろ」

「あ? 突然人の部屋に現れてなに言ってる? 俺は今起きたばかりだぞ。
 姫だか誰だか知らねえけど、俺は誰の指図も受けるつもりはない」

音無はすっかりやさぐれていた。
遊佐体制に移行してから、彼はこの世界にいる意味さえ見失っていた。
彼はゆりのことを嫌っていなかった。
無理矢理戦線に加入させられたが、仲間もたくさん出来た。

勝手に革命を起こし、支配者として振舞う遊佐のことは、少しも好きになれなかった。

「キサマからは遊姫さまに対する敬意が微塵も感じられんな。
 恐れ多くも、姫さまは反逆者に対して容赦を知らぬお方だ。
 それを知らんほどの世間知らずのバカではあるまい?」

秘密警察の隊員は、凄まじい眼光で音無を見下ろしていた。
何人もの人間を虐待してきた者が持つ特有の目の色だ。
だが、音無も負けてはいない。可能な限り目を細めていた。

「だからなんだ。俺は権力に屈しないぞ。おまえたちの
 悪い噂はよく聞いているからな。地獄に落ちろよクズども」

「ふっ…ここまで生意気な態度を取られるとは思わなかった。
 どのみちキサマに決定権はない。早く制服に着替えろ」

ついに警察員は拳銃を構えた。
話し始めたときから、彼の表情が全く変化していないのが不気味だった。

わずかな沈黙のあと、音無は指示に従うことにした。
着替えを終えて最低限の身なりを整える。

互いに猛獣のような顔で睨み合いながら肩を並べて歩く。

音無は、この不満をどこへぶつければいいかと考えていた。




遊佐は旧校長室で音無を迎え入れた。

「待っていました。どうぞ座ってください」

音無はソファーに座るようすすめられた。
長いテーブルを間に挟み、遊佐と向き合って座ることになった。

ソファーは、新調されて高級品となっていた。

音無は、座った瞬間に重力を失ったような錯覚に陥ったほどだった。
シックな黒でデザインされたソファーは、座り心地が最高だった。

遊佐と音無は、部屋の中心部に位置しており、周りに護衛たちが控えている。

「音無様。お飲み物はコーヒーと紅茶のどちらにしますか?」

入江が丁寧な口調で問いかけた。いつもの制服に特有の腕章をしている。
遊佐に気に入られ、現在は召使としての教育を受けている最中だ。
彼女の身の回りの世話から、客への対応まで完璧にこなすことを目標とされた。

清楚で可憐な印象の少女。地獄に咲く花のようだった。
少し恐縮した音無が、コーヒーを頼むよ、と言ったら、
彼女は花のような笑顔で了承して部屋の隅に消えた。

部屋の各所に調度品が飾られており、洋風にアレンジされている。
遊佐の雰囲気にぴったりで気品に満ち溢れていた。
ゆり時代の校長室しか知らない音無にとって、完全に別世界に感じられた。

「まずは手荒な真似をしたことをお詫びします」

そう言いながら、軽く頭を下げる遊佐。

「あなたとは一度こうしてお話したいと思っておりました。音無さん」

「そうですか。姫さんから俺のような小市民にお話があるとは光栄ですね」

「そう怒らないで下さい。私もこうして謝っているではないですか」

無謀にも、音無は態度を硬化させていた。

「あいにく、寝起きで頭もよく働きません。できれば手短に済ませてください」

「キサマ、姫さまの御前であるぞ!!」

音無の無礼な態度に苛立った秘密警察員(実は遊佐の最重要幹部の一人)が、
音無の胸倉を掴もうとしたが、直前に遊佐に止められる。

「おやめなさい。私は彼と話をしにきたのです。粗暴な振る舞いは許しません」

「しかし…姫さま…!!」

「おまえの忠義の厚さは良く分かっています。ですが、今は大人しくしていなさい」

「………かしこましました」

頭を下げてから数歩後ろへ交代する警察員。
帽子を深く被って目元を隠し、密かに眉を吊り上げていた。

遊佐は音無を安心させるために優しい口調で話しかけた。

「重ね重ね手荒な真似をしたことをお詫びいたします。
 私の部下には丁重におもてなしをするよう命じてあるのですが、
 あいにく気性の荒い部下が多いのです。もっとも、軟弱な男を
 配下にしようとは思いませんけど…」

「それはご丁寧にどうも…。
 二度も謝罪されると逆に恐縮ですね。で、話の内容は?」

「…はい。まずはこれをご覧下さい」

遊佐は部下の一人に目配せした。

警察員の一人は音無に近づき、ファイリングされた書類を渡してきた。
音無が怪訝に思いながらそれに目を通すと、恐るべき内容が記されていた。
目を見開きながらページをめくり続ける。

          『成仏に関するレポート』

・先日行われた立華かなで氏との会談の結果、この世界に存在する人間は
 生前にやり残したことを達成することによって成仏できると考えられる。
 この世界に高校生の魂しか存在しない理由は、彼らが満足に学園生活を
 送れなかったからである。

・その証拠に、立華氏のご友人たちは、模範的な学園生活を送るたびに成仏していった。
 しかし、これは全ての生徒に適応する事例ではない。中には普通の学園生活を
 送ることだけでは満足せず、世界に残り続けるものも多数存在する。
 あるいは仲村ゆりのように、成仏することを否定し続ける一派も存在した。

・しかし、この世界では時間の流れが止まっている。我々は生物でありながら
 細胞レベルで進化が止まっており、老いることがなく死ぬこともない。
 限りなく霊に近い存在といえるだろう。もしくは生ける屍だ。

・この世界は停滞と堕落を生み出すだけだ。居残り続けても得られるものはなく、
 古くからこの世界に居続ける立華氏自身、神の存在を完全に否定している。
 ゆりの一連の行動は全く無駄だったといえる。

・数週間前、ガルデモの岩沢が成仏した。彼女の例を取って
 現ガルデモメンバー達に理不尽といえるほどの猛特訓をさせ、
 プロレベルまで技術を向上させた。成果を試すために
 体育館で大規模なライブを行ったが、誰一人成仏しなかった。

・岩沢まさみの場合、生前から音楽に異常ともいえるほどの情熱を
 捧げていたため、例のバラード曲を歌いきって成仏したと考えられる。
 これを一般的な生徒達に当てはめることは不可能だ。
 個人ごとに生前の未練が異なるからだ。
 成仏のシステムに関してはさらに検証の必要があるだろう。

                         
                        参謀長・高松。

音無が熟読している間に、遊佐は紅茶を飲み干した。

「一通り読んでいただけたでしょうか音無さん」

「はい…」

音無は憔悴しきっていた。

「私は以前からゆりさんの行動が間違っていることに気がついていました。
 がむしゃらに暴れまわって、罪のない立華さんをいじめることに
 何の意味があるのでしょう?」

「…」

「彼女と私がしていることは根本的には同じです。この世界の仕組みを理解し、
 生前の理不尽な人生に対する怒りをぶちまけたいだけです。
 しかしながら、彼女は怒りが優先して冷静さが足りませんでした。
 研究に必要なのは、知性と探究心と頼れる仲間たちです」

音無は喉がかわきすぎていた。今まで手をつけていなかったコーヒーを飲んだ。
カップの近くに添えられたミルクや砂糖には手をつけず、ブラックのままでだ。
強烈な苦さが頭をクールダウンしてくれた、

「私が組織を掌握したいと思ったのは、ちょうどあなたが入隊した頃でした。
 ゆりさんは、この世界にやって来て右も左も分からぬあなたを
 強引に勧誘していましたね。

「ええ。今でも昨日のように思い出せます」

「あなたは、初めは立華さんと歩み寄ろうとしていたのに運命が変わってしまった。
 これからもあなたのような人が戦線で無駄な時間を過ごすのかと
 思うと、不憫で仕方ありませんでした。…同情しているのですよ」

「大人しそうに見えて饒舌ですね。俺はゆりと一緒にいたことを少しも
 後悔してません。むしろ、かけがえのない仲間たちを手に入れたと思っています。
 恐怖政治で世界を支配しようとする、あなた方のやり方は好きになれない」

「確かに褒められたやり方でないことは認めます。ですが世界の解明のためには、
 規模の大きい組織を作る必要がありました。今では協力者がたくさんいます。
 松下君や竹山君、それに日向君も。皆私に忠誠を誓ってくれました。
 そのレポートを書いた高松君もそうです」

「失礼を承知で言わせていただきますが、脅迫したのではないですか?」

「……想像にお任せします」

「……あなたは俺を仲間にしようとしてる。違いますか?」

「その通りです。よく考えて結論を出してください。
 即答しろとは言いませんので、ゆっくり考えてください。
 ただし、この部屋から出ることは許しません」

遊佐の目に迷いはなかった。音無は、彼女からにじみ出る狂気に
手が震えそうになったが、懸命に耐える。実際に話をしてみて、
彼女の内に秘めた狂気を直に感じることができた。

「音無様、コーヒーのおかわりはいかがでしょうか?」

「すみませんが、結構です」

召使に断りを入れた音無。入江嬢は心配そうに彼を見守っていた。

音無と目が合うと、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らした。
控えめで可愛い少女だった。もし遊佐か入江のどちらかを選べと
言われたら、ぜひ入江を選びたいと思った。

「ふぅ…」

ため息を吐いてよけいな思考を打ち切る。

遊佐は優雅に紅茶を飲んでいた。視線は手元の報告書に注がれている。
彼女は音無の返答を気長に待っていた。だが、音無の返答は1種類しかない
と考えており、リラックスしていた。

警備兵たちは律儀に銃を構え、不測の事態に備えている。
これだけで音無の反抗の意思を殺ぐには十分だった。

(麗しき遊佐姫か…遊佐と話したのは初めてだが…)

音無は遊佐を色眼鏡で見ていたが、それでも彼女は美しかった。

糸のように細い金色の髪に目を奪われそうになる。
時々髪の毛を触るのが彼女のクセで、ツインテールの
に触れる彼女の指すら芸術品のように美しく感じられた。

仕草の一つ一つに気品があって、貴族のようだった。

この美しい少女に殺されるかもしれないという恐怖。
胸の奥から心臓をえぐりとられるような錯覚を感じた。

「もし断ったら、俺は拷問されるのでしょうか?」

「できれば危害は加えたくはありません。
 私は音無さんのことが嫌いではないです。
 この私に対してはっきりと意見が言える人は珍しいです」

「…?」

「私の部下や側近は臆病者が多いのです。私は軟弱な男が大嫌いですからね。
 あなたのような男性を一人くらいそばにおいても良いかと考えたのです。
 ゆりさんのお気に入りだった音無さんには、少なからず興味があります」

「…」

「私の配下になる者には、誓いの証として手の甲に接吻することが定められています。
 どうするかはあなたの自由意思に任せますが、よく考えてから決めてください」

遊佐の左手が音無の前に伸ばされた。

遊佐が革命を起こしてから、音無は誰にも会わないようにして過ごしてきた。
いわゆる引きこもりだ。まだこの世界に未練はあるので、とりあえず遊佐に逆わなければ、
安全は保障されたからだ。強引に重役にさせられた竹山や高松を気の毒に思いながら
自分の平和だけは何としても維持しようとしてきた。

だが、今となっては全てが手遅れだった。

あまり返答を遅らせれば、彼女の機嫌を損ねるかもしれない。
そう判断した音無は、ゆっくりと遊佐の手を握ったのだった。


高松のレポートの最後のページには、こう書かれていた。
 
・立華氏によると、異性間交流を果たしたことによって成仏した者も
 少なくないらしい。これについては、後ほど実験を行う必要があるだろう。
            
          
              第一章 完。

_______________________________

遊佐は音無を連れて校庭を散歩していた。
数メートル離れた場所には護衛たちがいる。
いつもより人数は多めで、松下も含まれている。

「あっちの方角に雨雲が見えますね。
予報によると、夕方から天気が崩れるそうですよ」

つばの広い帽子をした遊佐が空を見上げる。
まるで貴婦人のような雰囲気をかもし出していた。

「…へぇ。そうなんですか」

音無は気のない返事をした。

彼にとって遊佐は油断ならない相手だった。
昨日見せられたレポートの内容が頭から離れなかった。
彼女の壮絶な計画の全貌が分からない以上、彼女との
散歩でさえ、生きた心地がしなかった。

「つれない態度ですね。私と並んで歩くのは嫌ですか?
 容姿には自身のある方なのですが」

「…俺から見ても姫さまは十分にお綺麗ですよ。
 姫さまの美しさは噂以上だったので少しびっくりしてるほどです。
 ただ、最近は嫌な夢を見るので…」

「まあ。どんな夢でしょう?」

「ほとんどが悪夢ですよ。最近は精神的に不安定なもので」

「…ストレスのたまりすぎではありませんか?
 よろしければお薬でも処方…。いえ、この世界でそれは不要でしたね」

校庭を一周してから、校門を通りかかる。
校門の外は、ただ同じ風景が続いていた。
建物が建っているわけでもなく、蜃気楼のようにぼやけている。
遠くに山がいくつも見えるのだが、あの先に何があるのか分からない。

調べたわけではない。だが、彼らは直感的に分かっていた。
あそこには何もないということに。

世界は本当に小さいのだ。この広い校舎とわずかに与えられた庭。
彼らが行き来できるのはそこだけだ。

国もなければ国境もなく、言語や人種の違いの存在しない。
苦痛の人生から退場した学生だけが集められた闇の世界。

おかしいと思う思考さえ奪ってしまうような、虚無が続いていた。

遊佐は遠くを見つめながら言った。

「この向こう側には何もありません。調査済みです。
 いわば閉じられた箱のようなもので、どこまで進んでも
 先はありません。不思議ですよね。でも、これがこの世界の構造なのです」

「俺たちは監獄の中にいるようなもんですか」

「その通りです。成仏しない限りは…」

一瞬だけ冷たい風が流れた。

ふわりと長い髪の毛がゆれ、シャンプーの香りが漂った。
音無は一瞬だけ息を呑み、遊佐の横顔に見とれた。
まるで日に当たったことがないくらい白い肌だった。

汚れていない純白の色だった。彼女の心の中は何よりも
濁っているにしても、容姿は抜群だ。しとやかな雰囲気と、
危険な思想が渦巻いている不思議な女の子である。

「成仏した魂がどこへ消えるのか、ゆりさんが言っていた輪廻転生の
 概念が存在するのか、私はずっと気になってました。
 この世界は実に不思議に満ち溢れています。
 私は、この世界が魂の救済所か、永遠の牢獄かのどちからだと考えています」

「それは確かに俺も気になります。最近では岩沢が成仏しましたね」

「ええ。ですが彼女が成仏したという考えすら、ただの憶測です。
 魂ごと消滅した可能性すらあるのです。つまり、文字通り消えただけかも」

「なるほど。そう考えると不気味ですね。
 姫さまは…いつまでもこの世界に残り続けるつもりですか?」

「ええ。まだやってみたいことがたくさんあります。
 せっかく権力を手に入れたので、この機会を無駄にするつもりはありません」

そう言ったときの遊佐の表情は恐ろしく無機質だった。
音無は内心脅えながら、それを表に出さないようにしていた。

遊佐から視線をそらすと、嫌でも護衛の工員たちが目に入る。
彼らは自動小銃を構えており、つねにあたりを警戒している。
鍛えられた軍人のように目を光らせていて、とても高校生には見えなかった。

音無は、護衛隊の中に松下五段がいるのを発見して驚いた。
昔のメンバーの顔をみるだけで懐かしさで胸が熱くなった。
他にも元戦線メンバーがいるのではないかと探していると…

「部下に昼食を用意させてあります。まだ少し早い時間ですが、一緒にどうですか?」

「いいですね。ちょうど小腹もすきましたし」

「ふふ。ではまいりましょう」

優雅に歩みを進めようとする遊佐。

音無は、彼女が鬼畜でなければ口説いていたかもしれないと思った。
圧政者だが、この世界の根本に関する疑問の持ち方や
探究心に関しては、概ね彼女に賛同していた。

なにより容姿が優れているのに目がいった。
顔はもちろん、体つきも女らしく、黒タイツをはいた足が魅力的だ。
顔に似合わず豊満な胸には、男の夢がいっぱい詰まってそうだった。

彼女には、確かに男達を従わせる何かがあると思った。

ばれないように彼女のことを観察していたが、
ここで思わぬ事件が起きるのだった。


「うっ…」

短い銃声が鳴り、護衛の一人が倒れてしまった。
背中から弾が貫通しており、気の毒なほど出血している。

「周囲を警戒しろ!!」 「弾はどこから飛んできた!!」

工員達は遊佐姫を取り囲みながら、索敵を始めた。
予期せぬ事態に、音無も慌てて遊佐を守るように前に立ちはだかった。
考えてやったことではなく、体が勝手に動いていた。
懐からハンドガンを取り出して構える。
それから何発か銃弾が発射され、
一発だけ遊佐の頬のすぐ横を通りすぎていった。

遊佐は微動だにせず、悲鳴すらあげなかった。

工員達は散開して辺りを捜索し、狙撃主の隠れていた茂みを発見。
包囲して武装解除させた。この間、わずか二分。
訓練された成果が存分に発揮されていた。

まもなくして捕らえられた狙撃主の男が引っ張れてきた。
すでに後ろ手に縛られており、工員に肩をつかまれている。

「遊佐姫さま。ただいま犯人の男を捕らえました。
 他に仲間がいるかも知れません。秘密警察に拷問させますか?」

「いいえ。とりあえず監獄に閉じ込めておきなさい。
 今日は音無さんと親睦を深める大切な日ですから、
 血なまぐさいことをは控えましょう」

「はっ」

二人の工員が、犯人の男と負傷した工員を何処かへ連れて行った。


遊佐は肝が据わっているようで、汗一つかいていない。

音無がそのことを指摘すると

「組織のトップに立つ身ですから、暗殺者など日常茶飯事です」
 
そう答える彼女の表情は、恐ろしく冷たかった。

__________

昼食は静かな学食で取ることになった。
現在の時刻は十一時を回ったところ。
普通の学生たちは授業に参加しているので貸切だ。

テーブルには、高松、竹山、入江が座っていた。
音無と遊佐も彼らと相席した。
遊佐はお気に入りのメンバーを集めたのだ。

相変わらず護衛たちは部屋の片隅に配置されている。

まもなくして部下の男達が料理を配膳した。
今日は遊佐のリクエストでインドカレーだった。

並べられた複数の銀色の器に、それぞれ別の味のルーが入っている。
ポークカレーやキーマカレー、チキンカレーなど。
大き目の皿にナンが用意されてる。これを手でちぎり、
好みのルーにつけて食べるようだ。

日本食とはかけ離れたメニューだったが、食べてみると普通においしかった。
市販のカレーとは異なる空さが刺激的で、毎日食べてもいけそうな味だった。

テーブルの中央に巨大なボールで置かれたサラダは、
各自、自由に盛り付けていいことになっていた。
サラダをを食べると、しつこい味が緩和されてさっぱりした。

「姫さまは、普通の学食のメニューは食べないんすか?」と音無。

「ええ。いつも同じものだと飽きてしまうでしょう?
 他にも様々メニューを作らせるようにしています」 

彼女の話によると、このような特別メニューはめったに作ることがないそうだ。

竹山はあっと言う間にナンを平らげ、残ったカレーもすべて食べた。
人一倍サラダを多く取ろうとする音無に舌打ちしながら、
コックにおかわりを要求していた。

「レモネードとサラダをもっとください。
 あと、カレーピラフもすぐ作ってください」

一応メニュー表は各自配られており、好きなだけ食べていいようになっていた。
もちろん無料である。ナン以外にも何種類かの主食が選べるため、
ピラフを追加注文したのだ。

彼は普段から忙しい仕事をしているので、ストレスがたまっていた。
遊佐と食事できるのは、幹部だけの特権なので遠慮しないことにしていた。
どうせ太りはしないのだからと、食いまくっていた。

音無は少し驚いた顔をして眺めていた。高松は粛々と食べており、
あまり喋ろうとしない。入江は食事に招待されたのが恐縮なのか、
小動物のように縮こまっていた。

「音無さんには私の部下達の紹介がまだでしたね。
 左から事務員の高松と竹山、召使の入江です。
 入江とは昨日会ってますよね」

遊佐に紹介されると、全員が軽く頭を下げてきた。
もっとも、事務員と紹介された男性2人に課せられたのは、
はるかに重要な仕事だった。

「どうも。音無結弦です。よろしく」
 
「よろしくおねがいします」 「こちらこそ、どうぞよろしく」 「よろしくです」

遊佐以外の四人が社交辞令を交わす。まるで新入社員の入社式のようだった。

「彼は私の側近にしようと思っておりますから、よくしてあげてください」

「はい」 「はっ」 「はい」

遊佐に対して全員が厳かに返答する。

食事は適度に雑談を挟みながら進んだ。

竹山はピラフの炒め具合や具の量に文句を言いながら、全部平らげてしまった。

遊佐が食後にデザートを注文していたので、
音無と入江もそれに習ってパフェを注文した。

この世界ではカロリーなど気にする必要がないのだ。

皆が姿勢を正して粛々と食べている(竹山以外)ので、
まるで高級レストランのような雰囲気だった。

竹山はまだ食べたりないのか、みんながデザートを食べている横で、
サイドメニューのポテトを食べまくっている。
全ての食材を食いつくさんとする勢いだ。

「本当によく食べますね。見てるこっちまでお腹一杯になりそうですよ」

隣の席の高松が言う。竹山はスープを飲んだあと、

「ほっといてください。僕は食べるのが趣味ですからね。
 仕事してると腹が減ってしょうがないんです。
 僕としては、体の大きな高松君が小食なのにびっくりしましたよ」

「最近はデスクワークばかりで体を鍛えてませんからね。
 だんだんと体が細くなってきましたよ」

「ほう。それなら高松君が無意味に脱ぐこともなくなりますね」

「いえ、今後はズボンを脱ごうかと考えてます」

「…ぶふぅ!! どれだけ変態なんですか君は! 姫さまに怒られますよ」

重役のわりには、頭の悪そうな会話をする二人だった。

遊佐と入江は小声で雑談している。音無が耳をすますと、
美容やファッションついて話していた。遊佐姫もやはり女の子なのだなと思った。

続きは鬼畜・陵辱 遊佐姫物語2へどうぞ。