リリカル・パニック7話

第七話「追うものと追われるもの」

12月9日   0834時
海鳴市   八神家が見えるどこか

情報部員として監視を始めてから今日で10日になる。
冬場の冷たい雨が降る中、『闇の書』の主とその守護騎士の監視するのはなかなか堪える。
話は変わるが日本での冬という季節は梅雨並みに雨の降る回数が多いそうだ。
これではM9に搭載されているECSもあまり使えない。

「今日も異常なし・・・」

退屈である。自分達にとってあの日まで何も起きないほうがいいのだが
流石にこうも何も無いと飽き飽きする。
別のところから監視している作戦部の連中に通信でも入れて
暇つぶしでもしようかとも思ったが、流石に思いとどまった。
私が表に出ることはなるべく避けたほうがいい。それが情報部員のセオリーでもあり
自分の存在を管理局に知られないようにする一番の安全策だ。

「とは分かってはいるもののやっぱり暇ね〜。」

しょうがないので最近買った携帯ゲーム機で時間を潰すことにした。
しかし、あと2〜3時間で監視対象が買い物に行く時間だ。
そうすれば少しはこの暇な状況もどうにかなるだろう。

「戦場はつかの間の平和を満喫しているか・・・。」


シューティングゲームを3週したところで監視対象が出てきた。
予想通り買い物に行くようだ。シグナム、シャマル、ヴィータを連れている。
この何も知らない無垢な少女が最悪の特定遺失物である『闇の書』の主だと誰も思わないだろう。
いや、本人の意思に関係なくあれは不幸を撒き散らす。
関わってきた人間の生き血を啜り、心の闇を喰らいあらゆるものを侵食する。
それが例え自らの主だとしても・・・・

12月9日   1015時
海鳴市   スーパーマーケット

ぱらぱらと雨の降る中の買い物は、やはり大変であるのだが
お天気キャスターの天然パーマのお兄さんが言うにはこれから数日間雨が降る予定らしい。
とりあえず今日の内に食料を買い占めておいたほうがよさそうだという結論に至り
はやてはシャマルとシグナム、ヴィータを引き連れて贔屓にしているスーパーマーケットにやって来た。

「うーん、数日分の献立考えるのはやっぱり大変やな」

八神家の主兼コック長であるはやてでも数日分の献立を考えるのは大変なことなのだ。

「じゃあ、食品を見ながら考えましょうか。」

「そやな。」

「ねえねえ、はやてはやてアイス買っていい?」

「ヴィータがきちんと手伝いしてくれたらな〜」

数日分の食料はそれはそれは多くなる。運び手は多いほうがいいのである。
本当ならシグナムとシャマルで足りるのだがヴィータがついて行くと言って聞かなかったので
連れて来たが、どうやら目的はアイスだったようだ。

「うおー!やったー!」

小躍りを始めるヴィータは果然やる気が出てきたらしく目がキラキラ輝きだした。
そうこう言ってる間に食品コーナーに着き、はやてとシャマルは物色を始める。

「そういえばシャマル。ちょっと聞きたいことあるんやけど。」

「なんですか?はやてちゃん」

「この前シグナムがカフェで話してた相手って誰なん?」

図書館に行ったあの日シグナムはカフェで若い男2人と何やら話していた。あのシグナムが、である。
遠くからだったので何を話していたか分からなかったし、シグナムにあれこれ聞くのは
野暮だとは思ったが、そこはまだ9歳の女の子である。
恋仲やったらどないしよう?赤飯でも炊いてお祝いするべきなんやろか?
などということが。はやての頭の中を駆け巡っていた。

「ええと、その、街で偶然知り合った人らしいですよ?」

「やっぱりええ関係なんかな?」

「ええ!?それは、そのう・・・シグナムに直接聞てください。」

主の頭の中で自分達と監視者の関係について凄まじい超展開が
起きていることに驚き、フォローを諦めシグナムにバトンを強制的に渡す。
別の場所でヴィータとジャガイモ論争をしているシグナムをちらりと見るはやて。
何やら男爵とメークインのどちらが優れているかで揉めているらしい。

「本人だと、やっぱり聞き辛いやん?そういえば名前はなんて言うん?」

「確か、サガラソウスケさんとクルツ・ウェーバーさんていう方です。」

「何されてる人達なんやろか?」

シャマルは答えを窮した。なんと言えばいいのだろうか?
シグナムの話ではこの世界の組織から自分達を守る為に来たということらしい。
それが本当かどうかは自分には判断しきれないが、自分達のリーダーの目を信用することにしている。

「すいません。そこまでは聞いてません。」

仕方ないのでシャマルは素直に分からないと答えることにした。
それにザフィーラが言うには昨日からあの刺激臭がしなくなったそうだ。
もしかすると護衛任務が終了して撤収してしまったのかもしれない。
元から彼らの戦力は当てにはしていなかったし自分達の主敵は管理局だ。
この前の女の子を蒐集したおかげでかなりのページが埋まった。
あと133ページ、管理局の妨害もあるだろうがやるしかない。
はやてはシャマルの言葉にそうか〜と残念そうに頷き、ジャガイモの山の前で
もはや喧嘩腰になるつつあるシグナムとヴィータを止めに行ってしまった。

余談だが、この喧嘩のせいでヴィータはアイスを食べ損ねてしまった。

12月11日  1540時
海鳴市    闇の書事件対策本部

今日はアースラの主要メンバーを集めての会議があった。
もちろん民間協力者としてなのはとフェイト、ユーノ、アルフも参加している。
会議はまず最初にランディが闇の書関連についての報告を始める。

「前回の襲撃からまだ遭遇はしていませんが被害は拡大しています。
 魔導師が2人、大型動物が65頭が襲われリンカーコアが蒐集されています。」

「大型動物?」

「どうも蒐集相手は人間じゃなくてもいいようです。それに魔導師を避けてる傾向があります。」

「では、我々捜索隊の探索範囲も限定されてきますな。」

アースラ捜索隊の責任者のギャレットは、エイミィ達オペレーターがまとめた行動パターンの
資料を見ながら頭の中で今後の重点的に探索範囲を勘案していた。

「恐らく、魔導師相手より獣相手のほうが楽だと踏んだのでしょう。
 人間の天敵は常に人間ですから」

ランディがそう言って報告を終える。

「クロノ執務官はなにかありますか?」

「守護騎士達の目的が『闇の書』の完成だということにもはや疑いは無いと思います。
 過去のどの例も暴走し現れた土地も甚大な被害を受けました。
 問題は、そんな危険物をこの世界の人間までもが狙ってるということにあります。
 どこで『闇の書』のことを知ったのか分かりませんが、これは危険なことです。」

「でもクロノ、『闇の書』は主にしか使えないんでしょ?」

「そのことを知らないのか、もしくは完成前に主を捕え洗脳しようとしているのかもしれない。」

「その前にあたし達が『闇の書』の主を拘束すれば全てが解決するわけだ。」

「そうだ。我々の第一目標は『闇の書』だ。現地組織については後からでも調べることが出来る。」

「分かりやすくていいね。」

フェイト、アルフがクロノに質問し今後の方針の形が整う。
そう、自分達の任務は乱入者の相手ではなくロストロギアの回収である。
もちろん、ふりかかる火の粉は払うことになるが・・・

「武装隊の一個中隊が来てるとはいえ凄腕揃いの守護騎士を相手にするのはちょっと無理があるよ。」

管理局の一個中隊はおよそ150人であるが個人転送が出来る範囲に戦力を分散しており
彼らの相手はかなり難しい。足止め程度は出来るだろうが決定打に欠けるのだ。
今のところクロノとアルフは出撃可能ではあるのだが・・・最悪5対2の状況もありうる。
現在なのはの魔力はほぼ回復しており、デバイスも例の部品を積み込めば修理も完了だ。
あとは医師のお墨付きが出れば出撃可能だ。
ただ、不安もある。あの部品を積み込めば守護騎士達に対抗できるようになるのだろうが安全性の問題がある。
本局の研究班の馬鹿共はあのシステムを使うAAAランク魔導師の実戦データが取れると喜んでるらしい。
本来なら反対する所だが、それがあの子たちの願いでもあった。
もう負けたくないと、あんな思いはもうしたくないと、頑なに訴えるあの子たちを説得するのは無理だった。

「まあ確かにそうだが、数日後には戦力は回復する。心配するほどのことでも無いだろう。
 問題があるようなら僕達が全力でフォローすればいい。」

「それはそうかもしれないけど・・・」

「大丈夫ですよエイミィさん、『闇の書』が完成したら大変なことになるんですよね?
 だったら迷うことなんて無いです。」

協力者であるなのは本人の言葉を聞いてエイミィの心も固まった。
この子達なら大丈夫、きっと何とかしてくれる。そう信じることにした。

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2007年07月15日(日) 21:41:59 Modified by beast0916




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