なのはMEIOU1-2話

突如として現れた巨大なロボット――。
それによってミッドチルダの平穏は壊された。街は崩れ落ち、人々は逃げ惑う。
多くの生命が犠牲になり、生き残った者もその人生を狂わされた。
それに比べれば些細なことなのかもしれない。
だが、この少年もまた不条理な出来事に、日常と平穏に別れを告げることになる。
それはミッドチルダに『風』が吹き荒れた日から遡ること2日前のことであった――。

魔法少女リリカルなのは―MEOU
第一話―B「少年は牢獄に己を失う」

「僕は……何でこんな所にいるんだろう……。」
少年、『秋津マサト』は呟く。答える者はいない。
声は薄暗い個室の壁に吸い込まれ、再び静寂が支配した。
どれくらいこうしているのか――時間の感覚はとうに無くなくなっている。
電灯も窓もない、薄汚い個室は牢屋と呼ぶ方が適切かもしれない。

今朝も普通に家を出て、普通に学校に通う――退屈な日常のはずだった。黒服の男に背後から何か嗅がされるまでは。
目が覚めた時には、既にこの牢屋の中だった。
「出せぇー!!ここは何処なんだ!何で僕を閉じ込めるんだ!?」
マサトは抗った。拳から血が滲むまで扉を叩き続け、喉が掠れるまで叫んだ。
何時間そうしていただろう。
扉の向こうから物音がする。
「父さん!?母さん!?」
覗き窓から辛うじて見えるのは、朝に家で挨拶をした父と母の姿。
「ここはどこなの!?閉じ込められてるんだ、外から何とか開けられないかな?」
必死で訴えても、答えは返らない。
父は目を逸らし、母は俯いて泣いていた。
「どうしたの?なんで何も言ってくれないんだよ、父さん!母さん!」
「御両親は答えられないようだ。代わりに私が教えてあげよう」
声の方に目線をやると、それはマサトを眠らせた男と似たような黒服の男だった。
濃色のサングラスで目は見えないが、全体的に痩せ型で頬も少々こけている。
「君は御両親の本当の子供ではない。御両親には15年間、君の養育をお願いしていたのだよ」
マサトは驚きに声を出すことさえできなかった。
「本当なの!?父さん!」
「たった今、月々の養育費とは別の礼金をお渡ししたところだ」
父は答えようとはしない――それが答えだった。
「父さんは……僕を売ったの?」
違う、と言って欲しかった。しかし、感情とは別に、そんな答えは最早望めないだろうことも解っていた。
それならば、せめて沈黙を守って欲しかった。
だが――父の答えは残酷だった。
「最初から……契約だったんだ。私達は元々家族なんかじゃなかった。十五年間、お前を育てる契約――それが終わって本来の関係に戻っただけだ」
「そんな……」
身体から力が抜けていく。
たとえ監禁されていても、両親が警察に連絡してくれる。必ずあの家に――ずっと暮らしてきた家に帰れる。
そう信じていた。
でも、そんな淡い期待は呆気なく砕けてしまった。
もう――自分には帰る場所は無くなってしまったのだ。
「それでは……私達はこれで……」
父が男に会釈して去っていく。
「待ってよ!!母さん、母さんは僕のことを……」
「ごめんなさい……マサト……」
そう言って、両親は視界から消えていった。
母は泣きながら父に肩を抱かれて歩く。二人はマサトを振り返ることすらなかった。
「父さん……母さん!」
マサトは扉の前に崩れ落ちた。立ち上がる気力もない。
外では男が何か話している。
「沖、これは何の真似だ?ここまで連れてきて……俺に何を見せたいんだ?」
「久しぶりに再会した旧友に、随分冷たいな……ナカジマ」
それはさっきの男とは違う声だった。他にもいたのだろうか。
「旧友だと……?ふんっ。それを言うなら"共犯者"だ」
それさえも、もうどうでもいいことだ。
そして、そのままマサトの意識は闇に溶けていった。

何故、自分はこんなところにいるのか――。
『ゲンヤ・ナカジマ』の問いに答える者はいない。
自分で決めたこととはいえ、そう思わずにはいられなかった。

起動六課隊長、『八神はやて』と早めの昼食を共にし、店先で別れた直後にゲンヤは背後から声を掛けられた。
「久しぶりだな……ナカジマ」
振り向いた先に立っていたのは、かつての彼の同僚である沖功であった。
とはいえ、十数年近く顔も見ていなかったが、その声と鋭い目つきは変わっていない。
「お前……沖か?」
彼は黙って頷いた。
本当に久しぶりの再会のはずなのに、ゲンヤにはとても懐かしさは湧いてこない。
「お前が俺に何の用だ?」
「用が無ければ昔の同僚に話しかけるな――と?」
ゲンヤは黙って沖の胸倉を掴んだ。
この男は昔からこうだった。いつも意味深で何かを隠している。目的の為には人を利用することを厭わない。
だが、それも私欲の為でなく、組織の為だったから彼とはやって来れた。
そう、十五年前までは――。
「ここでは人目に付く。ついて来い、ナカジマ。お前の――いや、俺達の過去の清算だ」
沖は動じることもなくそう言った。
またもや意味深な言葉だ。が、ゲンヤは黙って彼に従った。
そうせざるをえない理由があったからだ。
「いいぜ。どこでもついて行ってやる」

沖に連れられ、聖王教会の遥か地下へと降りていく。
「こんな地下に何があるってんだ?」
「お前に見せたいものがあってな。それに、彼女もお前に会いたがっているぞ」
「彼女だと?」
沖はそれ以上は答えようとはしなかった。
何にせよ、今は沖に従うしかない。
地下へ降り、無機質な廊下を歩くこと数分――。急に広い空間へと抜ける。
そこは多くの機材が置かれ、スタッフらしき人間が忙しなく働いていた。
その中心には――
「ゼオライマー……!」
50mはあろうかという巨大なロボットが立っていた。
それはゲンヤと沖が袂を分かった原因。
忘れたくとも忘れられない存在。
「どうだ、ナカジマ。懐かしいだろう?」
「まったく……懐かしくて涙が出そうだ……」
それはゲンヤと沖の罪の証。
十五年前、これに乗って逃げてきた男は、もうこの世にはいない。
そしてせめてもの罪滅ぼしとして――。
そこまで考えて、ゲンヤは沖の言葉の意味に気付いた。
「まさか……過去の清算ってのは……!」
「そうだ。それはおそらく、もうじき始まるだろう」
これが真実ならば大変なことになる。
いや、聖王教会の地下に"こんなもの"が存在する時点で、既に次元世界全てを巻き込むことになりかねない危険が迫っている。
そう上は考えているのだ。
「彼女がお前に挨拶したいそうだ」
沖はゲンヤの後ろに視線を促す。
そこには娘と同じ位の年齢の美少女が立っていた。
その顔には見覚えがある。かつてほんの僅かな期間だが面倒を見た少女の面影――。
「お久し振りです。ゲンヤおじ様」
そういって彼女は頭を下げた。

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2007年06月23日(土) 17:25:05 Modified by beast0916




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