「母さん、姉ちゃんから電話があって、夕飯の材料2人分追加したいって」
雪菜から連絡を受けた孝宏は母に告げた。
「でも、最近は慣れたけど、最初のころはびっくりしたもんなぁ、なんてったってあの『冬馬かずさ』連れてくるんだもんなぁ」
「孝宏ったら、そんな特別扱いしないの。いいじゃない、雪菜のお友達だっていうんだからほかの人と同じよ」
「でも、今日は誰が来るのかな。まぁ、手堅い所で飯塚さんと水沢さんかな?北原さんと冬馬さんはお決まりだしね」
「中学の頃みたいに10人も20人も呼ばれるとさすがに困るけど、4・5人ならね」
そんな話をしているうちにチャイムが鳴った。
「あ、北原さん、いらっしゃい。今日は早いんだね」
「こんにちは、孝宏くん。今日は出張先から直帰にしておいたら意外にも早く片付いちゃったからね」
「姉ちゃんたちはまだだよ、それとさっき連絡があって2人増えるらしいけど誰なの?」
「いや、俺もさっきメールで知ったけど、人数だけで誰って書いてなかったから、でも、なんか意味深な感じだった。驚くよって」
「あ、それ、冬馬さんが久しぶりに家に来た時の姉ちゃんも言ってた。確かにあの時は驚いたな」
「じゃぁ、あの時のかずさ並みのインパクトって…そんなの、そうそうあるもんじゃないだろ?」
「だよねー、まあ、どうせ飯塚さんと水沢さんじゃないの」
確かにあの時の孝宏の驚き方は一言で言って面白かった。無言で口をパクパクさせてそのうちに訳の分からない言葉を叫んだかと思うと自室に駆け込んで…
まぁ、実はかずさの大ファンだった自分の彼女に連絡してすぐに家に来させて、かずさに紹介して自分の株を上げてたっけな。

暫くすると玄関の方で声が聞こえてきた。
「あ、姉ちゃんたち、帰って来たかな」
「ただいまー、あ、春希君いらっしゃい」
雪菜が笑顔とともに駆け寄ってくる。
「おじゃまします、春希、久しぶりだな」
かずさも屈託の無い笑顔を春希に向ける。
「先週も会っただろ、それよりも、あと2人って…あまり見かけないというか、けっこう年上の人か?」
玄関先からこちらに来ようとしている2人を見て春希は言った。
「あ、おじゃまします。すみません、突然押しかけちゃって…」
顔を上げたその女性の顔をみた瞬間に、春希の思考が停止した。
「え……?」
「えっと、北原春希さんですよね、はじめまして、緒方理奈です」
聞こえているのだが、思考が復活しない様子だ。
「は…はぁ…」
「もう、春希君ったら、社会人なんだから挨拶ぐらいちゃんとしてよね」
雪菜は口調は怒っているが、目はどうしようもなく笑っている。
「そうそう、ホントにお前は社会人失格だな…くくっ」
かずさも必死に笑いを堪えている。
「あ…あの…どうも、北原です」
極端なほど深々と頭を下げると理奈の後ろから声が聞こえた。
「あの、北原さん、こ…これに、サインをお願いします!!」
目の前にかずさのミニアルバムのジャケットが差し出された。
「もう、由綺、何度言ったら分かるの?そういうことはちゃんと挨拶してから!」
「あ、ごめんなさい、えっと、はじめまして、……『森川由綺』です」
「……」
春希はすでに言葉を失っていた。



数日後、冬馬曜子オフィスに藤井からイブの番組のゴーサインが出たことと、CD発売イベント(披露宴)も会場を押さえて問題なく行える旨の通知があった。
雪菜の父がテレビカメラが入ることに難色を示したみたいだったが、どうやら家族全員によって説得されたらしかった。
朋から、当日まで楽しみを取っておいたほうがいいと提案されたため、番組やCDの打合せや収録には春希も雪菜も一切立ち会わないことにした。

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