管理人さんが帰ってくるまでの仮まとめです

ボカロの「恋愛疾患」とその男性バージョンを聞いて滾ってきた小ネタ
ヤンデレと言うよりストーカーかも



受話器を置いた後、またすぐに取り上げる。ボタン一つで、電話は自動的に君の元へと繋いでくれる。
僕と君の、いつもの挨拶だ。
「なんで……」
何十回目かの無言電話の後、受話器越しの声は震えていた。僕は、鼻歌でも歌いたいような気分で録音ボタンを押す。
「……なんで、毎日毎日こうやって電話をかけてくるの?私、何か悪い事した?それなら謝るから」
それも僕は黙ったままだ。泣きだす君の声は銀の鈴を転がすより良い音色で、そこに邪魔が入れるのはあまりに無粋だ。
そう、邪魔なのだ。
僕と君の間には『誰』にも『何も』入れさせない。受話器を離してそう呟くと、握りしめていたアイスピックで傍の物体を
つついた。既に冷たくなったそれは、何の反応も示さない。
「ねえ、どうしてこんな嫌がらせするの?お願い、何か言ってよ……!」
優しい君は、それでも「電話をかけてくるな」とは言わない。知ってるよ、言えないんだよね。
「――君は」
これまでずっと無言だった相手が喋ったことに驚いたのだろう、彼女が息を飲むのが受話器越しにもわかった。
「僕の事を顔も知らないだろうけど、僕は君の事なら全て知ってるよ、喪子さん。君が大学のカフェでいつもミルクティ
を頼む事も映画はサスペンスが好きな事も洋食より和食を好む事もゲームが好きで休みの日はずっとゲームをしている事も
好きな本も好きなマンガも好きな音楽も本当は嫌ってる講師の名前も将来の夢も使っているシャンプーの銘柄も
雑貨を集め過ぎていつもバイト代が足りない事も洗面台の傍のラックの中に下着が入っている事も部屋の小物入れの上から
三番目に日記を隠している事も生理の周期も中学の時に苛めにあって以来人付き合いが苦手で今入ってるサークルも
時々は苦痛に思っている事も」
そこで僕は一息つき、最後の言葉を告げた。
「そして、サークルの先輩に片思いしているからこそどんなに辛くてもそのサークルを抜けられない事も……、その先輩と
昨日初めてデートした事もね。君はいつものカフェで先輩と待ち合わせて、そしていつもみたいに映画館でサスペンスを見た。
初めてだったよ、君のあんなに楽しそうな顔を見たのは」
「……」
絶句したらしく、君は声一つ上げない。
「でもね、もう止めるよ」
「……え?」
君の声は、驚きながらも少しの安堵を滲ませていた。
「僕は君を見て、君の全てを知っていればそれで満足だった。毎日夜中に君の部屋に忍び込んで君の髪の匂いを嗅げれば満足だった。
でも――それは間違っていたって事に、昨日気付いた。あんな男なんかに、お前を渡してなんかやるものか。
お前とオレの世界に、あいつは必要ない」
「なに……?なに、言って……もう、わけわかんない……」
泣きだしそうなお前の声を楽しみながら、オレはアイスピックで『先輩』の身体を繰り返し突き刺す。ぐちゃぐちゃの
肉塊と化してもまだ殺し足りない、憎い男。この手で消した、邪魔な存在。
「ああそうだ、言い忘れてたけど。喪服を用意していた方がいいぞ、喪子」
そこでオレは電話を切る。
きっと喪子は目を真っ赤に泣き腫らして、先輩の葬式に現れるだろう。そこでオレ達は初めて出会うのだ。
もう二人の間を遮るものは、何も無いのだから。
「喪子……喪子……」
喪子の部屋から持ち帰った沢山のものを抱きしめながら、その匂いを嗅ぐ。舐める。これまでも、眠る喪子に毎日してきた事だ。

ー―振り向いて。こっちを向いて、名前を呼んで。

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