WHITE ALBUM2 SS まとめwiki - 心の永住者030


第30話



4−2 千晶 3月11日 金曜日





眠い・・・。静かに朝日が昇り始めたころ、私はようやくレポートの最終チェックを
終えることができようとしていた。
途中風邪をひくっていう私らしくもないハプニングもあったけど、
日頃の行いがいい私は、どうにかレポートを期日までに提出できそうである。
これもまるで春希のような修行僧生活をやってきたおかげね。
その修行生活での唯一の楽しみっていたら、春希が作ってくれる食事かな。
この生活が今後ずっと続くのだったら、いっそのこと本当に出家したほうが
ましだと思うのだけれど、春希の手料理を知ったからには出家なんてできないか。
さて、お〜わりッ。レポート終わったぁ・・・。
窓の外にみえる朝日が、私を祝福しているようね。本当に私ったら、やればできるじゃない。
これもひとえに春希のサポートのたまものね。
と、一応テンプレコメントを思い浮かべてから、
私の横で気持ちよさそうにベッドで寝ている春希の上に飛び乗った。

春希「うっ! げほっ、げほっ・・・。なんだっ? え?」

千晶「お〜きろ。ご飯の時間だって。春希言ったよね。
   レポート終わったら、私の好きな物を作ってくれるって言ったよね。
   ほらっ、お〜きろ。ねえ、起きて、起きて、起きてって」

私のけたましい目ざましによって起きた春希は、若干涙目で、胸のあたりを痛そうに
していたけれど、ばっちし起きられたんだから問題なし。
もうね、食事の事しか考えられないのよ。
娯楽に飢えた私にとっての唯一のお楽しみタイム。
朝起こされたら普通は食事でしょ。
それなのに、この数日は朝起こされたらレポートの直しよ。
少し寝ぼけている頭に春希のお経みたいな呟きが頭に叩き込まれるんだから、
たまったものじゃない。
春希がバイトに行った後も健気にレポートに取り組んだし、春希がバイトから帰って来ても、
まだまだレポートをやっていたのよ。
この囚人生活もこれでお終い。
本日無事に釈放されるんだから、やっぱり好きな料理を食べたいじゃない。

春希「とりあえず俺の上から降りてくれないか?」

千晶「朝から、可愛い女の子が馬乗りになってあげてるんだから、
   男としたら喜ぶ場面じゃないの?」

春希「たしかに、好きな女の子に馬乗りに起こされたのならば喜ばしいかもしれないけど、
   俺は節操なしじゃないからな。特定の女子の以外は遠慮してもらいたいものだ」

千晶「え? 特定の女の子って私? もう、春希ったら、朝から強きねぇ」

春希「どこをどう解釈するば、お前の事を指すんだよ。断じて違うからな」

千晶「もう、冗談だって。わかっているわよ、冬馬かずさでしょ」

私のうまぁい流れからの指摘に春希は顔を背けてしまう。
う〜ん・・・ちょっと強引だった? でも、事実だと思うんだけどなぁ。

千晶「冬馬かずさの実家のスタジオを自由に使えて、あの冬馬かずさの音源を手に入れて
   いるんだから、いくら私だって気がつくって」

本当は高校の学園祭ライブから知っていたし、最近の春希の変化は、
冬馬かずさの演奏の録画を見たときに気がついていたけどね。
あれ見たら、あぁやっぱりねって事情を少し知っていれば、誰だって気がつくもんよ。

春希「いつから気がついていたんだ?」

春希のお腹の上に馬乗りになっている私を見上げるその顔には、一点の曇りもない。
なにか無理やり閉じ込めていた思いを解放させたような決意がみなぎっていた。

千晶「高校の学園祭ライブのときからかな」

春希「はぁ? そのころってたしか、そのライブで初めて俺達の事を知ったって言ってたよな。
   以前俺に話してくれた話さえも嘘だったのか?」

千晶「嘘じゃないよ」

春希「でも・・・」

千晶「あぁ〜、春希」

春希「なんだよ?」

千晶「あの時私、本当の事を話そうか真剣に悩んで、一大決心をえてようやく話したんだよ。
   しかも、あのとき春希に話しているときなんて、どんな舞台の上でも味わったことが
   ないほどの緊張感で、心臓がばっくばくいってたんだから。
   あの真剣な顔をした和泉千晶を見て、春希は疑っちゃうんだ?」

私はずいっと春希に顔を寄せると、なにやら後ろめたいのか、すすすっと春希は
私から視線を外した。

春希「・・・ごめん」

千晶「いいって。私は、それだけの事を春希にしてきたって自覚しているから。
   春希が最後の最後で私の事を疑ってしまうのも納得しているから大丈夫だって」

春希「ごめん。・・・でも、今すぐ無条件に和泉の全てを信じ切られるかって問われると
   躊躇してしまうのは事実だけど、そうであっても、和泉は俺にとって
   大切な友達だから。友達だから、今回みたいな事だって無条件で手伝ってるんだからな。
   ごめん。こんなこというのは卑怯だよな。ごめん、忘れてくれ」

千晶「ううん、忘れない」

春希「和泉ぃ。お前って、根に持つタイプだったんだな」

千晶「ううん、それも違うよ。私は、春希が言いたいことがなんとなくわかっただけ。
   だから、忘れてあげない。こう見えても、高校3年の学園祭の時から
   ずっと春希を見てきたストーカーなんだよ」

春希「ストーカーにしては、俺になつきすぎだな。なんだか餌付けまでされているしさ」

千晶「そうよぉ。なついちゃったんだから、最後まで世話しなさいよ」

春希「わかったよ」

千晶「うん、・・・・・・あっ、それで、いつから春希が冬馬かずさのことを好きだって
   知ったことなんだけどさ、高校の学園祭ライブを見てたら、なんかぴぃんと
   きちゃったわけ」

春希「直感みたいな?」

千晶「それもあるけど、あのライブで、あの3人の目線っていうの?
   一つ一つの仕草や息遣い。そういう動作をじぃっと見ていたら、
   あぁ、北原春希は冬馬かずさが好きなんだなって。
   そして、冬馬かずさも北原春希が好きだって、わかちゃった」

春希「あのころからかずさが俺の事を好きだって、あとになって俺も知ったけど、
   お前はあのライブを見ただけで理解したっていうことなのか?」

千晶「うん、まあね。あと、小木曽雪菜が春希に恋心を抱いていたのもわかっていたよ。
   そうね、冬馬かずさと小木曽雪菜の恋心は、お互いの恋心を知ってたみたいだけど、
   知らないのは想い人たる北原春希だけだったみたいだけど」

春希「はぁ・・・。当の本人が知らない事を、こうもあっさりと看破するだなんて
   和泉ってすごいやつだったんだな」

千晶「なにその無駄な能力もってるんだなっていう目は。
   さっき私の事を大切な友達だって言っていた人だよね?」

春希「そんな目はしていないだろ」

千晶「そうかなぁ?」

私は、さっき春希に詰め寄ったとき以上に顔を接近させると、うろたえる春希をにらみつける。
鼻と鼻とが触れるくらいまで詰め寄り、じぃっと春希の瞳を覗き込んだ。
小刻みに揺れ動く春希の眼球は、春希の動揺を如実に表していた。
だから、私は・・・。

春希「うわぁっ!」

春希の鼻筋をつつつぅっとぺろりと舌でなめ上げると、春希は私がのっかっているので
逃げられないってわかっているのに後ろに逃げようとする。

千晶「なになに? かんじちゃった?」

春希「んなわけあるか。いきなり何やってるんだ」

千晶「あまりにも春希が緊張しちゃっていたから、少しほぐしてあげようかなって」

春希「緊張を和らげるんだったら、他にも効果的な方法がたくさんあるだろ」

千晶「例えば?」

春希「例えば・・・・、えぇっと・・・・」

千晶「ないじゃない」

春希「今はパニクって思い付かないだけ。和泉が俺の心をかき乱したせいで
   冷静な判断ができないだけだ」

千晶「意外と春希もうぶなのねぇ。いやいや、見た目どおりうぶなのか」

春希「俺の事はどうだっていいだろ」

千晶「それもそうね」

春希「ふんっ・・・」

ちょっとは緊張は解けたかな?
やっぱり冬馬かずさと小木曽雪菜のことを話すと、春希は身がまえちゃうんだね。
私のお尻の下にある春希の腹筋が強張っちゃったんだよね。
あと、顔の筋肉もやや重みを増して表情が堅くなったしさ。
でも、若干拗ねちゃったみたいだけど、これなら話を続けても大丈夫かな。

千晶「で、さ・・・。学園祭ライブの事は、もういいの?」

春希「あぁ、あとはこの前話した事に繋がる感じだろ。
   俺達のライブを見て脚本を作っていた。
   その為に俺に近づいてきた。・・・・・・だろ?」

千晶「まあね、そんなとこ。
   でも、私が春希に手篭めにされるだなんて思ってなかったけど」

春希「手篭めになんかしてないだろ。いつ俺が和泉に手を出した?」

千晶「手篭めにしたじゃない。おもいっきり餌付けして、離れられないようにしたくせにぃ」

春希「だったらリハビリも兼ねて、今すぐリリースしてやる。
   レポートも終わった事だし、今日からは自分で食事を用意するんだな。
   そうすれば、2,3日もすれば俺の食事も忘れられるさ」

千晶「そんなのは、む〜り〜・・・。お腹すいてもう動けないぃ。
   ご飯作ってくれないんだったら、このまま春希の上から動かないから」

春希「このまま和泉が俺の上にのっていたら、ご飯作れないぞ。
   それでもいいのか? 俺は和泉との約束を守る為に、昨日材料も買ってきて
   あったんだけどな」

千晶「ほんとにっ?」

私が春希に詰め寄る振動で、春希のお腹のあたりを強く押してしまった為に
春希は低く唸ったような気もしたけど、気のせいようね。
うん、気のせい。なかったことにしよう。
というわけで、私は素直に春希の上から退去することにした。

千晶「で、何を作ってくれるの?」

春希「まずは俺を踏んづけた詫びを入れることが大事だろ?」

千晶「べ〜つにいいじゃない」

春希「よくない」

千晶「だって、春希って、尻に敷かれるの大好きじゃない」

春希「断じて違う。強く抗議するぞ」

千晶「そうかしら?」

春希「そうなんだよ」

千晶「で、何を作ってくれるの?」

春希「お前ってやつは・・・。もういいや。ナポリタンと親子丼だよ。
   和泉が俺のところに無理難題を持ちこんだ朝に食べたいって言ってただろ?
   あの時はナポリタンだけだったからな。
   だから、今回は両方作ってやるよ」

千晶「まじで? 春希って、実はいい人?」

春希「いい人がどうかはわからないけど、ここまで面倒すぎ和泉千晶にとことん付き合って
   やっている人間を、俺はいい人だと評価するよ。
   まあ、いい人っていうよりは、人がいいというか、苦労症なだけかもしれないけど」

千晶「そんな小さな事はどうでもいいって。
   さ、さ。早くご飯作ってよ。朝ご飯が私を待ってるんだから」

春希「でも、ほんとうに二つとも食べるのか?
   量を少なめにして二つとも食べるか?」

千晶「ううん。両方とも大盛りでいいよ。朝ご飯はしっかりと食べないとね」

春希「食べ過ぎてレポート提出に行けなくなっても知らないからな」

千晶「はぁ〜い。気をつけますって」

私はうきうき気分で春希の着替えを手伝おうとしたんだけど、
春希のズボンに手をかけてあたりで部屋から追い出されたのは、どうでもいい話ね。
春希の下着姿なんて見たってなんともないのに。
それよりも、早くご飯にしろ〜。




3月の上旬ともあって、大学構内に学生の影はない。
大学に来る途中に、サークルに所属していると思える一団が大学から去っていくのを
見たのが最後で、今この構内には私と春希しかいないんじゃないかって思いさえある。
ま、正門のところには守衛さんもいたし、さっきまで教授にもあってたんだから、
春休み中といっても、わりとたくさんの人が大学で活動しているのだろう。
あっ・・・、そういや劇団の方も公演前で忙しいって言ってたから、
今も徹夜続きで頑張っているかも。
きょろきょろと学内を見渡していると、春希はさっさと先をいってしまうから
私は春希に追いつくべく、てててっとその横まで駆け寄った。
日は頂点に昇りつつあり、3月のまだひんやりとした空気が肌を撫でる中、
太陽のやんわりとした温もりも感じ取れる。
すかっとする空気と、ぬくぬくぅってするまどろみがうまい具合に配分されているって
感じられてしまうのも、レポートを無事に提出出来たからに違いなかった。
風邪から復帰した火曜日から、私も春希も顔をあわすことがあっても
ほぼすべての時間をレポートに費やしていた。
もちろん春希はバイトもあるし、私の食事を用意しなくてはならないわけで、
私以上にやつれているようにも見える。
まっ、それも今日でお終い。
教授も、この分なら進級できるって言ってたし、あとは結果が出る今度の月曜日まで
待つしかないか。
あのおじいちゃんが一応は大丈夫だって言ってくれているんだし、問題ないよね?
春希も、問題があるんだったら、教授がレポートをざっとだけど確認した時に
なにか言っているって言ってたし。
というわけで、レポートを無事に終わらせた事を祝って、打ち上げだね。
もちろん会場は春希宅。

千晶「ねえ、春希」

春希「ん? なんだ?」

千晶「これから打ち上げパーティーするんだから、スーパーに寄ってから帰ろうよ」

春希「何を言っているんだ?」

千晶「なにって、レポートが終わったら、打ち上げパーティーしようって
   言ったじゃない」

春希「たしかにそんな事も言ってたと思うけど、俺は午後からバイトだぞ。
   だから、このままバイトに行く予定なんだけど」

当然の事を聞くなよっていう顔をしないでよ春希。
バイトなんて聞いてないわよ。
このうきうき気分、どうしてくれるのよ。
一応朝食を食べて満足はしているけれど、打ち上げパーティーは別バラでしょ。
私ががっくりと肩を落としているっていうのに、春希は私の事など眼中にないようで、
すたすたと私を置いて駅へと向かおうとしていた。

千晶「ちょっと待ってよ」

春希「用があるなら歩きながらでいいか?」

千晶「わかったから、そんなに早足で行かないでよ」

私の悲鳴に確認した春希は、私の歩幅に合わせるべく、歩く速度を緩めてくれた。
このまま腕にしがみついてやろうかしら。
なんて考えてはみたけど、駅の改札口をくぐる瞬間まで腕にひばりついて抵抗しても
春希の事だからしれっとした顔でバイトに行ってしまうんだろうな。
だったらここは次につなげる行いをすべきか。

春希「レポートも無事に終わったんだし、打ち上げするにしても今日じゃなくても
   問題ないだろ。急いでやるよりも、たっぷり時間があるときにした方が
   楽しめるんじゃないか?」

千晶「たしかに、たしかに春希の言う通りだけどさ・・・、打ち上げって今ある感動を
   分かち合うものじゃないの?」

春希「十分朝食の時に感動していたじゃないか。
   レポートが無事に終わって、バクバク俺の分まで食べていたのは、どこのどいつだよ」

千晶「それは、私の燃費が悪いのが問題なだけ。
   いくら食べても燃費が悪過ぎて、すぐにエネルギーが空になっちゃうのよね」

春希「和泉が空にしてしまうのはお腹だけじゃなくて、その頭もだろ。
   きっと今回のレポートの反省も、新年度が始まったころには忘れているんじゃないか?
   そして6月ごろになったら、また俺に泣きついてきそうだな」

千晶「それはないから大丈夫だって」

春希「どこにその根拠もない自信があるんだよ」

千晶「根拠がある自信がしっかりとあるにきまっているじゃない」

春希「へぇ・・・」

なによそのまったく信じていませんっていう目は。
あまりにもひどくない?
しかも、もうこの話は終わりって感じで興味を失って、歩く速度を若干あげてるし。

千晶「根拠ならあるんだから」

春希「はい、はい。わかってるって」

千晶「わかってないって。だって、春希が私の事をしっかりと面倒見てくれるんでしょ。
   だってだって、教授達にも私の進級条件として、春希の監視が含まれていたんだから」

数歩先を歩いていた春希は急に歩く速度を緩めたかと思うと、
唖然とした顔つきで私を見つめていた。
いくら三月でまだまだ寒いからといって、
顔の筋肉を凍りつけるほどは寒くないと思うよ、春希っ。

春希「そうだった。一番の面倒事を忘れていた」

千晶「なによそれ」

春希「事実だろ」

千晶「この前、私の面倒を見る事は、いやいややってないって言ってたじゃない。
   私が側にいる事も、春希にとってプラスに働いてるって言ってたよね」

春希「たしかに、そんなことを言ったと思う。
   たしかに、いやいややっているわけではないけど、一番の面倒事には変わりないだろ?」

千晶「まあ、たしかに面倒事には違いないか」

春希「だろ?」

千晶「それは、悔しいけど認めるしかないか」

春希「だったら、レポートも終わったんだから、俺を気持ちよくバイトに行かせてくれよ」

千晶「わかったわよ。でもなぁ・・・」

春希「なんだよ?」

千晶「本当に私って燃費が悪いのよねぇ・・・」

春希「だったら、なにか食べていけばいいじゃないか?」

千晶「わかってない。わかってないよ、春希さん」

春希「何がだよ?」

千晶「私の脳は、春希の食事を食べたいって悲鳴をあげているの。
   だから、他の食事じゃ満足しないの」

春希「散々合宿中に食べていたじゃないか」

千晶「レポートやってたんだから、食事だけに集中できていなかったのよ」

春希「その割には美味しい、美味しいって、毎回お代わりしていたじゃないか」

痛い所を突くわね。このままでは時間切れになってしまう。
大学から駅まではそれほど離れてはいないから、あと数分もかからないうちに
春希は改札を通り抜けて電車に乗ってしまうだろう。
さすがに電車に乗ってまで追いかけていく気力も作戦もない。
そもそも力づくで詰め寄っても、春希は首を縦には振らないだろうしなぁ。

千晶「それは、春希の料理が美味しいからしょうがないじゃない」

春希「そこまで誉めてくれるのは嬉しいんだけど、また今度な」

千晶「えぇ〜。本当にお腹すいちゃってるのにぃ・・・。
   いくら食べてもすぅぐエネルギーが消費されちゃって、すぐに空になっちゃうのよね」

春希「その割には健康そうな体をしているじゃないか。
   レポートも終わったおかげで、顔色も絶好調そうだぞ」

千晶「むむ・・・」

もう改札口は目の前だった。
もう打ち上げパーティーは無理だってわかっている。
だけど、だけど最後に春希の鼻を明かしたい。
だって、なによその澄ました顔。
その顔をゆがめなきゃ、空になったお腹が報われないじゃない。
私は春希の前に躍り出ると、後ろ向きで歩きはじめる。
すると春希は、お優しい事に歩く速度を遅くする。
この辺の気遣いが春希らしいんだけど、今回はそれを使わせてもらうかなね。

千晶「そうなのよねぇ。燃費が悪いのって、この胸に栄養が流れていっちゃうからなのかな?」

春希「え?」

春希の意識が私の胸に固定されて、春希は歩くのさえ忘れてしまう。
私が胸を強調すべく両手で胸を寄せ上げると、ただでさえでかい私の胸は、
目の前にいる春希に突き出すような形で存在感を醸し出してしまったから。

千晶「ねえ、春希」

春希「なんだよ?」

赤くなっちゃって。顔を背けないことが最後の抵抗かしらね?
くすりと笑みを漏らしてしまいそうになるのを、必死で抑えて隠すのがやっとだった。

千晶「春希の食事をここ数日、ずぅっと食べていたじゃない」

春希「そうなだな」

千晶「だったら、春希が与えてくれた栄養は、どのくらい胸を成長させてくれたのかな?」

あっ。見事な赤面・・・。今までは女らしい武器は使わないようにしていたけど、
案外使ってみると楽しいわね。
ちょっとうぶすぎるって気もするけれど、これはこれで楽しいからいっかな。

千晶「ねえ、触ってみる? どのくらい成長した確かめてよ?」

ん、ん? 固まっちゃった?
やりすぎたかな?

春希「そんなの知るか? たった数日の食事で、劇的な変化をするわけないだろ」

そう負け犬のごとく捨て台詞を早口で言いきると、
春希は私の事を見ないように改札口の中に消えていった。
やっぱりやりすぎちゃったかな?
ごめんね春希。
新しい私と春希の関係って、うまくコントロールできないや。
駅のホームから聞こえてる電車の音が聞こえる。
この電車に春希はかけのったのだろか。
春希のてれまくった顔のまま電車に乗る春希を想像して、笑みを浮かべてしまう私であった。

   




第30話 終劇
第31話に続く








第30話 あとがき



千晶編もそろそろ書き終わりそうなのですが、
おそらく第33話か第34話くらいまでかなという感じであります。
一応番外編的な扱いになってしまいそうですが、これでも本編に関係あるお話なのです。


来週も、火曜日、いつもの時間帯にアップできると思いますので
また読んでくださると、大変うれしいです



黒猫 with かずさ派