蒼空のリベラシオン(ソクリベ)【iOS/Android対応のスマートフォン向け協力アクションRPG】の非公式攻略wikiです。有志によって運営されているファンサイトで、ソクリベに関する情報を収集しています。

 ――夢を見た

 ゴツゴツとした屈強な男と、その背に憧れる1人の少年。
 少年があおぎ見る男は少年の父親。

 そして少年は……子どもの頃の俺だった。

 『“正義”を全うしろ』

 子どもの頃から親父に言われてきた教訓。
 半ば口癖のように親父が言っていたこの言葉は、俺の生き方であり、俺という個人の根幹だった。
 悪を許さず、弱者を助ける為に戦う親父の姿は、今でも俺にとっての理想だ。

 そんな親父の様な立派な戦士になりたくて、親父を越える戦士になりたくて、俺はその背中を追うように街の傭兵となった。



 ――夢を見た

 大人でも難しいと言われている任務を終え、街の人々から称えられながら、その声に満更でもない表情の少年がいる……
 傭兵となったばかりの俺だった。

 大人達は俺の事を街の自慢だと言い、皆笑顔で接してくる。
 特に、向かいの家に住む幼馴染の少女は、俺の戦果を自分の事のように喜んでいた。

 だが、親父に認めて貰える事はなかった。

 「もっと強くならねぇと、俺には勝てねぇぞ」

 親父は俺にそんな言葉を掛けるようになった。
 一切褒めず、笑わない親父の顔を横目で見ては、苛立っていた。

 今思えば、親父の笑った顔は記憶にない。


 ――夢を見た

 鎧を着込み、大剣を担ぎ、晴々とした表情で帰路に着く青年…。
 傭兵の任務を終えた俺だった。

 自分を鍛え続け、故郷の周りの仕事だけでは物足りなくなっていた俺は、シャムールから遠く離れた街の仕事も請けた。
 ある日、目に入った仕事……人を襲うという凶暴なドラゴンの討伐依頼。
 騎士団30人を返り討ちにしたという内容に、仲間たちは足をすくませていた。

 俺は、今も苦しめられている人々の為、正義を全うする為に、依頼書を手に取った。

 炎を吐き、鋼のような鱗を纏うその龍は、今まで戦った敵とは比べ物にならなかった。
 それでも俺は、単身でドラゴンと対峙した。
 親父に……俺を認めさせる為に。

 悪戦苦闘の末、ドラゴンの胸元で確かな手応えを感じる。
 動かなくなったドラゴンを前に、拳を握りしめて空を仰いだ。

 討伐の報告を終えると、嬉し泣きする村の人々が見え、やっと親父に追いついた…強い戦士になれたと感じた。

 故郷へ真っ直ぐ帰る事も出来たが、この大義を果たした事を親父に誇示する為には、土産話だけでは足りないと考え、評判の高い鍛冶屋がひしめく街「イオ」に寄る事にした。
 倒したドラゴンの角から剣と鎧の作成を依頼する。
 これを見せれば、さすがにあの親父も俺を認めるだろう……。


 ――夢を見た

 涙で顔を歪め、怒りの炎を瞳に宿した男……
 “復讐”に囚われた俺がいた。

 ドラゴンの依頼を終わらせた事を報告しようと家に帰ると、親父の姿はそこになかった。
 机に放り投げられた雑な書き置きには、「仕事でアルモニアへ行く」とだけ書いてある。
 親父はまだまだ現役の傭兵、引退なんてする気もさらさらないのだろう。
 しかし、何日経過しようと帰って来ない親父に、俺は一抹の不安を感じた…。

 煮え切らず、俺もアルモニアへと向かう……。
 そこで待っていたのは……

 親父の訃報だった――

 非人道的な商売をしている奴隷商人が街を脅かしている事――
 仕事を終えた帰り、逃げ出した奴隷の女を親父が見つけて話しかけた事――
 女を追ってきた連中から、女を庇って親父が死んだ事――

 親父の依頼主、目撃した街の人間、元奴隷の女。
 様々な人々から散り散りの情報を集めた終わった俺は、小さな丘の上に刺さった親父の剣の前で……絶望に打ちひしがれていた。
 薄暗く淀んだ雲で覆われた空の下、俺は“正義”が何なのか分からない。

 悔しかった、悲しかった、憎かった――

 初めて抱いた黒い衝動に身を任せ、その日の内に奴隷商人の家へ乗り込んだ。
 居間にいた夫婦は、一見人の良さそうな人物に見えるだろうが、俺の目にはまるで醜い悪魔のように映った。
 剣を突きつけると、夫婦揃ってガタガタと震えながら目に涙を溜めながら命乞いをする。

「どうか……どうか命だけは……!」

 こいつらの言っていることが、俺にはまるで理解できない。
 できる訳がない。
 散々人を物のように扱い、その命を弄んだであろう人間が……
 “悪”が使っていい言葉ではなかった。

 そして、俺の中で何かが切れた――

 俺は夫婦を斬り殺し、屋内に火を点け、家を後にする。
 今なお思い返しても、他人事のようにしか表現できない…。

 正義の味方として、気高く、高潔だった……あの親父が……あの“正義”が……こんな“悪”に屈したという事が…信じられなかった……。
 信じられる訳がなかった。


 ――夢を見た

 心もなく、ただただ魔物を狩る男の姿。
 仕事に没頭する俺だった。

 からっぽのまま故郷に帰ってから、それまで以上に過酷な任務に就いた。
 休まず働く俺を見て、周りからは心配する声があがり、時には恐れられる事もあったが、俺は気にしなかった。

 “正義”が分からない。
 人の役に立つ事…?
 誰かを助ける事…?
 誰かを殺す事…?
 殺される事…?

 「なぁ、あんたの正義ってなんだったんだ…?……親父」


 ――夢を見た

 苦悩の表情でフラフラと歩く男の姿。
 アルモニアの街を後にした俺だった。

 ある日、魔物退治の依頼を受けて、俺は再びアルモニアへと足を運んだ。
 仕事自体は簡単に終わった。
 俺は街を出る前にある事を確かめる為、街中を散策する。

 音楽が鳴り響き、活気が溢れ、人々の笑顔が溢れる。
 奴隷がいない。
 争いの声はない。
 この街は平和だ。

 あの時の行いが正しかったのだと、自分に思い込ませるには充分だった。
 しかし、それも長くは続かない。

 郊外に行く途中、ふいに殺気を感じた。
 振り向かず、歩幅を変えず、殺気を出している“誰か”に違和感を与えない様に人気のない路地裏へと足を運ぶ。
 周囲に人がいない事を確認し、誰もいない筈の空間に向けて声を出す。

「さっきから追ってきてるのは分かってる。俺は逃げねぇから、出て来いよ」

 背後から足音が響いた。
 出てきたのは年端もいかない少年。
 槍を構え、恐ろしい程の殺気を放っている。
 見覚えのない顔に名前を聞くと、少年は静かに言葉を吐く。

「……覚えているか?お前が殺し……家を焼いた……。この街の夫婦を、覚えているか…?」

「!!?」

 様々な憶測が頭の中で飛び散る。
 敵の槍が迫って来たことに気づかない程の動揺は、この時が最初で最後だ。

 カランッ――

 空中に舞った槍が地面に落ちる音で我に返る。
 俺の剣は少年の首元で止まっていた。
 自分がどう動いたのか分からないが、両者の決着はついていた。

 丸腰になった少年の目から、殺気が消える事はない。
 こいつは…あの夫婦の……。

「……早く殺せよ。」

 少年はただジッと俺を見据えて死を望む。
 俺は敵を見逃した記憶はない。
 だが…こいつは悪党でも魔物でもなく、親の仇を討つ為にここにいる…。

 あの時の俺と同じだ――

「早く殺せよ!」

 必死に食らいつく少年と、あの時の俺が重なる。
 俺は……俺は……

「もっと強くならねぇと、俺には勝てねぇぞ…。」

 思わず、親父の言葉が出た。
 ガキの頃、言われると悔しくて仕方のなかった言葉だ。
 親父は、どんな気持ちで俺にこの言葉を掛けていたのだろう…。

 剣を下ろし、少年に背を向ける。
 今は、一刻も早くこの場を去りたかった。
 長い間、俺の中にあった見えない何かが、突然ハッキリと目の前に現れたという現実から逃げたかった。
 俺はそのままアルモニアを後にした…。


 ――夢を見た

 仰向けで天井を眺めたまま、時が止まったような空間で物思いに更ける男。
 これも……俺だった……。

 故郷に帰ってからは自問自答の日々が続く。
 傭兵仲間から集めた情報――

 あの少年は「エリオット」という名前で、やはり俺が殺した奴隷商人の夫妻の息子だった。
 噂では、奴隷商人は街の人間からも忌み嫌われていたらしい。
 だから罪のない小さな子どもでさえも、誰も引き取ろうとはしなかったそうだ。
 そんな彼を音楽隊騎士団の団長が彼を拾い、騎士団に入隊させたらしい。
 最近では腕を認められて2番隊隊長に着任したとか。

 あんな年端もいかない子どもが隊長……並の努力や修練だけでは決してなれない。
 きっと血のにじむような努力をしたのだろう。

 彼をそうさせる“モノ”は何か――

 簡単だ、両親を殺した俺への“復讐”だ。
 俺があの少年に植えつけてしまったものだ。
 あの少年は、俺の“罪”そのものなのだ。
 復讐を果たしたことによる更なる復讐。
 延々と続く負の連鎖。

 俺はあの日――
 汚い商売をし、俺の親父を殺し、危険が迫ると平気で命乞いをするゴミのような人間を殺しただけだ――

 ――――――――だが

 あいつにとっては、唯一の親だったんだ。
 あいつは、あの時の俺と同じ気持ちなのだろう。
 俺の復讐が一人の人間を狂わせた。
 これが、はたして親父が言っていた……
 俺が望んだ…親父の言う“正義”だろうか…?

 ――――――――違う

 正解は分からないが、間違っている事はハッキリと分かる。
 だとすれば……俺は何をしたらいい……?


 その後、しばらくして帝国が侵略を開始した。
 各地で争いが起こり、戦乱の世が広がる。
 無論、故郷のシャムールも例外ではなく、帝国兵が攻め込んで来た。
 街の人々が傷つき、倒れていく中、俺はただ何もしなかった。
 誰かを殺せば、また誰かが恨み、そして殺しにくる。
 この世の中の…“正義”とはなんなのか…。

 そんな事を考えていた時、窓の外に炎が上がっていた。
 とっさに外に飛び出ると、幼馴染の家が燃えていた。
 炎の中に飛び込んだが……

 「大丈夫か!!?おいっ!!!――」


 ――夢から覚めた

 救いたいモノがある、守りたいモノがある。
 敵の事情、考え、信念…それらに想いを馳せ、迷い、自分の“正義”に問いかけた上で行動したとして……それによって大切なものが守れないというのなら……。

 俺は、敵にとっての“悪”になろう。

 あの剣を持ち、鎧を着て、帝国と戦う事を決めた。
 大陸中で暴れ回る俺は、帝国から見れば紛れもなく“悪”として映っているだろう。
 それで良い。
 もう俺は迷わない。

 気持ちが楽になった。
 親父の言う“正義”がなんだったかはもう確かめる術もない。
 俺は、俺の“正義”を通す。

 俺はラキラという街へ向かった。
 音楽隊騎士団の2番隊が治安を守っているらしい。
 そこで見たのは胸に焼き付いた顔だった。
 あいつが成長している事は遠目からでも分かった。
 まだ身体は小さく子どもに見えるが、その隙の無さ。
 戦士としての気迫が目に見えた。
 どうやら俺は、とんでもないモノを生み出してしまったらしい。

「グラフィードさんですね?少しお時間を頂けませんか?」

 俺に気付き、話しかけてきた少年は落ち着いている。
 あの時の俺とは違う。
 ただの衝動ではなく、今のこいつは強い信念を持っている。
 人気のない所まで移動して俺は剣を抜いた。
 少年は静かに俺を見つめる。

「仇が打ちてぇのは分かるが、俺に勝てるようになったのか?」

「あの時の僕とは違います。あなたを倒す為に、僕は強くなりました」

 少年は驚くほど落ち着き、一切視線を動かさない。
 背後であんな爆発音がしても……だ。

 中心街から煙が上がり、黒い光が空を包む。
 ラキラに帝国兵が攻め入り、魔物を出して暴れ回る。
 シャムールに帝国兵が攻め込んだあの日が蘇る中、俺は剣を下ろし、少年に声を掛ける。

「悪ぃな。急用が入っちまった。俺は帝国のヤツらに好きにさせたくねぇ。お前はここで待っててもいいし、俺を後ろから襲ってもいい。お前の好きにしろ」


 鋭く睨み続ける少年に背を向ける。

 あの頃の俺だったらどうした?
 想像も出来ねぇ。

 こいつはどうするだろうか?
 答えはこいつの“正義”が知っている。
 俺みたいに、その場の感情だけで動かなきゃそれでいい。
 向かってくるなら、全力で“敵”になってやるよ。

 俺は振り返らずに、背後の“正義”に向かって言葉を吐く。

「ただし、後悔ねぇようにな」

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