なのはStS因果6話

覚悟を選びて半年後、またも倉庫の暗闇に逆戻りとは。
解き放たれた戦略兵器を恐れるは当然。
時空管理局の封印処置もむしろ全面的に支持するものなり。
我らが瞬殺無音、盗み取ろうとするものはとり殺すのみなれば!
だがこれしきで、覚悟の強さを封じられたと思うたか。
覚悟の強さは我らの強さにあらず!
そして今、目に見えぬさらなる超鋼をまとっておるなり!
我ら、ただ再び目覚めるその時を待ち続けるのみ。


魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果

第六話『葉隠禁止(後編)』


『零細胞より酸素緊急供給! 同時に造血開始!』
覚悟くんの身体がすごい勢いで回復していくです!

『すごいです、零(ぜろ)! すごいです、強化外骨格!』
『当然なり! 我らこそ覚悟と一心同体!
 初心のきさまに遅れはとらぬ!』
「零(ぜろ)、リィン、おれの戦闘可能時間は?」
…と、覚悟くんが聞いてきたですね。
おしゃべりしてる場合じゃなかったです。
一足先に零(ぜろ)が答えてくれました。

『目下、緊急加療中なり。 十分…否、五分以上の交戦は避けよ』
「五分以内に幕引き了解!」
やっぱり覚悟くんに後退の二文字なしですね。
なら欠損した脳細胞機能、リィンが必死でカバーしなきゃです。
激しく動き回ってる最中にズッコケたら大変ですから。

『リィンよ、零細胞が脳を補填するまでの間、頼んだぞ!』
『頼まれたです!』
『それにしてもなんたる失態!
 覚悟ともあろうものが、きさまの手を借りねば戦えぬまでに打ちのめされようとはな!』
『…………』
なんで、つっかかるですか?

『帰り着いたら今一度、戦士の心得なんたるかを問い直させてもらうぞ、覚悟!』
「合点承知なり」
『必ずだぞ、忘れるな、覚悟よ』
「了解」
秒速270mのスピードで外に飛び出す覚悟くんに、
ぶっちゃけ零(ぜろ)はちょっとしつこいと思ったです…

「ぶああああ〜 しつこい! 今日はもう店じまいだよ〜」
でも、このオバケには、しつこくしなくっちゃダメですね。
放っておいたら、また誰か死んじゃうですから。
バカでっかい身体をずかずか這わせて、こっちにカメラ向けてきたです。
真っ昼間の遊園地に、こんなヘンなの、場違いです、粗大ゴミです。

「だからぁ〜 また来てね〜〜」
「否! 本日限りにて閉店なり!」
「オフで撮るのは女の子だけだぁ〜」
「ならばおれが写してやろう! きさまの真に撮るべきものを!」
キマッてます、カッコいいです、覚悟くん!
けど、そうは言っても、どうするですか?
これはいちおー、聞いておかないと…

『覚悟くん、零(ぜろ)、まわりにはまだたくさん人がいるですよ?』
『なるほど、敵方の熱線砲、回避すれば流れ弾にて大被害と言いたいか!
 見かけによらず頭は回るようだな、リィン!』
『見かけは関係ないです、なんでつっかかるですかーっ、ドクロ軍団』
なんでいきなりこんなふうにムカッとくることばかり言うようになったですか。
もしかして、リィンのおうちからケリ出したのをネに持ってるですか?
おうちを間違える零(ぜろ)の方が悪いですよ、あれは。
どれだけビックリしたと思ってるですか…
そ、そんなことよりアイツのカメラですっ。

『とにかく、そういうことですけどーっ』
「了解、ならば問題はない」
『でも、よけられないですよ?』
「おれと零(ぜろ)にはむしろ好都合!」
『刮目して見ておれ!』
ビシッと構えて動かない覚悟くんです。
なんだか楽しそうですね、零(ぜろ)。
ちょっと、気持ちはわかるですよ。
はじめてマイスターはやてと一緒に戦えたときのリィンと、きっと同じだと思うですから。
ひどい実験から零(ぜろ)が生み出されたことは聞いたです。
そんなことを二度と許さないために、実験に殺されたみんなが意志になって宿っているのが零(ぜろ)だっていうことも。
そんな痛さ辛さをわかってくれた、零(ぜろ)のために泣いてくれた覚悟くんをマイスターに選んだことも。
そんな人のために戦えるのなら、うれしくないわけないですね。

「しょお〜がないから撮ってやる 本日最後の 熱 写 暴 威 」
「生涯最後と修正せよ!」
来たです、怪人のカメラビーム。
覚悟くん、零(ぜろ)、全然よける気なしです!
なら何か、プロテクションとか、そういうので防御する気ですか?
する気なしです! 腕を広げて大歓迎です!
リィンと一緒に真っ黒焦げです、バーベキューです!
信じていますとは言ったけど、正直これはキッツイです!
…とか、思ってたら、覚悟くん全然無傷です。 零(ぜろ)も平然としてます。

『ど、どうなってるですか?』
『節穴だな、リィン! 目に見えなくば音に聞け!』
『…あ』
気づいたです。 ジュージューブスブス音が鳴ってます。
覚悟くんの目を通して見えました。 腕や足の装甲が真っ赤に光って…

 全 身 赤 熱

『彼奴の熱線砲の出力、すべて我がものとして流用したのだ!』
『だ、大丈夫なんですか、こんなことして』
『もとより我らが機能なり、一切無問題のこと』
少し得意げに零(ぜろ)が話してるところに、オバケが近づいてきました。

「いいね〜その色 今頃中身は真っ黒焦げかな〜」
オバケは覚悟くんが死んじゃったと思ってるみたいですね。
たしかに普通はそう思うですね、多分。

「これがきさまの撮影行為か」
「…ななっ、なぁぁ〜〜っ?」
カメラ怪人がビックリ怪人になりました。
拳を固めた覚悟くんが腰を引くのを見て、
あわてて逃げて行こうとしてるですけど、どー見ても遅いです。

「ならば当方にも撮影の用意あり!」
「きゃあああ〜〜〜っ プライバシー侵害反対…」
「 因 果 !!」
特大が、極まったです。

「あッぶるッ?」
弾かれるみたいに地面から飛んだ覚悟くんの拳が怪人の顔面にめり込んで、
燃やしながら全部バラバラにブチまけたです。
どこが撮影なんだか、リィンには全然わかりません。
でもいいんです、覚悟くんカッコイイですから。

「おのれの醜さもわからぬものに芸術を云々する資格はあるまい!」
…できれば、もうちょっと…いろいろと飛び散らない倒し方にしてほしかったですけど。
でもこいつ、人間だったですかね? 今頃になって気になるです。

「南無」
『南無』
『…ナムです』
死んだ人がユーレイになったりしないように祈ってあげるです。
はやてもたまにやるですから、リィンも知ってるですよ。

『次に生まれてくるときは、ヒトを食べたりしないでくださいです』
「そのための因果。 地獄で魂を清めてくるがいい」
覚悟くんが、後ろに振り向いて構えました。
リィンも零(ぜろ)も気づいてるです。
ガジェットがあちこちから覚悟くんの回りを取り巻いてるです…

『覚悟くんが狙い、ですかぁ?』
『否、それでは常に監視を受けていたことになろう。
 敵意の視線に気づかぬ覚悟ではない!』
『じゃあ、いったい』
「関知せぬ。 いかな企み背後にあろうと、平和への敵意に他ならぬなり!」
『…ですね!』
「邪心には因果あるのみ!」
『です!』
ぱっと見だけで標準型のガジェット八体。
囲まれちゃうと楽勝にはちょっときついんですけど。

「零式、積極!
 直突撃(じきづき)! 肘鉄(ちゅうてつ)! 手甲(しゅこう)! 掌底(しょうてい)!
 肉弾(にくだん)! 膝蹴(ひざげり)! 延髄(えんずい)! …踏破(とうは)!」
足が地面を蹴ったと思ったら、あとは流れ作業の覚悟くんでした。
瞬殺です。 リィンもユニゾンしてなかったら目で追えなかったと思うです。
AMF(アンチ・マギリング・フィールド)があってもぜんぜん関係ない覚悟くんは
普段でもガジェットを素手でボコボコ壊して回るんですけど、
零(ぜろ)を装着したら、そんなもんじゃなかったですね。

  ド  カ  ァ  ァ  ァ  ン

最後の一体を踏みつけて飛んだと同時に、全部一緒に爆発したです。
覚悟くんすごいです、ヒーロー番組です!
…けど。

『まだ来るですよ? 四、五、六…』
「すなわち一網打尽」
『だが制限時間は残り一分! それ以上は後遺症の恐れありと知れ!』
「悪質玩具の始末など、三十秒で釣りが来る!」
『それでこそ覚悟!』
ほんとは今すぐ倒れてもおかしくない覚悟くんなのです。
ものすごく強い精神(こころ)があるから、身体が壊れそうでもへっちゃらで動き回るですね。
今のリィンは一心同体ですから、わかるですよ?
だから、ちょっとした独断行動です。
覚悟くんと零(ぜろ)が、ボッカンボッカン壊してるスキをついて…
ボッカンボッカン壊してやってくるヘンなヤツがいます?
こっちにシャカシャカ走ってきてるです?

「また遅刻しちゃったー」
今度は女のヒトみたいですけど、やっぱりデカイです。
手がたくさんあって、虫みたいな足もたくさんついてて、
お腹が顔になってて…
そんなことより、腰(?)につけてる四つのポシェットの中身。
…ヒトの、首です。 苦しそうな顔をした生首が、ぎっしり詰まってるです。

「またも怪人!」
『玩具と交戦するとは、別組織ということか?』
「あれ、激写(うつる)やられちゃったのー?
 アハハごめーん あたしダメなのよ B型だから」
「…疾(と)く答えよ。
 きさまの所属組織、そして、きさまの所持する鞄の中身」
覚悟くんがにらみます。 リィンだってにらむですよ。
ヒトが死ねば、誰だって悲しいんです。 たとえ関係ないヒトだって。
それを、こんな、ヘラヘラしてるのは、許せないですよっ…
首だけにされた人達を見るにも、さっき覚悟くんが倒した怪人のバラバラ死体を見るにも…
ヒトが死んだ姿を笑いものにするやつは、許しちゃいけないです。 ゼッタイです。

「もぉ〜 こまかいこと気にしないの
 あなたA型でしょ? 几帳面なヒ・ト」
覚悟くん、無言で構え。
リィンも、無言で構え。

『我らと同じ怒りを抱いたか、リィン』
『…はいです』
『なれば我ら、心はひとつ!』

 悪 鬼 討 滅
 覚 悟 完 了

『でも、覚悟くんはオヤスミの時間なのです』
「…なに?」
『覚悟くんだけが覚悟完了じゃないですよ?』
リィンが呼んだ、みんなが来たです。
リィンだけじゃないのです。 みんなの心がひとつなのです。
右と左から来る爆発音を聞くですよ。
ガジェットの破片をぶちまいて最初にやってきたのは…

「世話を焼かせるヤローだな!」
「ヴィータ!」
「病人は下がって見てな、あたし一人でも充分すぎる」
その後ろから迫ってきてたガジェットを鉄拳でぶっ壊したのは…

「それは無しだ、ヴィータ」
「余計なことしてんじゃねーよ、ザフィーラ」
「おまえがそれでどうする! そこの覚悟を戒めに来たのだろうが」
「…ちっ」
ヴィータちゃんのグラーフアイゼンが鉄球を打ち込むたび、ザフィーラがひとつ跳ねて殴るたび、
残り少なくなったガジェットが、あっという間に消えていくです。
覚悟くんに、手出しをするヒマなんかあげません!

「あ、あ、あ、あなたたち、あたしぬきで話進めてんじゃないわよぉ〜
 B型のあた〜しは、とって〜も短気なのォ〜!」
「貴様など知るか!」
「おひょっ?」
怒り出した怪人は、ザフィーラに振り向かれもせずバインドされました。
鋼(はがね)の軛(くびき)でグサリグサリ。
光のトゲで地面に縫われて、もうピクリとも動けませんね!
我に返った覚悟くんがトドメを刺そうと拳を振り上げます…が、やさしく掴まれて止められました。
後ろからきたシャマルにです。
となりには、シグナムもいます。

「葉隠覚悟、おまえは半年もの間、我らと共に何を見ていた?」
「…平和を! 守るべきものを!」
「そうか。 ならば我らと同じだが、ひとつおまえは読みが浅い」
つかつか歩いて、怪人に向かっていくシグナムを、覚悟くんは見ています。
握った拳はまだ下ろさずに、じっと、後ろ姿を見ています。

「八神家で寝泊まりし、我らと共にあった時点で、
 すでにおまえの生命はおまえ一人のものではない。
 おまえが決死に臨んだとて、我らがそれを縛るだろう。
 おまえの生命は我らのものであり、はやてのものであるからだ」
『血迷ったことを! 覚悟は誰のものにもあらず!』
「知っているぞ零(ぜろ)! 知っているとも…だからこそ!
 わかるように言ってやろう…いいか?」
抜きはなっていたレヴァンティンを鞘に収めて、シグナムは言いました。

「おまえは不滅だ。
 我ら四騎が、おまえの死を決して許しはしないのだから。
 おまえが誰のために戦おうとも、我らの勝手は変えられまい?
 だからな…」
少しだけ顔を振り向かせて、小さく笑ったです。

「あまり、一人で格好つけるな。
 くさくて見ておれん」
「………」
覚悟くん、なんともいえなくなっちゃったですね。
握った拳がほどけたところに、シャマルが治癒魔法をかけ始めました。
ガジェットはもう全滅してます。 ずいぶん静かになったです。
あと、うるさいのは…アレだけです。

「うげげっ、うごけなひ…うごけないけどB型のあた〜しはこりない女!
 わざわざ剣をしまっちゃうなんて、あなたもマイペースのB型…」
お腹についてる顔の口からシグナムに向かってゲロ吐いたですけど、
単にエンガチョなだけで終わったですね。
すでにシグナムは空中ですよ?

「貴様など わが剣の錆となる価値すら無し!」

跳躍、空中、開脚、捻転
――― 破!!

 魍 魎 轟 沈 
し ず め ばけもの
 (かかと おとし)

「いざべら!!」
…まっぷたつ、です。
ポニーテールをなびかせて空中をひらひら舞ったシグナムのカカトが最後にぎゅんと音を立てて、
怪人の頭をまっぷたつに裂いてまき散らしました。
何ごともなかったように着地して、こっちに戻ってきたシグナムは、
またちょっぴりだけ笑って、覚悟くんと健闘を称え合ったです。

「道の先達に未熟な技を見せつけるほど、みっともないことも無いが…
 私の蹴りも、捨てたものではないだろう?」
「あなたほどの者ならば、魔法に頼らずともいずれ!」
「すまんな、これが我らの研ぐ牙だ」
「今一度、立ち会いたくなった」
「一度と言わず何度でも来い。 今までそうしてきたようにな…だが」
そこで言葉を切っちゃって、アゴでくいっとシャマルに合図。
まかされたシャマルが後を継いだです。

「今は、ゆっくり、おやすみなさい。
 静かなる風よ、癒しの恵みを運んで…」
もう、完璧に戦いは終わりました。 安全です。
数分して、覚悟くんはその場に座り込んで気絶しました。
シャマルの静かなる癒しに包まれながら…

『戦士の休息を認める!』
おやすみです、覚悟くん。

「…おやすみな、覚悟君」








「はやて」
「ごめんな、覚悟君、ごめんな…」
六日後、おれの目覚めをまずは喜んでくれたはやては、
共に悪い知らせを携えてもきた。
強化外骨格、零(ぜろ)の厳重封印、正式に決定さる。
超鋼着装せしおれの戦力判定は、魔導師に換算してSSに達していた。
魔力なき人間にこれほどの威力を発揮させる存在に、管理局は危機感を抱いたというのだ。

「わたし、零(ぜろ)を守れへんかった。
 持って行かれるのを、だまって見てるしかなかった」
管理局の手に零(ぜろ)を引き渡したのは、他ならぬ、はやて。
もはや彼女には管理する権限の無きゆえに。
…すなわち。

「何を泣く。 はやて」
「…覚悟君?」
「零(ぜろ)は、征くべき場所へ打って出たのだ!
 おれたちは急ぎ追いつかねばならぬ!」
零(ぜろ)はすでに高き権限なくば触れられぬ位置にあり。
なれば、何を為すべきかは決まっていよう。
おれはすでに決めているのだ。
はやて、あなたはどうか?

「……ははっ」
少しの間、呆けたように沈黙したはやては、
思い出したように笑い出す。

「あははっ、はははははっ」
快活なる笑み。
将たるもの、そうでなくてはなるまい。
さもなくば、ついてくる者もついてこぬ!

「…せやな!
 寂しがって泣いてたら、零(ぜろ)に笑われるわ!」
「それでこそ、はやて!」
「うん!」
湿気った空気は一掃。
決意はからりと日本晴れに限るなり!

「三年や!」
「三年!」
「三年で、わたしの城をつくる。
 時空管理局の一角を張る、わたしの部隊や!」
幾度か聞いたはやての夢。
助からぬ人々を助けようという理想。
それは今この場にて、現実となるを約束されたり。
そして、おれも。

「旅に出る!」
「旅!」
「葉隠一族のとるべき道は、平常心にて死ぬことに非ず。
 非常心にて生き抜くことにあるなれば!」
「家族ごっこは、今日で終わりやな」
「忘れえぬ安らぎであった。
 次に共に立つときは、ただ一介の戦士として!」
戦士、はやてに敬礼。
かりそめの家族は、もはやこれまで。
おれが背負うのは父の拳と誅すべき鬼(あに)!
…だが、そんなおれの両肩に手を置いて、はやては言ったのだ。

「じゃあ、最後にひとつだけ、お姉ちゃんぶらせて、な?」
「…了解」
「ええか、これから先、これだけは絶対に取り消すことはあれへんで。
 葉隠、禁止や」
「葉隠禁止?」
「覚悟君だけの生命やないねん」
おれの胸を、彼女の平手が軽く叩いた。

「ここにあるのは、みんなの生命や。
 高鳴っているのは、みんなの、鼓動や」
「………」
「感じた?」
―― 感じる。
高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラウオン、
シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ…むろん、八神はやて、あなたも。
束の間出会った人々も…
クロノ・ハラウオン、ヴェロッサ・アコース、
そして…あのときの空港火災、瀕死のおれに、螺旋に打ち勝つ力をくれた、あの父、あの少女!

「背負いし生命、確認!
 宿りし熱き鼓動、確認!」
「うむ、ええ子や!
 これにてお姉ちゃん終了!」
「次に出会えば、共に戦士!」
「歩く道は違うけど、目指す先は同じや」
「また会う日まで、さらば!」
病み上がりとて問題なし、思い立ったが吉日なり。
病室から立ち去るおれを、はやては黙って見送ってくれた。
しかし、見送りはそれのみならず。
病院一階ロビーより外に踏み出せば、そこには、
なのは、フェイトに、八神家の面々。

「なんとなく、こんな気がしてたんだ」
「なのはに黙って出て行くのは無理だよ、覚悟」
苦笑するフェイトに、なのはもうなずく。

「止めるのか、おれを」
「違うよ、見送りに来たの。
 それにシャマルさんが、旅に必要なものも多いだろうって」
「急いで用意したから、水筒と磁石とシートくらいしかないけど…
 あと、お金、いくらくらいいるかしら…」
「これを持っていけ、覚悟。
 これを見せて私の名を出せば、聖王教会に渡りをつけることができるだろう」
「あ、私からはタオル…清潔にしなきゃダメだよ?
 クロノもそうだけど、男の子はすぐ臭くなっちゃうから」
「リィンからはお布団です! でも覚悟くんにはハンカチですねぇ…」
皆に囲まれる、おれ。
申し訳ないが、失笑を禁じ得ぬ。
まさにこれゆえに、おれはここを離れねばならぬのだから。

「すまぬ、皆。
 皆がやさしすぎて、おれには持ちきれぬ。
 少し、身を軽くしたく思うゆえ、厚意を粗末に扱う無礼を許してくれ」
「…そうか、ならば何も言うまい。
 私は身ひとつで行くおまえを信じよう」
そのようなおれに対し、シグナムの言はすでに皆の総意であった。
…ただ一人を除いては。

「あたしは信じてねーんだよ」
「ヴィータ…」
「だから、これ、貸す。 貸すんだからな?」
進み出たヴィータが差し出したのは、どうやら、うさぎのぬいぐるみ。
おれにはやや理解しがたい面妖な風体だったが、
その古び方は、長年大事にされた証しでしかありえぬ。

「ぜってー返せよ。
 返さなかったら…殺すかんな」
「…了解した、生命に代えても返却しよう」
またひとつ、心を預けられてしまったか。
確かにおれだけの生命ではないな!
どこまで行こうが逃げられぬ。
おれをからめ取ったのは、そういう宿命!
ならば、覚悟完了するまで!

皆に背を任せ、おれは起つ―――




――― そして、月日は流れる!






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2007年07月23日(月) 22:52:10 Modified by beast0916




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