第20話



2-1 かずさ ウィーン 冬馬宅 3月14日 月曜日



ゆっくりとゆっくりとだがウィーンでも冬の終わり迎えようとしていた。
さすがに朝晩は冷え込み、冬の終わりなどまだ先だとコートの襟元をきつく締めるが、
昼間になれば、心地よい日差しが眠気を誘うようになってきている。
但し、一日中エアコンが効いた室内でピアノに向かっているかずさにとっては
もはや季節の移り変わりなど、とるにたらない情報にすぎないが・・・・・・。
それでも時間があれば毎日のようにやってくる母曜子の服装を見れば季節の移り変わりや、
その日のイベントなどがわかりもしたが、
それさえもかずさにとっては意味をなさない情報であった。
といっても、母が来ているときのピアノの音色は、
一人でいるときよりも陽気で小生意気な音色が混ざり合ってるのだが、
その事を知っているのは曜子ただ一人であり、
曜子もそれをかずさに伝えようとはしなかった。
なにせ曜子と同じようにちょっと捻くれている娘でもあるわけで、
仮に伝えたとしても決して認めないだろうし、かえって意固地にもなってしまうだろう。
だったら、曜子の心の中にとどめて、曜子一人がその小さな秘密を楽しんだ方が
建設的であり、そしてなによりも愉快でもあるともいえた。
そして、この日も曜子はかずさに季節のイベントを届けようとしていた。

かずさ「いつまでもそこに立っていられると迷惑なんだけど」

曜子「そう? いつも私がいても、いないのと同じような扱いじゃない?」

かずさ「ピアノに集中しているだけだ。
    それでも、ずっとそんなところにつったっていられると目障りだ」

実際、曜子が立っていようが座っていようが、かずさが気にする事はない。
ただ、曜子の様子がいつもと違うから気になってしまう。
曜子が部屋に入ってきてからすでに一時間は過ぎたというのに、
いつまでもかずさから曜子の姿が全て見える入り口でずっと立っている。。
普段なら、黙ってそのままソファーに腰をかけている。
ときたま二言三言その日見つけたスウィーツの話題を振ってくるくらいで、
黙って入口の側で立っているなんて異常だ。
だから、かずさのピアノの音色には、陽気さも小生意気さも混ざらず、むしろ
疑惑や困惑がにじみ出てしまっていた。
そんな微妙な変化も、曜子にとっては格好の獲物であり、にやにやと娘を見つめるだけで、
その状況を楽しんでいるわけでもあるのだが・・・・・・。

曜子「そうかしら? 別に私がどこで演奏を聴こうが勝手じゃない。
   それともコンサートやコンクールに、自分が気に食わない客がいたら
   演奏がおろそかになってしまうのかしら?」

かずさ「そんなわけあるか。
    あたしはいつだって同じ気持ちでピアノに向き合っている。
    だから、どんな状況であろうと、たとえあんたがコンクール前日に
    くたばったとしても、いつもと同じように演奏できるさ」

曜子「そっか」

曜子は、舐めまわすようにかずさを上から下まで視線を這わすと、すっと目を細める。
そして、おもむろにずっとかずさに見えるように持っていた白い紙袋を肩に這わせ
ソファーに向かっていく。
一歩、一歩、ゆっくりと進む様は、さらにかずさの心を逆なでする。
曜子の指先にかかった紙袋は、曜子が一歩足を進めるごとに揺れ動いて、
それされもなぜだか無性に腹が立ってしまった。

かずさ「座るんなら、とっとと座れってくれ。
    そんなわざとらしく歩かれると、気になってしょうがない」

曜子「そう? 別に私のことなんて気にしないんじゃなかったかしら?
   たとえ私が死んでも、いつも通り演奏するらしいんだから
   たとえ私がわざとらしく歩いたとしても、いつも通り演奏すればいいじゃない」

しかも、今度は挑発的な笑みを従えて、挑発する言葉を投げかけてくるんだから
もはやピアノに集中などできやしない。
それでもかずさは意地でも演奏を止めないあたりは、似たもの親子であった。
たとえ本人達は認める事はないかもしれないが、彼女らを知っている者に聞けば
全員一致の解答を得られるはずだ。

かずさ「もう勝手にしてくれ。あたしは練習があるから、邪魔だけはするなよ」

そう宣言すると、曜子の返事も聞かずに演奏に没頭しようとした。

曜子「ふぅ〜ん・・・・・・」

曜子は、わざとらしくつまらなそうにつぶやくと、ごそごそと白い紙袋から
金色のラッピングがされている箱らしきものを取り出す。
そして、するすると金色のリボンをほどいていく。
すると、ほどなくして中から金色の箱が登場する。
いくら曜子の行動を視界の外に追い出そうとしても、わざとらしく行動するものだから
かずさはその様子が気になってしょうがなかった。
曜子も、かずさが時折視線を向けるのを確認しながらラッピングを剥いでいったが、
かずさがまんまと曜子の作戦に乗ってきてくれるものだから、
曜子は笑みをかみ殺す方に必死であった。
そして、曜子は、箱におさまっている小さな物体を一つつまみあげると、
かずさに見せびらかすように聞く。

曜子「ねえ、かずさぁ。あなたも食べるぅ?
   たぶん、すっごく美味しいわよ」

かずさ「いらない。あたしは練習に忙しいんだ」

曜子「そう? じゃあ、食べてもいいのね?」

かずさ「勝手にどうぞ」

曜子「ふぅ〜ん・・・。あとで泣いても知らないわよ?」

かずさ「しつこいぞ。食べたいんなら、勝手に食べればいいだろ」

かずさは、そう切り捨てると、曜子に向けていた視線も全て打ち切ろうとした。

曜子「はぁ〜い。勝手に食べますよぉ〜だっ」

曜子は綺麗に小さな物体の包み紙を剥いでいくと、中の茶色い物体に軽くキスをする。

曜子「いただきま〜す」

かずさ「はい、はい。どうぞ」

もはやかずさは曜子を見ていなかった。
見ていないどころか、目を閉じていたのだから何も見えないのだが。

曜子「うぅ〜んっ。美味しいわね。さすがベルギー王室御用達のチョコレートね」

かずさ「ふぅ〜ん」

曜子「2個目も食べちゃうわよ?」

かずさ「だから、勝手にどうぞ」

曜子「はぁ〜い。・・・・・・・でも、春希君も律儀にもホワイトデーに間に合うように
   お返しを送ってくるんだから、まめよねぇ」

ピアノの音が途切れる。
それもそのはず。なにせグランドピアノの椅子には演奏者がいないのだから。
つい数秒前まではいたはずなのに、曜子の言葉が終わるや否や、
椅子を押し倒して曜子が座るソファーへと駆け出していた。

かずさ「ちょっと待てっ! ねえ、ストップ!」

曜子はかずさが駆け寄ってくるのを確認すると、
今度もわざとらしくチョコレートを口に放り込む。
かずさは、それと止めようと必死に手を伸ばしたが、曜子のほうも、
かずさの動きを読んで行動しているわけだから、かずさの手が惜しくも届かないあたりで
わざとらしくチョコレートを口の中へと入れていた。

かずさ「あぁあ〜〜! なんで食べるんだよ。ねぇ、ねぇったら」

曜子「うん、美味しいっ」

かずさは、半泣きでその場に崩れ落ちそうになるが、曜子の手にはまだチョコレートが
詰まった箱が握られているのを確認すると、もう一度曜子に襲いかかろうとする。

曜子「はい、ストップ。そんな手荒い方法で掴み取ろうとしたら、
   せっかくのプレゼントがぐちゃぐちゃになってしまうわよ」

この一言は、十分すぎるほどかずさには効果があった。
再び曜子にあと数センチというところまで迫ったというのに、
かずさは再び手を伸ばすのをやめるしかない。

かずさ「うぅ〜・・・・・・・」

曜子「にらんだって無駄よ。だから、食べたいかって聞いたじゃない」

かずさ「春希からだなんて聞いてないっ!」

曜子「私は、食べたいかって聞いたじゃない?」

かずさ「春希からだなんて聞いてない」

曜子「だって、今日はホワイトデーよ。そのぐらい察しなさいよ」

かずさ「えっ? 今日、ホワイトデーだったの?」

かずさは、間の抜けた顔をして、曜子に今日の日付を尋ねてしまう。
なにせかずさは、本当に今日が何日かわかっていなかった。
もしかすると、何月かさえわかっていなかったかもしれない。

曜子「少しは外の事も知っておきなさい。
   ほんっと、あなたはレッスンに行く時くらいしか外に出てこないんだから」

かずさ「それだけピアノに集中してるってことだろ」

曜子「練習も大事だけど、外から受ける刺激もピアノを上達させるには大切な事よ」

かずさ「それなら問題ない」

曜子「なによそれ。あなたの生活を見て、どうやったらそう判断できるのよ」

かずさ「たった二ヶ月ほどだったけど、日本での生活は何年分にも匹敵するはずだよ。
    ううん、それ以上に大切な日々だったんだ。
    だから、これから2年部屋に閉じこもって生活したとしても全く問題ない」

曜子「へぇ、言うようになったじゃない。
   でも、何年分にも匹敵するって言っておきながら、
   二年しか引きこもっていられないのね」

かずさ「そ、それは・・・・・・」

かずさは、曜子の視線から逃げるように顔をそらし、恥ずかしそうに呟く。
曜子も、最近ではかずさの扱いに慣れてきたのか、かずさから言葉を引き出す為に
余計な横槍を入れるような事はしなかった。
但し、かずさは恥ずかしさのあまり気が付いていなかったが、
かずさを見つめる曜子の視線は、いやらしいほどにニヤついていた。

かずさ「2年以上も春希にあえないでいるのは、あたしが耐えられないだろ。
    だから、さっさとコンクールで満足がいく結果を残して、
    胸を張って春希に会いに行くんだ」

曜子「へぇ・・・ふぅ〜ん」

意外にもあっさり曜子が欲しい言葉を手に入れることができたので、
曜子はもはや手加減などしない。
横槍も入れるし、挑発もする。なにせ面白におもちゃが目の前に転がっているのに
遊ばないだなんてもったいなすぎる。

かずさ「な・・・なんだよ」

曜子「べっつにぃ。私は、相槌を打っただけよ」

かずさ「なんか含みがある言い方だったぞ。言いたい事があるんなら言えばいいじゃないか」

曜子「言ってもいいの?」

かずさ「いや、言わなくていい」

曜子「そう?」

かずさ「そうだ・・・って、チョコレートッ!
    春希のチョコレート、勝手に食べやがって!」

話が逸れていたが、再び春希のチョコレートを思いだしたかずさは、
再び曜子に襲いかかろうと低く身構えたが、
春希のチョコレートを傷つけてはいけまいと動けないでいた。

かずさ「春希のチョコレートを盾にするだなんて卑怯だぞ。春希のチョコレート返せ」

曜子「返せって、心外ね。このチョコレートは、私のよ」

かずさ「何を言ってるんだ。春希からのヴァレンタインのお返しだって言ったじゃないか」

曜子「そうよ」

曜子がすまし顔でこたえるものだから、かずさの怒りはますます増すばかり。
あと数十秒このままの状態であったら、多少春希のチョコレートに傷がつこうが
襲い掛かって奪い取っていたかもしれなかった。

かずさ「だったら、あたしのチョコレートじゃないか」

曜子「な〜に言っちゃってるの。
   こ・れ・は・・・、
   私が春希君にあげた義理の母親からの義理チョコに対するお返しよ」

かずさ「は?」

かずさは、意外な解答に怒りが霧散してしまう。
曜子が何をいっているのか理解できなかった。
自分宛へのチョコレートではないことは、どうにか理解できたのだが、
それ以外は頭で理解しようとしても、ぽろぽろと頭から抜け落ちてしまっている。

曜子「そういう顔していると、ただでさえお頭が弱いのに、余計馬鹿っぽくみえちゃうわよ」

かずさ「え?」

もう曜子の言葉を理解することもできなかった。
かずさは、首をかしげて、ぼけっと曜子が持つチョコレートの箱を見つめていた。

あたしへのチョコじゃないんだ。
えっと・・・、母さんへの、お返し?
義理の義理チョコ? 
は?
ああ、義理の母親があげた義理チョコか。
なんだ、そうか。
じゃあ、その義理の母親の娘へのチョコレートは、どうなったんだ?
あたしも春希にヴァレンタインのチョコあげたのに・・・・・・。
なんで、母さんにだけはお返しがきて、あたしにはきてないんだ?
義理?
義理チョコだから、お返しがきたのか?
あたしのは、本命チョコだから、お返しくれないってこと?
それって、あたしのことが邪魔ってことなのかな?
だって、本命なんだぞ。
あたしは、春希が大好きなんだぞ。
それなのに、そんなあたしが渡した本命チョコはいらなかったってことなのか。
そうか、義理なら義理でお返しできるよな。
でも、本命だったら、好きでもない相手から貰っても、迷惑なだけ・・・・・・・

曜子「かずさ?」

曜子の呼びかかけにかずさは返事をすることはない。
もはや曜子の言葉など、かずさには届かないでいた。

曜子「かずさったら。ねえ、なんで泣いてるのよ」

かずさの急変に曜子は取り乱してしまう。
手に持っていたチョコレートの箱はソファーに置き、慌ててソファーの下に腰をおろして
かずさの様子を伺った。
かずさの顔を覗き込むと、頬にうっすらと細い透明な線が刻まれていた。
細い線だったのも数秒だけで、今はあふれ出た涙によって太く刻まれていく。

曜子「かずさったら」

かずさ「え?」

曜子に肩を揺さぶられることによってようやく今いる自分を取り戻す。
しかし、あふれ出る感情を押しとどめる事はかずさには無理で、
際限なく湧き出る悲しみに、嗚咽を漏らすしかできなかった。

曜子「どうしちゃったのよ。いきなり泣き出して」

かずさ「だって、・・・だって、春希はあたしへのお返しはくれないんだろ。
    それってつまり、あたしとは付き合えないってことじゃないか。
    ・・・・・・やっぱり大晦日の日の見栄なんか張らないで春希に
    会っておけばよかったんだ。
    そうだよ、ウィーンになんかに戻らないで、日本にいればよかったんだ」

曜子「ちょっと、ちょっと待ってよ、かずさ。ねえったら」

勝手に自己完結していくかずさに追いつけない曜子は、ただただ慌てることしかできない。
そうこうしているうちに、このままほっといたら、今にもかずさは家を飛び出して
本当に日本に行ってしまう勢いでもあった。

曜子「あるわよ。ちゃんとかずさの分のチョコレートもあるわよ」

かずさの目の前に突き出された紙袋の中身を恐る恐る覗きこむと
曜子のいう通りチョコレートの箱らしき包み紙と、もうひとつ細長い包み紙が入っていた。

かずさ「これ、春希からあたしに?」

曜子「そうよ、春希君からあなたによ。もうっ、ちょっとからかっただけなのに
   見事に大暴走しちゃって。ちょっとは日付感覚くらいは持ちなさいよ」

かずさ「しょうがないだろ、コンクールに向けて頑張ってるんだから」

曜子「それはわかってるけど・・・・・・」

かずさ「母さんがいけないんだぞ。
    毎日練習に励んでいるあたしをからかおうだなんてするから。
    それも春希を絡めてくるだなんて最低だな」

曜子「ちょっと待ってよ。こうやってあなたの為に春希君にヴァレンタインのチョコを
   渡してあげたから、今日ここにお返しが来たのよ」

かずさ「それはありがたいとは思ってるけど、やっていい冗談と悪い冗談がある。
    あたしに対して春希関連は全て冗談にはならない」

曜子「そうはっきり宣言されちゃうと困っちゃんだけど、
   たしかにそうだから困ったものね」

かずさ「だろう? だったら最初から素直にチョコレートを渡せばよかったんだ」

偉そうに説教をするかずさに、曜子は何か釈然としない。
さっきまでこの世の絶望に叩き落とされた顔をしていたと思ったのに
いまは鼻息荒くチョコレートを抱きかかえている姿を見れば、
だれだって釈然としないだろう。

曜子「もういいわ。私が悪かったわ。反省してる」

かずさ「わかればよろしい」

かずさの偉そうな態度に曜子は白旗をあげたが、
久しぶりに見たかずさの生き生きとした顔をみると、
ちょっとやりすぎたかなと本当に反省していた。

曜子「ねえ、チョコレートは同じみたいなんだけど、その細長い方のだけは
   私のには入ってなかったのよね。
   だ・か・ら、それちょうだい」

かずさ「あげるわけないだろ!」

曜子がにじり寄ってくる姿を見て、かずさは急いで逃げようとする。
その姿を見て、またしても曜子は子憎たらしい笑顔を見せる。
数秒前に「反省」したというのに、
どうやら曜子には「反省を生かす」という文字は存在していないらしい。

曜子「嘘よ、嘘。でも、中身は気になるから、教えてくれないかしら?」

かずさ「本当にあげないからな。見せるだけだぞ」

かずさは疑い深い目で曜子を観察するが、いたっていつも通りのひょうひょうと
している曜子の姿に、深くため息をつくしかなかった。

かずさ「・・・・・・わかったよ。見せるだけだからな」

そうかずさが宣言すると、曜子はいそいそとかずさの隣に陣取って、
かずさが包み紙をあけるのと好奇心一杯の目でその時を待った。

かずさ「犬?」

包み紙を丁寧にあけると、中には棒付きのキャンディーが一つ入っていた。
何か犬のキャラクターみたいで、行儀よくお座りをしている。
かずさは、角度を変えてキャンディーを眺めるが、
これといってなにか特別なことがあるようには見えなかった。
それでも、春希がくれたものだから、とても大切なものには違いはないが。

曜子「なるほどねぇ」

かずさ「なにがなるほどねぇだ。わかったんなら、さっさと教えてよ」

曜子「へぇ。それが教えを請う者の態度なの?」

かずさ「おしえてくださいおかあさま」

一刻も早くキャンディーの謎を知りたいかずさは、なにも感情がこもっていない棒読みの
セリフではあるが、曜子に教えを請う。
そんなかずさの態度も計算通りなのか、曜子は一つなにか満足すると
素直にかずさに教えてるのであった。

曜子「教えるのはいいんだけど、その前にホワイトデーの品物の意味って知ってる?」

かずさ「意味って、マシュマロとかキャンディーをヴァレンタインのお返しとして
    おくるだけだろ?
    ヴァレンタインと違って、お返しだから、本命とか義理なんかはないと思うけど」

曜子「それだけ?」

かずさ「それだけ?って、ホワイトデーなんて、ヴァレンタインのお返しの日なんだから
    他に何があるっていうんだ」

曜子「だから、お返しの品物自体に意味があるのよ」

かずさ「は?」

本当にかずさはわかっていないらしい。
間の抜けた顔をして、曜子を見つめていた。

曜子「まあ、俗説みたいなもので、あまり意識しない人も多いみたいだけど、
   ホワイトデーのお返しって、何を思い浮かべる?」

かずさ「あれだろ? キャンディーやマシュマロくらいだろ?」

曜子「そうね。あとクッキーも定番ね。それを考えるとチョコレートを贈った春希君は
   ちょっと異例だけど、チョコレートを贈るのも間違いってわけでもないのよね」

かずさ「何が言いたいんだよ」

なかなか話が進まない曜子に、かずさはいらだちを見せ始める。
そもそも曜子が素直にチョコレートを渡していればという根本にまで遡って
怒り出しそうな勢いも垣間見え始めていた。

曜子「だから、キャンディー、マシュマロ、クッキーには意味があるのよ」

かずさ「へえ・・・」

曜子「へえって、本当に知らなかったの?」

かずさ「だって、今回のヴァレンタインで初めてチョコレートを送ったんだから、
    知るわけないだろ」

曜子「そうだったの?」

かずさ「そうだったんだよ。送った事もないんだから、お返しも貰ったことがない。
   だから、貰いもしないお返しの意味なんて、興味を持つわけないだろ」

曜子「へえ・・・」

かずさ「へぇって、当たり前だろ。あたしは春希しか興味がなんだ」

曜子「なるほどぉ、そういう意味もあるわけだ」

曜子は、また勝手に自分一人理解するものだから、かずさのフラストレーションは
再び急上昇してしまう。
おそらく、そのすべての言動が曜子によって意図的になされ、
かずさをおちょくっているだけなのだろうが。

かずさ「もう、話さないなら母さんには聞かないからいい」

曜子「ちゃんと教えてあげるわよ」

かずさがいじけた顔をして顔をそらそうとするものだから、
曜子もそろそろ虐めるのはよしたようであった。

曜子「キャンディーはね、あなたのことが大好きですっていう意味よ」

曜子は、そのあともマシュマロやクッキーの意味も語っていたが
もはやかずさの耳には届いてはいなかった。
なにせ、遠い日本から愛のメッセージが届いたのだ。
今のかずさにこれ以上の重要事項があるだろうか。
曜子は、夢心地の愛娘を見て、今度は本気で虐めすぎたかなと
今日何度目かの反省をするのであった。








第20話 終劇
第21話に続く

このページへのコメント

2014年の3月に、初めてこのサイトにアップしたのをきっかけに
よくもまあここまで続けられてきたなぁとしみじみ思えてしまいます。
始まりは、スレでかずさNの別バージョンを作ってみたよと発言して、
それを読んでみたいとレスがあったのがきっかけでした。
そのレスをしてくださった人がいなければ、黒猫 with かずさ派は存在していません。
そして、今まで続けてこられてのは、皆さまの温かい励ましがあったからです。
これからも頑張っていきますので、宜しくお願い致します。

0
Posted by 黒猫 2014年10月28日(火) 02:42:49 返信

春希絡みの事になるとピアノの事すら後回しになるほど一途になるかずさに半ば呆れる曜子さんという冬馬親子の会話は読んでいて楽しかったです。次回も楽しみにしています。

0
Posted by tune 2014年10月21日(火) 04:13:53 返信

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