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100.稲瀬りぜる - 18/04/08 15:28:12 - ID:P3LwpPUQ9A
「星が見えます、ねずみさん」
夜空を見上げて、私はねずみさん達に語りかける。けもみみおーこくの郊外、森の中の川。
「向こうの…東京の空とは、全然違いますね。」
東京は、空の星を地上に引っ張って来たかのように、地上が明るく生き生きとして、代わりに空は死んでいた。
「ここの空は、生きています。」
ねずみさん達は答えない。ただ、私の指差す空に見とれている。
「東京が悪いとは言いませんが、私は、こっちの空が好きですよ。人の作った空と比べて、自然の作った空は、争いが少ないですから。私達のような…戦うための存在として生まれた身には、染みるものがありますからね。」
そっと、手をのばす。届きそうで届かない光の海に細く白い手を泳がせ、私はそっと目を細めた。
「のらちゃん、こんな所に…」
猫松さんが背後から歩いてくる気配がした。
「今日は冷え込むから、風邪を引くのじゃ…」
「ふふ、機械は風邪をひきませんよ」
「…見てる方が寒いのじゃ」
ため息を吐き出すように、猫松さんが私の隣に座る。
二人分入るぐらいの大きな毛布を広げて、その端を私の方に差し出してきた。
「入るのじゃ」
「ありがとうございます」
毛布にくるまり、深呼吸する。猫松さんの匂いが、私を包んでくれる。
もう一つ、暖かいミルクティーを私に手渡した猫松さんは、私の指差す星の海へ視線を流した。
止まったように静かな時間。眠る動物と、眠らない動物。いつの間にか、私の持つ鞄に入っていたねずみさん達は眠っていて、川辺で空を眺めるのは私たち二人だけ。
「こんな風に、静かな世界が欲しかった。ずっと、こんな風に居られたら良かった。」
戦闘用アンドロイドとして戦った日々が、ふと蘇る。
「作っていけば良いのじゃ、これから。けもみみおーこくは、そのための…平和の為の国家なのじゃ」
「そうですね。…眠いです、猫松さん」
「わらわもじゃ…」
小さな声が途絶える。
やがて、たった二人の世界も眠りについた。
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