あ な た と 融 合 し た い ・ ・ ・



 いくつもの赤い光と、青い閃光が入り混じる空間。廊下も、西日も、床や壁や天井という区別すらなくなったそこに、隼とつばさは繋がったままの恰好で浮遊していた。

 「だめ、だめ、い、ぐ、イグの、とまりゃないのぉぉぉぉ……!!!」
 「う、うう、で、出る、出てる…っ」

 だらしなく蕩けた淫らな笑みを浮かべたまま、つばさの半開きの口から不明瞭な言葉が漏れ出る。隼に縋り付く全身がびくびくと震え、彼の陽物を包み込む彼女の中は痙攣を起こしているようにきゅうきゅうと締め付けたまま、止まらない。一方の隼も、あまりの気持ちよさに腰が砕けそうになりながら、すでに人間という種の限界を超えて欲望をつばさの奥に吐き出し続けていた。
 互いの絶頂が止まらないまま、ただただ抱き合う二人。と、二人の衣服がそれぞれ赤く、青く輝くと、音もなくガラスのように砕けた。

 「ひゃあっ!!」
 「うわあっ!!」

 二人の身に着けていたもの全て、制服のズボンも靴下も内履きも、下着さえもすべて砕けて光の粒となり、それらに囲まれて二人は生まれたままの姿を晒した。隼の華奢で、体毛の薄い体も、つばさのなだらかな胸とメリハリの少ない腰回りも、すべてが曝け出された。
そして変化は衣服だけに飽き足らず、二人の肉体そのものにも訪れる。

 「んあああああああっ!?」
 「う、ううっ!!?」

 一際大きな快楽の電流に打たれ、二人の体がびくり、と大きく震える。震えた後、それぞれの胸が急速に隆起を始めた。

 「ひゃああああんんっ!!む、むね、きもちいいぃぃのおおおぉっ!!」

 つばさの密かなコンプレックスであった、質量に欠ける膨らみの少ない胸。隼の少年らしい、薄い胸板。それらが体の内側から成長する。風船を膨らませるように、粘土で肉づけをしていくように、盛り上がっていく。

 「う、あああっ!!あ、たま、ムズムズ、する…!!あああああああ!!」
 
 隼の髪がざわめくと、ばさり、と瞬く間に一気に長さを増して広がった。つばさよりは少し短く、背中の中ほどまで達すると、絵の具を毛筆にしみこませていくように、その色が毛先から青く染められていく。同じくつばさのロングヘアも、赤く変わっていく。

 「んっ、んんんんっ!!んあああああああ…!!!」

 ぎゅっと隼をホールドしているつばさの手足が、するすると伸び始めた。手足だけではなく、彼女の小さな体躯がすべて、少しずつ大きくなっていく。小学生体型、と口さがない男子達に蔑みを通り越して憐みの視線で見られていたつばさは、年相応の体へ、その上へと成長していく。

 「あんっ!!ひゃ、ううううっ、あん、ああんっ!!!」

 それぞれの見違えるほどに育った乳房は、抱き合ったままの二人の間でやわらかい弾力を持ちぐにゅりと形を変えて押し付け合い、つぶれている。つばさのものは同年代の平均を超えてさらに大きく、瑞々しく熟れていく。隼はすでに成長が止まり、つばさのものよりは小ぶりながらも、同じクラスの女子と比べても豊かで、つばさと押し付け合って形が変わっているため傍目には分かりずらいが、整った形のよいものになっている。

 「うあ、ああ!!うあああっ!!あ、あん、んあああああっ!!!」

 やっと声変りが訪れ始めていた隼の声が、ボーイソプラノからさらに高く、よく通る軽やかなものに変調していく。少しだけ隆起していた喉仏は、それに合わせるように消えていく。
 今や少年と少女ではなく、少女同士が抱き合っているようだった。隼の髪は青く長く、男子にはありえないほどに膨らんだ胸と、低い声を出せなくなった喉から、唇を割って漏れ出る、少女のものとしか思えない高くよく通る嬌声。未だにつばさの中に深々と突き入れ、時折びくりと震えて白濁を注ぎ続けている彼自身のみが、雄であることを主張している。
 一方のつばさは、子供のような小さな体躯を脱ぎ捨て、高校生と呼ぶにふさわしい、いや、それ以上の背丈になり、抱きつく隼の背も完全に追い越していた。強く押し付けてつぶれている膨らみは、片手ではこぼれてしまいそうになるほどだった。しかしそれだけではまだ不十分だと言わんばかりに、今度は腰回りの成長が始まった。
 
 「んあっ!!あ、あんっ、っくぅぅ…っ!!」
 
 小ぶりなつばさの尻の肉付きが増していく。二度、三度と大きく揺れながら、女性的なメリハリに乏しかったつばさの寸胴体型は完全に失われようとしていた。今の彼女は小学生(体型)などではなく、モデルのような高い背とすらりと伸びた手足、たわわに実った胸の果実に引き締まった腰は綺麗なくびれを描き、男の本能を揺さぶるようにぷるりと震える肉付きのいい尻を手に入れた、そこらの雑誌のグラビアアイドルすらも羨むプロポーションの女性になっていた。
 
 「あ、ああ、あああんっ」
 「ふっ、うう、ううううんっ」
 
 二人の顔も、徐々に作り変わっていく。隼の中性的で美麗な造形はさらに女の子らしさが強調され、凛々しさと可愛らしさが高次元のバランスで同居するボーイッシュな少女のそれに。つばさのくりっとした可愛らしい目元は切れ長になり、妖艶な雰囲気を持ち大人の美しさを纏う。
 そして肉体の変化は最後の時を迎える。隼の怒張がびくりとさらに精をつばさの肉体の成長と共に妖しく花開き、銜え込んで離さない秘裂の最奥へ吐き出すと、精を作り出す器官である精巣が、ひとりでに体内へ埋没を始めた。
 
 「っっっああああああああああああ!!!??」

  快楽に必死に耐えている表情の隼が大きく目を見開き、一際大きな嬌声を上げた。その瞬間、彼の全身に迸ったのは痛みではなく、強い悦楽だったからだ。
 
 「ひあっ!!んあっ!!ううっ、っっ、っうあああああああんっ!!」
 
 精巣とその付随器官、さらにはそれらを包む陰嚢がするすると、体の中へ消えていく。それを喜ぶかのように彼の怒張はさらに大きく、はち切れそうになりながら、完全に人間の限界を超えた量と勢いの精を、つばさの中に叩き付けるようにして注ぎ込み始めた。
 
 「ひぃあっあああああああ!!くううううっ!!んうううううう!!!」
 「あ、あんっ!あ、あ、あ、んうっ、ひゃんっ!!」
 
 すでに中に多量に注がれて飽和状態になっているはずのつばさだったが、漏れ出てくる精はあまりにも少なすぎた。行き場を無くした大量の白濁液で下腹部が膨れ上がっているようにも見えず、まるで注がれたものを片っ端から飲み干しているようであり、そして本当に彼女の女性器は、大量の精を貪欲に「飲み干して」いたのだった。
 肉体がヒトからヒトを超えた存在へ作り変えられていくこの瞬間、彼女の女性としての機能もまた作り変わっていた。子を成し育てる揺り籠であるはずの子宮は、注がれた精を吸収してエネルギーへ変換するための器官に。ヒトの原初を形作るための卵巣は、変換されたエネルギーをためこみ、送り届けるための器官へ。そしてそれらの器官と、体内のあちこちに張り巡らせた「根」で繋がるのが、つばさの胸の谷間の入り口で、赤く光り輝くあの魔石だった。生命の源が変換された、強力なエネルギー──魔力と呼ばれるそれを、有象無象の力、魔法として発現させるための制御装置。それこそが魔石の本来の役割であった。魔法を行使する最適な形に宿主を作り変えるのは、付随された役割に過ぎないのだ。
 
 「あ、ああ…!ん、あ、くぁぁぁぁぁぁ…っ」
 
 付随された機能によって、隼の男性としてのシンボルの一つだった皮膚の袋は、今やその中身と共に完全に埋没した。彼に残された唯一の男の名残である肉棒は、血管を浮き立たせながらつばさに魔力の素を送り込んでいる。
 そして、隼の陰嚢が消滅した直後。
 
 「あ、ああ……っ!?か、ぁ、っ、っっくああああああああああああ!!?」
 
 彼の全身を、またしても快楽の大きなうねりが襲う。上気しきって愉悦に蕩けた顔で、隼の喘ぎは激しさを増す。それに合わせるように、先ほどまで陰嚢が存在したはずの、つるりとした足の付け根の部分が、ぐにぐにと蠢き始めた。
 
 「あああああああ!!お、おなか、へ、へん…っっだ、よぅっ!!!」
 
 腹部、特に下腹部の違和感を叫ぶ隼。もっともその違和感が痛みや不快感などではなく、快楽にさらなる快楽が上乗せされたものであることは、その叫びが多分に淫らな歓喜に満ち溢れていることからもわかる。
 そそり立つ彼自身の下の肉がぐにぐにと蠢きながら、形を変えていく。形を変えながら、男根の根本から、尻の柔肉の割れ目の方へ、つ…と一本の縦筋が入った。
 
 「んにゃああああああ!!、お、おかひく、な、なりゅ…!!!」
 
 まともに呂律が回らない。開け放たれた二つの瞳に悦びの涙を浮かべながら、意識を失いそうになるほどの凄まじい感覚に、思考することさえ困難になっていく。その間にも縦筋は徐々にその深さを増し、また筋の周囲の肉付きも変わる。そして最後に、縦筋からぷしゅりと、少し粘っこい透明な液を吹いた。その液は、つばさがスカートをたくし上げたときに太ももを濡らしていた滴と同じもののようで──
 いや、同じだった。
 男である隼にはありえないはずの器官、女性だけが持ち得る、牡を受け入れるための場所と、その奥に守られる、生命の揺り籠。
 
 少女の秘所が、完成したのだ。
 
 「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 少年は完全に、少年では無くなった。
 生まれ変わった喜びと、男と女、両方の快楽の高みに達した悦びに絶叫し、少年は少女に、それも男の象徴をいきり立たせたままの、半陰陽──俗にいう、ふたなりの少女へと、完全に変貌したのだ。
 かつて、女の子の用だとからかわれていた、中性的な少年と、かつて小学生のようだと小馬鹿にされていた少女は、今やまったく別の存在に成り果てた。
 少年だった少女にしがみつく、もう一人の少女。小柄な背丈は首の後ろに回された腕や少女の腰をがっしりと挟み込む脚と共にすらりと伸びて、長身の女性を形作る。輪郭は女性的なカーブを描き、寸胴だった体型は引き締まった腰と肉付きのよい臀部によって完璧に近いプロポーションを手に入れた。そして少女のなだらかな乳房の丘陵は、大きく実った大山脈になり、ぐにゅぐにゅと柔らかく形を変える。幼さの色濃く残っていた可愛らしい顔は、怜悧さと妖艶さを併せ持った、少女から女性へ孵化する寸前の一瞬の儚さを纏う。
 そんな彼女に強く抱きつかれている、つい先ほどまで少年だったはずの少女。襟首にかかる程度だった色素の薄い髪は背中の中ほどを超える、長く青い絹糸の髪へ。クラスの中でも華奢な体つきは、女の子らしい柔らかな曲線を描く。胸元で揺れる、つばさのものに比べれば小ぶりだが十分以上の大きさと形の良さを備えた膨らみが、つばさの胸にぐにゃりとぶつかり合う。股間の皮袋は影も形もなく、その変わり、まだ花開くことを知らない少女の蕾が、淫らな蜜を滴らせる。少年の時よりさらに大きく、固さを増した男根はつばさの熟れた花弁を刺し貫いている。男の子にも、女の子にも見えた顔つきは、男の子っぽさがだいぶ消え、可愛らしさの中に凛々しさが混ざる、まさにボーイッシュな少女のものに。
 かつて、隼とつばさであった少女達。対面立位で繋がったままの二人の胸元で光を放つそれぞれの魔石はもう一度強く輝くと、二人を取り囲む光の粒が呼応し、収縮をはじめた。
 二人の衣服だった赤い光のかけらと青い光の粒子。それぞれが寄り集まって、赤と青の二本の光の帯が構成される。幅はちょうど包帯と同じくらいで、二人の周囲を何重にも巻きつけられるほどに長い。そして、青い帯は隼へ、赤い帯はつばさへと巻きつき始めた。
 
 「はあぁんっ、やあああっ!!」
 「ふっ、っうああっ!」
 
 首から、肩から、胸元へ。両腕へ。まばゆい光の帯が、それぞれの裸身を覆い隠していく。隼の青い髪は見えない手によってひとりでに後頭でまとめられ、その根本にも光のリボンがするりと結びつく。
 
 「あ、ああんっ!」
 「っはぁ…」
 
 密着している体の隙間をくぐりぬけ、帯はそれぞれの豊かな胸を包み、お腹へするすると巻きついていく。巻きつかれるだけで肌を撫でられるような甘い刺激が奔り、全身の感度が上がっている二人にはそれだけで甘い吐息を吐いてしまう。
 
 「ん、んっ!!」
 「ふ、うう…!」
 
 つながったままの部分と、お尻、腰回りは避けて、リボンがふとももの下、膝のすぐ上から再び巻きついていく。脛や脹脛、足首、つま先までを包み込んでいく。
 
 「あ、あああ、ああああああ…」
 「ん、んんっ、んううううっ!!」
 
 頭と、腰回りだけを除いたすべてを輝く赤の、青のリボンに包み込まれた二人。全身に湧き出る力に恍惚となりながら、快楽が昂っていくいく。それに合わせて、胸元の魔石たちもその輝きを強めていく。
 そして。

 「「んあああああああああああ───────────っっっ!!!!!」」
 
 すべてが光に飲み込まれ、隼とつばさは再び絶頂の雄叫びを上げた。




 不気味な程に静まり返り、人気のまったくない廊下。西日が廊下を茜色に染め、それ以外は影色に染まる世界。隼とつばさはそのままの体位で、その身を奇特な出で立ちに包んだまま、廊下の真ん中で快楽の余韻に浸っていた。
 つばさだった長身の少女。はちきれんばかりの胸を真紅に金色の、幾何学模様が入ったビキニの水着のようなものに包み、その上から同じ赤いノースリーブのジャケットで覆う。その丈は短くへそ周りは完全に露出している上留め具で前を留めていないため、艶めかしいお腹まわりと胸回りが露わになっている。つま先から足首までを編み上げの革製ブーツのような履物によって守られて、さらにひざ下までを包み込む、赤色のニーソックス。両手には指部分がカットされ、胸を覆うものと同じ幾何学模様が入った同色のグローブ。
 隼であった少女。華やかに可愛らしく、原型を留めないほどに作り変えたセーラー服のような、大きな襟布のついた上着が大きめの胸によって押し上げられている。つばさの太ももを抱え込んだままの両手には、白地に青色の模様が入った手袋。両足はブーツとシューズを足して割ったような形の、青い装飾を施された靴。頭には、根本を大きな青いリボンでまとめられたポニーテールが揺れる。
 
 「ん、んああああんっ」
 「あ、あああ…っ!!」
 
 二人がどちらともなく離れ、隼によって抱えられていた腿を下ろし、つばさがゆっくりと床へ立つ。名残惜しそうに自身に絡み付くつばさの中に、するどい快感を感じながら、隼が自身を引き抜いた瞬間だった。再び光のリボンが空中に現れ、残されたままの自分と相手のいやらしい体液にまみれたそれぞれの秘所に、腰回りに巻きついて覆っていく。巻きついて閃光を放つと、つばさは全身と同じ色のタイトなホットパンツを、隼はぴったりとフィットするスパッツを、そしてその上からふわりと、短めのスカートが覆い隠し、二人の変身の儀式は完全に終了した。

 人間から魔女へ、魔法少女へ変わるには、性的な快楽が必要である。
 それにつばさが気付いたのは、魔石を埋め込まれてから少し経った頃だった。
 最初はお互いに自慰によって変身していたのだが、ある時つばさに隼が押し倒されて(その時ついでにつばさに告白された)からは、二人で愛し合いながら変身するようになったのだった。
 
 「はぁ、はぁ、んあ……っ、……よし、変身完了、っと」
 
 快楽に蕩けた顔から、凛々しい女性の顔に。つばさは全身を見渡して、どこかハスキーな、満足げな声を上げる。一方の隼は少女の軽やかな声を沈ませて、自分の肩を抱くようにしながらがっくりとうなだれた。
 
 「うう…恥ずかしいよぅ」
 「男の子なんだからしゃきっとしなさいしゃきっと!…あ、今はキミのフランクフルト以外は女の子なんだっけ」
 
 ばしっと肩を叩くつばさに、隼はうんざりとした様子でつぶやいた。
 
 「つー姉は普段も女の子なんですからそういう下品な喩はやめてくださいよ…」
 「まあまあ細かいことは気にしない気にしない」
 
 ははは、と豪快に笑うつばさ。うんざりしながらも隼は内心、豪傑で奔放な変身後のつばさも好きだった。
 
 「…さて、と。私たちを隔離空間に閉じ込めたあのバカを、とっちめにいきますか」
 
 一通り笑って、ばしっ、と左の手の平に右の拳で打ちつける彼女。魔女というより格闘家だよなぁと、準備運動しているつばさを見ながら隼はいつも思う。
 紅蓮の魔女。本来はそう呼ばれるはずのつばさは、炎に関するありとあらゆる魔法を行使する魔女に生まれ変わった。その身に秘めた圧倒的で莫大な魔力によって、世界のすべてを焼きつくしてもなお余るほどの力を身に宿した、地獄の業火の権化となった彼女だったが、家柄もあってかその戦い方はもっぱら殴る蹴る投げる固めるの直接暴行スタイルであった。魔法で相手を打ち倒す場面を、幾度となく一緒に戦ってきた隼はあまり見たことはない。いきなり敵の魔法少女に殴り掛かったりとび蹴りをし始めるつばさを見るたびに、魔法とはなんだったのかと呆れずにはいられない彼、いや彼女であった。
 
 「で、あのバカどこにいるの?」
 
 つばさがやる気に満ちた目で、隼に問いかける。
 
 「姉さんだって魔力の探査くらい朝飯前でしょうに」
 「あたしはそーいう細かいこと苦手なの。それにそーいうことは隼君、じゃなかった、隼ちゃんの方が得意じゃん」
 「ちゃん付けはやめてくださいよ…えーと、隠匿障壁を張って体育館にいるみたいです。巻き込まれた生徒たちを即席の魔法少女に作り変えてるみたいですね」
 
 脳内に術式を展開。隼の目の前に小さな円形の幾何学模様──魔方陣が浮かぶ。魔法を知る者が見れば、それは魔力のレーダー波を打ち、跳ね返ってきた波長の位置、強さから相手の魔女や魔法少女の位置や、ある程度の魔力量を測る探査魔法であることに気付くだろう。そしてそれが並の魔法少女では扱うことのできない、高度な魔法であることも。
 蒼き泉の魔法少女。それが隼が生まれ変わった存在である。属性によらない魔法の他、水に関するほぼすべての魔法を扱える彼女は、この世界をすべて水没させてなおあり余る力を持った、強大な魔法少女。その魔力量は最早魔法少女でなく魔女と呼べる程であり、二人をこうして魔女と魔法少女に作り変え、今も二人を打ち倒すべく、何か企んでいるらしい、魔法世界が送り込んだ白い魔法少女が張った、探査魔法から逃れるための魔法、隠匿障壁をあっさり打ち破ったことからも窺い知れる。
 
 「よしっ、んじゃ今日も一発、きつくどついてやろうか!あ、改造されちゃった他の魔法少女達の相手はお願いするね?」
 「はいはい分かってますよ。つー姉に任せると元の生徒に戻しても一か月くらいは入院生活させる羽目になりそうですからね」
 「なにをぅ!?」
 
 頬を膨らませて心外だと憤るつばさを涼しい顔のままであしらう隼。そんなやりとりにもにじみ出る、二人の間の信頼。魔力の面でも軽く上回る二人がいくつもの戦いを潜り抜けて培ったコンビネーション、そして──恋人同士としての強い絆。そんな二人の前に、件の白い魔法少女がどうなってしまう運命にあるのかは、これまでの戦闘とも呼べない一方的な蹂躙の数々を思い至れば、推して知るべしである。
 
 「ま、いっか。行こう?」
 
 心機一転、頼もしい微笑みを浮かべるつばさ──紅蓮の魔女の足元に、光輝きながら回る魔方陣が描かれる。
 
 「…うんっ」
 
 いまだに羞恥が抜けきっていないものの、大好きな人のそんな微笑みを向けられて、心躍らない訳がない。隼の足元にも同じ、対象を瞬時に他の場所に転移させる魔方陣が展開し、今や彼女となった彼は、力強く頷いた。
 
 そして、魔方陣と共に二人は、掻き消える。


 その数十秒後に体育館の方向から閃光と爆音がとめどなく響き、その十数分後に「もうしませんからぁ、許して、くださぁいいいっ」という白い魔法少女の泣きながら許しを得ようとする声が聞こえてきたのは、いつもの話であるのでここでは割愛する。


 さらに翌日、変身前に脱ぎ捨てたまま忘れていったつばさのパンツ(ピンク色のリボン付き)がクラスの男子生徒によって回収されクラス中が大騒ぎになり、つばさがその回収と事態の鎮静化に翻弄されるのだが、それは別の話である。
 
 

管理人/副管理人のみ編集できます