マスカレードサイドストーリー1話

これはまだ時空管理局が仮面ライダーと呼ばれる人々と出会う前のお話……
ある日の八神家の風景だ。


「今日はシグナム遅いねんなぁ……」
夕飯の支度をしながら呟くはやて。
シグナムはいつも通り剣道場に稽古に行ったのだが、珍しく帰りが遅いのだ。

「シグナムに限って夜遊びなんてことは無いと思うけど……」
はやての心配を和らげるために大丈夫だと言い聞かせるシャマル。
「それはそうやけど……もし最近出るって噂の怪人に襲われたりしたら……」
だが最近ニュースで放送されている「未確認生命体」とやらのせいで安心はできないのだ。
「(確かに……念話も通じないなんておかしい……)」
シャマルも少し不安を抱く。今までこんなことは無かったから……。
「……そんな心配しなくても大丈夫だろ。仮にもあたし達ヴォルケンリッターの将なんだからよ」
「ヴィータ……。」
ヴィータははやてとは違い、あまり心配していないらしい。
「ヴィータの言う通りだ。シグナムを信じてやれ。」
ザフィーラ(犬フォーム)もリビングに座りながらサラっと言う。

「確かに……そうかもしれへんな。」
はやての顔が少し明るくなる。まぁ内心ではまだ心配しているが……。

「……じゃあ、シグナムが帰って来るまでに夕飯の準備しちゃいましょうか!」
「せやな。じゃあシャマル、この食器並べてや」
笑顔でシャマルに皿を手渡すはやて。シャマルも「はいっ」と笑顔で皿を受け取る。

今日もいつもと変わらない。平凡な日常だった。
……少なくともシグナム以外は。



Extra ACT.01「強くあるために」



「……少し、遅くなってしまったな……。」
シグナムはぽつりと呟いた。
空も暗くなり始め、少し肌寒くなってきた。
はやて達も心配しているであろう。シグナムはそう思い、家路を急ぐことにした。
だが、何かがおかしい。
「何だ……?この感覚は……」
いつもと何ら変わりの無いはずの帰り道。だが……何かが異常だ。
シグナムの第六感がそう告げている。
「……気のせいか?いや……」
一瞬気のせいかとも思えたが、やはり……なんというか、空気がざわついているのだ。
伊達に長年「烈火の将」を勤めてきたわけでは無い。
そんな事を考えながらしばらく歩いていると……

『うわぁーーーーー!!』

「……!?」
遠くから聞こえる叫び声。
シグナムは「ハッ!」と振り向き、次の瞬間には走り出していた。
「(まさか……例の怪人か……?)」
剣道の竹刀が入った袋を肩にかけ直しながらシグナムは現場へと急いだ。


「うわぁーーーーーー!!」
「ビガラボ レロ ロサグゾ(お前の目も貰うぞ)……!」

言いながら男に迫る怪人。男は叫びながら後ずさりするが……

「ぎゃぁあああっ!」
次の瞬間、男の顔は血まみれになり、特に目を押さえながら悶えている。
あまりの激痛に地面に転がる男。
怪人の名はズ・メビオ・ダ。
メビオはさらに男に詰め寄るが……
「レヴァンティンッ!」
『Jar』
「……!?」
突如聞こえた声に振り向くと、ピンクの騎士甲冑を纏いながら走ってくるシグナムが視界に入る。

「はぁっ!」
そして一気に距離をつめたシグナムはメビオに斬り掛かる。
……と言ってもすぐに受けられるが……
「く……!」
下を見れば激痛に悶えながら怯えた男が目に入る。
本来ならこの男を病院に運びたいところだが、この怪人がそれを許してはくれないだろう。
そうなれば取る方法は一つだ。

「……ここは私に任せて、お前は早く病院へ行け!」
シグナムがメビオを抑えつけている間に男は走り出す。腰が抜けたようにフラフラだが、それでも走り出す。

「よし……これで戦えるな……!」
シグナムはレヴァンティンでメビオを弾く。弾かれたメビオは空高く飛び上がり、数メートル後ろに着地。
「ビガラ リントボ ゲンギガ(貴様、リントの戦士か)……」
「(初めて聞く言語だな……)」
向かい会うシグナムとメビオ。シグナムにとっては始めて聞く言葉であり、そこから未知の敵であろうということが伺える
この空間の空気が張り詰める。
そして……

「たぁーッ!」
「フン!」
もう一度接近し、レヴァンティンを振り下ろす。だがメビオも咄嗟に左手を上げレヴァンティンを受ける。
「……こいつ!」
「リントボ ザバダダバ(リントも変わったな)……!」
そしてメビオは右手でシグナムを殴る。
「……チッ!」
『Panzer schild.』
咄嗟にパンツァーシルトを展開し、そのパンチを受け……
「甘いっ!」
「バビ(なに)!?」
今度は油断したメビオの頭をレヴァンティンが斬る。
「……ッ!?」
メビオは反動で弾き飛ばされ、斬られた頭を抑える。
彼らグロンギにとって魔法など見たのは初めてだ。かなり驚くメビオ。
「リントは自分達が眠っている間にこんな能力を得たのか……!」と思っているに違いない。

「ビガラァーッ!」
「な……!」
すでに顔面を負傷していた所にさらにレヴァンティンの一撃を受け、怒ったメビオはシグナムに向かって飛び上がる。
「ボンバロボ(こんなもの)!」
「レヴァンティン!」
シグナムは咄嗟に構えるが、メビオに蹴り飛ばされレヴァンティンを手放してしまう。

「リントガ!」
「くっ……」
そのままシグナムにのしかかったメビオはシグナムの首を掴もうと手を伸ばすが、
シグナムはそれをレヴァンティンの鞘で阻む。
「(このままでは……!)」
流石のシグナムといえどこの状況はまずい。
もはや空は完全に暗くなっており、早く帰らねばはやて達も心配しているだろう。
「ギベ……リントボ ゲンギジョ(死ね……リントの戦士よ)!」
「(くそっ……!)」
メビオは鞘に阻まれていない方の腕を振り上げ、シグナムも目をつむりかけたその時……

「おりゃああああ!」
「……っ!?」
突如として現れたバイクがウィリーをしながらメビオに突撃した。メビオは弾き飛ばされ、バイクに乗った者がシグナムを覗き込む。
「貴様ッ……!」
この者もどう見てもメビオと同じ未確認生命体だ。シグナムはさらに増えた敵を睨み付けるが……
「大丈夫ですか、お姉さん!」
「……なんだと?」
なんと突然現れた未確認生命体はシグナムに向かって話しかけてきたのだ。

「クウガ……!」
「……!?」
そして「クウガ」と叫ぶメビオ。
メビオはそのまま走って逃走し、クウガと呼ばれた者もバイクに跨がりメビオを追い掛けてゆく。
「クソ……待てっ!」
二人が視界から完全に消える前にシグナムもレヴァンティンを拾い上げ、メビオ達を追い掛ける為に飛び上がった。



さっきの現場からかなり離れた場所で、クウガは「トライチェイサー2000」を駆りメビオを追い掛けていた。
人通りも少なくなってきた場所で、ひたすらにメビオに体当たり攻撃を繰り返すクウガ。
だがメビオも上手くそれを回避し、メビオとバイクに乗ったクウガと睨み合う……。

「フン……!」
「は!」
そして次の瞬間に飛び上がるメビオとトライチェイサー。二人の影は空中で交差する。
着地したメビオは再びクウガに飛び掛かるが……
「おりゃっ!」
「ぐぁ……!」
クウガはトライチェイサーをウィリーさせ、タイヤでメビオの顔面を殴る。



「(あれは……未確認生命体第4号か……?)」
シグナムはクウガを追う為に空を翔ける。さっき自分が見た姿はニュース等で見た事がある、
まさしく未確認生命体第4号そのものだ。
「……見つけた。」
そしてしばらく飛んでいると、バイクに乗ったクウガとそれに攻撃をしかけるメビオが目に入る。

クウガはバイクから降り、メビオと向き合う。
そこへ……
「たぁッ!!」
シグナムは一気に急降下、メビオに斬り掛かる。
「……!?」
クウガは一瞬シグナムの介入に驚くが、すぐにメビオに目を戻す。

「はぁ!」
「おりゃあ!」
シグナムがメビオを斬り裂き、フラついたメビオをクウガが殴る。
そんな要領でしばらく三人は乱戦し…
「ハッ!」
「甘いな……!」
メビオはシグナムに向けて強靭な脚力から繰り出す蹴りを放つが、やはりレヴァンティンに受けられる。
そしてシグナムはメビオの後ろに転がり込み、再び斬りつける。
背中から斬られ、ダメージを受けたメビオをさらに正面からクウガが殴る。
この連携を相手にしては圧倒的にメビオが不利だ。
「紫電一閃ッ……!」
そこでシグナムは追い撃ちをかけるようにレヴァンティンにカートリッジをロードさせ、炎を纏った魔剣を振り抜く。
「ぐぁああ!!」
メビオは大きなダメージを受け、フラフラと後ずさる。さらにシグナムの放った紫電一戦により周囲に引火、燃え上がる炎。
「ブゴッ(クソ)……!」
悔しさの余りメビオはフラつきながらも唸り……
今度はこの状況を打開するためにクウガへと飛び上がり、強烈な蹴りをお見舞いする。
「うわっ!」
咄嗟にガードするクウガ。
だがそれでも反動で滑るように後ずさってしまう。

「う……これは!?」
足を踏ん張り、再び構えたクウガは地面に落ちている袋に気付いた。
これは剣道の竹刀を入れている袋。シグナムがさっきまで稽古で使っていた竹刀だ。
「お姉さん!ちょっとコレ、借りますよ!」
「な、何……!?」
クウガはシグナムの返事を待たずに袋を明け、竹刀を取り出し、それをメビオに構える。
「な……竹刀が……!」
次の瞬間、竹刀の形は巨大な紫の剣へと変わっていた。それに反応し、クウガの装甲も色と形を変えていく。
さっきまでの赤色−マイティフォーム−から騎士の甲冑のような紫の装甲−タイタンフォーム−へとフォームチェンジしたのだ。
そしてシグナムの竹刀『だったもの』……タイタンソードの先端が伸びる。

変化したタイタンソードを持ってゆっくりとメビオへと接近するクウガ。
「ハァッ!」
メビオはクウガを再び蹴るが、クウガは全く動じない。それもガードの姿勢を取ることも無く。
「……!?」
驚いたメビオは何度も何度もクウガに攻撃を繰り返す。
……だがクウガは全く動かない。全く攻撃が効いていないのだ。
そして……

「…おりゃぁあ!!」
クウガはメビオの頭からタイタンソードを振り下ろした。
「ぎゃあああああ!!」
メビオに直撃したのは「カラミティタイタン」。タイタンソードから繰り出す必殺技だ。
そしてメビオは苦しみだし……
「ゴボセ……ジュスガンゾ……ビガラザ……ギズセ……バセサビ ギラヅガセス……クウガッ!!」
最後に何かを言い残し、大爆発。体の破片が飛び散り、メビオは完全に死に絶えた。

「はい、これ返します!」
全てが終わった後、クウガはシグナムにタイタンソードを手渡す。
「……あ、あぁ。」
もはや竹刀ではないが、一応受け取るシグナム。するとシグナムが手にした途端にタイタンソードはその姿を竹刀へと戻した。

「お前は……一体……」
核心に迫るシグナム。
しかし、クウガはその質問に答えることは無く、黙って親指を突き出したという……。

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2007年07月23日(月) 15:54:00 Modified by beast0916




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