リリカルスクリーム11話

「で、でもさぁ…戦闘記録見たけどあいつら全然よわっちいじゃん。あっという間にちゃちゃーっと…」
「そう簡単に行くかどうか…。」
沈痛な面持ちの一同を励ますように言ったアルフを遮ってクロノが画面に移っている
トランスフォーマーの映像を拡大した。
「これって…錆びてる?」
フェイトが呟いた。さらにクロノは画面を切り替えた。
背負っているキャノン砲が無残にヘシ曲がっていたり腕や足が欠損している
トランスフォーマーが次々と映し出されていく。
「これは飽くまでも推測なんだが、彼らは僕達と戦っていた時はまだ
あの機能停止したスクラップの状態から修復する途上だったのかもしれない。
だから満足にその性能を発揮することが出来なかったとしたら?」
「あの無機物を操っていた物体も…分析しようとしたら炭化しちゃって大まかな材質
ぐらいしか解らないそうです。」
クロノが深刻そうな顔で述べ、エイミィも続けた。
「いかんせん情報が少なすぎる。奴らが何なのかもその目的が何なのかも解らないの
では行動の起こしようが無い…。」
「とりあえず現状では警戒を強化するぐらいしか方法は無いみたいね…。
彼らが一般人を気遣って行動するとは思えないし下手に刺激したら何をしでかすか
解った物じゃないものね。」
「ええいっ…歯痒い!向こうが暴れだすまではこちらからは何も出来ないと言うのか!」
リンディがそう言うとシグナムが呻いた。
その頃国守山…デストロンの戦艦改め前線基地がある地点から丁度真上にある女子寮
「さざなみ寮」では…。
「さっきの地震は何だったんだよ一体…。」
「テレビの地震情報だとかなり局地的な物らしいですね。」
「冗談じゃねえ!咄嗟にインクの瓶をおさえてなかったら来月号の原稿がパーに
なってたとこだぞ!」
不機嫌な顔で眼鏡をかけた小柄な女性…このさざなみ寮の古株住人にして
売れっ子漫画家の仁村真雪が彼女はじめ寮の住人が絶大な信頼をおいている
この寮の管理人・槙原耕介に愚痴っていた。
その時…轟音を撒き散らし、辺りの木々や窓ガラスを震わせて窓の外をふもとの方へ
戦闘機が数機、編隊を組んで凄まじいスピードで飛び去っていった。
「きゃっ!な、何ですか今の?」
怯えた様子で住人の一人…神咲那美が言った。
「自衛隊の戦闘機…?」
「こんな低空を飛ぶはずないよ。それに一機ずつ機種が違ってた。見た事も無い形の
戦闘機も混じってたし…」
夜空に不気味に消えていく機影を眺めながら住人の一人…我那覇舞が言った。
「詳しいね舞ちゃん…。」
「お前いつのまに軍隊オタクになったんだ?」
耕介と真雪が怪訝そうな顔をして言った。
「最近凝っててね…。」

「なんでたかが偵察に俺達ブレストフォースが出なければならんのだ?」
「ぼやくなぼやくな。いずれこの空が戦場になるかも知れんのなら
地理は頭に入れておくべきだろう。」
グラマンF14に変形するデストロンエース部隊(一体いくつエース部隊が
あるんだか。まあこの手の称号は基本的に本人達が勝手に名乗っている物
だからかも知れないが。)ブレストフォースのリーダー・レオザックがぼやき、
ミコヤンMiG-29に変形するトランスフォーマー・ガイホークがそれを咎めた。
「貴様らグダグダ言うんじゃない!この隊のリーダーは俺様なんだぞ!」
ヒステリックに叫んだのはスタースクリームだ。
「へッ。俺たちゃお前がリーダーだって認めた訳じゃねーや。」
ダッソーラファールに変形するトランスフォーマー・ヘルバットが
言うとブレストフォースの三機は編隊を崩して先行し始めた。
「貴様らどこへ行く!待たねーか!」
「やめとけよスタースクリーム。お前の手に負える奴らじゃないぜ。」
追いすがろうとするスタースクリームをデストロンの中では
やはり古参の部類に入るVТОL機に変形するトランスフォーマー・スラストが
なだめるように言った。
「人間共の軍隊にバレない内に戻れって言われてるだろ。帰るぞ。」
スラストの同型で青く染め抜かれたボディのトランスフォーマー・ダージが
アクロバット飛行を始めたブレストフォースに言った。
「聞こえなかったかよ!お前らの指図なんか受けねーっての!」
「威勢がいいのは結構だがあんまりおいたが過ぎると出番減らされるぜ。
この星を制圧するのに大所帯の俺らの中から何もお前達をどうしても出撃させる理由なんかないんだからな。」
「…チッ。」
「仕方ない、戻るぞ。」
ヘルバットらの反抗期の少年そのものの応答にダージやスラストの同型で
白く染められたボディを持つトランスフォーマー・ラムジェットが
静かになだめた。彼ら三機のこういった跳ねッ返りの扱いの上手さは
流石古参兵といったところか。勿論隊を任されたにも関わらず面子を
つぶされた格好のスタースクリームにしてみればそれは面白い光景ではなかった。
「ただいま〜。」
「なのは、お帰り。」
翠屋に帰宅したなのはを彼女の姉・高町美由紀がやさしく出迎えた。
「ただいま…。」
「あ、シグナム。お帰りなさい。」
「主は?」
「ヴィータちゃんを連れて買い物に行ったわ。そろそろ帰ってくるころだと思うけど…。」
八神家でもまた、今のところは平和なやり取りが交わされていた。
そして時空管理局の面々にしてみれば長く、デストロン達にしてみれば短いが濃密な
一日が終わろうとしていた。だが…
「あ〜ん何だよここはあ〜?うわあ高いよ落ちるよ〜ぶ〜ん!」
海鳴市上空に直径三十センチほどの小さな次元断層が発生し、
そこから蜂のような影が転がり出るように現れ市街地へ墜落していったことに
気付くものは無かった。

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2007年06月15日(金) 17:01:16 Modified by beast0916




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