第67話



 衝撃の事実っていうのかな? 春希も麻理さんも、目を丸くしてたなぁ。
……まあ、上にいた時はそんな面白いことをゆっくり観察している暇なんてなかったけどさ。
 そりゃあ二人ともわたしの演技だと最初は思っていたみたいだけど、
わたしが震える姿を見てどうにか納得してくれたみたい。
 わたしがいうのもなんだけど、ほんと死にそうな顔してたと思うもん。
 結局わたしは展望台への階段を全て昇りきってすぐに354段の階段の疲れも癒される前に
354段の階段を下りて地上へと引き返してくる事になった。
 しかも昇りとは違って、狭い階段を春希にしがみつきながら降りたものだから、
余計に時間がかかった事は想像には難しくないだろうね。
むしろわたしにとっては、長すぎる地上への帰還作業を達成できたことを誉めてもらいたい。

春希「どうして上まで行こうと思ったんだよ?」

 わたしを地上まで連れて来てくれ春希は、ほんきでわたしを心配しているというのが
強く表されていた。もちろん麻理さんも、似たような苦しみを味わってきている分、
春希以上に心配してくれているみたいだった。

千晶「佐和子さんがチケットくれたから……」

春希「だとしても、苦手だったら上まで行かなくてもよかったじゃないか」

千晶「飛行機は大丈夫だったらから、今回も大丈夫かなって、思って」

春希「考えてみればそうだよな。飛行機は大丈夫だったんだよな?」

千晶「うん、大丈夫だった」

春希「飛行機だと感覚が違うのかな」

千晶「あれは現実離れしているっていうか、雲の上を飛んでるから怖いっていうイメージ
   さえ抱かなかったんだと思う。自分でもわからないけど」

春希「まあ、今度からは無理はするなよ。明日のオーディションに悪影響が出たら困るだろ?」

千晶「ごめん」

春希「そんなにしょげるなって」

千晶「……ごめん」

春希「ちょっと飲み物買ってくるよ。水でいいか?」

千晶「うん」

春希「麻理さん。千晶を見ていてください」

麻理「わかったわ」

春希「じゃあ行ってきます」

 ベンチで横になっているわたしの視界から消えるまで春希の後姿を追ってしまう。
もしかしたら麻理さんもわたしを同じように春希の後姿を追っているのかもしれない。
 いつだって春希は優しい。春希が面倒をみると決意した相手のことは責任を
もって最後まで面倒をみるから、わたしはどうしても甘えてしまう。
 でもそれだけじゃないかな。春希は強くはないからね。
きっと麻理さんも、春希の弱いところを含めて好きなんだろうな。だから甘えてしまうのよね。

千晶「ねえ麻理さん」

麻理「気持ち悪い?」

千晶「それはどうにか我慢できるかな」

麻理「そう?」

千晶「ねえ麻理さん」

麻理「なにかしら?」

千晶「春希のこと、愛し続けてしまうんだね」

 この麻理さんの表情、どうとらえたらいいのかな?
 答えを口にするのを困ってるっていうのが簡単すぎる表現ではあるけど、
色々と複雑な乙女心ってとこか、な。
 この人も面倒な立場に自分で追い込んでいっちゃっているわけだから、
春希と似たような人種なのよね。わたしは嫌いじゃないからいいけど、煮え切らない態度だと
言いきっちゃう人もいちゃうのよね。
 本人達は、自分たちが決めた決断ってもののルールにのっとって行動している
みたいだけれど、周りからすればじれったいわけだし。
 それと、春希への愛情を隠しているってわけでもないんだよなぁ。そもそも春希と麻理さん
の関係は春希から聞いているわけだし、麻理さんもその事は知っているんだよね。
 わたしがニューヨークにやってきたからといって、二人の間の関係を隠そうとするそぶりは
全くなかったと思うし、それに、わたしに隠そうと演技しているっていうのなら、
それこそわたし以上の演技力の持ち主ってことになるわけで、それはないだろうしなぁ。
 そもそも春希なわけだから、演技なんて求める事自体間違っているのよね。
 となると、わたしがここに来た理由を勘ぐっているのかな?

千晶「わたしは曜子さんの密偵でもないし、告げ口なんかもしないわよ。あと、冬馬かずさは
   高校でちょこっと見た程度しかないんだから、そっち方面からの依頼もないことはたしか」

麻理「そのことは思い付いたけど、気にはしていないわ。ううん。気にはしているわね。
   でもね、いくら隠そうとしてもばれてしまうもの。だから、もし曜子さんに報告する
   のなら、和泉さんが見た事をそのまま話してかまわないわ。
   むしろそうしてくれたほうが、ほっとしてしまう」

千晶「だからぁ、スパイごっこなんてやってないっての。ニューヨークの仕事はね、
   わたしが行きたいって言ったから美代ちゃんが見つけてきてくれただけなんだから」

麻理「そ、そうなの?」

千晶「嘘なんてつかないって。美代ちゃんに電話して確認してもいいんだから。
   それに美代ちゃんは、わたしがニューヨークに行く事自体反対だったんだからね」

麻理「どうして反対だったのかしら? 和泉さんも英語の勉強もしっかりしていて、
   私も感心しているくらいよ。ほんとうにきれいな英語だわ」

千晶「そのことは美代ちゃんも誉めてくれたよ。まあ、半分以上は呆れていただけだけどね」

麻理「理由はわからないけど、なんとなく工藤さんの気持ちが理解できそうなのはいやね。
   わかったところで疲れるだけなのに」

千晶「それはひっどいなぁ。今回のニューヨーク行きはね。英語をマスターできたら仕事を
   まわしてくれるっていう美代ちゃんからの提案だったんだよ。わたしはこうして英語を
   話せるようになったわけなんだから、正当な権利としてニューヨークにきただけよ」

麻理「それはおそらく、工藤さんは和泉さんが英語を話せるようにはならないと
   思っていたから条件にしただけよ」

千晶「そうかもね。でも条件をクリアーしたんだから問題ないでしょ?」

麻理「ねぇ、もしかして……。ほんとうは日本での仕事がたくさんあったんじゃないの?
   それなのにニューヨークに行きたいなんて騒ぎだしたから工藤さんが困ってしまったとか?」

千晶「見てないのによくわかったね。ほんとすごいよ麻理さん」

麻理「あなたに誉められても嬉しくはないんだけど……。
   むしろどっと疲れが出てきてしまうのはどうしてでしょうね?」

千晶「それは麻理さんの勝手だよ。わたしのせいじゃないもの」

麻理「はぁ……、そういうことにしておくわ」

千晶「それでいいよ。…………ところでさ、麻理さんは今でも春希のことが愛しているんだよね?」

 話したくないんならこれ以上は聞かないけど、やっぱちゃんと顔を見て聞いておきたいん
だよね。だってさ、あの冬馬かずさとやりあおうとしているわけなんだから…………、ん?
 あっそうだ、麻理さんの体調が治ったら返すって話だっけ?
 でもなぁ、どうもうまくはいっていないような気がするんだよね。
とくに春希のほうが怖いっていうか、さ。いざとなれば、麻理さんなら春希の前から消えて
しまうっていう手段を使いそうだから、これはこれでありかなとは思うのよね。でも春希は駄目ね。
 さてさて、麻理さん。どうなのかな?

麻理「愛しているわ」

千晶「はっきりと言えるんだね」

 むしろ言葉にした事で重荷を下ろしたって感じの顔をしていない?
 んん〜……、ひらきなおりとは違うみたいだけど、どうなんだろ?
 どうもまだよく麻理さんの人物像が掴みきれていない部分があるのよね。

麻理「だって言葉にしなくても、和泉さんは私と春希と見て、
   私が春希のことを愛しているってわかっているんでしょ?」

千晶「まあ、ね」

麻理「だったら隠す必要ないじゃない。むしろばれているのに隠そうとする方が滑稽よ」

千晶「それもそっか」

麻理「ねえ、和泉さん」

千晶「ん?」

麻理「私の方からも質問してもいいかしら?」

千晶「どうぞぉ?」

麻理「和泉さんも春希の事が好きだったのではないかしら? 今も好きだとは思うけど」

千晶「女の勘ってやつ?」

麻理「そういうわけではないんだけど、ふたりを見ているとなんとなくそう思えたって言うか……。
   そんな感じかな? だから、勘っていえば勘なんだけど……、なんだろ?」

千晶「間違ってないよ」

麻理「えっ?」

 そんなに驚くことかな? だって嫌いな人間の相手なんてしたくはないし、
そもそもわたしは暇人じゃないんだよね。
 脚本作れってうるさく言われるから逃げなくちゃいけないし、春希に食事を作ってもらう
ために策略を練らないといけないし、あとはそうだなぁ……、昼寝も大切だしね。

千晶「今でも春希のことは好きだよ」

麻理「…………そう」

消えそうなくらい小さく呟くその声には力強さがまったくなかった。今にも消えそうな声で、
今にも逃げてしまいそうな麻理さんは、わたしのことが見えてはいないのかもしれない。
 もしかしたら、わたしを通して麻理さん自身を見つめているような気さえした。
自分の事なのに自分では決められない。決める事ができないことに不安を抱いている。
 だから、似たような境遇の人間をまねようとしているだけじゃないかと
勘繰ってしまいそうにもなった。
 でもなぁ……、わたしも麻理さん好きだし、
春希じゃないけどやっぱわたしも甘いのかもしれないな。
 まあ、ニューヨークに来てしまった時点で甘いんだけどね。
 きっと春希も麻理さんも、わたしがニューヨークに来たのは、仕事もあるけど春希に会いに
来たって思っているんだろうな。あとは春希と麻理さんの様子見とかさ。
 でも、どれも違うんだよね。二人とも気がついてないんだもん。
 気がついたのはニューヨークにはいない二人だったね。
まあ、外から見れば気がつくってもんなのかな?
 佐和子さんも曜子さんも、わたしが麻理さんに会う為にニューヨークに行く事に、
すぐに気がついちゃうんだもんな。
 べっつに隠す事でもないし、むこうから聞いてきたから話したけど、二人とも陰ながら
応援するって感じで、つっこんでなにか言ってくることはなかったんだよね。
 …………ただ佐和子さんにも、そして曜子さんにも、
ひっかきまわすことだけはやめて欲しいって懇願されたけど。
 もうほんと、信頼されてるなぁわたしって。

千晶「今も春希のことが好きに決まってるじゃん。
   でもね、わたしは春希の恋人でなくてもいいんだ。今の関係でも十分楽しいし」

わたしの言葉に、はっと顔をあげて見つめる麻理さんの顔は、なにを求めているのだろうか?
 本人でさえなにを求めているかさえわからないのかもしれない。
けれど、その顔からは必死さがにじみ出ていた。

麻理「女として、見られなくても?」

千晶「春希はわたしのことを十分女として認識してるんじゃないかなぁ。
   だって春希って、わたしの胸大好きだしね」

 わざとらしく胸を寄せると、やっぱりかというか麻理さんは苦笑いを浮かべた。
 でもさぁ、麻理さんもけっこうでかい胸しているんだから、
春希もちらちらと見てるんじゃないかな?

麻理「そういう意味じゃなくて、女の喜びとか?」

千晶「春希に女の喜びを刻まれちゃったらどうなっていたかはわからないけど、今はこのまま
   でもいいかなって思ってるよ。たださ、将来どうなるかはわからないよ。
   だって人間だもの。先がわからないから面白い。
   将来がわかってしまったら、何も感動を持てないじゃない」

麻理「そうじゃなくって」

千晶「子供が欲しいかとか? そうねぇ、いざとなったら土下座して精子恵んでもらえば
   いいんじゃない? あとは夜中ベッドに潜り込むとか? あっ、冬馬かずさも一緒か。
   まあ、コンサートとかで一緒じゃないときを狙えば大丈夫じゃない?」

麻理「…………えっと、その」

千晶「大丈夫だって。春希も男なんだから、女の武器でせまれば精子くらい出して
   くれるって。でも、一回でうまく受精すればいいんだけど、こればっかりは運
   なのよね。まっ、駄目だったらもう一回やればいいんじゃない?」

麻理「そうじゃなくて!」

千晶「なにを大声だしてるの?」

麻理「あなたのせいじゃない」

千晶「そぉお?」

麻理「そうなのよ。私が聞きたかったのは、友達のままでいいのかってことよ」

千晶「友達?」

麻理「そうよ」

千晶「べつにどうでもいいかな」

麻理「ほんとうに?」

千晶「本当だって。だって、わたしは春希と友達であるかどうかなんて気にしていない
   からね。そもそも北原春希と和泉千晶の関係であって、友達であるとか恋人である
   とかという定義は関係ない。ある人間から見たら友達だと思うかもしれない。また、
   違う人間からは恋人だと思われるかもしれない。まあ、恋人だと思われてしまうと
   冬馬かずさがお怒りになるかもしれないけどぉ……、まっいっかな? それで春希と
   冬馬かずさが喧嘩しても、それは春希と冬馬かずさの問題だし、
   わたしがどうこうすることじゃないからさ」

 いつしか高所恐怖症の影響でぐったりとベンチで寝ていた事さえ忘れ、
ベンチの前に立ち熱弁をふるってしまっていた。
 力強く、目の前の女性を鼓舞するようにはきはきと。願わくは、
この人にちょっとでも元気をわけあたえられたらと思わずにはいられなかった。

麻理「罪悪感とかは?」

千晶「ないよ」

麻理「言いきるのね」

千晶「だって、もしなにか問題があったのなら、春希がわたしを拒めばいいだけじゃない」

麻理「それはそうだけど、春希が簡単に見捨てるわけないじゃないのよ」

千晶「それは春希の問題だよ」

麻理「無責任だわ」

千晶「わたしは春希じゃないから、春希の心をどうにかすることなんてできないって。
   それに、どこまでがよくて、どこからが駄目なのかなんて、わたしが決めること
   じゃないよ。そうだなぁ、冬馬かずさの気持ちしだいじゃないの? でもさ、
   その冬馬かずさの心もさ、時と場合によって変化すると思うよ。
   機嫌が悪かったらちょっとしたことでも蹴りが飛んでくるんじゃない?」

麻理「そこまでは……」

千晶「そうかな? 高校時代の冬馬かずさは、けっこう過激だったと思ったけど?」

麻理「そうなの?」

千晶「うん。何度か冬馬かずさに蹴られている男をみたことあるからね」

麻理「過激な人だったのね」

千晶「まあそうだね」

だいたいは無視して終わりだったんだけどね。中には飯塚武也とか飯塚とか武也とか、
そういったうざい飯塚武也が性懲りもなくしつこく付きまとったりすると蹴りが飛んでくるんだよね。

麻理「どうしたの、にやにやしちゃって?」

千晶「ん? ごめんね。高校の時のことを思い出しちゃってさ」

麻理「ふぅ〜ん……」

千晶「春希もさ、嫌がるふりをする冬馬かずさにしつこく世話をやいていたんだけど、
   一度も蹴られた事がなかったなって思ってね」

麻理「そうなの?」

千晶「冬馬かずさも嫌がるふりをしていただけだからね」

麻理「二人とも当時から面倒な性格をしていたのね」

千晶「わたしも最初から二人を見ていたわけじゃないからわからないし、聞いた話も含まれて
   いるんだけど、普通の男連中が冬馬かずさにしつこくまとわりつくと容赦なく蹴りが
   飛んでくるわけよ。でも、春希だとまったくそれがない」

麻理「は、はぁん。ということは、そのころからかずささんは春希のことが好きだったけど、
   春希は気がつかない朴念仁だったわけね」

千晶「そうなるね。あと、まわりの人間は気がついていたと思うよ」

麻理「でしょうね。あからさまだったと思うもの」

千晶「……ちっ。飯塚の奴。あいつらがひっかきまわすから面倒なことになったんじゃない。
   まっ、そのおかげで面白い物語を拝めたけどさ」

麻理「和泉さん?」

千晶「ん? なんでもない。ちょっと独り言をね」

 思わず愚痴が漏れ出てしまったけれど、麻理さんが怪訝な顔をする程度ですんでよかった。
 こういうときエキセントリックな性格だと思われているのはもうけものよね。
でも、ひっかきまわすっていうニュアンスは間違ってるかな。なにもしないって言ったほうが
あってるとは思うけど、なにもしないっていうのも行動のうちなんだよ、飯塚君。

千晶「というわけで、わたしはわたしの気持ちに従って行動するから、その行動で春希を
   困らせてしまうとは思うよ。たぶんおもいっきり困らせると思う」

麻理「自覚はあったのね」

千晶「まあね。でもさ、春希が本当に困ったら、そのときは冬馬かずさを春希は選ぶと
   思うよ。春希は冬馬かずさだけを選んで、ほかは全て切り捨ててしまうはず。
   …………でも、今はそれをしていないし、
   冬馬かずさも麻理さんのことは了承しているんでしょ?」

麻理「まあ、……そうね」

千晶「だったらそれでいいじゃない。それでもし怒らせるようなことになったら、
   そのときはごめんなさいって謝ればいいだけだよ」

麻理「そんなに簡単なことかしら?」

千晶「人生って、自分が考えているよりも単純だと思うよ。
   自分が複雑に考えてしまっていることならなおさらにね」

麻理「はぁ……」

千晶「どうかした?」

麻理「ありがとね、和泉さん」

千晶「ん? どういたしまして」

 ちょっとばかしこそばゆいかな。偉そうな事を言ってみたものの、
とどのつまりは好き勝手やってみろっていうことなんだよね。
 でも春希と麻理さんって、わたしとは真逆で考え過ぎっていうのかな?
 常識や理屈にとらわれ過ぎて何もできていないって気がするんだよね。

春希「水買って来たぞ。って、千晶。もう大丈夫なのか?」

 ちょうどいいところに戻ってきたかな。なんだかわたしたちの話を近くで聞いていたんじゃ
ないかって思えるほどタイミングがよすぎる気もしないではないのよね。
 でも、まっいっか。春希が聞いてくれていても悪いわけでもないし、
聞いてくれていた方がいい気もするわけだし。
 実際聞いていたかなんて直接春希に問う事はできないけど、
わたしの本来の目的はなす事が出来たし、もういいかな。

千晶「ん? 大丈夫みたい」

春希「じゃあ水どうする?」

千晶「もらっておくかな」

 春希はペットボトルをわたしに渡すと、麻理さんにも同じように手渡す。
 麻理さんに動揺はないみたいだった。わたしの目から見ての判断だから、
一緒に暮らしている春希はどう思っているかはわからない。
 でも、春希はなにも言うつもりはないようだ。
 そりゃあ、今春希には言うべき言葉は見つからないかな。

千晶「さてと、休憩もとったし、そろそろ行こうか?」

春希「もう一回昇るっていうなよ?」

千晶「春希じゃあるまいし、自分をいじめる趣味はないっての」

春希「いちおう聞かなかった事にしておくからな。……それでどうする?
   博物館の方に行ってみるか?」

千晶「そだね。さてと、麻理さんもそれでいい?」

麻理「ええ、私はそれでかまわないわ」

千晶「じゃ、決まりだね」

 わたしはニヤリとそう言うと、春希の右腕に自分の腕をからませてから歩き出す。
 当然春希は困惑気味の顔が全開だった。
 いい気味だ。このくらいの迷惑料はいただかないと。

春希「おい、千晶っ」

千晶「ささっ麻理さんも」

麻理「ええっ?」

千晶「だから麻理さんは反対側にしがみつかないと。
   右腕は埋まっているかもしれないけど、反対側は空いてるんだよ?」

麻理「だけど……」

千晶「いいじゃない。美女二人をはべらしているんだから、春希もご満悦よ。ねっ、春希」

春希「ノーコメントで」

千晶「春希はOKだってさ」

春希「こら、千晶」

千晶「じゃあ、麻理さんだけ駄目なの?」

春希「お前にも許可した覚えはないんだけどな?」

千晶「拒否もしてないでしょ?」

春希「うっ……」

麻理「ねえ、春希。私にも腕を貸してもらってもいいかしら?」

春希「麻理、さん……?」

麻理「どうかな?」

 ここはもうちょっと色気がある仕草を混ぜないとダメでしょ。
せめて下から上目遣いくらいしなさいよ。

春希「俺の、腕でよかったら」

麻理「ありがと、春希」

 麻理さんの無防備さがいいっていうやつもいるかな?
 少なくともここにいる春希は好きなわけだから、結果としては問題なしか。
 でもさぁほんとにのろけまくってるよ、麻理さん。
 女のわたしでも、そのはにかんだ笑顔にはやられちゃいそうだよ?
 



第67話 終劇
第68話につづく




第67話 あとがき


予告通り次週からはメインに戻ります。
来週も月曜日に掲載できると思いますので、
また読んでくださると大変嬉しく思います。

黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

ゲーム中春希はかずさに蹴られているシーンがあったような?
まあ千晶は知らないかもしれませんが

0
Posted by SP 2015年10月12日(月) 21:11:43 返信

更新お疲れ様です。
やはり千晶は曜子さんから春希と麻里さんの様子を探るように頼まれた感じがしますね、敢えて苦手な高所に行ったのもそのことを悟られない為と考えたら勘繰りすぎでしょうか?
次回も楽しみにしています。

0
Posted by tune 2015年10月12日(月) 18:18:52 返信

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