宮沢賢治の詩に作曲。「
チャグチャグ馬コ」を詠んだ詩から題が採られている。
歌曲版も出版されており、
千原英喜歌曲集2に収録されている。
「祭日」は「
文語詩稿〈祭日〉」と同一のテキスト。
「敗れし少年の歌へる」は「
月天子」にも収録されており、そちらが第1番の扱いか。
どちらも基本的な曲想は共通しているが全く別の曲。
烏百態
雪のたんぼのあぜみちを
ぞろぞろあるく烏なり
雪のたんぼに身を折りて
二声鳴けるからすなり
雪のたんぼに首を垂れ
雪をついばむ烏なり
雪のたんぼに首をあげ
あたり見まはす烏なり
雪のたんぼの雪の上
よちよちあるくからすなり
雪のたんぼを行きつくし
雪をついばむからすなり
たんぼの雪の高みにて
口をひらきしからすなり
たんぼの雪にくちばしを
じつとうづめしからすなり
雪のたんぼのかれ畦に
ぴよんと飛びたるからすなり
雪のたんぼをかぢとりて
ゆるやかに飛ぶからすなり
雪のたんぼをつぎつぎに
西へ飛びたつ烏なり
雪のたんぼに残されて
脚をひらきしからすなり
西にとび行くからすらは
あたかもごまのごとくなり
ちやんがちやがうまこ
夜明げには
まだ間あるのに
下のはし
ちやんがちゃがうまこ見さ出はたひと。
ほんのぴゃこ
夜明げがゞった雲のいろ
ちゃんがちゃがうまこ 橋渡て來る。
いしょけめに
ちゃがちゃがうまこはせでげば
夜明げの為が
泣くだぁぃよな氣もす。
下のはし
ちゃがちゃがうまこ見さ出はた
みんなのながさ
おどともまざり。
青い槍の葉
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲は来るくる南の地平
そらのエレキを寄せてくる
鳥はなく啼く青木のほづゑ
くもにやなぎのかくこどり
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれて日ざしが降れば
黄金の幻燈 草の青
気圏日本のひるまの底の
泥にならべるくさの列
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲はくるくる日は銀の盤
エレキづくりのかはやなぎ
風が通ればさえ冴え鳴らし
馬もはねれば黒びかり
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がきれたかまた日がそそぐ
土のスープと草の列
黒くおどりはひるまの燈籠
泥のコロイドその底に
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
たれを刺さうの槍ぢやなし
ひかりの底でいちにち日がな
泥にならべるくさの列
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれてまた夜があけて
そらは黄水晶ひでりあめ
風に霧ふくぶりきのやなぎ
くもにしらしらそのやなぎ
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
そらはエレキのしろい網
かげとひかりの六月の底
気圏日本の青野原
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
祭日
アナロナビクナビ睡たく桐咲きて
峡に瘧のやまひつたはる
ナビクナビアリナリ赤き幡もちて
草の峠を越ゆる母たち
ナリトナリアナロ御堂のうすあかり
毘沙門像に味噌たてまつる
アナロナビクナビ踏まるゝ天の邪鬼
四方につゝどり鳴きどよむなり
敗れし少年の歌へる
ひかりわななくあけぞらに
清廉サフィアのさまなして
きみにたぐへるかの惑星の
いま融け行くぞかなしけれ
雪をかぶれるびやくしんや
百の海岬いま明けて
あをうなばらは万葉の
古きしらべにひかれるを
夜はあやしき積雲の
なかより生まれてかの星ぞ
さながらきみのことばもて
われをこととひ燃えけるを
よきロダイトのさまなして
ひかりわななくかのそらに
溶け行くとしてひるがへる
きみが星こそかなしけれ
「馬こは、みんな、居なぐなた。
仔っこ馬まもみんな随ついで行いた。
いまでぁ野原もさぁみしんぢゃ、
草ぱどひでりあめばがり。」
「一昨日、みぃぞれ降ったれば
すゞらんの実ぃ、みんな赤ぐなて、
雪の支度のしろうさぎぁ、
きいらりきいらど歯ぁみがぐ。」
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