論題:「世界中のすべての国は一切の捕鯨を禁止すべきである。是か非か」

  • ここでいう捕鯨とは致死的方法によるものとする。
  • 捕鯨の対象は、国際捕鯨委員会(以下、IWCと略す)の管理対象である大型鯨類計13種*1とする。

論題背景

103年度の論題は「世界中のすべての国は一切の捕鯨を禁止すべきである。是か非か」である。捕鯨の対象は、IWCの管理対象である大型鯨類計13種とし、イルカなどの小型鯨類は対象外とする。大型鯨類に絞ったのは、世界のイルカ漁の実態に関する資料を集めることが困難だからである。
まず、簡単に現在行われている捕鯨について説明する。捕鯨は大きく分けて3種類に分類することができる。
  1. 商業捕鯨
  2. 先住民生存捕鯨*2
  3. 調査捕鯨
商業捕鯨とは、クジラの商業利用を目的に行われる捕鯨のことである。IWCでは、鯨が乱獲され、絶滅を危惧されるようになった原因は、クジラの商業利用であるという認識が強い。そこで、IWCにおいて、1982年に「商業捕鯨モラトリアム」が採択され、商業捕鯨は一時停止された。しかし、この採択に納得できないノルウェー*3及びアイスランドは現在でも商業捕鯨を続けている。また、IWC非加盟国も商業捕鯨を行っている*4
先住民生存捕鯨とは、『国際捕鯨取締条約』附表第13項(b)によって規定された捕鯨である。附表第13項では、捕鯨対象、捕殺枠、鯨肉および鯨産物が地域ごとに規定されている*5。なお、この規定は科学委員会の助言に基づいて毎年IWCにより見直される。
濱口尚の研究*6に基づいて、先住民生存捕鯨についての状況を簡単にまとめる。浜口は、先住民生存捕鯨は、先住民にとって、文化的、社会的に重要であることを指摘しているが、先住民生存捕鯨の未来は暗いと指摘している。浜口によれば、先住民生存捕鯨は、商業性の排除や仔鯨および仔鯨を伴った鯨の捕殺禁止などが求められているという。商業性の排除とは、鯨産物の現金販売を行わないことを要求することである。そのため、少なくとも反捕鯨国からは、先住民が捕鯨道具の購入や維持管理のために鯨産物を現金化しても商業性を持つと判断されてしまう状況にある。また、先住民生存捕鯨において、近代的な捕鯨道具の使用が容認されず、前近代的な捕鯨道具が使われている地域がある。前近代的な道具を使用した伝統的な捕鯨方法が、母仔連れ鯨を狙った捕鯨である。雄鯨ではなく、母仔連れ鯨を狙うのは、最も簡単に、そして安全に捕殺するためである。しかしながら、反捕鯨国から、前近代的な捕鯨道具で、危険を伴う捕鯨が求められている状況にある。さらに、先住民生存捕鯨に関わる附表修正にはIWC加盟国の4分の3以上の賛成が必要である。2010年において、IWC加盟国88カ国の内、49カ国が反捕鯨国であること*7を考えると、先住民生存捕鯨の附表修正を行うことは難しい状況である。よって、先住民生存捕鯨の将来は暗いと言わざるをえないという。
調査捕鯨は、ICRW第8条に基づき加盟国の権利として認められるもので、実施国政府が科学調査目的として特別許可証を発行して行っているものである。日本では、農林水産省所管の特例財団法人日本鯨類研究所が政府の特別許可を受けて、1987年から南極海で、94年からは北西大西洋でも調査捕鯨を実施している。しかしながら、2014年3月に、國際司法裁判所は、日本の調査捕鯨は科学的な調査には該当しないと判断し、調査捕鯨の中止命令を下した。この裁判は、2010年にオーストラリアが、日本の南極海で行っている調査捕鯨の実態は商業的な目的を持った捕鯨であり、国際捕鯨取り締まり条約に違反しているとして、国際司法裁判所に訴えたものである。日本は科学的な調査が目的で成果を上げていると主張したが、認められなかった。そのため、2014年末に予定されていた調査捕鯨は中止された*8
以上が、現在の捕鯨の概略である。今回の論題で、注意していただきたい点は、捕鯨が多くの国で行われているため、今回のディベートがどのような場面で行われるか想定しにくいという点である。よって、今回のディベートで妥当であるとみなされたプランは、すべての国で確実に実施されると仮定して行うこととする。

予想されるメリット・デメリット

メリット=賛成論

  1. 絶滅の危惧がある動物、資源としてのクジラを守る
  2. 食物連鎖など、環境や自然保護問題としてクジラを守る
  3. 高等知能を持つ哺乳類としての鯨を守る
  4. ホエールウォッチングなど自然保護と両立する観光業を守る
  5. 捕鯨を禁止しても食料は足りている。必要のない捕殺は、人道的な問題である

デメリット=反対論

  1. 捕鯨は伝統文化、食文化であり、尊重するべきである。
  2. 鯨だけを保護すると個体数が増えすぎて、食物連鎖上の問題がおき、環境に悪影響を与える。
  3. 人口増加による食糧不足が予想される中で、貴重な蛋白源を捕獲し処理し、食する技術を受け継がなければならない。
  4. 鯨関連産業への打撃

論題背景資料

表1:IWCが管理している鯨類

和名
ヒゲクジラナガスクジラ科シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラ、ザトウクジラ
コククジラ科コククジラ
セミクジラ科ホッキョククジラ、セミクジラ
コセミクジラ科コセミクジラ
ハクジラマッコウクジラ科マッコウクジラ
アカボウクジラ科ミナミトックリクジラ、キタトックリクジラ
日本捕鯨協会ホームページ 捕鯨問題Q&Aより
http://www.whaling.jp/qa.html

表2先住民生存捕鯨−2010 年− 鯨種など


出典:濱口尚「先住民生存捕鯨再考―国際捕鯨委員会における議論とベクウェイ島の事例を中心に―」『総合研究大学院大学博士論文』、2013年、p5より転載。

表3 先住民生存捕鯨−2010年− 捕鯨方法など


出典:濱口尚「先住民生存捕鯨再考―国際捕鯨委員会における議論とベクウェイ島の事例を中心に―」『総合研究大学院大学博士論文』、2013年、p5より転載。

表4 IWC加盟国

捕鯨支持国(39カ国)反捕鯨国(49カ国)
アジア
中近東
日本、カンボジア、モンゴル、中国、韓国、ラオス(計6)インド、イスラエル、オマーン(計3)
アフリカガボン、カメルーン、ガンビア、ギニア、コートジボワール、セネガル、トーゴ、ベナン、マリ、モーリタニア、モロッコ、ギニアビサウ、コンゴ共和国、タンザニア、エリトリア、ガーナ(計16)ケニア、南アフリカ(計2)
欧州アイスランド、ノルウエー、ロシア、デンマーク(計4)アイルランド、イタリア、英国、オランダ、オーストリア、サンマリノ、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、チェコ、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、モナコ、ルクセンブルグ、クロアチア、スロベニア、キプロス、ギリシャ、ルーマニア、リトアニア、エストニア、ポーランド、ブルガリア(計28)
大洋州パラオ、ナウル、マーシャル、ツバル、キリバス、ソロモン(計6)豪州、ニュージーランド(計2)
北米
中南米
アンティグア・バブーダ、グレナダ、スリナム、セントクリストファーアンドネービス、セントルシア、ドミニカ連邦、セントビンセント・グレナディーンズ(計7)米国、アルゼンチン、チリ、パナマ、ブラジル、メキシコ、ベリーズ、ペルー、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、ニカラグア、ウルグアイ、ドミニカ共和国(計14)

表4 II)ノルウェーの商業捕鯨[ICRW第5条(モラトリアムへの異議申し立てによるもの)]

地域捕獲対象種資源状況年間捕獲頭数推定生産量
北大西洋ミンククジラ約107,000頭96年 388頭(425)約2,500トン
97年 503頭(580)
98年 625頭(671)
99年 589頭(753)
00年 487頭(655)
01年 552頭(549)
02年 634頭(674)
03年 647頭(711)
04年 544頭(670)
05年 639頭(797)
06年 546頭(1052)
07年 -----(1052)
( )内は捕獲枠
日本捕鯨協会ホームページ 捕鯨問題Q&Aより
http://www.whaling.jp/qa.html

表5 IWC非加盟国による捕鯨実績

国名・地域捕獲対象種資源状況年間捕獲頭数推定生産量
フィリピン(フィリピン沿岸)ニタリクジラ不明約5頭約100トン以上
インドネシア(レンバタ島)マッコウクジラ20〜50頭数百トン規模
カナダ(北極海沿岸住民)ホッキョククジラ悪い申請があった時のみ
日本捕鯨協会ホームページ 捕鯨問題Q&Aより
http://www.whaling.jp/qa.html

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