「これを受け取った時点で、お前達は聖王国騎士だ。その名に恥じないよう、精進しろよ」
レミエール聖王国騎士団、団長アルドは、訓練兵の2人に真新しい鎧を手渡しながら激励を飛ばす。
「ありがとうございます」
ロランは軽く会釈をすると、両手で鎧を受け取る。
これで、父の居た騎士団に所属する事ができた。
ひとつ大きな目標を達成したという充実感が胸に広がり、自然と鎧を触る手に力が入る。
――数年前
父の大きな背中を追いかける為に、レミエール王国の騎士訓練兵として志願したロラン。
片手剣と盾を持つ軽戦士隊を選択したのも、目標である父と同じ条件にする事で、自分自身にプレッシャーを与える為だった。
日々の訓練だけでは飽き足らず、自主的にトレーニングを積むことで成績をあげ続け、軽戦士隊の筆頭訓練兵となる。
しかし、訓練兵全体で言えば上には上がいる。
その頂点にいつもいるのは、遊撃士隊の筆頭訓練兵のセシル。
その弓の技術は現役の王国騎士を凌ぐとも噂され、正式に騎士となる頃には聖王国騎士に配属される事が約束されていると言われていた。
彼女を抜かなければ、聖王国騎士になる事は難しい。
筆頭訓練兵の中で成績1位の者だけが選ばれる栄誉、聖王国騎士への切符をロランが手にするには、更に努力をする必要があった。
ただ身体を鍛え、技を磨くだけでは足りないと考え、軽戦士隊以外の隊の役割や、戦場での指揮、策略などを本で学ぶようになる。
そして迎えた模擬戦闘試験の日。
ロランは小隊の隊長として、作戦を説明していた。
「みんな良く聞いてくれ。まずはランサーが前で注意を引いて、その隙に俺がAの地点まで走り抜ける。ランサーのフォローを、クレリックにしてもらう。上の標的はアーチャーが落としてくれ。俺がAの地点に辿り着いたら――」
今までは各々が状況を判断して全力を尽くそうと、士気をあげる事だけを意識していたが、より効率的に動く為に予め考えた作戦を共有していく。
ロランの小隊は頷きながら話に耳を向けていた。
「俺が考えた作戦は以上だ。何か質問は?」
「もしCの地点に目標がなかったらどうするんだ?」
「その時は声を出してみんなに教えてくれ。残る地点はDとGだけになるから――」
ワンマンとならないように、そして最善を尽くせるように人からも意見を取り入れる。
慣れないながらも、今できる準備を全て整えた。
こうして出来上がった小隊の作戦。
そして、その時が訪れる。
「そこまで!」
戦場を模した平原に指導官の声が響き渡る。
ロランの立てた作戦の通り、それぞれが最善を尽くして目標の撃破を達成した。
確かな手応えを感じていたロランは、仲間と顔を合わせ静かに拳を上げる。
「やったなロラン!いい感じだったぜ!」
「あぁ。皆が頑張ってくれたからな」
「もしかしたら、セシルの小隊にも勝てるかもしれないぞ?」
「その為に努力したんだ。俺達は勝たなければいけない」
笑顔で喜ぶチームメイトに、真剣な表情で言葉を返すロラン。
その視線の先には、模擬戦闘試験最終組の小隊。
リーダーのセシルは気を引き締めている様子だった。
試験が行われる平原から少し離れた高台の丘まで歩くと、セシル小隊の試験風景を見下ろす。
目に飛び込んできたのは、遊撃士でありながらも自ら動き周り、的確に目標を破壊していくセシルだった。
チームメイトとの連携が取れているとはお世辞でも言い難い。
しかし、セシルが率先して行動する事で、他の者も攻撃的に戦場を制圧していく。
ロランの小隊とは正反対の作戦。
確かな技量と絶対なる自信がなければ、こんな作戦を押し通す指揮官はいないだろう。
にも拘わらず、そのやり方でトップを取り続けているセシルは、それだけ優秀という事だ。
全ての模擬戦闘試験が終わり、指導官がその結果を読み上げる。
皆緊張した様子でその声に耳を傾けた。
「では、まずは1位、得点93。ロラン小隊」
「嘘でしょ!?」
信じられない様子のセシルが声を上げた。
集まった訓練兵はざわざわとどよめく。
「静かに。2位は得点91。セシル小隊」
それを聞いて力が抜けた様子のセシルは視線を地に落とす。
ロランはチームメイトと顔を見合わせてニっと歯を見せた。
努力が実を結んだ瞬間。
グッと拳を握り、喜びを確かめる。
これで聖王国騎士という目標に大きく近付いた。
残された課題はこの順位の継続。
それが出来れば――。
「ちょっとアンタ!」
宿舎への帰り道、突然背後から声が飛んでくる。
振り向くと、眉を逆ハの字に釣り上げたセシルが立っていた。
「セシルか。なんか用か?」
「何すましてるの!?一時的にとは言え、アタシを抜いて訓練兵の1位になったのよ!?もう少し喜んだらどうなの!?」
セシルと2人で会話をするのはこの時が初めてだった。
元々ロラン自身が積極的に人と会話をするタイプの人間ではなかったというのもあるが、軽戦士隊と遊撃士隊は模擬戦闘試験で同じチームに配属されなければ顔を合わす事も少ない。
突然絡んできたという事は、首位を取られたという事がよほど悔しいのだろう。
「いや……俺は喜んでるけど……そう見えないかな……はは」
無理矢理笑顔を作りながら、彼女の怒りを買わないように返事をする。
敵は作らないに越したことはない。
「全然そんな風に見えないわよ!……まぁいいわ!今日はたまたま調子が悪かっただけなんだから……次は絶対にアタシが1位になるから、覚悟しておきなさい!」
そこまで言うと、ロランの横を通り過ぎて宿舎に向かい走り去った。
「なんだよ……」
更に話したとしても、火に油を注ぐだけだろう。
プライドの高そうな彼女の事だ、必ず次の試験には対策を講じてくる。
彼女に抜き返されないように自分を更に高めようと気を引き締めた。
――――――
――――
――
「それで、お前達の最初の任務なんだが、まずは3日後の朝に王都の民間人に新しい聖王国騎士のお披露目がある。これに参加してもらう」
「了解しました!」
鎧を受け取ったロランとセシルは、敬礼をしながらアルドの目を真っ直ぐ見つめる。
「2人共、あんま堅くなるな。国王や大臣の前ではビシっとする事も大事だが、俺には敬語も敬礼も必要ない。命を預ける仲間なんだぞ?上下関係ってのは俺の隊には必要ねぇんだよ!はっはっは!」
「了解!アルド団長」
憧れのアルド団長の意志を尊重して、多少無理をしながらも合わせるロラン。
セシルもそれに続く。
「りょ、了解」
「それにしても、2人共優秀らしいじゃねぇか。指導官から聞いたぞ?良いライバルなんだってな!」
セシルが声を荒らげる。
「そ、そんなんじゃないです!」
「じゃあなんでお前達は同時に入隊できたんだ?毎年トップの成績の者しかこの隊には入ってこれない筈だったろ」
「それは……アタシ達にはわかりません……」
あの模擬戦闘試験の後、同じように何度も試験は行われ、ロランは1位を取り続けた。
聖王国騎士になる為に努力をし続けた結果、セシルに順位を抜き返される事なくここまで辿り着く。
しかし、呼び出されたのはロランとセシル。
なぜ2人が聖王国騎士となれたのか、2人には告げられずにここまできた。
「まぁ、2人で気合い入れろって事だな!」
「はい、父に負けない騎士になる為に、精一杯頑張ります」
「ほぅ?確かにお前の親父さんは素晴らしい騎士だった。俺も憧れたもんさ」
「自慢の父です」
「はっはっは!そりゃそうだな!」
「アンタそんな話一度も聞いた事ないけど……」
セシルが横から口を挟み、横目でロランを睨んでいる。
「言ったことなかったか?」
「なるほどね。アンタの底抜けな忍耐はそこから来てるって事か」
セシルには自主的なトレーニングをしている事は話していない。
何故彼女がそんな事を言うのか、ロランには分からなかった。
「悪ぃ、長話になっちまったな!ちょっとこの後用事があるから、これからよろしくな!」
アルドが2人の肩を叩いた。
「はい!よろしくお願いします!」
ロランとセシルの声が揃う。
「そういう堅苦しいのはなしって言っただろ?俺の隊に入ったんだから、俺のルールを守れよ」
アルド団長は笑いながら二人を見る。
「よ、よろしく……」
「あぁ、これからよろしく」
レミエール聖王国騎士団、団長アルドは、訓練兵の2人に真新しい鎧を手渡しながら激励を飛ばす。
「ありがとうございます」
ロランは軽く会釈をすると、両手で鎧を受け取る。
これで、父の居た騎士団に所属する事ができた。
ひとつ大きな目標を達成したという充実感が胸に広がり、自然と鎧を触る手に力が入る。
――数年前
父の大きな背中を追いかける為に、レミエール王国の騎士訓練兵として志願したロラン。
片手剣と盾を持つ軽戦士隊を選択したのも、目標である父と同じ条件にする事で、自分自身にプレッシャーを与える為だった。
日々の訓練だけでは飽き足らず、自主的にトレーニングを積むことで成績をあげ続け、軽戦士隊の筆頭訓練兵となる。
しかし、訓練兵全体で言えば上には上がいる。
その頂点にいつもいるのは、遊撃士隊の筆頭訓練兵のセシル。
その弓の技術は現役の王国騎士を凌ぐとも噂され、正式に騎士となる頃には聖王国騎士に配属される事が約束されていると言われていた。
彼女を抜かなければ、聖王国騎士になる事は難しい。
筆頭訓練兵の中で成績1位の者だけが選ばれる栄誉、聖王国騎士への切符をロランが手にするには、更に努力をする必要があった。
ただ身体を鍛え、技を磨くだけでは足りないと考え、軽戦士隊以外の隊の役割や、戦場での指揮、策略などを本で学ぶようになる。
そして迎えた模擬戦闘試験の日。
ロランは小隊の隊長として、作戦を説明していた。
「みんな良く聞いてくれ。まずはランサーが前で注意を引いて、その隙に俺がAの地点まで走り抜ける。ランサーのフォローを、クレリックにしてもらう。上の標的はアーチャーが落としてくれ。俺がAの地点に辿り着いたら――」
今までは各々が状況を判断して全力を尽くそうと、士気をあげる事だけを意識していたが、より効率的に動く為に予め考えた作戦を共有していく。
ロランの小隊は頷きながら話に耳を向けていた。
「俺が考えた作戦は以上だ。何か質問は?」
「もしCの地点に目標がなかったらどうするんだ?」
「その時は声を出してみんなに教えてくれ。残る地点はDとGだけになるから――」
ワンマンとならないように、そして最善を尽くせるように人からも意見を取り入れる。
慣れないながらも、今できる準備を全て整えた。
こうして出来上がった小隊の作戦。
そして、その時が訪れる。
「そこまで!」
戦場を模した平原に指導官の声が響き渡る。
ロランの立てた作戦の通り、それぞれが最善を尽くして目標の撃破を達成した。
確かな手応えを感じていたロランは、仲間と顔を合わせ静かに拳を上げる。
「やったなロラン!いい感じだったぜ!」
「あぁ。皆が頑張ってくれたからな」
「もしかしたら、セシルの小隊にも勝てるかもしれないぞ?」
「その為に努力したんだ。俺達は勝たなければいけない」
笑顔で喜ぶチームメイトに、真剣な表情で言葉を返すロラン。
その視線の先には、模擬戦闘試験最終組の小隊。
リーダーのセシルは気を引き締めている様子だった。
試験が行われる平原から少し離れた高台の丘まで歩くと、セシル小隊の試験風景を見下ろす。
目に飛び込んできたのは、遊撃士でありながらも自ら動き周り、的確に目標を破壊していくセシルだった。
チームメイトとの連携が取れているとはお世辞でも言い難い。
しかし、セシルが率先して行動する事で、他の者も攻撃的に戦場を制圧していく。
ロランの小隊とは正反対の作戦。
確かな技量と絶対なる自信がなければ、こんな作戦を押し通す指揮官はいないだろう。
にも拘わらず、そのやり方でトップを取り続けているセシルは、それだけ優秀という事だ。
全ての模擬戦闘試験が終わり、指導官がその結果を読み上げる。
皆緊張した様子でその声に耳を傾けた。
「では、まずは1位、得点93。ロラン小隊」
「嘘でしょ!?」
信じられない様子のセシルが声を上げた。
集まった訓練兵はざわざわとどよめく。
「静かに。2位は得点91。セシル小隊」
それを聞いて力が抜けた様子のセシルは視線を地に落とす。
ロランはチームメイトと顔を見合わせてニっと歯を見せた。
努力が実を結んだ瞬間。
グッと拳を握り、喜びを確かめる。
これで聖王国騎士という目標に大きく近付いた。
残された課題はこの順位の継続。
それが出来れば――。
「ちょっとアンタ!」
宿舎への帰り道、突然背後から声が飛んでくる。
振り向くと、眉を逆ハの字に釣り上げたセシルが立っていた。
「セシルか。なんか用か?」
「何すましてるの!?一時的にとは言え、アタシを抜いて訓練兵の1位になったのよ!?もう少し喜んだらどうなの!?」
セシルと2人で会話をするのはこの時が初めてだった。
元々ロラン自身が積極的に人と会話をするタイプの人間ではなかったというのもあるが、軽戦士隊と遊撃士隊は模擬戦闘試験で同じチームに配属されなければ顔を合わす事も少ない。
突然絡んできたという事は、首位を取られたという事がよほど悔しいのだろう。
「いや……俺は喜んでるけど……そう見えないかな……はは」
無理矢理笑顔を作りながら、彼女の怒りを買わないように返事をする。
敵は作らないに越したことはない。
「全然そんな風に見えないわよ!……まぁいいわ!今日はたまたま調子が悪かっただけなんだから……次は絶対にアタシが1位になるから、覚悟しておきなさい!」
そこまで言うと、ロランの横を通り過ぎて宿舎に向かい走り去った。
「なんだよ……」
更に話したとしても、火に油を注ぐだけだろう。
プライドの高そうな彼女の事だ、必ず次の試験には対策を講じてくる。
彼女に抜き返されないように自分を更に高めようと気を引き締めた。
――――――
――――
――
「それで、お前達の最初の任務なんだが、まずは3日後の朝に王都の民間人に新しい聖王国騎士のお披露目がある。これに参加してもらう」
「了解しました!」
鎧を受け取ったロランとセシルは、敬礼をしながらアルドの目を真っ直ぐ見つめる。
「2人共、あんま堅くなるな。国王や大臣の前ではビシっとする事も大事だが、俺には敬語も敬礼も必要ない。命を預ける仲間なんだぞ?上下関係ってのは俺の隊には必要ねぇんだよ!はっはっは!」
「了解!アルド団長」
憧れのアルド団長の意志を尊重して、多少無理をしながらも合わせるロラン。
セシルもそれに続く。
「りょ、了解」
「それにしても、2人共優秀らしいじゃねぇか。指導官から聞いたぞ?良いライバルなんだってな!」
セシルが声を荒らげる。
「そ、そんなんじゃないです!」
「じゃあなんでお前達は同時に入隊できたんだ?毎年トップの成績の者しかこの隊には入ってこれない筈だったろ」
「それは……アタシ達にはわかりません……」
あの模擬戦闘試験の後、同じように何度も試験は行われ、ロランは1位を取り続けた。
聖王国騎士になる為に努力をし続けた結果、セシルに順位を抜き返される事なくここまで辿り着く。
しかし、呼び出されたのはロランとセシル。
なぜ2人が聖王国騎士となれたのか、2人には告げられずにここまできた。
「まぁ、2人で気合い入れろって事だな!」
「はい、父に負けない騎士になる為に、精一杯頑張ります」
「ほぅ?確かにお前の親父さんは素晴らしい騎士だった。俺も憧れたもんさ」
「自慢の父です」
「はっはっは!そりゃそうだな!」
「アンタそんな話一度も聞いた事ないけど……」
セシルが横から口を挟み、横目でロランを睨んでいる。
「言ったことなかったか?」
「なるほどね。アンタの底抜けな忍耐はそこから来てるって事か」
セシルには自主的なトレーニングをしている事は話していない。
何故彼女がそんな事を言うのか、ロランには分からなかった。
「悪ぃ、長話になっちまったな!ちょっとこの後用事があるから、これからよろしくな!」
アルドが2人の肩を叩いた。
「はい!よろしくお願いします!」
ロランとセシルの声が揃う。
「そういう堅苦しいのはなしって言っただろ?俺の隊に入ったんだから、俺のルールを守れよ」
アルド団長は笑いながら二人を見る。
「よ、よろしく……」
「あぁ、これからよろしく」
コメントをかく