管理人さんが帰ってくるまでの仮まとめです

彼女は今日も目覚めない。こんな状態がずっと、10年も続いている。
いわゆる、植物状態と言われる状態だ。
事故に会った訳でも、ショック状態になった訳でもない。
ある日突然眠り込んで、そのままだ。
…俺は彼女にまだ返事が出来ていない。彼女に返事を返したいのに。



今、私はとても幸せだ。憧れのヤミト先輩に告白して、…晴れて恋人になる事が出来た。
本当に夢を見てるみたいだ。
今日は先輩からドライブデートをしようと誘われている。

―すみません、喪子さん、待ちましたか?
―今来たところです!
―そうですか良かったです。では、…車にどうぞ、お姫様。
そう言いながら自然な動作で手を取って車の助手席にエスコートしてくれる。
…?何か違う…?
―喪子さん、私と一緒にいる時に私以外の事は考えないで下さいね。…嫉妬で狂う、なんて事もあるかもしれませんよ。
―ヤミト先輩以外の事なんて考えてませんよ?
―…そうですね、知っています。…そうです。喪子さんが他を考えるなんて有り得ませんよね。分かっています。
―変な先輩、それより今日は何処に行くんですか?
―はい、今日は…



「私の」「彼女」は気付いていません。一生気付かせはしませんし、気付く事もありませんが。
私は人間の夢や欲望を叶える存在です。だから、彼女に近付きました。…そう、それだけだった筈なんです。
彼女の夢は、憧れの先輩と結ばれる事、告白を成功させて恋人になりたいという、ありふれたもの。
ですから私は彼女に契約を持ち掛けました。「貴女の願いを、代償付きで叶えましょう」と。
その時私が持ち掛けた代償は「寿命」です。願いを叶える代わりに本来ある筈の寿命の半分を貰うと、そう彼女に話しました。
彼女は最初こそ渋っていましたが、最後は契約を受け入れたのです。
そこから私は彼女と共に生活を始めました。
私の気持ちに変化が表れたのは3ヶ月程経った時です。一体自分は何の為に彼女の近くにいるのだと、そんな疑問が時々頭に浮かんだのです。
勿論、代償を、「寿命」を貰う、その為だけにいる。私はそういう存在ですし、基本的に他に興味を持つ事はありません。…そうだった筈なのに。
それを、まるで自分に言い聞かせている様な、何かに言い訳している様な、そんな感覚に陥る事がありました。
何の言い訳なのか、それを知る事が出来たのは、…彼女が「先輩」に告白をしているその時だったのです。
…私はたまらなく、彼女が、彼女の全てが愛おしいと、欲しいのだと、…彼女の愛情を一心に受けている相手が殺したい程憎いのだと。気付く事が出来ました。
その時、私は考えました。彼女を手に入れる為にどうすべきか。彼女の意思、「先輩と結ばれる」事は変更出来ません。
だったら、私の「意思」で変える事が出来る「代償」を変えてしまえと。

私は本来の「寿命」という代償を「記憶」に変更しました。
憧れの「先輩の顔」を「私の顔」へと、記憶を書き換え、彼女の存在するべき「世界」を私がいるべき「世界」に変えました。
なので、ある意味では、代償は変更されていないと言えるかもしれません。…彼女の残りの人生は「私の世界」で過ごす事になるのですから。
元の彼女の世界において、彼女は死んだも同然です。
…ただ何点かだけ、残念な事になりました。急な代償の変更で、全ては私の思い通りにならなかったのです。
一番の手違いは、彼女の魂だけがこの世界に来て、身体は残ってしまった事です。私の予定では魂も身体もこの世界に来る筈だったのに。…身体はあの男に預ける事になってしまいました。
あの男も彼女からいい加減手を引けばいいのに、私が彼女の契約を持ち掛けた時に彼女を思う様にさせてしまったから…。これ程後悔したのは初めてです。
いずれは必ず返して頂きますが。
二番目の手違いは、これはいつか時間が解決しますし、私も手を加えていきますが。…あの男の記憶が喪子さんの中から中々消えないという事です。
記憶は様々に変えました。ですが時々、彼女はそれらに違和感を持つ時があるのです。…次の瞬間には忘れていますが。私にはそれが許せないのです。どうしてもね。
彼女の思考は私が支配しています。何を考えているか、彼女ですら知らない部分を私は知っています。だから、余計に「私」以外の存在があると許せないのです。
私が喪子さんを思っているのと同じだけ返して頂かなければ気が納まりません。私はいつも喪子さんで全てが満たされているのですから、喪子さんも私で全てが満たされていないと。
…おかしいとは思いませんよ。誰しもが思う筈です。「愛した人に愛されたい」と。

ねえ、喪子さん、貴女は今とても幸せな筈です。愛している「私」から望んでいた返事を貰えて、恋人になる事が出来たのですから。
そして、私もとても幸せなんです。貴女に微笑んで貰えて。…とても幸せな筈なんです。

―先輩…?なんで泣いてるんですか?…泣かないで下さい。私はここに、ヤミトさんと一緒にいますから。
知っています。でも、本当は…。
―…?大丈夫ですよ。…ヤミトさん、私はずっとヤミトさんを愛しています。
…。

本当は…記憶の書き換えなんかなしに、あの男より私を選んで欲しかった。愛して欲しかった。
今の彼女は確かに私を愛してくれてはいるけれど、本当の彼女ではなく、私が作り上げた私にとって都合のいい人形だ。
虚しいなんて、そんな、…そんな事は感じなくていいのに。本来の彼女を知っている私は、どうしても今の彼女を「ニセモノ」と感じてしまう。
…違う、違う、違う…!今の彼女が本当の彼女で、その彼女は私を愛してくれているのだから…!私はやはり「とても幸せ」なんだ!それが正しい答えなんです!
そうだ、それが正しい。私達はお互いがお互いを思い合っている、誰にも邪魔する事が出来ない、そんな関係です。

――何が真実かなんて、もう、いいのです。彼女が、喪子さんが私の事を「愛しています。」と言ってくれるなら。それが、一番なのですから。それ以外は私にとって無意味なんです。…それでいい。
――愛しています。私の…喪子さん。



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