蒼空のリベラシオン(ソクリベ)【iOS/Android対応のスマートフォン向け協力アクションRPG】の非公式攻略wikiです。有志によって運営されているファンサイトで、ソクリベに関する情報を収集しています。

「敬愛せしガルム族同胞諸君よ。忘れてはならない……どんな者達にも負けぬ気高き誇りを胸に、耐え忍んだ日々があったことを!忘れてはならない……その苦難を乗り越えた先に手にした今だということを!」

 王宮のテラスから、獣境の村『ヴィレス』の中央広場に集まる人々に叫びかける。

「我が父、第十六代ヴィレス王アレイオスは過去を糧に現在を築いた!他種族と肩を並べ、共存の道を模索することができるまでに!そして私は、その跡を継ぎ、今の繁栄を糧に未来を創る!」

 役目を終えた父の眼差しを背に受けながら、さらに民達からの期待が込められた視線をその身に集める。

「諸君!私を信じ、共に進んでほしい!そして共に掴もう!更なる繁栄と輝ける未来を!」

「「うぉおおおおおおおおおお!!」」

「頼んだぜ大将!!」

「ガルム族の未来のためにー!」

「感謝する……皆よりの信頼を盟約とし、これを果たす事を誓う!我、ガレオスはここに、第十七代ヴィレス王として、戴冠(たいかん)したことを宣言する!!」

――――――

――――

――

「なかなか良いスピーチだったんじゃねぇか?親父殿も安心したことだろうぜ」

 戴冠式(たいかんしき)を終え、パレードへと向かうために王宮の中へと引き返したガレオス。
 鳴り止まぬ歓声がこだまする廊下の壁にもたれ掛かり、ガレオスを待ち構えていたと言わんばかりに声をかける人物がいた。

「ありがとうございます。ガルオン殿」

「おいおい……もう俺は指南役でも何でもないんだぜ?王様」

「…………そうであった。これからは近臣として傍に付いてもらうぞ!」

「ふっ……謹んで、拝命いたす!」

「ところで、皆のあの顔を見たか?」

「広場に集まっていた者達ですかな?」

「あぁ……彼らは、まだまだ若輩者の私を微塵も疑うことなく受け入れてくれた……それはこれ以上ない喜びだが、同時に……恐ろしくもある」

「今更ですな。我らガルム族を代表する記号こそがヴィレス王。そこに個を挟み込む余地があるとでも考えておられたか?」

「それを言ってしまえば、誰が王となっても変わらぬということではないか!」

「ガレオスという名の一人の個ではなく、ガレオスという名の王としての責務を果たせ!目的のために何が最善で、最も高い可能性を得られるかを常に考えろ!それが王に従う全ての臣民に対する義務だ!そしてそれができるか否かは、王の器次第だ……!」

「……やはり私よりも貴方が王になるべきだったのではないか?」

 第十六代ヴィレス王アレイオスが長きに渡り座り続けた王の座から退位することを決めたのが半年前。
 彼は種の希望を託す次代の王を指名することはせず、その器に値する者を見つけるために大陸中のガルム族に御触れを出した。

〜集え。未来を託すに値せし者よ。余が礎となり、其は道と成らんことを願う〜

 この声に応えた多くの者がヴィレスに集い、その中から次代の王を定めるべく王位継承戦が開かれた。
 これにアレイオスの実の息子であるガレオスも参加。
 当時から継承者との呼び声高く、その人望と器は村の住人皆が知るところであった。
 そして、もう一人。
 若くしてアレイオスの右腕として近衛隊の隊長を任されていながら、ガレオスの指南役をもこなしていた白虎一族族長ガルオン。
 この二人のいずれかが次代の王となるだろうとの前評判だった。

 しかし、誰しもが想像した二人の激闘が実現することはなく、圧倒的一強状態で大会は進み、第十七代ヴィレス王を戴冠したのがガレオスである。
 ガルオンはガレオスを含め、多くの者達から大会参加を勧められるも、これを辞退したのであった。

「柄じゃねぇんだよ……ちょっと熱くなるとすぐこれだ。ご無礼な物言い、誠に失礼しました」

「そんな理由で……」

「もし殿下が私めに劣ると申されるなら、勝てるよう精進すれば良いだけのことかと。そして、それを傍で力添えさせていただくことこそが我が道と信じておりますゆえ!」

 かつては小さな集落に過ぎなかったヴィレスの村は、アレイオスの王政の元に広い領土と数多の臣民を抱え、一つの国家として大陸に名を知らしめる程に成長した。
 もう村と呼ぶには似つかわしくないヴィレスだったが、長くその名で慕ってきた住人はその呼び名に誇りを持っている。
 かつては他種族からの迫害対象となっていたガルム族だが、彼の采配により一致団結し、その力と文化と誇りを他種族に示すことで地位を獲得。
 今や他種族が軽視できない程の存在となり、共存のために手を差し伸べてくる種族さえも出てくるようになった。
 これは当然、アレイオスの功績だ。
 しかし、傍で彼を支え続けたガルオンの存在があってのものとも言える。
 自分はそんな偉業を礎として、より輝かしい未来のために大役を任されたのだ。

「……大儀である」

「おっと……パレードの予定でしたな。さぁ、皆を待たせております。お早く参りましょうぞ!」

「うむ……!」

 胸を張れ。
 自分は父に、ガルオン殿に、村の皆に選ばれたのだ。
 誇りを持って使命を果たすのみ。



「さっさと起きぬかぁ!!」

「うぉお!?ガ、ガルオン?こんなに朝早くどうしたのだ?」

「殿下が王になられたとはいえ、先代様より仰せつかっている使命が無くなるわけではありませぬ」

「剣の鍛錬か?しかし昨日は政務やらパーティーやらで……」

「それが何か?少なくとも私めから一本取れるようになってから言い訳して頂きたい」

「う……うむ……」

 幼少の頃よりアレイオスの命で指南役を務めているガルオン。
 兄貴分として、時に厳しく、時に優しく接してくれた彼との関係は今の自分を築く重要な要素となっている。
 当然、感謝に堪えない限りなのだが、自分が王となった今でも変わったのは言葉遣い程度で、いそいそと支度をするこの背に感じる殺気と威圧感はこれっぽっちも変わることは無いようだ。

「さぁて、まずは一本調子を見るとするか。その後、十本勝負だ」

「ふふ……変わらぬな。槍を握ると戦いにのみ専念するその姿勢」

「正直、お前を相手に慣れない話し方すんのはくすぐったくて敵わねぇんだ。この時間くらいは今まで通りやらせてもらうぜ?」

「臣下の者も見ていません。私もこちらの方がやり易い」

「そいつは助かるぜっ!!」

「はぁああ!!」

 それから一刻程の鍛錬を終え、朝食へと向かう。

「おいおい……別に王になったからって剣が不要って訳じゃねぇだろ?むしろ先陣切って敵をなぎ倒す戦王とか呼ばれた方が貫録も出るってもんだ」

「また無茶を……手を抜いているわけでも、不要だと思っているわけでもありません。ガルオン殿が手の抜き方というものを知らぬだけです!」

「今日のペナルティは朝食の肉だったからな。本気にもなろうってもんだぜ……!」

「まったく……」

 十本の勝負稽古で、一本も取れなかった場合に課せられる罰。
 ガルオンとの初めての稽古の日に交わされた……否、交わさせられた約束だ。
 それから一度たりともその罰から逃れられたことはない。

 食堂が近づくと、扉の前に控えるメイド達が見えてきた。
 ガルオンとの師弟の時間は終わりだ。
 そろそろ王とその臣下のあるべき姿に戻らねば。

「今日は昼までに商会の者との顔合わせに出向く。護衛を頼むぞ」

「承知いたしました。では殿下、また後程。お待ちしておりますゆえ……」

 ガルオンの浮かべる笑みから、肉を心待ちにしているという意図を察する。
 あまり待たせて機嫌を悪くされでもすれば面倒だ。
 用事もあることだし、手早く朝食を済ませて商館へと向かおう。



「わざわざ殿下自らご足労頂かれるとは、恐悦の至りにございます」

「そう堅くならずとも良い。知識として理解はしていても、やはり直接見ぬことには始まるまい?」

「仰せの通りかと」

 一国の王とはいえ、国内に目を向ければその仕事は役人とそう変わらない。
 暫らくはこうした視察や雑務がメインとなるだろう。
 不慣れゆえにより慎重に、入念に取り組まねば。

「殿下、そろそろお時間です」

「む?そうか。では、これからもよろしく頼む」

「こちらこそ、何卒よろしくお願いいたします」

 商館を出るとその足で王宮へと戻る。
 昼食を取り終えたら書類を片付け、その後にまた外回り。

「お疲れですかな?」

「泣き言は言っておられん。これも使命だ」

「ですな」

「それにしても流石だ。私ですらうずうずして体を動かしたくなるというのに、近衛隊隊長としての顔もまた本物だな。ガルオン」

「最初は疼きを抑えるのに苦労したものです。これも父君に長年仕えていた成果ですな。殿下も嫌でも慣れるでしょうぞ」

「ふふ……だと、いいのだがな」




 彼の言葉の通り、数年もすれば政務にもすっかりと慣れ、生まれた余裕でより大きな視野と慎重さを持って仕事に励んだ。
 戴冠当時は少し浮いて見えもした冠はすっかり居心地を良くし、第十七代ヴィレス王の姿をより確固たるものとして周囲に示し始めていた。


「いつまで寝てやがんだ!!」

「む!?あぁ……すまぬ。もう朝か」

「いつになっても朝の弱さだけは治らんな……それを考えて重要な案件を無理やり午後に調整している臣下達の苦労も少しは考えてやれ」

「返す言葉もない……」

「まぁ、それでも文句一つ言ってこないのは、それだけお前の頑張りが認められているということだ。俺の目から見ても随分王らしくなったもんだと思うぞ」

「毎日必死さ……少しの油断や慢心がガルム族全体の明日を奪う結果となるやもしれぬのだ。手が抜けるはずも無かろうよ」

「寝た途端にその心構えが消えちまうのが何とも惜しいな……」

「ふ……今朝は随分と小言が多いな。何か良い事でもあったのか?」

 ガルオンは自らの髭を触りながらいつになく得意気に話す。

「おう!実はな……ガキが生まれた!!」

「なんと!?それはめでたい!!」

「ガキなんぞうるさいだけだと思っていたが、あれは良いぞ!」

「奥方と子の傍にいてやらずともよいのか?」

 子を持った事がないから分らないが、想像するにひと時も離れたくないものではないのだろうかと考える。

「二人を養うためにも一層気合を入れて稼がねばならん!あ、残業はしばらく無しの方向で頼むぞ!?」

 楽しそうに笑うガルオンを見て、ガレオスは釣られて笑ってしまう。

「すっかり父の顔だな」

「あぁ!それから、子の名前を決めようと思うんだが、俺も女房もこういうのはあまり得意でなくてな。どうせなら良い名前を付けてやりたい。そこで、お前の案を聞きたい!」

「自分の子の名だろう?奥方と決めた方が良いのではないか?」

「安心しろ!お前に決めてもらってはどうかと提案したら、女房も大賛成だ!」

「それはまた……」

「男だ!強そうな名前が良いな!」

「わかった。今日一日ゆっくり考えてみよう」

「おぅ!では鍛錬だ!」

 生まれてからおよそ三十年。
 歳をいくら重ねても、頼れる兄として接し続けるガルオン。
 その彼がついに子の父になると思うと、つい時の流れを感じてしまう。

「今日は王都からの使者が来るって話だったな」

「うむ……最近、やたらと我々の政策に口出しするようになってきた。山ほどの書簡では飽き足らず、とうとう直接こちらに出向いてくるようだ」

「ガルムを毛嫌いする連中が未だに王都にもいるってことだな」

「友好関係を結び、表向きは共存の道を模索しているように見せかけているが、処々に我々を警戒している節がある。過去の事を考えれば無理からぬことか……」

「散々、貶してた相手が急速に力を持ち始めたわけだからな……できる事なら上手く取り込もうって腹なんだろう。八つ裂きにでもされれば大人しくなるかもな」

「わかっていた事だ。これを本当の共存の道とし、我々の未来を勝ち取るために私は王になった。父上から継いだ本当の使命はここからだ……!」

「背中は俺が守ろう。下手な隙を見せるなよ?俺が苦労することになるからな」

「無論だ。物心ついてから最高の指南役に教えを乞うているのだから」

「へへ……気持ち悪いな……」


 午後になり、どことなく王宮内がざわつき始めた。
 どうやら王都からの使者が到着したようだ。
 会議室の椅子に腰かけ、迎え撃つように扉を見据えてその登場を待つ。


――ガチャ

「おや?既においででしたか。お待たせしてしまったのであれば申し訳ありません」

「此度は長旅ご苦労であった。ヴィレス王ガレオスである。貴殿らを歓迎するぞ」

「こ、これは……ヴィレス王自ら会議に臨まれるとは聞いておりませんでしたが?」

「これまでは書面でのやり取りのみであったからな。王都の高官殿がわざわざこちらまで出向く程の重要な案件となれば、やはり私が自らお相手せぬわけにもいかぬであろう?」

「……お心遣い、誠に感謝いたします」

「では、始めようか?此度はいったい何用かな?」

 会議室内にはガレオスと王都からの使者が三名。
 その他、互いの護衛が数人ずつ。
 部屋の外から中の様子を伺っていたガルオンが、会議の開始を察して近衛隊の元へと向かう。

「よし……話に入った。まずは報告を」

「はっ!門からの報告では村に入った王都の者は全部で二十名。その内、使者三名と護衛三名が室内におりますので、残る十四名が不確定要素となります」

「部屋の前にも護衛を二人置いていた。こちらも扉に二人付けているからそれは問題ないだろ」

「残る十二名の所在ですが、数人ずつに分かれ、観光を装い領地内に散っております。予想外の動きだった為、内三名の行方が不明。現在も足取りを追っているとのことです。また、用意された客室には使者を含む数人のみで、多くは村の宿に部屋を取ったようです」

「わざわざそんな手間のかかることを……何かやらかすと宣言してるようなもんじゃねぇか。敵ではないと装っているが、いつ何をしでかすかわからん連中だ。王宮内の各所には兵を配置。治安維持部隊にも応援を要請してそいつらの所在を早急に突き止めろ。あまり派手には動くなよ?一応、表向きはお客様だからな」

「はっ!」

「大変です!!」

「ちっ……遅かったか。どうした!?」

「そ、それが……」

――――――

――――

――

「先程もご説明させていただいたように、帝国の不穏な動きを確認しております。よもやとは思いますが、その牙を我々に向ける日も近いかもしれません」

「帝国の現存勢力は我々ヴィレスにも満たぬ程度で、今の王都の戦力であれば問題なく対処できる規模だと把握しているが?」

「これはまだ極秘事項ですが、最近、氷塞都市コルキドと手を組んだとか……詳細は我々も掴めてはいませんが、コルキドのヴァーンフリート王が突然失脚したとの話も入っておりまして……何かを企んでいる可能性も否めません」

「なるほど……で、我々に何を望むと?」

「……そこで我々上層部は、友好関係を結ぶ近隣諸国に対し、有事の備えとして新たな『同盟』関係を結び、その結びつきを強化し、より確実な抑止力とすることを考えております」

「同盟か……困った時には互いに助け合い、手を取り合う事で共存の道を模索する。種族に関わらず、生有るもの皆が持つべき精神の在り方だな。して、具体的にはどのようなものか?」

「はい……まずは、各国の保有する戦力の一部を王都が借り入れ、同盟の中心として抑止力の象徴となります。今回、貴国には我々と手を結ぶ最初の国となっていただけないか、と参上した次第です」

「何だと!?ふざけるな!!」

 咆哮となった喝が部屋を震わせる。

「戦争となり、国や民を救うために助けを乞うのであれば喜んで助けの手を差し伸べようというものだ!だが、それは何だ!?体のいい口実を盾にして人質を取り、有無を言わさず言い成りにしようという謀略に過ぎぬではないか!」

「……当方にそのようなつもりは全く御座いません。事が動いてから救援を求めても間に合わぬという例もあります。それを未然に防ぎたかったのですが……残念です」

「白々しい限りだな……!」

――コンコンッ

「……何用か?」

「はっ!会議中に失礼かとは思いましたが、早急にご報告したき件が御座いましたので……」

「後にしろ。こちらも立て込んでおる」

 王都の使者は手のひらを上に向けて、扉の方へ向ける。

「いえいえ。何やらそちらもお急ぎのご様子。こちらはお気になさらずに……」

「……では、少し失礼する」

 近衛隊の兵士の一人だった。
 王都の使者を気にしながら、そそくさとガレオスの耳元に駆け寄ると、内容が漏れぬように報告を述べる。

「……何だと!?」

「おや?どうかなさいましたか?」

 使者は、口元の奥で笑っているようにも見えた。

「お話中失礼します!」

 扉がノックされると、王都の使者の一人が入ってくる。
 向こうもこの事件を耳に入れるつもりであろう。
 それはそうだ。


 ガルオンが王都の馬車を襲撃し、兵を負傷させた。

 耳を疑う報告ではあったが、間も無くして王都兵に連行されてきたガルオン他、数名の近衛隊員。
 特にガルオンが目にかけていた部隊内の白虎一族の者だ。
 ガルオンを含め、一騎当千の兵揃いだがまるで抵抗する様子がなく、ただ顔を伏せているばかり。
 その少し後ろには、話を聞きつけた隊員達が心配そうにその様子を伺っている。
 どうやら間違いではないようだ。

「これはどういう事ですかな?」

 話を聞き終わった王都からの使者はガレオスに詰め寄る。

「待て……まずは事情を聴かぬことには――」

「どうやら事の重大さを理解しておられないようだ!自国に出向いてきた友好国の荷馬車を襲い、さらにはその人間を傷つけたのですよ!?これは戦争に発展してもおかしくない事案といっても過言ではないでしょう!!」

 熱くなっているのか、それとも大きく演技をしているのか……。

「だからこそ話を聴かねばならんのだ!!」

 猛るガレオスの迫力に再びひるむ使者一同。
 ガルオンは舌打ちをしながら顔を伏せたままにしている。

「一度ご退室願おう。これはヴィレス領内の事案。まずはヴィレスのやり方で対処させて貰いたい」

 ガレオスは鼻息を荒くしながらも、出来るだけ冷静に伝えた。

「……わ、わかりました……ですが、事実確認が取れましたら、その時はその処分についてもじっくりお話しして頂くことになるかと思いますので、どうかご覚悟ください」

 王都からの使者が捨て台詞のようにそう言い残して部屋を後にする。
 ガレオスはガルオン達とだけで話がしたいと、近衛隊に下がるよう促す。
 部屋にはガレオスと捕らえられたガルオンの一行が残された。

 ひとつ息を吐いて、落ち着いて話を始める。

「何があったか話してもらえるな?ガルオン」

「……すまねぇ」

 ガルオンは下を向いたまま、歯を食いしばっているようだ。

「それではわからぬ!何故、そのようなことを!?」

「…………今すぐ俺達を斬れ」

「ならぬ!まずは話して貰おう!例え言い訳でも、嘘でも良い!何故か!?」

「……ガレオス。まだ間に合う」

 進まない話に痺れを切らしたガレオス。

「……こ……の!!」

「どうかお待ちを!!」

 ガルオンに掴みかかるガレオスを見て、慌てて割って入る白虎の若者達。
 その表情は、ガルオンが頑なに口を閉ざしているのは何か訳有りであることを語っている。

「私達は……ガルオン殿は嵌められたのです……!!」

「余計な事は言わなくていい!」

 ガルオンが厳しい剣幕で口を挟む。

「いいえ!言わせてください!」

「貴様……!」

 大人しくしていたガルオンがその身体を起こす。
 今にも体を拘束している縄を引きちぎり、その口を塞ごうと暴れ回るガルオン。

「ガルオン!!」

 それをガレオスが押さえつけ、話の続きを問い詰める。

「話してくれ!嵌められたとはどういう意味だ!?」

「それが――」

 事の顛末はこうだった。

 会議が始まった直後、生まれたばかりのガルオンの息子が誘拐された。
 話を聞きつけたガルオンがすぐに家へ向かいその場にいたという妻に事情を聴くと、フードを被った二人組の男が家を訪ねてきたという。
 外国から土産を売りに来たというその男達の相手をするために目を離したほんの数分間の間に子供がいなくなったというのだ。

 ガルオンは治安維持部隊にも応援を頼み、目撃証言を集めて息子を捜索した。
 すると、見慣れぬ装いの男達が、揺り籠程のサイズの荷を大事そうに荷馬車に積んでいるのを見たとの証言が取れた。
 その荷馬車に案内されると、それはあろうことか王都から使者と共に村を訪れた荷馬車だったのだ。

 激昂したガルオンは、共にいた白虎一族の近衛隊員達と共に馬車を強襲。
 荷を護衛していた兵士を殴り飛ばし、その荷を強奪したのだが、検めるとそれはガルオンの子供ではなく、ただの土産用の木彫りの像だった。

「恐らくは王都が仕掛けた罠でしょう……明らかにガルオン殿を狙い撃ちにしている……父親ならば誰しもが同じ行動を取る筈です!それを分かってて荷馬車を襲わせ、私達を王都に剣を向けさせたのです!!」

「ぐ……うぅ……余計な事を……!!」

 ガレオスに抑えられていたガルオンは、今にも喰い掛かりそうな勢いで荒い息を吐きながら報告する白虎の若造を睨みつけていた。

「それで!?ガルオン殿のお子は!?」

「私達が馬車を襲ってすぐ、広場の噴水で無事保護されたとのことです……」

「そう……か……」

 ガレオスには心当たりがあった。
 ガルム族の存在を良しとしない者達の存在。
 今回、王都から使者が派遣されてきたこの件そのものにも大きく関わっているであろう意思。
 全てはこの事件を引き起こすための布石だったのだ。

 わざと不信感を与えるような振舞い。
 あえてこちらを怒らせるような言論も。
 こちらに反感の意思を抱かせ、事件の正当性を高める為のもの。

 恐らく今回の首謀者は、この件を表沙汰にすることでガレオスの失墜を狙い、ガルム族そのものを手中に収め、良い様に扱うことを目的としている。

「この件を命じた者がレミエールにいるはずだ……そやつを探し出し、吊るし上げる!」

「無駄だ!俺達を斬れ!下手人を処罰すれば王都への体面を保つことはできる!傷を最小限に抑えることができる!」

 ガルオンが叫ぶ。
 力を入れすぎたせいか、縄が肌に食い込み、血が滲む。

「そんなことできるはずがなかろう!!」

 ガレオスも感情的に怒鳴りつけた。
 ガルオンは一族の若造に視線を向けながら、背中に縛り付けられた拳を強く握る。

「お前たちにも申し訳が立たぬ。元はといえば俺の軽率な行動が招いた結果だ……!」

「顔を上げてください、族長!貴方は間違ったことはしていない!我らが罪を被ることでガルム族全体の明日を守れるのなら、喜んでお供いたします!」

 やり取りを静観していた、ガルオンと同じく捕縛された白虎一族の近衛隊員もこれに賛同する。

「感謝する!」

「貴様らまで……正気か!?」

「事は一刻を争う!今も奴らは裏工作を進めているはずだ。本当に奴らの首謀者を見つけ出せたとしても、その時にはもう真実は闇の中だ!今しかないのだ!」

「それは……だが……」

「これ以上、お前にもヴィレスにも迷惑をかけたくないのだ……どうか、このまま頷いてくれ……!」

「迷惑などと……数々の苦難も共に乗り越えてきたではないか!」

「個ではなく、王としての責務を果たせ!己を信じる者達のため、何が最善で、最も高い可能性を得られるかを考えろ!最初に言ったはずだ!それが王であるための義務だと!」

「ガルオン殿……!」

「種の王であれ!それは茨の道だが、お前だからこそ歩める道であると俺は心から信じている!」

「殿下!我々の想いも同じです!いつか、ガルム族が輝かしい繁栄を築くことを切に願っております!」

「しかし……」

 頑なに譲らないガルオンと白虎一族。
 無力な自分を恥じ、悔しさに打ちひしがれながら、ガレオスはこの提案を受け入れた。
 これまでの礎と、臣民の未来を想っての苦渋の決断。
 聞こえはいいが、結局は一部を切り捨て、全体を取っただけの苦肉の策。
 それが正しい王の姿であるとは到底思えなかった。

「お話は御済みですかな?では、結論をお聞きしましょう。此度の件の始末、どうつけるおつもりですかな?」

 王都の使者を待たせる客室に一人向かったガレオス。
 してやったりといった表情の使者の顔は、次の言葉を聞いて青々と変容した。

「下手人である白虎一族族長ガルオンを、一族もろとも永久国外追放とする……!」

「国外追放だと!?」

「幸い、この件で死者は出ておらず、破壊されたのも馬車一台。それを償うには十分すぎる処罰であると考えている」

 恐らくガルオンがガレオスにとって掛け替えのない者であることも調査済みだったのだろう。
 だからこそガレオスはガルオンの処遇を決めきれず、結果的に泥沼へとはまっていく。
 そういう算段だったはずだ。

「だ、だが……その……」

 まさに予想外だと言わんばかりの慌てよう。
 やはりそういうことだったのだ。
 それすらもガルオンは見抜き、事情も説明しようとせず、無理やりでも自分を説き伏せようとした。

「無論、私が自ら王都へと出向き、然るべき謝罪もするつもりだ。それで良いか?」

「しかし――」

「良いな……?」

「ぐ……う……」

 あの場でガルオン達は死をもって事を収めようとしたが、それだけは何があっても避けなければならない。
 言われるがまま彼らを処罰するしかなかったガレオスが、唯一下すことのできるせめてもの償いだった。
 そのことは否応なしに使者にも伝わったことだろう。
 この直後、王都からの一行は会議の事など忘れたかのように都へと逃げ帰っていった。
 彼らの報告を受け、帝都の上層部がどんな顔をするのかは知る由もなければ興味もない。



「ガルオン……結局はお前の言うがままにするしかなかった私を、どうか許して欲しい……」

「その話し方……そうか……決めたのだな」

「王の背負わねばならぬ責任と重圧。これがそれらのもたらす苦悩だというのであれば乗り越えてみせよう。個であることを捨て選んだ道だ。それを貫かねばお前たちにも顔向けができぬ」

「それで良い。父君もそうであった。自分という存在が日々失われていく中で全てを絞りつくすまで戦い続け、殿下に次の未来を託した。殿下もそうあるべきだ」

 ガルオンの目に後悔はないように見える。

「うむ……」

「そうだ!我が子の名は考えたのか!?」

「私にまだその資格があると申すか?」

「愚問だ」

「そうか……では…………ガルディスと」

「ガルディス……良き名だ……!」

「達者でな。いつしか遠くお前たちの地までこの村の名を轟かせてみせようぞ!」

「心待ちにしてるぞ」


――――――

――――

――


 あれから十年。
 当時、悪化するかと思われた王都との関係だが、その後のガレオスの行動を鑑みた王都上層部はその意志の強さと誇りを認め、対等な関係での同盟を築く道を選択した。
 さらには、これに同調する様に他の種族もガルム族との関係を構築。
 今や獣境の村『ヴィレス』は、ガルム族の名と共に大陸中に知れ渡り、その力と存在を確固たるものとして位置づけた。
 ガレオスが父アレイオスから受け継いだ礎は、見事にその先へと紡がれていく道へと成ったと言えよう。

「殿下。コルキドより、殿下宛に書簡が届いておりますがいかがいたしましょう?」

「コルキドからだと……?」

 何かを察したように封を切り、早速中に入っていた手紙に目を通す。
 それは他でもないガルオンからの十年ぶりの言葉だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 我が盟友、教え子、弟であるガレオスに向けて

 久しいな。
 朝は起きれているか?
 ヴィレスとガルム族の繁栄。
 王ガレオスの活躍の噂。
 このコルキドまで伝え聞いている。
 随分と立派になった様で何よりだ。

 今回、筆を執ったのは、お前に謝らねばならぬことがあるためだ。

 まずは帝都との一件について。
 真実を知る者は俺を含め、あの場にいた僅かな者達のみ。
 我が子を含め、一族の末裔達はそれを知らず、お前の事を『一族を追放した悪者』だと憎んでいることだろう。
 どうか、それを許してほしい。
 もし、真実が公になれば、再びガルム族全体が危険に晒されることもあるだろう。
 この一件は、このまま忘れ去られなければならない。
 お前にばかり押し付ける形になり、本当にすまない。

 それからもう一つ。
 まだ道半ばにあるお前を残し、先に逝くことを許してほしい。
 先日、山賊と揉めた際にやられた傷から感染症にかかった。
 あの程度の連中相手に傷を負うとは、俺も落ちぶれたものだが、どうやら寄る年波には勝てないらしい。
 居場所は違えど、心だけは共にあり続けるものと決めていたのだが、それもここまでのようだ。

 これからもヴィレスと、ガルム族の未来を頼む。
 お前を認めた父君と俺の目を信じろ。
 何だってやれる。

 最後に。
 我が息子に会うことがあれば目をかけてやって欲しい。
 最後の鍛錬の日のペナルティを決めていなかっただろう。
 これはそれだ。

 ガルオン

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





――十数年後

 長きに渡る王座を退き、また次なる世代へと希望を繋ぐため、ガレオスは先代のように王位継承戦を開き、広く参加者を募った。
 しかし、その中に全てを託すに値する人物を見ることは叶わず、彼は頭を抱えていた。

「爺よ……この中から選ばねばならぬか?」

「心中お察しいたしますが、そうした御触れ元に開かれた大会ですので……」

「ふむ……」

「失礼致します。殿下、至急お耳に入れたき件が!」

「どうした?」

「はっ!村に向かう街道途中で、帝国軍と騒動を起こしている者がいるとの知らせが!」

「帝国軍と?ほぉ……向こう見ずな者がいたものだな」

「それが……その者……白い虎のガルムだとの情報が……」

「白い虎だと!?」

「殿下……まさか、その者……」

「爺!この場は任せた!!」

「殿下!?でしたら我々もお供させていただき――」

「ならぬ!村に無用な問題を持ち込むわけにはいかぬ!儂が一人で向かう!!」

「継承戦はいかがなさるおつもりで!?」

「ここにはおらぬと言ったはずだ!!」

「しかし、殿下お一人では――」

「儂は冠を置くと決めたのだ!王となってから、長い間儂は自らの想いとは違う、王としての意志を貫いてきた。しかし、冠を置いた今であれば次なる希望のため、儂は個としての意志を貫く!!」

「お、お待ちを!!殿下ぁああああ!!」


 ガルオン……
 お前の魂を継ぐ者を、見せて貰おうか。

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