最終更新:ID:yBr/C7DL9A 2018年02月27日(火) 21:03:01履歴
医療モノが好きなただのシロートなので変なとこがあっても気にしないでください…
もう大分昔の事だが珍しく、大雨の日の晩だったと思う。
救急から連絡がきた。意識混濁を来した子供。血糖値が異様に高く、一型糖尿病の可能性があるためこちらで面倒を見るように言われた。
聞けば大層な資産家の息子だかなんだかでめったに使われない通称VIPルームに入院した子供を、偶然当直だった私が様子を見に行った。
可愛らしい子供だ。インスリンを注射されて意識を取り戻し、今はぼんやりと外を眺めている。
まだ小学生だというのに、付き添いはいないようだった。
「酷い雨だね。今夜はずっとかな?」
「…先生」
ベッドの脇に備えてあるパイプ椅子に座り、安心させるよう、にっこりと笑う。
「学校、行けないの寂しいね。直ぐに行けるようになるからね」
子供って、なんていえば喜ぶかわからない。
「先生…僕……僕…どうなるの?……死にたくない」
ぽろぽろと涙を落としながら彼は言う。
その姿が可哀想で仕方なかった。思わず彼の手を握りしめた。
「安心して。先生が君を守るから。
いっしょに頑張ろう?
他の先生もついてる、大丈夫だよ。」
「………先生、……ぼく、怖い。」
「大丈夫。泣かないで。」
泣き止まず、酷くしゃくりあげだした彼を胸の中に抱き締める。私の頬にも熱いものを伝った。
「喪子先生!。」
「ああ、おはようヤンくん。」
あれからどれくらいたつのだろう、彼はずいぶん立派な好青年になった。
私にもよくなついてくれて、子供にとって辛い治療に、弱音を吐きながらも向き合う彼に、まるで自分の子供のような感情を抱いていた。
でも、そろそろ彼とのお別れがくるんだ。
「ヤンくん、君に言わなきゃいけない事があるの」
彼の表情が硬くなる。
「…なんですか?」
「先生はこの病院を辞めることになったの。」
彼は、黙ってうつむいてしまった。
「これからも君を診たかったけど…ここからはだいぶ遠くへ移るからきっと君を往診することは出来ない。
だから他の先生に引き継ぎ頼もうと思うの。いい?」
半分本当で、半分嘘だ。
私が行くのは片田舎の市中病院。でも彼の家からなら、たいしてここに来るのも変わらないのだ。
でも彼の家族は大層なお金持ちで、いちいち大学病院のVIP室をとるような人達だ。
本当はもっと立派な医師にみせようとしたが、小さかった彼が私が良いとゴネたから、いままでここに通わせていたらしい。(耳敏い看護婦や、おじいちゃん教授に言われた)
電話で事前にご家族に連絡したときも、きっと未熟だったからとばされるんだろうと嫌味を言われたのだ。次はもっと立派な医師をつけるようにとも。
彼はそんな事は言わないだろうが、もう私である必要もないだろう。血糖値もしっかりコントロール出来てるし、合併症の可能性も今のところ少ない。模範患者といえる。
それに、彼は私から巣立たなくてはいけない。これはきっと彼のためでもあるのだ。
「…なんで…」
うつむいていた彼が顔をあげる。一瞬、彼の顔が子供の時の顔と重なって、胸がつぶれそうになった。
「せんせー…、僕の事を嫌いになったんですか。僕を守ってくれると言ったのは嘘だったんですか?」
「……嫌だ。僕を、見捨てないで。」
彼は子供の時のようにぼろぼろと泣きながら、私に訴える。
気付いていたのだ。彼の気持ちに。
だからこそ、私は旅立たなくては行けないのだが
彼が中学生ぐらいのとき位からだろうか。いきなり食事やら映画やらに誘うようになった。患者と私的に交流出来ない、とすべて断っていると、帰り道にやけに彼と出くわすようになった。
彼が高校生の時、私の部屋に押し掛けてくるアイツと出掛けた私を彼がつけていたことがあった。
それからしばらくしてインスリンを射たなかった彼が救急に糖尿病性ケトアシドーシスで運ばれて来たとき、
意識を戻した彼を見て、「なんでインスリンを射たなかったの」と聞くことは出来なかった。(怖かったから)
ある日いきなり匿名で服や靴が贈られてきた事もあった。一緒に入っていたぬいぐるみの中から明らかに機械音がしたため、捨てたのだが。
その前には彼の彼女だという女子学生が私のところへ来て、私の事を犯罪者だとか、最低だと罵られた事もあった。
訳がわからず、なんとか落ち着かせた彼女に話しを聞くと、彼の部屋のなかに大量の私の写真やら動画やら、彼と私のあるはずのない予定を書いた手帳があったらしい。
(これを見て、私が彼をストーキングして写真まで送りつける女だと決めつけ、写真から居場所まで割り出したらしい。その根性はすごいと思った。)
恐怖ももちろん感じたが、それ以上に、このままでは彼の人生を台無しにしてしまうと思った。
彼は若くて性格も(ストーカー気質を除けば)良いと言える。おまけに良いとこの坊っちゃんでハンサムだ。
こんなオバサンに足を突っ込んだ女の尻を追いかけずさっさといいお嬢さんと結婚してほしいのだから。
しかし、この時もっと彼に誠実に向き合うべきだったと私は後に後悔することになるのだが…
以上で終わりです
1日に二回もすみません…
もう大分昔の事だが珍しく、大雨の日の晩だったと思う。
救急から連絡がきた。意識混濁を来した子供。血糖値が異様に高く、一型糖尿病の可能性があるためこちらで面倒を見るように言われた。
聞けば大層な資産家の息子だかなんだかでめったに使われない通称VIPルームに入院した子供を、偶然当直だった私が様子を見に行った。
可愛らしい子供だ。インスリンを注射されて意識を取り戻し、今はぼんやりと外を眺めている。
まだ小学生だというのに、付き添いはいないようだった。
「酷い雨だね。今夜はずっとかな?」
「…先生」
ベッドの脇に備えてあるパイプ椅子に座り、安心させるよう、にっこりと笑う。
「学校、行けないの寂しいね。直ぐに行けるようになるからね」
子供って、なんていえば喜ぶかわからない。
「先生…僕……僕…どうなるの?……死にたくない」
ぽろぽろと涙を落としながら彼は言う。
その姿が可哀想で仕方なかった。思わず彼の手を握りしめた。
「安心して。先生が君を守るから。
いっしょに頑張ろう?
他の先生もついてる、大丈夫だよ。」
「………先生、……ぼく、怖い。」
「大丈夫。泣かないで。」
泣き止まず、酷くしゃくりあげだした彼を胸の中に抱き締める。私の頬にも熱いものを伝った。
「喪子先生!。」
「ああ、おはようヤンくん。」
あれからどれくらいたつのだろう、彼はずいぶん立派な好青年になった。
私にもよくなついてくれて、子供にとって辛い治療に、弱音を吐きながらも向き合う彼に、まるで自分の子供のような感情を抱いていた。
でも、そろそろ彼とのお別れがくるんだ。
「ヤンくん、君に言わなきゃいけない事があるの」
彼の表情が硬くなる。
「…なんですか?」
「先生はこの病院を辞めることになったの。」
彼は、黙ってうつむいてしまった。
「これからも君を診たかったけど…ここからはだいぶ遠くへ移るからきっと君を往診することは出来ない。
だから他の先生に引き継ぎ頼もうと思うの。いい?」
半分本当で、半分嘘だ。
私が行くのは片田舎の市中病院。でも彼の家からなら、たいしてここに来るのも変わらないのだ。
でも彼の家族は大層なお金持ちで、いちいち大学病院のVIP室をとるような人達だ。
本当はもっと立派な医師にみせようとしたが、小さかった彼が私が良いとゴネたから、いままでここに通わせていたらしい。(耳敏い看護婦や、おじいちゃん教授に言われた)
電話で事前にご家族に連絡したときも、きっと未熟だったからとばされるんだろうと嫌味を言われたのだ。次はもっと立派な医師をつけるようにとも。
彼はそんな事は言わないだろうが、もう私である必要もないだろう。血糖値もしっかりコントロール出来てるし、合併症の可能性も今のところ少ない。模範患者といえる。
それに、彼は私から巣立たなくてはいけない。これはきっと彼のためでもあるのだ。
「…なんで…」
うつむいていた彼が顔をあげる。一瞬、彼の顔が子供の時の顔と重なって、胸がつぶれそうになった。
「せんせー…、僕の事を嫌いになったんですか。僕を守ってくれると言ったのは嘘だったんですか?」
「……嫌だ。僕を、見捨てないで。」
彼は子供の時のようにぼろぼろと泣きながら、私に訴える。
気付いていたのだ。彼の気持ちに。
だからこそ、私は旅立たなくては行けないのだが
彼が中学生ぐらいのとき位からだろうか。いきなり食事やら映画やらに誘うようになった。患者と私的に交流出来ない、とすべて断っていると、帰り道にやけに彼と出くわすようになった。
彼が高校生の時、私の部屋に押し掛けてくるアイツと出掛けた私を彼がつけていたことがあった。
それからしばらくしてインスリンを射たなかった彼が救急に糖尿病性ケトアシドーシスで運ばれて来たとき、
意識を戻した彼を見て、「なんでインスリンを射たなかったの」と聞くことは出来なかった。(怖かったから)
ある日いきなり匿名で服や靴が贈られてきた事もあった。一緒に入っていたぬいぐるみの中から明らかに機械音がしたため、捨てたのだが。
その前には彼の彼女だという女子学生が私のところへ来て、私の事を犯罪者だとか、最低だと罵られた事もあった。
訳がわからず、なんとか落ち着かせた彼女に話しを聞くと、彼の部屋のなかに大量の私の写真やら動画やら、彼と私のあるはずのない予定を書いた手帳があったらしい。
(これを見て、私が彼をストーキングして写真まで送りつける女だと決めつけ、写真から居場所まで割り出したらしい。その根性はすごいと思った。)
恐怖ももちろん感じたが、それ以上に、このままでは彼の人生を台無しにしてしまうと思った。
彼は若くて性格も(ストーカー気質を除けば)良いと言える。おまけに良いとこの坊っちゃんでハンサムだ。
こんなオバサンに足を突っ込んだ女の尻を追いかけずさっさといいお嬢さんと結婚してほしいのだから。
しかし、この時もっと彼に誠実に向き合うべきだったと私は後に後悔することになるのだが…
以上で終わりです
1日に二回もすみません…