WHITE ALBUM2 SS まとめwiki

「す、杉浦？　お前、何言って……」
「何って、言葉通りだよ。私、誰の味方すべきなのか。それすら判ってないんだよ。
　……まぁ、亜子から聞いた話だけの今なら小木曽先輩の味方なんだけど、ね」

孝宏は、目の前の――かつて少なからず恋心を抱いた――少女が、何を言ってるのか
理解できなくなってきた。

「というか、さ。小木曽先輩の周囲の人たちは、小木曽先輩を愛しすぎてるんじゃないかな。
　そりゃ家族や昔からの友達なんだし、さっき私が言った……北原先輩と冬馬先輩が
　3人の問題を解決せずに逃げたってのが合ってるのなら、皆小木曽先輩の味方するに決まってる。
　……まぁこの時点で小木曽もさっきの話、否定してくれないんだから私の仮定はだいたい
　合ってるんだと思っちゃうね」
「杉浦……お前、あんな連中の……姉ちゃんをボロボロにしたヤツらの味方するかもってのか！？」

ついに孝宏の表情に怒りの色が灯り始める。
けれども、小春はつとめて冷静に続ける。

「落ち着いて、小木曽。私は少なくとも、冬馬先輩とは面識が無い。
　知ってるのは、付属生時代に読んだ音楽誌に載ってた情報と、北原先輩から聞いたことだけ。
　まぁ、あの音楽誌って北原先輩が製作に関わってたらしいから、あんまり得た情報に変わりは無いけどね。
　だから、冬馬先輩の境遇に同情を感じるところはあるけど、少なくとも味方になる理由はないかな？」
「そういや杉浦、昔付属の校庭でアイツと喋ってたことあったよな。知り合いなんだよな」
「うん、バイト先の先輩でね。大学入ってからは学部も一緒でそっちでも先輩後輩になっちゃったけど。
　ああ、でも最初の出会いは最悪だったなぁ。美穂子をこっ酷くフった男と聞いて大学まで
　乗り込んで行ったんだ、私」

懐かしさに、少しだけ頬が緩む小春。
しかし、孝宏の表情は依然として険しいままだ。

「……北原の味方になら、なるかもって言いたいのか？」
「そう、だね。正直、判んない。少なくとも、北原先輩から話を聞かない限りは。
　今の心境では味方にはなれないと思うけど」
「どうして、そう思うんだ？　姉ちゃんよりも、北原と親しかったんだろ、杉浦は」
「だからこそ、かな。私の知ってる北原先輩は、小木曽先輩を見捨てられるような人じゃなかったから」
「俺だって……俺だって、そう思ってたよ！　けど、アイツは……アイツは……っ」
「だから、そこにどんな事情があったのか。2年前は確かに結ばれてた2人の絆が
　冬馬先輩が来日したことで、どうしてこんなにもあっさり解けてしまったのか。
　ちゃんとすべてを知ってからじゃないと、どうすべきなのか判らないんだよ……私」
「……杉浦は、真性のお節介だな。その立ち位置でも、あくまで公正、というか。
　文学部より法学部の方が似合ってるんじゃないか？」
「あはは、よく言われるよ。でも私は、私の周囲の人たちが幸せでいてくれればいい。
　……北原先輩と、小木曽先輩の幸せをずっと見守っていたかっただけなんだ」

　その時、遂に。小春の頬に一条の筋が光った。

「小木曽。今から言うこと、誰にも……亜子にも、特に美穂子には絶対言わないでね？」
「え？　……杉浦？」

小春は、哀しそうな……嬉しそうな。相反する2つの感情を見る者に感じさせる
そんな表情で。けれども、口調はハッキリとした小春らしいもので……

「私ね、好きだったんだ。北原先輩のこと。
　だからこそ、今の北原先輩は絶対に間違ってるって、信じてる」

そう、言い切ったと同時に、もう一粒、小春の瞳から輝くものが零れた。

第7話　了

第6話　歩き出す傍観者(中編)　/　第8話　踏み出した道は暗く、険しく