蒼空のリベラシオン(ソクリベ)【iOS/Android対応のスマートフォン向け協力アクションRPG】の非公式攻略wikiです。有志によって運営されているファンサイトで、ソクリベに関する情報を収集しています。

 電磁都市ガリギア。
 魔導とは対を成す科学や、機械の製造及び研究をしている都市。
 多くの研究者や科学者を擁する、この街では機械音が鳴り響いており、鉄と油の匂いがそこかしこに溢れている。
 ガリギアで行われている研究は生活の利便性を高めるためのもので、機械を通して誰もが魔法の恩恵を得られるようにという信条がある。

 そのため、魔術や詠唱などで魔法を運用する魔導都市マーニルとは相容れない。

「おーい、いっくぞー!」

 スパァンッ!快活な音が響く。
 広場では数人の子供達がボール遊びに興じていた。

「い、イッテー!ち、ちくしょー」

 ボールを当てられた子供は、背中をさすりながら転がるボールを拾う。

「なかなかやるじゃん…けどなぁ、ボール投げ一筋10年間!この俺の弾を避けられるかな!?」

 大きく振りかぶり、腰を唸らせては足で大地を踏みしめる。そして、体中の力を全てボールへと込めていく。
 理にかなった重心移動と体の運びはとても10歳とは思えないほどの技術であった。

「くらえっっっ!!ストロングショットォオッ!」

 空気とボールの摩擦が熱を帯びては焦げた匂いが鼻をつく。
 だが、ボールを投げようとした瞬間、遠くから大きな声が聞こえてきた。

「みんなぁーっ!」

 ボールはあさっての方向に投げられてはそのまま宙を切る。
 子供達は声の主に向かって一斉に視線を注いでいた。

「みてみてー!やっとできたんだよー」

 ぶんぶんと大きく手を振りながら、女の子が小走りで子供達の方へとやってくる。
 金髪を三つ編みに編みこんだ髪にはちょこんと可愛らしいリボンがのっている。
 頭にゴーグルをのせた装いは、ガリギアの研究者然とした姿だ。
 そして女の子の姿を見つけた子供達はボール遊びを止めて戦慄する。

「う、うわぁーっ!ジゼルがきたぞ!手になんか持ってやがるぞーっ!」

「やべえ!また、真っ黒焦げにされちまう!みんな逃げろーっ!」

 子供達は大声を出しながら散り散りになって逃げ出し始めた。

「えーっ!?あーん待ってよー。実験つきあってよー!」

 ジゼルと呼ばれた女の子は見慣れない機械を握り締めて子供達を追いかける。

「いやだよっ!お前の実験で何回死にかけたと思ってんだ!」

 全力で逃げる子供達の一人がジゼルに向かって叫ぶ。

「今度はだいじょうぶだよー!実験させてよーっ!」

 ジゼルも懸命に追いかけるが、ゼェゼェと息が乱れて追いつけない。
 子供達ははるか遠くに逃げ去っていき、一人ジゼルがぽつんとその場に取り残された。

「ハァッハァッ…んもう!ばかーっ!あほたれーっ!!」

 ジゼルは天に向かって大声を張り上げた。
 せっかく作った機械を友達に見せたかっただけなのに…ちょっとだけ実験に付き合って欲しいだけなのに…。

 ジゼルはやるせない気持ちでとぼとぼと家路につく。

 両親が研究者だったこともあり、ジゼルは機械いじりと実験が大好きな子に育っていた。
 何かを作っては友達に試してもらう。
 同世代の子供達も最初は好奇心からか、ジゼルの作る機械に興味津々で快く実験に付き合ってくれていた。
 しかし、いつもロクな結果にならず、実験に付き合ってくれた大抵の子は、痛い目を見るか大怪我をするのがオチであった。

 それでもジゼルはめげずに機械を作り続ける。
 しかし、次第に実験に付き合ってくれるような子は稀有な存在となってしまっていた。

「んー…どうすればいいのかなぁ」

 ジゼルは歩きながら思考を張り巡らす。
 まだまだ試したい機械はいっぱいあるし、実験ができないことには何も始まらない…。
 だけど、今日みたいに逃げられたら…あたし運動苦手だし追いつけないしなぁ。

 どうしようかなと考えていると突然空からアイディアが降ってくる。

「むっふっふ…閃いちゃった。そうだよ!機械で解決すればいいじゃん!」

 ジゼルはウキウキしながら足早に帰宅する。

 逃げられる…追いつけない…実験できない。
 逃げられる…追いつく!逃がさない!実験できる!
 簡単な答えだった。
 単純に、逃げられても追いつけばいいだけだ。

 けど、あたしは運動が苦手…。

 それならば、自分の体を思い通りに動かせる機械を作ろう!
 思いつくがいなや早速、魔素を利用して身体強化をする研究に打ち込むジゼル。

 魔素は様々な力の源であり、制御できれば強大な力の恩恵にあずかることができると踏んでのことだった。

「よーし、早速はじめちゃおう。まずは…これ!火の魔素!」

 火の力を使って推進力を生み出し、逃げ惑う友達を捕まえる。
 頭に設計図を浮かばせてジゼルは製作にはいった。
 カチャカチャと機械をいじる音が三日三晩研究室に響き渡る。

 そして、推進装置を備えた筒のような機械が完成した。

「できたぁ!ふふ…この炎のジェット噴射でスピードを出せば…」

 機械を背中に背負い、そう言いつつジゼルはスイッチに手を伸ばす。
 ウィィィィンンン…静かな機械音が響いていく。
 取り付けられたメーターで火の魔素から徐々にエネルギーが充填されていくのがわかる。

「やったぁ!動いた!成功…熱っ!うぁああ!あちちち!熱いっ熱いよっ!」

 バァーッン!とジゼルは機械を脱いでは投げ捨てる。
 機械は燃え上がりモクモクと黒い煙がのぼっていた。

「えーん…失敗だぁ!」

 どうやら火の魔素は高度な専門知識が必要で、制御がとても難しくて力を取り出すのは困難だったことをジゼルは後に知る。


――数週間後
 ジゼルは研究室で研究に没頭していた。
 前回の反省を踏まえ、火の魔素ではなく水の魔素を使うことに決める。

「ふっふ〜ん。水の魔素なら燃えることもないし安全だもんね」

 水を打ち出す力で推進力を発生させて逃げ惑う友達を捕まえる。
 頭の中で設計図はすでに出来上がっていた。
 トンテンカンテンと研究室には軽快なリズム音が響き渡る。

 そして、短いホースの付いた靴型のような機械が完成した。

「できたぁ!ふふ…これを履いてっと…スイッチオォーーーン!」

 靴型の機械を履いて、ジゼルはポチッとスイッチを押す。
 ヴヴヴォォン…鈍い機械音が部屋中に響いていく。
 バシュッ!靴型の機械に仕掛けられた短いホースから勢いよく水が飛び出す。

「やったぁ!動いた!成功…わっ!うわわ!とまんないよぉっ!」

 ズドンッ!大きな音をたててジゼルは研究室の壁にぶつかった。
 壁には大きな穴が開き、ジゼルが顔を真っ黒にしてひょっこりと顔を出す。

「えーん…失敗だぁ!」

 水の魔素は確かに安定しており、水の力で滑って移動することは可能だった。
 しかし、バランスをとるのが難しく、運動が苦手なジゼルには一生かけても体得できないであろうことを…数回の実験後にジゼルは理解した。


――数週間後
 ジゼルは研究室で扇を表裏に動かしたり強くあおいだりと色々と試していた。
 火も水もダメだった…次に使うのは地の魔素。
 失敗を繰り返さないためにもジゼルは入念に計画を練っていく。

「むっふっふ…最初からこうすればよかったんじゃーん」

 地の魔素が生み出す風に乗って、逃げ惑う友達を捕まえる。
 進行方向に風の道を作れば…あとはそこに乗るだけ。
 完璧な設計図を頭の中に描いていく。
 ガンガンゴンゴンと研究室には轟音が鳴り響いていく。

 そして、巨大なファンが取り付けられた砲が出来上がる。

「完成ィイっ!これを左手に装着してっと…さあ、いくわよっ!」

 腕に装着した砲を前に突き出す。
 スイッチを入れるとヴヴィンンン…と音を出しながら砲に付けられた巨大なファンが回転を始めた。
 徐々にファンの回転速度は上がっていき、風のうねりを作り出していく。

「やったぁ!動いた!成功…どっわぁああ!研究室がぁあっ!!」

 風のうねりは竜巻と化していた。
 誰がどう見ても乗りこなす事ができるシロモノではない。
 さらにファンの回転速度は上がっていき竜巻をいくつも産み出していく。

「あ、嵐がーっ!どわあああっ!止まれーっ」

 研究室内ではちっちゃな嵐が発生して、産み出された竜巻は屋根を吹き飛ばし、そこかしこに散らばる研究品や機械を打ち上げていく。

「えーん…失敗だぁ!」

 数刻後、地の魔素から送られるエネルギーが切れたことで機械の動きは止まる。
 研究室は原形が分からないほどに滅茶苦茶に荒れ果てていた。
 地の魔素は扱うには風の知識が必要で手に余るものだとジゼルは確信する。

「いいアイディアだと思ったんだけどなあ…これじゃ友達がバラバラになっちゃうなあ…」

 さすがにそれはまずいと考え、ジゼルは地の魔素を使うのは諦めた。


――数ヵ月後
 ジゼルは新しく改築された研究室で頭を抱えていた。
 火も水も地もダメだった…んじゃあ、次は闇の魔素?

「んー…これ、どうやって使おうか…」

 かれこれ数ヶ月は、闇の魔素を研究対象としていたが、一向に考えがまとまらずにいた。

「あっそうか!そういうことか!むっふっふ…これでいこう!」

 突如、何かを思いつきパッと飛び起きて機械を作り始める。
 闇の魔素の力で友達の動きを封じてしまえばいい。
 逃げ惑う友達をこれで捕まえて好きなだけ実験ができる。
 ジゼルは頭で設計図をイメージしながら製作を進めていった。
 カンカンカンと甲高い音が研究室に響き渡る。

 そして、台座にパイプと歯車が乗った機械が出来上がった。

「できたぁ!これを使って……視界を遮ることが出来たら成功じゃんっ!」

 早速、ジゼルは機械のスイッチを入れてみる。
 ゴォンゴォンと重い音を立てながら歯車が回転を始めパイプからは黒い霧が吐き出されていく。

「やったぁ!動いた!成功…ぶふぁおあ!く、黒い霧が!!なんも見えない!」

 闇の魔素で構成された黒い霧は光を遮断し吸収していく。
 そして、歯車の回転速度が上がるにつれてパイプからは大量の黒い霧が生成される。
 黒い霧は部屋中に闇の空間をつくりあげていった。
 ライトの光も蝋燭の火の光も…そこには光を一切遮断した闇の世界が広がる。

「えーん…失敗だぁ!」

――三日後
 ジゼルは研究室で黒い霧を消し去る作業を続けていた。
 相反する属性である光の魔素を撃ち当てては黒い霧を中和していく。
 機械はエネルギーを使い果たしてすでに止まっているが、残った黒い霧は消えずに研究室を支配していた。

「闇の魔素は…ちょーっと危険かな?なんも見えなくなるし…」

 パシュンパシュンと光の魔素を撃ち当てられた黒い霧が消滅していく。

「まだ試してないのは光の魔素かー」

 ジゼルはうーんと頭を悩ませながら、つまらなそうにパシュンパシュンと黒い霧を消していく。

「ちょっと休憩にしようか」

 ゴーグルと手袋をはずして作業の手を止めるジゼル。
 額にはうっすらと汗がにじみ出ていた。

 だが、籠につめられた光の魔素を含んだ宝石に素手で触れた瞬間だった。
 ビリリリ!と身体の全身に電気が駆け巡るような感覚に襲われてしびれてしまう。

「ぶふぁおあっ……!!」

 純粋な光の魔素の力が身体に流れてジゼルは気絶する。
 そして数分後、ジゼルはやっと動けるようになってきた。

「あーもう、びっくりしたぁ。まったくついてないな…ん?あれ?おやおやぁ??」

 なんか身体が軽くなった感じがする…?あんなに痺れたのに…これはもしかしたら!?

「やったぁ!これって新発見じゃーん!」

 ジゼルは光の魔素の新しい可能性を見つけたことで飛び上がって喜んだ。
 それは、とても運動が苦手だとは思えないようなジャンプ力だった。

「光の魔素をうまく使えば…身体能力を飛躍的にあげられるかも」

 この経験をきっかけにしてジゼルは本格的に光の魔素の研究をし始める。
 友達を実験台にしたい!…その思いから始めた魔素の研究はひょんなことからジゼルの人生を変えるような出来事へと繋がっていった。
 そして、ジゼルはさらに研究に没頭していくこととなる。


――数年後
 時は過ぎ、あの日から続いていたジゼルの研究も大詰めを迎えていた。
 光の魔素を身体に直接流す装置の試作品が完成する。

 光の魔素の扱いの研究から始まり、どうやってその力を伝えていくかの理論にたどり着く。
 そして、様々な素材を実験に使っては光の魔素の力を伝えやすい金属を発見することに至った。

「理論上だとこれが今のところ一番効率がいいんだ…きっと、成功するはずさ」

 ドキドキと心臓の鼓動が早まるのを抑えながらジゼルは装置に座る。
 新しい金属で出来た金属板を体中に貼り付けてスイッチに手を伸ばす。

 ポチッ。

 ウィィイイン…装置に光が灯り、ものすごい勢いでジゼルの身体に光の魔素を流し込む。

「ぶふぁおあああああっ……!!」

 悲鳴にも似たジゼルの叫び声が研究室にこだまする。
 そして、装置が止まるが光の魔素が身体に流れたせいなのか、ジゼルは痺れてピクリとも動かなかった。

 ピクッ…数分間の時間が流れてジゼルの指が動き始める。
 そして、確かめるかのように次々と身体の色んな部位を動かしていく。

「す、すごい…すごいじゃん!これは世紀の大発明だよ!!」

 身体が今までにないくらい軽く感じられ、いつもの数倍は早く動ける気がした。
 研究室を出て、試しに外で走ってみる。

「おお!速い速―い!はっはっはー!」

 実験は成功裏に終わった。

 そして、この実験結果を元にジゼルは発明を論文にまとめ、世間に公表する。
 ジゼルの発表した論文はガリギアで注目を浴び、ジゼルは一躍有名人となった。
 それに伴って、資金援助や共に研究したいと申し出る人も増えていった。


――数年後
 新たに建築された研究所はジゼルの論文を元に、臨床実験を行う為の施設だった。
 ここでは光の魔素を人体に流す実験を行っている。

「ジゼルさん…これが最後の実験ですよ?」

 そこには、神妙な面持ちでジゼルに喋りかけている男の姿があった。
 ゴクリと唾を飲み込み、ジゼルはこの時ばかりは真剣な面持ちで返事を返す。

 ジゼルと男は揃って実験室へと向かって歩いていく。
 普段使わない様な口調でジゼルが喋っているのには訳があった。
 これが最後のチャンスなのである…。

 あれから共に研究する人間も増え、潤沢な資金も出来たことで実験が行える環境は最高の状態に仕上がっていた。

 だが、実験は一度も成功しなかった…。

 何度も臨床試験を行うが、ジゼル以外の人間に光の魔素を流すと感電したかのように身体が麻痺を起こすだけだった。
 それは、装置にどんな改良を加えていっても変わらなかった。

「さあ、始めてください」

 実験室では先ほどの男が装置の上に乗り、実験の開始を促す。
 この男はジゼルの研究を応援している最後のスポンサーだった。
 一向に研究成果の上がらないジゼルに業を煮やし、この実験でスポンサーを続けるかの見極めをしようとしていたのだった。

「いきます…」

 装置のレバーが落とされる。
 ヴィヴィンンン…と音を立てて装置は動き始め、男の身体に光の魔素が流し込まれる。

「うぎゃああああっ!!」

 男は悲鳴を上げピクリとも動かなくなる。
 そして、プスプスと焦げた匂いが実験室に溢れていく。

「えーっ!なんでなんで〜?ちょ、ちょっと大丈夫??」

 最後の実験は失敗だった。
 男は自分の連れてきた使用人に付き添われて、病院へと運ばれていった。

 そして、この実験が決定打となる。
 ジゼルの周りからは人が少しずつ去っていく。
 また、孤独になってしまったジゼル。
 最終的にガリギアでは光の魔素を人体に直接流す実験は危険だとされ、安全だという実証が取れない限り実験自体が禁止となってしまう。

 だが、それでも諦めがつかないジゼルは実験を続けていく。

「諦めるにはまだ早いもん…身体が軽くなるってことはわかってるんだ。他の人にも使えるように実験を続けていかないと。それに…成功しちゃえばこっちのモンだしねぇ」

 シッシッシとジゼルは笑った。

――
 ガリギアでは禁止になった実験を行うために、ジゼルは以前の自前の研究室に戻り、試行錯誤を繰り返して光の魔素を流す素材を見直すことにした。

「んー、金属だと魔素の力が伝わるの早いんだよねー…これ、どうかなー?」

 ジゼルが取り出したのは革でつくられたグローブだった。

「んー、あとは実験かな!早速、実験台になってくれそうな人を探しに行かないとね」

 一人で研究を続けるようになってからは実験台になってくれる人が決定的に不足していた。
 その為、試作品が出来上がってはガリギアの街に繰り出し、実験に付き合ってくれる人を探すようにしていた。

 ジゼルが準備を終えて研究室を出ようとした時だった。
 外が騒がしい…?ドオォーンという轟音が街中に響き、そこら中から鬨(とき)の声が湧き上がっていく。

「え?え?なに?なんなの!?」

 ジゼルはすぐに窓に向かい外の様子を確かめる。
 街では至る場所の建物から火の手が上がっていた。

「あ、あれは!あの旗は…!」

 ジゼルは一瞬、自分の目を疑ったが、何度見ても見間違いではなかった。
 帝国軍の旗…。
 街の中央部で高く掲げられ、風になびいているものは間違いなく帝国軍の旗だった。

「帝国が攻め込んできたっての!?こりゃ、まずいって!」

 ジゼルは自分の研究が帝国に盗まれると考え、グローブを装着して急いで脱出を図る。

「おとなしくしろっ!帝国に逆らうと痛い目みるぞ!」

 ダァンッ!と研究室のドアが蹴り破られては帝国軍の兵士が研究室になだれ込んでくる。

「やっば!きちゃったか!」

「手を上げろ!少しでも変な動きをしたら容赦はしない!」

 帝国軍の兵士は槍の先端をジゼルに向けて威勢をはる。
 だが、ジゼルの腕からキュイイインと音が鳴り、帝国兵が反応を示すよりも速くジゼルが動く。

「おとなしくなんてしてらんないよー!いっけー!」

「き、貴様…!」

 ジゼルはグローブの装置を使い兵士の隙間をかいくぐっていく。
 数秒の出来事だった。
 まんまと脱出に成功するジゼル。
 はるか遠くでは、先程まで威勢をはっていた兵士の怒号が響いていた。


――
 ジゼルはガリギアを脱出し、帝国兵に見つからぬように道なき道を走っている。
 遠くではたいまつの火と共に数人の兵士が追っ手として捜索活動を続けていた。

「くっそぉ…あいつらほんとにしつこいなー!」

 このまま真っ直ぐ進むと、とある遺跡へとたどり着く。
 ジゼルはその遺跡を目指していた。
 そこは、研究に使える数々の種類の宝石や貴重な金属などがありジゼルはよくこの遺跡に来てはそれらをくすねていた。

 それに、遺跡の入り口は開かれておらず、ジゼルのみが知る隠し通路を通ってやっと中に入ることができる。

「ぷはぁッ!んもう、相変わらずここは埃っぽいなー。ま、しょうがないけどさっ!」

 石でできた通路には蔦が生い茂り、ひんやりとした空気が流れていた。
 隠し通路を道なりに少し進むと視界が開け大きな広間が現れる。
 ここには食料もあれば実験で使用する機材も置かれていた。
 何日間もかけて遺跡探索をする場合や、手に入れた素材をすぐ加工できるようにとジゼルが自分で用意していたものだった。

「ガリギアで戦いが終わるまでここを拠点にするかな、まだこの遺跡を全部探索してないしね」

 ジゼルはこの遺跡で実験の続きをすることに決めた。
 そして、帝国軍の兵士が研究室にやってきたときのことを思い出す。
 あの時、試作品のグローブを使ってもアタシはまったくといっていいほど痺れなかった。
 それなら、完成の直ぐ近くまできているはずだ。

「もうちょっとこのグローブの出来を確かめないとな。その為にも実験しないと!」

 そして、ジゼルは実験を開始する。
 金属を素材に使った時は痺れを起こしてから身体が軽くなるが、革だと痺れが起きない。
 出力も問題はない…うん、やっぱりいい出来栄えだ!

 その後も実験を繰り返し、自身が使うには理想的でまったく問題がないことが分かる。
 だが、これが自分以外の…他人でも扱えるのかどうかをさらに確かめる必要があった。
 ジゼルは広間を後にし、遺跡の奥へと向かうことに決める。
 自分以外の人間に実験するために、もうひとつグローブをつくらなければならない。


――
 いつもの探索よりも遺跡の奥へとジゼルは足を踏み入れていた。
 何か研究に使えそうなものが落ちていないかと、くまなく遺跡を探していく。

「んーどれもこれも微妙だなあ。なーんかいいもんないかなぁ…」

 ガラクタの山をかき分けながら、あれでもないこれでもないと物色を続けていく。
 ガコッ…何かのスイッチを踏んだのか石畳の一部が音をたててへこむ。

 そして…壁の一部がゴゴゴゴと動き始める。

「なにこれ!?すごい!こんな仕掛けがあったのか!」

 ジゼルは驚いては興奮を覚える。
 動いた壁の先には小部屋のような場所が広がっていた。
 その奥からは何か人の気配を感じる…。

 恐る恐る小部屋の中へ入っていくと、そこには黄金の鎧が直立不動で構えていた。
 周りにあるボロボロの劣化したものとは違い、その鎧だけ異様な空気を放っている。

「んー?あの黄金の鎧の人どうやって遺跡に入ってきたんだろう?今まで人の気配なんてなかったのに…あ!むっふっふ…いいこと思いついちゃった!」

 ジゼルの実験魂に火がついたのか、グローブを装着して忍び足で鎧へと近づいていく。
 グローブは触れるだけでも光の魔素を流すことが出来る。
 あの人でちょっとだけ実験してみよう!とジゼルは考えていた。
 そして、背後から鎧の小手をガバッと掴む。

 鎧に触れた、その瞬間だった…バチッと音を立ててグローブから光の魔素が漏れ出し鎧に電流が流れる。
 鎧はガタガタと震えだし、兜が転がり落ちた。

 兜の中身は空っぽだった…その兜を着けているはずの人の頭はそこにはなく、鎧の中も空洞であった。

「あ、あれ…?空っぽ?確かに人の気配がしたのに…なんでだ?」

 ジゼルが頭を抱えて不思議がっていると、突然鎧の腕が持ち上がり、本来頭があるはずの何もない虚空をなでる様に動き始めた。
 様子を見ていたジゼルは、黄金の鎧のとったその挙動に驚く。

「?…!?えぇえええ!すごい!動いてる!!なんでなんで!?」

 ジゼルは鎧に駆け寄り、ペタペタと触ったり鎧の中を覗き込む。
 だが、そんなジゼルを気にしない様子で鎧はあたりを見渡すようにゆっくりと左右に身体を動かす。

「ここは、どこだ?」

 鎧のどこからか声が響いてきた。
 ジゼルは転がった兜を拾い上げて中身を見る。
 兜の内側には魔力回路が張り巡らされていた。
 その回路はジゼルがグローブに組み込んだ回路にどことなく似ている。
 そして、ひとつの疑問がジゼルに湧き上がる。

「アタシの研究に関わっていた人間がこの技術を盗んだのか…?」

 しかし、ガリギアではこの手の身体強化をする実験が禁止されて久しい。
 彼らにこんな研究を続ける度胸はないだろう。
 しかも、回路に魔素を送る為のタンクはなく、それを制御するリミッター装置もついていない。
 ガリギアの技術の根底を覆すような作りが出来るなら、アタシの発明よりももっと革新的な事ができるはず……。

 じゃあ…一体誰が?ジゼルは純粋にこの鎧を作ったのが誰なのか気になった。

「ねえ、この兜ってどこで手に入れたの?」

 ジゼルは鎧に質問をぶつけてみる。

「……わからない。何も覚えていない…」

 ジゼルは考え続ける。

「それとも、アタシの研究…この努力の結晶が、他の研究者が先に完成させていたとか…?」

 まさか!とジゼルは頭を振る。
 ガリギアで論文発表した時、周囲はジゼルの事を絶賛していた。
 有名な科学者も著名な学者もジゼルの論文を認めている。
 それなのに、既にある技術なはずがない。

 鎧はジゼルの思考を伺うような様子を見せる。
 ジゼルは鎧に向かうがあることに気づく。
 鎧には埃が積もっており、見た感じでは何十年もの月日がたっている。

「もしかして…新発見!?これは研究が進展する一歩かも!」

 ジゼルは自分のグローブを見つめる。
 このグローブには…というよりもアタシの研究はまだまだおっきな可能性を秘めている。
 ジゼルは期待に胸を膨らませた。
 そして、鎧はタイミングを見計らったかのようにジゼルに喋りかけた。

「私は、一筋の光が見え暗闇を抜けだすことができました。きっとあなたのつけているそれ(グローブ)のおかげです。それからは強い光の力を感じます。私は助けてくれたお礼がしたい!あなたのためなら何でもしよう」

 鎧は平伏するかのように身をかがめる。
 ジゼルはその様子をみて、何かを思いついたのだろう…にやりと悪巧みをするような笑顔を浮かべた。

「ふーん。ちょうど実験台が欲しかったところなんだ!君はなかなか興味深いしねぇ。そうだ、遺跡の外に出れば君の事を知ってるやつがいるかもしれないし、アタシについてきてよ!」

 ジゼルは兜を鎧に返し、一緒に連れ添って歩き出す。

「はい、主様。このデアラスール、主様にこの身をささげま…す」

「デアラスール……?それが君の名前……?」

 だが、歩き出すと同時にデアラスールはいきなり倒れ、大きな音をたててバラバラになった。

「うわぁぁあああ!!バラバラになった!!」

「主様……すみません。身体にまだ力が足りていないようです」

「力…?あ!そうか!」

 ジゼルはデアラスールへと近づき、初めてデアラスールが動いた時と同じようにグローブで触れ、今度は魔力を一気に放出させる。
 すると本来自分に流れるはずの魔素が吸い上げられるかのようにデアラスールへと流れだす。
 そして、デアラスールのバラバラになった身体は引き寄せられ、合体した。

「おおおお!!なにこれおもしろい!!」

 いい気になったジゼルは研究者としての性なのかどこが限界なのか試したくなる。

「実験開始ぃ!!」

 ジゼルはグローブから流れる魔力の出力を一気に上げていく。

「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 デアラスールは光のオーラを放って羽を広げる。
 そして、あふれ出した光の魔素は爆発を起こし、四肢がバラバラに吹き飛んでしまう。
 ジゼルが触っていた胴体と頭を残し、他の部分はバラバラになり所々傷だらけになってしまった。

「あちゃ〜これ直せるかなぁ……まぁ何とかなるか。代わりになりそうなものは沢山この遺跡に転がってるし」

「さすがです!主様。私のような難儀な人間を直す事ができるのですね」

「??人間?まぁいっか。そうだね〜構造は難しそうだけど、アタシみたいな天才なら余裕だね!いちいちアタシがエネルギー供給しなきゃなんないのも面倒だし。ちゃちゃっと改造して自分で供給できるようにしちゃおっ!」

「助けていただいた上にそんなことまで…主様は、とてもお優しい上に聡明なのですね」

「そんなの当たり前じゃない?アタシほど聡明な人間もなかなかいないよ!?」

 デアラスールに持ち上げられジゼルは気分を良くする。
 鼻歌交じりに歩きつつ心の中ではなんていいものを拾ったんだ!と嬉々としていた。


――数週間後
 とある街で、動く黄金の鎧がいるとの噂が出回っていた。

「お前、知ってるか?黄金の鎧の噂!」

 数人の男が固まって、噂について話していた。

「お前あの噂信じてるのか!?ありえないだろ!」

「その話、聞いたことあるぜ!なんか兜を取ったらそこには頭もなんもなかったってやつだろ?」

 ワイワイガヤガヤと、男達は耳にした噂を披露しては熱心に話しあっていた。
 そして、そんな男達のところにジゼルが現れる。

「お兄さん達…その金ぴか鎧に興味ある?ちょ〜っと付き合ってくれるだけでその金ぴかにあわせてあげるよ?ホントにちょっとだけだから!」

 とっても胡散臭い文句を口にしながらジゼルは男達を誘う。
 男達は顔を見合わせてそれぞれが怪訝な表情をするが、好奇心が勝ったのであろう。
 ジゼルの誘いに乗り、その後を付いて行く。
 前を歩いているジゼルはニコニコと満面の笑みを浮かべていた。

「むっふっふ…実験台ゲットーっ!」

 声にならない声で小さくガッツポーズをしては喜んでいる。
 それは、黄金の鎧のおかげで実験台を見つけるのに苦労しなくなり、好きなだけ実験が行えるようになったからであった。
 着実に一歩ずつ、ジゼルは研究の前進に確かな手応えを感じていた。

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