「何で私までこんな格好しなきゃいけないの……お祭りなら一人でやればいいじゃない?」
「ハロウィンよ。ヴィレスに住んでた頃、毎年やってたわよ?」
「大陸の外の祭りなんでしょう?私たちには関係ないじゃない」
「私には関係あるの!いいから付き合いなさいよ!!」
「ちょっ……勝手に脱がさないでよ!!」
「団長も……きっと普段と違う私達を見てくれるわよ?」
「ぐっ……そ、そうなの……?」
ロングブーツにロンググローブ、あとは殆ど裸のような状態なのは変わらないが、黒を基調としたカラーは確かに普段のリリヴィスよりも大人っぽく見えるかもしれない。
燭台のような槍にカボチャのついた盾を持ち、自前の羽にはペイントだろうかシールだろうか、コウモリが描かれている。
毎年この時期になると袖を通すこの衣装。
少しずつサイズは合わなくなり、手直しする度に時の流れを感じさせられる。
メアリに用意した衣装を無理やり着せようとすると、リリヴィスにとっての初めてのハロウィンの記憶が蘇る……。
「リリヴィス!やっぱりやめよう!恥ずかしいよこんな格好!!」
「お菓子いっぱいもらえるんでしょう?レンは欲しくないの!?」
「ん〜……お菓子は欲しいな……」
海に近い獣境の村『ヴィレス』は、大陸の内外の両方から影響を受けることにより、独自の文化を築くガルムの集う土地。
狐のガルムであるレンとは、いろんな遊びを考えながら毎日を過ごしていた。
ある日、どこからか『ハロウィン』という祭りの話をもってきたレン。
それは幼子であった自分の興味を強く惹く内容だった。
「子供たちが魔女やお化けに変装するんだ!そして、村中の家をイタズラして回って、許してほしかったらお菓子をよこせ〜!ってたくさんお菓子を貰うお祭りなんだよ!」
「お菓子がいっぱいもらえるの!?やるしかないわね!!」
で、いざとなって仮装が恥ずかしいとレンが渋りだしたわけだ。
「もう!男でしょ!!いいから早く着替えるの!!」
「ちょっ……勝手に脱がさないでよ!!」
こうして無理やりレンを着替えさせたリリヴィス。
さあ、いよいよハロウィンの始まりだ。
「まずはこの家ね!」
「待って!ここはまずいよ!リリヴィス!!」
小さな二人の前にそびえ立つように門を構えるお屋敷。
村でも有数と名高いある貴族様の家だ。
「こんなに大きな家に住んでるんだからきっと大金持ちよ!食べたことないお菓子だっていっぱいもらえるはずだわ!!」
「貴族にイタズラなんてしたら捕まっちゃうよ!!」
「貴族は偉いんでしょ?偉い人はみんなの笑顔を守る義務があるってママが言ってたわ!きっとわかってくれるわよ!」
忍び込んだ屋敷の中。
何やらいい匂いが漂ってくる。
そういえばおやつの時間がそろそろだった。
「期待できるわよ……レン!」
「なんか僕もやる気が出てきたよ……リリヴィス!」
匂いを辿り、部屋を覗き込むとテーブルにケーキと紅茶が用意されているのが見えた。
「レン。あれを勝手に食べちゃうのがイタズラってのはどう?」
「イタズラをされないためのお菓子を貰うというのは間違ってないけど、その流れを楽しむのがハロウィンだと思うんだけど?」
「ケーキを食べるのはイタズラで、貰うお菓子はまた別でしょ?」
「それ、もはやお化けというより追剥ぎみたいだけど平気?」
「ん……ん〜……それはちょっと……」
「おい……誰だお前たち?ここで何をしている?」
「「え!?」」
廊下でイタズラの内容を相談するお化けは流石にマヌケすぎた。
恐らく屋敷の者だろう。
綺麗な身だしなみに、美しい白い羽の生えた少年に背後から声をかけられ、慌ててその場を立ち去ろうとする二人。
「リリヴィス!逃げるよ!」
「ま、待ってよ!レン!!」
「怪しいヤツらめ!逃げられると思うなよ!!」
屋敷から逃げ出し、村中を走り回ること半刻。
なんとか逃げることはできたものの、結局ケーキもお菓子も手に入れられず仕舞いだった。
「何よ、まだガキんちょのくせにあのアホ鳥!!」
「ちょっと……口が悪いよ?僕らよりも年下なのに随分としっかりしてたね……さすがは貴族様」
「いいわ!次のターゲットはあそこよ!!」
「え……?いやいやいやいや!!あそこは絶対ダメだって!!」
「逃したお菓子の分までたっぷり頂いてやるのよ!!」
「ちょ!?まずいってば!!」
リリヴィスが次の標的に選んだのは、この地を治める国王の家。
すなわち王宮である。
「じゃ!頑張ってね!僕、夕ご飯のお手伝いをしない――と!?」
「待ってよ!私も……一人じゃちょっと……」
「ほら!まずいってわかってるんじゃん!!」
「だってお腹空いてイライラしてたんだもん!!」
――ゴゴゴゴゴゴ
入口で騒ぐ二人に中の者が気付いたのか、二人の眼前にある巨大な扉が重厚な音を立てながらゆっくりと開く。
「やばいよ!!と、とにかく頭を低くするんだ、リリヴィス!!」
「え!?あ、うん!!」
「んん?おやおや。こんな所に可愛らしいお客さんが二人もいるではないか。どうしたのかな?」
地に頭をこすりつける二人の頭上からかけられた静かでいて、優しい声。
その温かさに安心したのか、面を上げる二人だったが……
「「!?」」
「んん?どうかしたのかな?」
「「うわぁあああああああああああああああああああ!!」」
あの日、幼いながらに覚えた恐怖は忘れることはないだろう。
本気で頭から食べられると思ったものだ。
その人物こそが、ヴィレスの王だったと知ったのはそれからだいぶ後の話だ。
――――
――
―
メアリの髪に櫛を通しながら、懐かしさに更ける。
「ふふ……」
「何がおかしいのよ?」
「ん?あぁ、ちょっと思い出し笑いをね」
「人を無理やり着替えさせといて、他人事なのね……」
「まぁまぁ!ところで……なんか無理させちゃったみたいね」
それは殆ど壁と言って良いだろう。
「……どこ見て言ってるの?」
「なんか……ゴメンねぇ」
「……どこ見て謝ってるの?ねぇ!?ちょっとアンタ!!」
「ハロウィンよ。ヴィレスに住んでた頃、毎年やってたわよ?」
「大陸の外の祭りなんでしょう?私たちには関係ないじゃない」
「私には関係あるの!いいから付き合いなさいよ!!」
「ちょっ……勝手に脱がさないでよ!!」
「団長も……きっと普段と違う私達を見てくれるわよ?」
「ぐっ……そ、そうなの……?」
ロングブーツにロンググローブ、あとは殆ど裸のような状態なのは変わらないが、黒を基調としたカラーは確かに普段のリリヴィスよりも大人っぽく見えるかもしれない。
燭台のような槍にカボチャのついた盾を持ち、自前の羽にはペイントだろうかシールだろうか、コウモリが描かれている。
毎年この時期になると袖を通すこの衣装。
少しずつサイズは合わなくなり、手直しする度に時の流れを感じさせられる。
メアリに用意した衣装を無理やり着せようとすると、リリヴィスにとっての初めてのハロウィンの記憶が蘇る……。
「リリヴィス!やっぱりやめよう!恥ずかしいよこんな格好!!」
「お菓子いっぱいもらえるんでしょう?レンは欲しくないの!?」
「ん〜……お菓子は欲しいな……」
海に近い獣境の村『ヴィレス』は、大陸の内外の両方から影響を受けることにより、独自の文化を築くガルムの集う土地。
狐のガルムであるレンとは、いろんな遊びを考えながら毎日を過ごしていた。
ある日、どこからか『ハロウィン』という祭りの話をもってきたレン。
それは幼子であった自分の興味を強く惹く内容だった。
「子供たちが魔女やお化けに変装するんだ!そして、村中の家をイタズラして回って、許してほしかったらお菓子をよこせ〜!ってたくさんお菓子を貰うお祭りなんだよ!」
「お菓子がいっぱいもらえるの!?やるしかないわね!!」
で、いざとなって仮装が恥ずかしいとレンが渋りだしたわけだ。
「もう!男でしょ!!いいから早く着替えるの!!」
「ちょっ……勝手に脱がさないでよ!!」
こうして無理やりレンを着替えさせたリリヴィス。
さあ、いよいよハロウィンの始まりだ。
「まずはこの家ね!」
「待って!ここはまずいよ!リリヴィス!!」
小さな二人の前にそびえ立つように門を構えるお屋敷。
村でも有数と名高いある貴族様の家だ。
「こんなに大きな家に住んでるんだからきっと大金持ちよ!食べたことないお菓子だっていっぱいもらえるはずだわ!!」
「貴族にイタズラなんてしたら捕まっちゃうよ!!」
「貴族は偉いんでしょ?偉い人はみんなの笑顔を守る義務があるってママが言ってたわ!きっとわかってくれるわよ!」
忍び込んだ屋敷の中。
何やらいい匂いが漂ってくる。
そういえばおやつの時間がそろそろだった。
「期待できるわよ……レン!」
「なんか僕もやる気が出てきたよ……リリヴィス!」
匂いを辿り、部屋を覗き込むとテーブルにケーキと紅茶が用意されているのが見えた。
「レン。あれを勝手に食べちゃうのがイタズラってのはどう?」
「イタズラをされないためのお菓子を貰うというのは間違ってないけど、その流れを楽しむのがハロウィンだと思うんだけど?」
「ケーキを食べるのはイタズラで、貰うお菓子はまた別でしょ?」
「それ、もはやお化けというより追剥ぎみたいだけど平気?」
「ん……ん〜……それはちょっと……」
「おい……誰だお前たち?ここで何をしている?」
「「え!?」」
廊下でイタズラの内容を相談するお化けは流石にマヌケすぎた。
恐らく屋敷の者だろう。
綺麗な身だしなみに、美しい白い羽の生えた少年に背後から声をかけられ、慌ててその場を立ち去ろうとする二人。
「リリヴィス!逃げるよ!」
「ま、待ってよ!レン!!」
「怪しいヤツらめ!逃げられると思うなよ!!」
屋敷から逃げ出し、村中を走り回ること半刻。
なんとか逃げることはできたものの、結局ケーキもお菓子も手に入れられず仕舞いだった。
「何よ、まだガキんちょのくせにあのアホ鳥!!」
「ちょっと……口が悪いよ?僕らよりも年下なのに随分としっかりしてたね……さすがは貴族様」
「いいわ!次のターゲットはあそこよ!!」
「え……?いやいやいやいや!!あそこは絶対ダメだって!!」
「逃したお菓子の分までたっぷり頂いてやるのよ!!」
「ちょ!?まずいってば!!」
リリヴィスが次の標的に選んだのは、この地を治める国王の家。
すなわち王宮である。
「じゃ!頑張ってね!僕、夕ご飯のお手伝いをしない――と!?」
「待ってよ!私も……一人じゃちょっと……」
「ほら!まずいってわかってるんじゃん!!」
「だってお腹空いてイライラしてたんだもん!!」
――ゴゴゴゴゴゴ
入口で騒ぐ二人に中の者が気付いたのか、二人の眼前にある巨大な扉が重厚な音を立てながらゆっくりと開く。
「やばいよ!!と、とにかく頭を低くするんだ、リリヴィス!!」
「え!?あ、うん!!」
「んん?おやおや。こんな所に可愛らしいお客さんが二人もいるではないか。どうしたのかな?」
地に頭をこすりつける二人の頭上からかけられた静かでいて、優しい声。
その温かさに安心したのか、面を上げる二人だったが……
「「!?」」
「んん?どうかしたのかな?」
「「うわぁあああああああああああああああああああ!!」」
あの日、幼いながらに覚えた恐怖は忘れることはないだろう。
本気で頭から食べられると思ったものだ。
その人物こそが、ヴィレスの王だったと知ったのはそれからだいぶ後の話だ。
――――
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メアリの髪に櫛を通しながら、懐かしさに更ける。
「ふふ……」
「何がおかしいのよ?」
「ん?あぁ、ちょっと思い出し笑いをね」
「人を無理やり着替えさせといて、他人事なのね……」
「まぁまぁ!ところで……なんか無理させちゃったみたいね」
それは殆ど壁と言って良いだろう。
「……どこ見て言ってるの?」
「なんか……ゴメンねぇ」
「……どこ見て謝ってるの?ねぇ!?ちょっとアンタ!!」
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