第56話


同日夜 麻理


 編集部で冬馬さん達との打ち合わせを終えると、かずささんはさっそく練習へと向かった。
本来なら気持ちを乱す行為は避けなくてはならない時期であるのに、
本当に申し訳なく思ってしまう。
 だから、早く練習に向かいたいというかずささんの要望を聞き入れ、打ち合わせも
短めに終わらせることにした。細かい内容は曜子さんと直接話し合えばいいし、
かずささんの取材も基本的にはその人柄を見る事が重要である。
 そもそも色々と質問したとしてもまともな回答を得られないだろうし……。
これは春希からの情報だけど、きっとその通りなのだろうと、先ほどの対面で実感した。
 私は曜子さんから受け取った地図を片手に、かずささんが練習をしているスタジオに向かった。
 このスタジオなら、わざわざうちで寝泊まりするよりは当初のホテルから通う方が
よっぽど時間を有効利用できるはずよね。それなのにうちでの生活を選んだという事は、
やっぱり私と春希のことに起因しているはずね。
 建物の中に入り、スタッフに用件を伝えると、スムーズにかずささんがいるスタジオを
教えてもらえた。
 このスタジオには他のコンクール参加者もいるようで、
スタジオ内での取材はしないようにと念を押される。
 この事から、曜子さんが私の素性をスタジオスタッフに伝えてあることが分かった。
自分から出版関係者であると名乗り出るほどでもないが、
あとあと面倒事に巻き込まれるとも限らない。
 そう考えると曜子さんの抜け目のなさを改めて実感してしまった。
 私は曜子さんの指示通り挨拶もなしにレッスンスタジオに入っていく。
 かずささんは曜子さんのいう通り私の事など目には入っていなかった。
その代わりというわけでもないが、室内に二つ用意されていた椅子のうちの一つに
座っている曜子さんが私を出迎えてくれた。
 もう一つのほうの椅子に私に座れということなのだろうか。
 いつまでも立っているのもそれこそ練習の邪魔だと思うので、
空いている椅子の方に座り、大人しく練習が終わるのを待った。

曜子「今日はここまでにしましょうか」

かずさ「もう少しできるけど?」

曜子「ううん。今日は荷物を風岡さんのお宅に運んでもらっているし、
   しばらくお世話になるんだからあまり遅くまで練習しなくていいわ」

麻理「こちらのことはお構いなく、納得するまで練習してくだって構いませんよ」

かずさ「……わかったよ。今日はここまでにする」

曜子「そ、じゃあ風岡さん後よろしくね」

麻理「はい」

 曜子さんの練習ストップの要請にかずささんは最初こそ拒否の意思を示したが、
それもすぐに撤回される。
 その辺の事情は特に問題はないのよね。問題があるとすれば、
というか気になる点があると言えば、
練習が終わったら曜子さんはすぐに部屋から出ていったけど、どういう事かしら?
 資料によると、曜子さんの師匠でもあるフリューゲル氏にかずささんも教わっていると
記されている。それでも曜子さんによるなにかしらのレッスンもしているだろうし。
 だから、練習後にアドバイスや気がついた点を伝えると思っていのだけど……。
 それとも、私に聞かれると困る事があるとか?
 そもそもアドバイスは私が来る前に済ませてあったとか?
 曜子さんに策士としての印象を抱かずにはいられないけど、
どうしてもその実態がつかめないのよね。

かずさ「あのさ……」

麻理「はい?」

 顔をあげると、かずささんは既に帰る支度をしませたようで、
部屋の入り口で私を待っていた。

かずさ「案内してくれないとわからないんだけど」

麻理「すみません。今お連れしますね」

かずさ「あぁ、頼むよ」

 とても嫌われてしまうようなことをしてきたのに、
これといって露骨に嫌そうな態度はみせないのよね。
 ……同時に、好かれているようにも見えないけど。
 私の方もできる限り好意的に接すように努めようとする。
かずささんを自宅まで案内する途中、私の横に並んではくれないけど、
斜めに一歩下がった位置を保ったまま付いてきてくれた。
 ただ、スタジオを出るときに交わした言葉を最後に、
私も、そしてかずささんも言葉を発してはいない。
 外から見れば一見穏やかに見える二人の空間は、一歩二人の中に踏み込めば、
おそらく混沌としていたのだろう。
私たち自身がどうふるまっていいかさえわからないのだから当然とも言える。
 それでも私たちは共通の男性をこれ以上困らせたくない気持ちだけは一致しており、
現状をより悪化させない事に尽くしていた。

麻理「かずささんの荷物やベッドは届いているみたいです。そしてこの部屋がかずささん
   の部屋になります。狭くて申し訳ないのですが……。
   でも、部屋を交換したくなりましたらいつでも仰ってください」

 かずささんように用意した部屋には既にベッドと荷物が運び込まれ、
掃除もされているようであった。
 春希がかずささんが気持ちよく部屋を使えるようにと掃除したようね。
 春希は打ち合わせの後、レンタルベッドの手配と荷物の受け取りの為に先に帰宅していた。
 その春希といえばは、現在スーパーに必要物資を調達に出かけている。
メールでは、それほど時間はかからないとのことなのでもうじき帰ってくるのだろう。
 私との共同生活でも見せたまめな性格がここでも伺え、微笑ましく思えるのだけれど、
最愛の彼女にしてあげているという事実を目の当たりにすると、私の胸はちくりと痛んだ。

かずさ「あのさぁ」

麻理「はい、なんでしょうか?」

かずさ「ううん、なんでもない」

麻理「そうですか? ……北原、でしたらもうすぐ戻ってくると思いますよ。かずささん
   に頼まれた品を買いに行っていますが、もうすぐ戻ってくるとメールがありましたから」

 近所の店で間に合いそうであるので、それほどは時間はかからないだろう。
 それに、編集部できっちりとかずささんから買うものを聞きだし、
リストまで作ったのだから短時間で買い物は終わってしまうはずだ。
 編集部で、春希がリストを作る行為を見て自然と笑みが浮かんだ。
ただ、かずささんも私と同様の表情を浮かべているのを見た時は心が痛む。
 きっと高校生の時の春希も同じようなことをしていたのね。
そして、かずささんもその姿を何度も…………。

かずさ「あのさ……」

麻理「はい?」

かずさ「あたしに対して敬語はいいから。しばらく一緒に暮らさないといけないのに、
    堅苦しい態度を取られると息が詰まるよ」

麻理「かずささんがそうおっしゃるのでしたら、そのようにしますが」

かずさ「そうしてくれると助かる」

麻理「はい」

かずさ「あとさ……」

麻理「なにかしら?」

 ちょっとわざとらしい口調になったけど、しょうがないかな。
 でも、かずささんはいまだに何だか思い悩んでいるような表情を浮かべているし、
私の口調、まだかたかったのかしら?
 それともやっぱり、春希が一緒じゃないと緊張してるとか?
 まあ、恋敵とまではいかないけど、私は邪魔ものだものね。

かずさ「うん、あのさ……」

麻理「……ええ」

かずさ「……あのさ、無理に北原って呼ばなくていいよ。だって風岡さんも春希の事を
    春希って呼んでいるんでだろ?」

麻理「……あっ」

 そうよね。気になるわよね。だって私が春希の事を北原って呼んだ時の口調は、
かずささんに敬語を使わないとき以上に不自然だったって、自分でもわかったもの。

かずさ「別にあたしのことを気にして変えなくてもいいよ。そんなことをしたら春希も
    気を使うだろうし、あたしも気をつかっちゃうからさ」

麻理「わかったわ。……ありがとう」

かずさ「風岡さんだけの為じゃないし、礼を言われるような事でもないよ」

麻理「そうかもしれないけど、私は、……私はたくさん春希とかずささんに迷惑を
   かけてきたから。だから……、ごめんなさい」

かずさ「……謝罪もいらない。ここで謝罪されると春希を否定することになる。
    だから謝罪するのだけはやめてほしい」

麻理「でもっ」

 春希から聞いていたかずささんとは別人のような気がしてしまう。 
 それはきっと春希の前だからこそ見せていた姿なのかもしれないけど、高校時代の
冬馬かずさがクラスメイトや教師に見せていたような姿とも違うような気がしてしまった。
 そう、極論なのかもしれないけど、
冷静さを保とうとする北原春希を真似しようとしているとも……。

かずさ「いいんだ」

麻理「でもっ、私は……。かずささんから春希を引き離した。春希はすぐにでもかずさ
   さんの元に行きたいのに、私のせいでできなくなってしまったのよ。だから、私がっ」

かずさ「やめろっ!」

 両手のこぶしを握りしめ、何もない宙を叩きつける。
 さすがピアニストね。
 どんなに怒りを我慢できなくなっても手だけは痛めつけないのねって冷静に分析する
自分がいるのと同時に、自分の認識が間違っていた事に気がついていく。
 かずささんは別に冷静さを保とうとしていたわけじゃない。
 私を許そうとかしていたわけでもない。
 すべては春希の為。
 春希を困らせないようにと必死だっただけなのね。
 だから慣れない環境であっても、この家にいるだけで胸が張り裂けそうであっても、
自分が暴走するのを我慢していたのね。
 だって感情的に責めたら、春希が春希自身を許すことなんてなくなるって
わかっていたから。春希をこれ以上追い詰めない為だけに、彼女は必死だった。
 そして最悪のケースとして、最愛の人、冬馬かずさを傷つけるのであれば春希は
春希本人さえ消し去ってしまうだろう。それができる人だって、私たちは知っている。

かずさ「悪いけど一人にしてほしい」

麻理「わかったわ。春希が帰ってきたら教えるわね」

 かずささんは返事の代りに右手をあげると、毅然とした態度で自室へと入っていた。
 ぽすんとベッドがきしむ音が聞こえてはきたが、あとは何も聞こえてはこなかった。







数日後 かずさ


 風岡さんと暮らしてみて実感した事だけど、この人はすごい。それがすべてだった。
 あたしをこの家に連れてきた当日、あたしは感情的になってしまったのに、
風岡さんはずっと冷静にあたしに対応してくれた。
 あたしの心が静まるのを待ち、その日の食事はあたしと春希の二人っきりで
できるようにはからってもくれた。
 でも、あとから春希に聞いた話によると、風岡さんの病状は悪化していて
、今はわずかに取り戻した味覚さえ失ったとか。
 あたしが家に転がってきた当日なんかは、昼も夜も食事ができない状態だったらしい。
 それでも翌日の朝は三人で朝食をとったのだから、
その精神力の強さはかなわないと実感してしまった。
 今日は風岡さんも春希も編集部での仕事は休みだとか。
 それでも春希は自宅で仕事に追われていた。
 まっ、その仕事っていうのが、
なかなかまともなコメントを残さない取材相手のせいでもあるんだけど……。
 一方風岡さんはというと、あたしの練習に見学に来ており、
今は二人で昼食を取ろうとしていた。

かずさ「あのさ……すまない」

麻理「ううん。これが仕事だし、コメントだって意識的に考えて出たものよりは、
   自然とこぼれ出たコメントの方が貴重なのよ。
   だから、かずささんはピアノに集中していればいいわ」

かずさ「いや、違くてさ……」

 スタジオの備え付け休憩室は小さいながらもあたし達以外の利用者がいないおかげで
十分すぎるほどのスペースを確保できている。
 テーブルにはサンドイッチとミネラルウォーターが並んでいた。
 あたしが気にしてたことは、風岡さんが練習に付き合っている事でも、
食事に文句があるわけでもない。
 問題があるのは、あたしの目の前で風岡さんがサンドイッチを
食べようとしていた事だった。

かずさ「あのさ、大丈夫なの?」

 あたしの視線を追ってくれたのか、今度は意図が通じる。
それと同時に、大丈夫だという意思表示なのか、風岡さんはサンドイッチにかぶりついた。

麻理「あぁ、春希なしで食事ができるかってこと? 一応リハビリの一環として春希なし
   での食事もするようにしているのよ。まだ週一回くらいのペースだけどね」

 それは聞いているけど、そうじゃないだろ。だって、この前まで吐いて、
食べられない状態だって聞いているんだぞ。
 そりゃああたしの前では弱気な姿を見せたくはないだろうけど、
……でも、でもこれって強すぎるだろ。そんな人が相手だなんて、勝てないって。
 無理だろうがなんであろうと平常心を作り出そうとするその姿に、
あたしは勝てないと実感してしまう。
 この数日、風岡さんは無理に笑顔を作ろうとはしてこなかった。
でも、笑顔は無理でも普通に生活できるようにと努力していた。
 あたしはといえば、気持ちが抑えきれなくなったら部屋にこもり、
出来る限り汚いあたしを春希には見せないようにしていたにすぎない。

かずさ「そっか。あたしになにができるってわけでもないけど、
    無理だけはしないでほしい」

麻理「大丈夫よ。無理をしたって意味はないもの」

かずさ「そうだな。…………あのさ、味覚がないってどんな感じなんだ? ごめんっ。
    無神経だった。今のは忘れて欲しい」

麻理「別にいいのよ」

かずさ「でも……」

麻理「そうねぇ……、最初は驚いたけど、味覚がない事自体は慣れたわ」

かずさ「そうなのか?」

麻理「今はわずかだけど味覚が戻ってきたというのもあると思うけどね」

 たぶん風岡さんはあたしが春希から風岡さんが再び味覚を失った事を
聞いているってしらないんだ。
 でも、あたしが来る前までは味覚が少し戻ってきたのはほんとらしいし、嘘ではないか。
 それに、言葉にはしてないけど、春希がそばにいるっていうのもあるんだろうな。
あたしの前では言えないだろうけど。
 そんなあたしが考えている事に気がついたのか、
風岡さんは微妙な照れ笑いを浮かべると、その笑みを打ち消すように話を続けた。

麻理「でもね、味覚そのものは我慢できるけど、なんていうのかな、トラウマって
   いうの? 味覚がないだけで食べても気持ち悪くはならないはずなのに、
   一度気持ち悪くなってしまった恐怖なのかな。
   そういうのが残ってしまって食べるのが怖くなってしまったのはきついかな」

かずさ「それは…………」

麻理「春希が私の前からいなくなるという事が原因だけど、それも大丈夫だから」

 風岡さんはあたしが口にできなかった言葉を代りに紡ぐ。
 結局はあたしが無理やり言わせてしまったことに自責の念を抱かずにはいられなかった。
 やはりこの人は強い。このあたしにすら弱いところを隠さないなんて、
あたしなら絶対に無理だ。

麻理「そんなに身構えなくてもいいわ。春希はかずささんのことを一番に考えているわ。
   私のリハビリも春希のニューヨークでの研修までって決めてるから。
   だから、それまでは我慢してくださいとしかいえないけど」

かずさ「ううん、いいんだ。あたしが春希から逃げたのも原因の一つだから。
   でも、春希は知ってるのか? リハビリが研修終了までって」

麻理「まだ言ってないわ。だって私の体調が完全になおるのっていつになるか
   わからないもの。それなのに期限を決めるなんてことをしたら、
   春希にプレッシャーを与えてしまうわ」

かずさ「でも、…………研修が終わったらって」

麻理「まあ私の中で決めていることだけどね」

 それって…………あたしと同じように突然春希の目の前から消えるってことかよ。
 そんなことしたら春希が傷つくに決まってるじゃないか。

かずさ「駄目だっ!」

 静かな休憩室に声が響く。廊下にも声が漏れただろうが、幸い防音処置がされている
他の利用者がいるスタジオ内には聞こえてはいないようだ。廊下にいれば聞こえて
しまっただろうけど、今は目の前の風岡さんに…………いや、
あたしは春希の事を心配してしまった。
 風岡さんは、春希だけでなくあたしの事まで気にかけてくれているのに、あたしときたら
体調を壊している人を目の前にしながら、ここにはいない春希のことばかり考えていた。
 どこであっても春希が世界の中心で、どこまでも行っても春希しかいない世界。
 最近では母さんやフリューゲル先生もいることはいるけど、
それでも春希がいなければあたしの世界は成立しない。
 そんな独善的で独りよがりの世界は、あたし以上に春希を大切にしている存在を
前にすると、あたしはあたしの世界の幼稚さに打ちひしがれてしまう。
 だめだっ、逃げ出したい。
 今はピアノさえも弾きたくない。コンクールなんて無理に決まってる。
 ましてや今のあたしの演奏を春希に聴かせるなんて絶対にいやだ。
 母さんはあたしの演奏を聴いて何か思うところがあるみたいだったけど、
きっとあたしが今気がついた事に気が付いていたんだろうな。
 でも、なにも言ってこないって、放任主義にしてもやりすぎだよ。
こういうときくらいは助けてくれても…………。
 駄目だ。
 あたしったら今も誰かに頼ってしまってる。風岡さんは一人で頑張ろうとしているのに。
 あたしが春希を奪い去っていこうとしているのに…………。

麻理「大丈夫よ。いきなり春希の前から消えたりなんてしないわ」

 何も言ってないのにあたしの考えている事がわかるんだな。
 …………違うか。この人は、この女性は、あたしにそっくりなんだ。
 あたしができないことを実践してしまうところは大きく違うけど、
やっぱりこの人も春希が世界の中心で、春希の為を思って行動してるんだ。
 だから春希の為にそばから離れようとして、春希が冬馬かずさの元に行けるように
準備を進めているんだ。
 だとすれば、あたしの予想なんてあたってほしくはないけど、風岡さんの病状って、
あたしが思っているよりもよっぽど悪いんじゃ…………。

麻理「ちゃんと春希とは話しあうつもりよ。それも研修が終わる直前ではなくて、
   それなりに春希が気持ちの整理ができる時間もとるつもり。だから、春希が
   傷ついたままであることもないし、私の事が気がかりでかずささんのところに
   行けないなんてことはないわ。それに、私の職場は開桜社ニューヨーク支部だし、
   やめるつもりもないわ。だからね、どこかに消えようにも消えられないって
   言うのかしら? まあ、根っからのワーカーホリックだって言われそうだけど、
   こればっかりは自覚してるからしょうがないかな」

かずさ「あのさ……」

麻理「ん?」

かずさ「あの……………………、風岡さんっ!」

 今さっきまで笑顔だった風岡さんから表情が抜け落ち、同性のあたしからみても
華奢で女らしい肢体が目の前で崩れ落ちていく。
 腕か何かがに引っかかって椅子も倒れ、風岡さんの重さよりも椅子の方がよっぽど重い
んじゃないかって思えるほどその体は静かに床で弾む。
 椅子が倒れ、ガンっと響く音が風岡さんの代りに泣き叫んでいるようで、ここでも
風岡さんは自分の事を後回しにしているなんてどうしようもない事を考えてしまった。
 ようは、あたしは目の前で起こっている現実に理解が追い付いていっていなかった。
 今目の前で風岡さんが倒れ、助けが必要なはずなのに、あたしは何もできないでいる。
 そうか。そうだったんだ。だからか…………。
 あたしは、マンハッタンにある開桜社の会議室で春希に出会った時から現実を
受け入れてなかったんだ。
 テーブルを見渡すと、
ついさっきまで元気だった風岡さんが食べていたサンドイッチがおかれていた。
 それをよく見ると、パンには綺麗な歯型が残っていた。
 そう、歯型が綺麗に残っていて、パンを噛みきった跡など残ってはいない。
 つまり、風岡さんはサンドイッチを食べることができなかったんだ。



第56話 終劇
第57話につづく







第56話 あとがき

実はこの辺からプロットの手直しをした部分となります。
さすがに一年前は終盤で力尽きていたようで、今回どうにか挽回できたでしょうかね。
…………できたらいいな。

更新時間ですが、もうしばらく朝になったり夕方になったりと
不安定になるかもしれません。
大変申し訳ありませんが、ご了承してくださると助かります。

来週も月曜日に掲載できると思いますので、
また読んでくださると大変嬉しく思います。

黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

 麻理さんやかずさがお互いに遠慮をしていたり、想いや感情を押し殺して接してる描写が秀逸でした。
かずさのモノローグだけで説明されていた、春希を交えて三人で初めて食事をしたシーンが見たかったですね。さぞ気まずかったでしょう。
では次話も楽しみにしています。

0
Posted by N 2015年07月29日(水) 23:20:37 返信

更新お疲れ様です。
かずさも麻里さんも春希を愛する者同士手探りの生活が始まりかけた所に予想していたのとは別の修羅場がいきなりやって来て、次回が待ち遠しいです。麻里さんの病状の悪化が春希とかずさの今後にどうゆう影響を与えるのか注目ですね。

0
Posted by tune 2015年07月27日(月) 16:57:18 返信

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