……そして。

「……皆、本当にごめん!」
「……全くお前は、どこまで人騒がせなんだか」
「あたしらにはいいからさ、雪菜にちゃんと謝んなよ」
「それはもう、雪菜にはいの一番に謝った」

 いつもの居酒屋で頭を下げる春希に、溜息交じりの武也のツッコミが。
 依緒もジョッキを煽りながら、春希に追撃する。

「でもさ、無事に見付かって良かったよね。
 まあ、落ちてたのが姉ちゃんの部屋ってのがね」
「まあまあ、わたしはもう大丈夫だし、これ以上は」
「本当、北原さんにはどこまでも甘いんだから、雪菜ってば」

 何だかんだで、朋も孝宏も、今回の騒動が無事に済んでホッとしているのは確かで。

「……雪菜、本当にすまないな。あたしが余計なことをしたから」
「かずさは悪くないよ。だってかずさは春希くんを手伝おうとしてくれたんでしょう?」
「でもそのせいで二人が」
「ああもう、だからそのことはもういいの。誰も悪くないんだから」

 この席の中で、変装したかずさは委縮しっぱなしで、それが雪菜の目には何とも可愛く映るようだ。

「でも髪上げたかずさも可愛いよね。眼鏡も合ってるよ」
「そ……そうか?」
「うん。何度か見てるけどいつもと雰囲気違ってやっぱり可愛いよね」
「やめてくれ。背中がムズムズして落ち着かなくなる」
「あはは。やっぱりかずさってば可愛いなぁ」

 雪菜がかずさに抱き着き頬ずりまでする。かずさは雪菜にされるがままで、払いのけることも儘ならない。

「……春希。雪菜ちゃん、いつにも増して飛ばしてんなぁ」
「まあ、もともと雪菜はかずさが好きだからな」
「でもさ、あの勢いだと雪菜、あんたから冬馬さんに乗り換えるんじゃあ」
「……大丈夫だって」
「北原さん、今返事に詰まりましたよね?」
「まあ、かずさが日本に残るってことになってからかずさとはずっとあんな調子なんだよ」

 確かに、かずさの帰国、春希との結婚。雪菜にとって喜ばしいことが続き、まさに順風満帆といっていい状況なのだろう。





「じゃあ、わたしたちはこれで」
「本当に悪かったな今回は」

 店を出た後、春希と雪菜を見送り、残ったメンバーは安堵の表情を交わした。

「やれやれ。何とか無事に収まったか」
「本当にあの二人、いい加減落ち着いてもらいたいもんだよね」
「本当にごめん。姉ちゃんが色々と」
「雪菜は悪くないって。悪いのは北原さんだし」
「いや、二人のせいじゃない。あたしが軽率だったんだ」

 でもやっぱり万事めでたしという訳にはいかないようだった。

「あたしがもっと二人のことを考えて行動していれば」
「もうよせ冬馬。済んだこと一々取り上げてたらキリがねえ」
「そうだよ。無事解決できたんだからいいじゃん」
「姉ちゃんのこと気にしてたら終わらないよ」
「……まあ、これ以上何も起こらなければ問題ないけど」

 それでも、あの二人が笑顔でいられているのなら、それでいいとも思っている。
 一同は、今の二人を信じることで決着した。

「じゃあ、これからどうする?」
「久しぶりに集まったし、続ける?」
「俺もいい?明日は大学も休みだし」
「孝宏、お前就活はどうしたんだ?」
「俺にはまだまだ先だし。それに社会人の先輩の意見聞くのもいいかなって」
「……飲み会の理由を上手くこじつけたわね」
「あいかわらずしたたかだね」
「いいよね、別に。俺も一緒で」
「まあ、来たいなら来い。今回はお前も頑張ったしな」
「……じゃああたしはこれで……」
「よし、冬馬、行くぞ」
「……え?」

 帰ろうとしたかずさに、武也が声を掛ける。

「久しぶりに皆で集まったんだ。お前も付き合えよ」
「で、でもあたしは」
「何?この後予定あんの?」
「いや……ないけど」
「じゃあいいよね。冬馬さんの話も色々聞きたいし俺」
「でも、いいのか部長?あたしなんかが」
「いいに決まってんだろ?友達なんだからさ」

 あっさりと言い放った武也に、かずさは目を見張った。

「ん?どうした?」
「い、いや。じゃあ、たまにはあたしも付き合うか」
「よし、行こう。春希と雪菜を肴に」
「ああもう、あの二人今頃思いっきりいちゃついてるんだろうなぁ」

 彼等の後ろ姿を見て、戻ってこられたのだとかずさは思っていた。
 一度は閉ざしてしまった繋がり。そしてまた掴むことができた友情。
 ……もう、決して離してはいけない。
 かずさは、自分を受け止めてくれる友人達に、ひっそりと感謝した。





 春希と雪菜は、かずさ達と別れた後そのまま御宿の駅へ向かっていた。

「……よかったのかな?あのまま帰っちゃって」
「まあ、事情は説明したし。いいだろ?皆も分かってくれるって」
「皆には本当に心配させちゃったね」
「まあ、今度ちゃんと埋め合わせしないとな」

 春希のマンションに帰宅し、テーブルに着いてからお茶を入れて一服した。

「……なあ雪菜。俺たち、一緒に住まないか?」
「え……?」
「ああ。俺たち、婚約もした。指輪も無事に渡せた。
 俺、雪菜と一緒に暮らしたいんだ」
「それって……同棲ってこと、だよね?」
「ああ。今度みたいなことがないようにもさ。
 もう俺、雪菜に心配させたくないし、悲しませたくないし」
「春希くん……」
「俺、雪菜を愛してるから。離したくないから」
「で、でも」
「ダメ……かな?」

 雪菜の表情は、驚き、困惑、喜び、様々な感情が混ざっている。
 春希はただ、じっと雪菜の返事を待っていた。

「でも、結婚前なのに、きっとお父さんは許してくれないよ」
「俺は、雪菜の気持ちを聞いてるんだ。どうなの?」
「わたしは……春希くんと一緒に暮らしたい、よ」
「それじゃあ」
「でも、やっぱりお父さんは」
「雪菜は、俺と一緒に暮らしたいんだろう?」
「そうだけど、でも」
「なら心配はいらない。俺が説得する」
「え……」
「俺たちは一緒に暮らしたいと思ってるんだ。だったらそうすればいい」
「春希、くん……」
「俺たちは、自分たちがそうしたいと思ったことをすればいいと思う。
 俺たちは二人で前に進むって決めたんだから」

『俺が叱られるから。一緒に謝りに行くから。
 ……許してもらえるまで、毎日』
『だから、人がどう思うかなんて気にしないでいい。
 自分の気持ちだけで決めてくれればいいから』

「あ……」
「そもそも雪菜がワガママだなんて、小木曽家じゃ当たり前だろ?」
「ああもう、ひどいよ春希くん」
「ごめんごめん。でもまあ、俺が何を言いたいかは分かるだろ?」
「うん。じゃあ二人で説得しよう?」
「ああ。二人で叱られに行こうか」

 春希はそっと雪菜を抱き寄せ、雪菜も春希の首に腕を回した。
 お互いに見詰めあい、そっと唇を重ねる。
 ……雪菜の胸元で、銀の輝きが光る。
 かつての誕生日で春希から貰った、銀の指輪が。





『どう、春希くん?』
『ああ、よく似合ってるよ』
『何だかわたし、春希くんから貰ったものばっかりだね』
『……言われてみれば、これで何個目になるんだろうな』
『でもいいんだ。今のわたし、春希くんに包まれてるから』
『……言ってて恥ずかしくならない?』





 春希が雪菜へのプレゼントを買うのに何度か利用した店で、雪菜は春希から貰った銀の指輪をネックレスに通してペンダントに仕立てた。
 今の指輪が婚姻の証ならば、この指輪は二人が共に歩むと誓った証。
 二人の愛の再出発の証なのだから。
 だから雪菜は決して離さずに身に着ける。春希への想いはこれからも決して変わらない想いだから。
 そして二人で進んでいく。新たな、輝かしい未来へと。
 そのための二人の誓いの証として。
 二つの指輪に、お互いの想いを込めて。
 二人の物語は、続いていく。



あとがき

 これにて「リング~ring~」は終了です。
 何とか打ち切りにならなくてよかったです(笑)。
 もしよろしければですが感想などもいただければ。
 それを元に精進できればと思っています。
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このページへのコメント

感想ありがとうございます。
返事が遅れてしまいましてすみませんでした。
これからも少しずつ書いていこうかな、と
思っていますのでこれからも宜しくお願いします。

0
Posted by M+2BrIvTRQ 2012年05月05日(土) 22:00:30 返信

長編お疲れ様です。
CCの後日談共々、長いあいだ楽しませていただきました。
文章も上手くて読みやすかったです。
これからも頑張ってください。

0
Posted by 名無し 2012年04月30日(月) 20:29:17 返信

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