概要
架空の世界。童話風。
公開日カテゴリ字数
2018/02/27朗読1059字 2000字未満
音声作品
磨迦。ちゃんねる様
https://youtu.be/XolxUX-UDB0


昔々、世界にはいくつもの国がありました。

喜びの国は、喜びに水を差す、妬みの国が苦手です。
妬みの国は、自分達を差し置いて笑顔の絶えない、楽しみの国が苦手です。
楽しみの国は、楽しい雰囲気を一瞬で壊してしまう、怒りの国が苦手です。

みんながみんな、お互いが苦手です。
いなくなってほしい。
自分達の邪魔をしないでほしいと思っています。

そんな中、一際勢力を伸ばす大国がありました。
それは、悲しみの国です。

悲しみの国は、強くはありません。
けれど、悲しみの国が攻め込まれると、民はより悲しみ、一層その地盤と領土を強固なものにしていきます。

ある日、ついに悲しみの国を壊して、ばらばらにしました。
するとどうでしょう。

喜びの国からは笑い声が消えました。
妬みの国は自分の事に精いっぱい、誰にも会わなくなりました。
怒りの国は、もう立ち上がる力さえ残ってはいません。

ばらばらにされた悲しみの国。
そこから流れてきた、悲しみの民。
行く先々で、悲しみは、じわりじわりと伝染していきます。
こうして、壊れた悲しみの国はより広く、大きく、甦りました。

これは大変だ。
みんな、喧嘩をしている場合じゃない。

悲しみに蝕まれた国々が声を上げます。
みんなで協力して、悲しみを閉じ込めよう!
多くの国がその意見に賛同しました。

しかし、かつて悲しみの兄弟であった寂しさの国だけが、首を縦には振りません。
悲しみだけ仲間外れにするなんて、可哀想だ。

じゃあどうすればいいんだろう。
一日、二日、三日……
意見がまとまらないまま時間だけが過ぎていきます。

気が付けば、話し合いの場には誰も来なくなっていました。
みんなの心は悲しみに包まれ、自宅で一人、ずっと泣いているからです。

もう誰も、悲しみの国には立ち向かえません。

小さな男の子が、泣きながら聞きました。
ボクの国も、お隣の国も、みんな悲しくなっちゃうの?
それを想像すると、男の子はますます悲しくなり、涙が止まらないのです。
泣いている人達も気持ちは同じで、男の子が求めるような答えは返ってきません。

男の子は泣きました。
悲しくて悲しくて泣きました。

男の子のお父さんも。
男の子のお母さんも。
お隣さんも。お向かいさんも。先生も。お友達も。
見渡す限り、みんな、みんな、悲しんでいました。
みんな、みんな、泣いていました。

男の子が失敗しても、誰も怒りません。
みんな悲しんでばかりで、羨む相手もいません。
辛いのを隠して笑う必要もありません。

悲しみが大地を埋め尽くした時、男の子は安心しました。
安心して、また泣きました。
傍らには、寂しさが寄り添っていました。

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