日本語概要
Adobeはモバイルブラウザ用のFlash-Playerの開発を中断した。
これは、モバイルインターネットの歴史における、とても重要な瞬間だ。
1997年から今日まで、Flash-PlayerはWebの重要な部分だった。
派手なゲームやストリーミングビデオ、サウンド、ソケットなど、
オンラインのWeb体験の重要で主役的な部位の多くが、Flash-Playerの技術を利用していた。
しかしそれでも、Flash-Playerは、モバイルWebという市場への参入に失敗した。
なぜ、そうなったのか?
Adobeほどの技術力のある企業が、なぜこのハードルを越えられなかったのか?
PCからモバイルWebへの遷移は、おそらく、インターネットの歴史のもっとも重要な変曲点の一つだろう。
Adobeにとっても、無視できない価値を持っていることは、言うまでもない。
疑問への答は、Flash-Playerの歴史そのものにある。
Steve Jobsも言ったように: “Flashはマウスを使うPCのために設計された”…まさにそうだ。
Flashが作られた90年代には、設計の前提となるターゲットのプラットホームはPCだった。
Flashは、デスクトップコンピュータのために設計された。
高速なCPUと電源ケーブルのあるコンピュータだ。
Adobeがモバイルで苦労した根本原因が、ここにある。
モバイルデバイスは、外部電源に接続されていないことが多い。
小さな電池に依存し、一回の充電で数日は保(も)つ必要がある。
そのために、携帯電話は、遅くて電力消費の少ないCPUを使う。
最初のiPhoneのCPUは412MHzだった。
1998年ごろの速いデスクトップのCPUが、それぐらいだった。
つまり、CPUのスピードでは9年も後れている。
AdobeのFlash-Playerには、とても対応できないハンディだ。
ご存じのように、Flash Playerは、グラフィクスをはじめ、あらゆる処理にCPUを使う。
だからCPUが遅ければグラフィクスのパフォーマンスも遅くなる。
Flash-Playerのエンジン部分が作られた1997年には、コンピュータの中にCPUしかなかった。
GPUとそれによるハードウェアアクセラレーションがふつうのPCにも普及するのは、2000年以降だ。
GPUの登場で、すべてが変わった。
ハードウェアによるグラフィクスの計算は、ソフトウェアに比べて桁違いに速かった。
しかもGPUは、複数の計算を並行して実行できた。
最初のiPhoneは16の計算を同時に実行でき、最新のA5チップ(iPad2とiPhone 4S)は128の並行処理ができる。
さらに重要なのは、同じ計算でもGPUのほうが消費電力が少ないことだ。
その後、OpenGLのようなグラフィクスの規格も、GPUを使用する高速描画を前提として策定された。
iPhoneが”Infinity Blade”のような美しい3Dゲームを高速に動かせるのも、GPU革命のおかげだ。
今日のモバイルデバイスのGPUは、正しく使えば実に強力だ。
ではなぜ、AdobeはGPUのパワーを利用できなかったのか?
答は、後方互換性だ。
Adobeにとって、歴史が重荷だ。
今Web上にある何百万というSWFファイルに対応するためには、
Flash-Playerにそのバージョン1からバージョン11(最新バージョン)までの能力が必要だ。
これと同じ問題が、Windowsを悩ませている。
Adobeは、GPUを利用できる新しいAPI(ステージ3Dなど)を導入したが、
でも古いコードとの後方互換性を捨てることはできないので、既存のAPIの全体がGPUを利用することはできない。
Flashデベロッパが既存のゲームでハードウェアアクセラレーションによるグラフィクスをやろうと思ったら、
そのゲームを新たにリライトするしかない。
【中略】
AdobeはFlash-Playerプラグインで失敗しても、Photoshop、Illustratorなど、アート制作ツールでは今でも業界のベストだ。
2Dのアートワークやアニメなら、Flash Professionalが文句なしにベストの選択だろう。
しかもこれらのツールは、そのままでモバイルWebの制作に使える。
Flash-Playerプラグインの終わりは、歴史の必然だ。
Flashの、あくまでもCPUを使うアーキテクチャは、モバイルデバイスと正面衝突して負けた。
Adobeが舞台を去った今、新たな人気スターとして登場するのは、誰だろうか。
(翻訳:iwatani)
コメントをかく