マスカレードと7人の戦鬼1話

時は戦国時代。
戦乱の時代を戦い抜いた鬼戦士達がいた。

魔法少女リリカルなのは マスカレードと7人の戦鬼

「本当にこんなところに鬼がいるのかな……?」

彼女の名前は高町なのは。
鬼のような力が使える、言わば魔法使いみたいな存在だ。
そして彼女の村は人間を襲う魔化魍に狙われていた。
しかもよりにもよって今度の生贄に選ばれたのはなのはの親友である、フェイトだ。
大切な親友をあんな化け物に食べられたくは無いが、なのは一人では奴らには敵わない。
なんとしても仲間を集めて、村へ連れ帰らねばならない。
「この村に鬼がいるらしいよ……」
「本当なの……?」
彼女らはアリサとすずか。なのはと共に鬼探しの旅に出た、仲間で親友だ。
「ちょっと……アレ!」
なのはが指差す先にいるのは、赤い武者のような姿をした魔化魍、『火焔大将』だ。
火焔大将は次々と村人を食べてゆき、その命を奪ってゆく。
「酷い……!」
口を塞ぐアリサ。とても9歳の子供が見れた物では無い。
「……ッあの人は!?」
今度はすずかが指を差す。そこにいるのは、少し派手な着物を着た長髪の男性だ。
火焔大将の前に堂々と立ち塞がっている。

「随分と食い意地の張った奴だな。ってか食い過ぎは健康に悪いってな!」
火焔大将に向かう長髪の男。一体何を言い出すのか……
「……一度太っちまったら、ダイエットしてもリバウンドってのがあるんだよ」
男は火焔大将に向かって嘲笑うように言う。
「そんな話はいいですから、早く倒して下さい!」
「ラジャー……!」
村人に急かされた男はどこからか音叉を取り出し、それを額に当てた。
この男、名を『乾 巧』という。通称『歌舞鬼(カブキ)』だ。

「歌舞鬼……」
呟く男。次の瞬間、カブキの姿は変わっていた。
主に緑と赤の装甲に包まれ、それ以外はベルトから伸びる光り輝く赤いラインが特徴的で
顔は大きな黄色い目に、赤い二本の角というまさしく鬼の姿になっていた。
この姿を『ファイズ』と言うが、基本的に周囲からはカブキと呼ばれている。
火焔大将は口から豪炎魔剣という巨大な刀を取り出し、カブキに切り掛かる。
「フン、フン!」
だがカブキはその刀を受け止め、逆に二発のワンツーパンチを打ち込む。
そのまま火焔大将を村の隅まで追いやったカブキは、民家の柱を使って一回転、そのまま火焔大将を蹴り飛ばした。
「エッジ……!」
『Ready』
その隙を突いて、カブキは赤く光る剣『ファイズエッジ』を取り出し、そのまま火焔大将に斬り掛かった。
振る度に「ブォン」という音をたてるファイズエッジは、どこか未来的な印象だ。
カブキと火焔大将はしばらく斬り合いながら村中を駆け巡る。
お互いの剣が触れ合う度に「ガキィン」という鋭い音が鳴り、互角の勝負が続く。
カブキも火焔大将もなかなか決定打を与えられない。
「おりゃあ!」
それどころか、カブキの方が小さな打撃を多く受けている。どちらかと言うと不利なのはカブキだ。
しかしカブキが戦いながら民家に入りかけた時、火焔大将は狙いを外して家の柱を斬ってしまう。
「(……今だ!)」
そのまま火焔大将を民家の屋根の下まで誘い込み、カブキはファイズエッジでもう一本の柱を切り裂いた。
その家は二本の柱で支えられていた。その柱が二本共切り裂かれたということは……
「ぐぉあっ!?」
家の屋根は一気に崩れ落ち、火焔大将に直撃。それにより苦しむ火焔大将。
「エンドか!?」
ファイズエッジを構えるカブキ。火焔大将はカブキの声に反応するように一瞬で灰になって消えた……。


「ありがとうございました!おかげさまで助かりました!」
「これでもう魔化魍は現れねぇよ」
感謝の気持ちを表す村人に、巧は胸を張って言った。そしてそのまま村人に手を出す巧。
「……は?」
何かくれ、というような手つきに見える。
「は?じゃねぇだろ。礼だよ礼。そういうもんだろうが」
すると、村人の一人がペコペコとお辞儀をしながら何かを乗せた笊を持ってくる。
「何だこりゃ?芋じゃねぇか。しかも随分と痩せてやがる……」
笊に乗っているのは三本の痩せ細ったサツマイモ。
巧はそれを受け取り、本当に「ふざけんなよ」というような表情をする。
「すいません……何分、貧しい村な物で……」
村人の説明に、ため息をつく巧。しかしよく見れば子供が一人、物欲しげな顔で見つめている。
「なんだお前?コレが欲しいのか?」
芋を差し出して言う巧に、子供は嬉しそうに頷く。
巧も「ほらよ」と優しい顔で手渡そうとするが……
「やめな!鬼の触った物なんか!」
子供の母親が、巧が手渡そうとしていた芋を払いのけたのだ。地面に落ちた芋は二つに割れる。
「……な!?」
影から見ていたなのはも驚く。
この世界では鬼は人々から忌み嫌われているのだ。巧も「助けてやったのに……」と言いたげな、悔しそうな表情をする。
「あの〜……」
「あ?何だお前?」
そんな時、巧に話掛けてきたのはアリサだった。


「あ〜オロチだろ?俺はいずれあいつを倒さなきゃならねぇ奴だと思ってたんだ」
「じゃあ、協力してくれるの!?」
町の外れで、巧に事情を説明するなのは達。
幸先の良さそうな反応に喜ぶすずか。しかし……
「思ってるだけだ、慌てんな!さすがの俺も、今の奴には勝てねぇな」
座ったまま腕を組んで言う巧に、アリサとすずかは落胆する。
すると、巧は突然立ち上がって遠くを見る。
「あらまぁ……やっぱ欲しいんだよな?」
そこにいるのは、さっきの子供だ。
巧は「来い!」と手招きし、子供に芋を渡す。
「母ちゃんにバレねぇように、こ〜っそり食えよ」
言いながら子供の頭を撫でる巧。子供は嬉しそうに立ち去っていった……。

「さてと、行くか」
「行くってどこによ?」
突然言い出した巧に、どこに行くのかと問うアリサ。
「決まってんだろ、オロチを倒しにだよ」
「でも勝てないんじゃ……」
アリサの額を突きながら言う巧に、気まずそうに質問するすずか。
「だから慌てんなって。一人じゃ無理だな。けど仲間を集めりゃ何とかなる」
「じゃあ、協力してくれるの!?」
目を輝かせるアリサ。
「おぅ。人を助けるのが鬼の役目だからな」
巧はそう言い、「まぁやってみるわ」と言いながら歩いてゆく。

「おーい、響鬼いるかー?」
「ヒビキ?」
大きな声で言いながらとある民家に入ろうとしている巧に質問するなのは。
「おぅ。変わった奴でよ、腕は立つんだが今じゃ引退同然だ」
どうやらなのは達が今いるのは「響鬼」という人の家らしい。
「入るぞー、響鬼ー」
言いながら響鬼家の扉を開ける巧。だが……
ドカァンッ!
「うわっ……何だ!?」
開けた瞬間、凄まじい爆発が巧やなのは達を襲った。家の中からは煙りが立ち込めている。
「ゲホッゲホッ……いや〜……」
そして中から現れた一人の男。男は30代くらいの外見で、青い着物を着ていた。
酷くむせている……。
「お、おい響鬼……何だよこりゃあ……」
「新しい武器の実験中だったんだけどさ、失敗失敗っ」
響鬼は「ハッハッハッハッ」と大きく口を開けて笑う。
「(この人……まさか!?)」
だが、なのははそんな響鬼の顔に見覚えがあった……


雨の中、なのはの実兄である恭也の死体を持って帰ってきた響鬼。
「お兄ちゃん……!?」
変わり果てた兄の姿に涙するなのは。目の前にいるは黙って佇む響鬼。
なのははしばらく恭也に寄り添っていたが、やがて涙を流しながら響鬼を睨み付ける。
「貴方のせいで……!」
「…………。」
黙って俯く響鬼。
「貴方のせいでお兄ちゃんが!貴方の……貴方のせいでッ!」
泣きながら響鬼の胸を殴り続けるなのは。響鬼はなのはと顔を合わせることができなかった……


「あ……どうした少女?」
自分を睨み付けるなのはに気付いた響鬼。
「……ッ!!」
だが、なのはは黙って走り去ってしまった……

「ちょ、なのは!?」
「どうしたのよ?」
しばらく走ったところで転んだなのはに駆け寄るアリサとすずか。
「あの人だよ!あの人がお兄ちゃんを殺したんだ!恭也お兄ちゃんを、あの人が……!」
大きな声で叫ぶなのは。
「まさか……響鬼が人を殺すとはよ……」
「本当だよ!!」
信じられない様子の巧を制すなのは。
「お〜い、そこの少女!」
そんななのはの前に呑気な顔で現れる響鬼。
「思い出したぞ!お前確か、恭也の妹だったな。もしかして……まだ俺の事怨んじゃったりしてるワケ?」
「…………ッ!?」
相変わらず呑気な顔の響鬼を見たなのははさらに悔しそうに歯を食いしばる。
「良くないね〜いや、実に良くないね、そういうの。もう少し前向いて生きて行こうや。な?」
「うるさい!」
響鬼に向かって走り出したなのはを、「落ち着け」と言わんばかりに巧が止める。
「こんな奴の力を借りるのはゴメンだからね!絶対嫌だからッ!」
巧の腕の中で叫ぶなのは。
「……何の話だ?」
力を借りる?何の話かさっぱり解らない響鬼は巧に質問する。
「それがよ、オロチを倒す為に仲間集めてんだよ」
「だったら他当たれよ。俺ぁもう鬼の仕事は辞めたんだ。面倒事はこりごりなんだよ」
そう言い、巧の申し出を断る響鬼。だいたい、あんなこと言われて協力するのも気まずいだろう。
「さてと、サンマでも焼こ〜っと♪」
そして響鬼はどこまでもマイペースな態度で、自宅へと戻って行った。


「何だお前食わねぇのか?」
「いらない……」
ここはとある城下町の団子屋。団子を注文したはいいが、なのははさっきの事で機嫌を損ねてしまっている。
「勿体ねぇだろ食え、コラ!」
「んぅ……!?」
そんななのはの口に巧は無理矢理団子を詰め込む。これも巧なりの慰めなのだろう。
「もしかして巧、なのはの事慰めてくれてるの?」
嬉しそうに割り込むアリサ。
「そんなんじゃねぇよ!ハエが止まってたんだよ」
「平気だよ!」
照れ隠しに咄嗟にハエが止まってたと嘘をついた巧。
だが、巧は「平気だ」と言うなのはに更なる追い撃ちを思い付いた。
「へぇ〜ハエが卵産んでたぜ?」
次の瞬間、なのはは口に含んでいた物を巧の顔に吹き出した。
顔面に直撃した巧は「うわっ!」と言いながら尻餅をつく。
アリサもすずかも爆笑だ。
「きったねぇお前……冗談だよ冗談!」
顔を吹きながら立ち上がる巧。なのはも同じように立ち上がる。
「もう……それよりどうするの?この先。鬼に会いにいくんじゃないの!?」
「心配すんなよ、すぐ会える!」
巧は冗談が通じなかったなのはに少しがっかりしながらも、そう言った。
「今度の奴は鬼の中でも一番の出世頭だ。戦で手柄を立てて、大名にまで上り詰めたんだからよ」
巧はそう言い、城を指差す。


「その方らか、世に会いたいと言っているのは。苦しゅう無い。表をあげい」
その言葉に、頭を下げていた巧となのは達は顔を上げる。
「ハハッ……なんだお前その格好?!」
「なんだ、巧じゃないか。久しぶりだな。」
笑いながら言う巧に、殿様は少し嬉しそうな顔をする。
彼の名は『天道 総司』。
別名を『兜』と言い、鬼である『カブト』に変身することができる。
「お前の力を借りてぇんだよ。鬼としてのな」
巧は堂々と天道に近寄るが……
「貴様ァ!無礼だぞ!」
近くにいた側近が、巧に急接近してきたのだ。やたらと顔が近い。
だが、もちろんそんな側近の言う事を聞く巧では無い。
巧は一瞬で側近を殴り飛ばす。
「ッ出会え出会えーッ!」
するとそれに反応し、刀を持った男達が大量に部屋に入ってきたのだ。
巧はなのは達を守りながら、近寄ってくる男達を弾き飛ばす。
「落ち着け、お前ら……!!」
しかし、それを制したのは天道だった。同時に刀を持った連中の動きが止まる。
「俺はこんな生活に飽き飽きしていた……。」
言いながら、やたらとゴージャスな衣服を脱ぎ捨てる天道。
「ッ!?と、殿様がご乱心じゃぁぞー!」
すると、天道を取り押さえようと再び刀を持った男達がやってくる。
「フン!ハッ!」
天道はその男達を殴り飛ばし、一気に巧の前まで飛び上がる。
「フン!」
さらに追って来た男を殴ってこかし、腹に重い拳を叩き込んだ。
流石天道、容赦が無い。ここまでやれば十分だろう……。
「さ、行くぞ」
「おぅ!」
巧は天道の言葉に意気揚々と返事を返した。


「相変わらず気取ってやがんな、あの野郎」
天道をパーティに加えた巧は、4人目の鬼の元へ赴いていた。
4人目の鬼は、こちらを見る事無く、さっきからずっと経を読んでいる。
「鬼を通して仏に至るというのが五代のモットーだからな」
「ストーップ!何が仏だ。俺が試してやる」
天道の言葉を遮った巧は、おもむろに近くにあった石を掴み、4人目の鬼に向かって放り投げた。
「ハァッ!」
しかし石は途中で止まり……
「あいたぁッ!」
投げたはずの石は巧に帰ってきたのだ。まるで漫画のようにすっ転んだ巧は、痛そうにぶつけた所をさする。
「見たか、これが念動の力!修業次第ではこれくらい簡単な事なんだよ♪」
振り向いた男は嬉しそうに言う。
彼の名は『五代 雄介』……通称『凍鬼』と呼ばれている。
「さ、行こうか!」
「おい……行くってどこにだよ!?」
突然歩きだした五代に問い掛ける巧。
「たった今仏の声が聞こえたんだ。いたいけな女の子に魔化魍の手が伸びようとしてる!」
五代は話をする前から全てを理解していた。
五代もフェイトを救うために戦ってくれるという。


そして生贄の儀式、本番。

『生贄を捧げよ……』
声と共に海から、魔化魍の住家、鬼岩城が競り上がる。怯えた村人は生贄だけ置き去りにし、逃げ出した。
まったく薄情極まりない。
「ふん!」
そして鬼岩城から現れた童子と姫は、生贄の入った箱を破壊する。
「……何!?」
驚く童子。何故なら、そこにいたのは、フェイトでは無かったのだから。
「苦しゅう無い……あの世へ行け!!」
中に入っていたのは、天道総司だ。天道は一気に立ち上がり、音叉を額にかざす。
そうすることで、天道の体を赤い風が渦巻く。
「ハァッ!」
そして天道はその風を切り裂くように手刀を振り下ろす。
『Change beetle(チェンジ、ビートル)』
機械音声と同時に、カブトの頭にまさしく鬼の角、カブトホーンが現れる。
「鬼か……!?」
カブトに変身した天道を見て、童子と姫はすぐに飛び上がり、距離をとる。
さらに巧と雄介、二人の鬼が走って登場、カブトの横に並ぶ。

「一気にブッ潰してやるぜ!」
「仏の元へ帰れ!」

言いながら二人はそれぞれ自分の音叉を額にかざす。
そして……

「「変身ッ!!」」
叫ぶと同時に二人の体を鬼の装甲が包んでゆく。
巧の周囲を桃色の桜吹雪が舞い、雄介の周囲では白く冷たい吹雪が渦を巻く。
巧は前回と同じ緑と赤のファイズ……『カブキ』に変身。
一方、雄介はクワガタのような外観だが、装甲は白く、青い大きな瞳が特徴的な姿となる。
腰には巨大な銀のベルトが輝き、頭には金色の鬼の角が生えている。
この姿を『クウガ』というが、人々はその名を呼ぶことは無い。
基本的に彼は『トウキ』と呼ばれている。


カブト・ファイズ・クウガ。
三人のライダーは横一列に並び、童子達に向かってゆっくりと歩き出した。
なのはを含む村人達もそれを影で見守る……。



巻之一「集結せよ!伝説の鬼戦士達!」

[目次へ][次へ?]
2007年08月01日(水) 09:03:17 Modified by beast0916




スマートフォン版で見る