リリカル魂2話

リリカル魂 第二話「魔法と管理局」


「さてと、まずは援護ありがとっ。時空管理局民間協力者の高町なのはです。
じゃあキミの名前と所属世界、それと・・・そのロボットは?」
砂漠に降り立ち、二人に質問をするなのは。
「「・・・」」
固まってる。
「ねぇ、ちょっと?」
「あ。えーと、俺の名前はイッキ、天領イッキ。そんでこいつは」
「オレはメタビーだ。それより・・・・時空なんたらって何だ?」
ロボットが思いのほかスラスラと喋ったことに多少驚きつつも、
「ん〜、詳しい話はアースラに行ってから教えるよ。
それで、イッキくん達はどこから来たの?」
(いや、だからアースラって何だよ?)
新たな単語に頭を捻るメタビー。その横でイッキは、
「どこからって・・・・っていうか、ここは地球、なのか?」
知っているかぎり、地球の砂漠にあんな怪物が住んでいるなんて聞いたことがない。
「確かに似てるけど、ここは地球の砂漠じゃないんだ。
その様子だと自分達で転移してきたってわけでもなさそうだし・・・・
つまり、イッキくん達は別世界に飛ばされてきちゃったってことになるね」
え?何言ってんのこの子?・・・・イッキとメタビーは呆気にとられる。

「とにかくアースラに戻ってからちゃんとお話しよ?
 何があったか分からないけど怪我もしてるみたいだし。
――エイミィさん聞こえますかー?要救助者+αの保護完了。転送お願いしま〜す」
『はいはーい、お疲れ様!すぐに送るからちょっと待ってね』
「ちょ、ま、待てよ!何だよ別世界って?人の話を聞k――」
「おい!その+αってまさかオレのこt――」
最後まで言い切る前に、3人は灼熱の大地から姿を消した。

「転送完了っ、そろそろ戻ってきますね」
「うん、大した異常じゃなくて良かったわ。それにしても『+α』って何なのかしら?」
なのはの言っていた「要救助者+αを保護」の後半部分がちょっと気にかかるリンディ。
救助されたのは年齢的にあまりなのはと変わらない少年のようだが、
それにどんな『おまけ』がくっついているのか。

ほぼ同時刻、アースラの転送ポートに少年と少女とロボットが到着した。
「うわっ、どこだよここ!?ってか俺たちって今まで砂漠にいたのに・・・」
いきなり光に包まれたと思ったら次の瞬間には見知らぬ施設の中にいる。
一体自分はどこにいるんだとキョロキョロするイッキ。
「・・・つまり、ここがさっき言ってた『アースラ』ってやつなのか?」
一方で、メタビーは冷静に状況を見て質問した。
「そうだよ、時空航行戦艦アースラ。ちょっと待ってて、クロノくんを呼んでくるから」
「いや、その必要はない」
メタビーに応えてから歩き出そうとするなのはを制した声の主は、
全体的に黒い服に身を包んだ少年。時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだった。
「緊急の用事を頼んですまなかった、なのは。で・・・救助したのがその少年か?」
労いの言葉をかけるクロノ。そして、先ほどから落ち着きのないイッキを一瞥した。
「うん、天領イッキくん。それとそのロボットはメタビーくんっていうんだって」
「・・・そうか、自己紹介が遅れてしまったな。
僕は時空管理局の執務官、クロノ・ハラオウンだ。
天領イッキと、メタビー・・・だったか? 色々と聞くこともあるから
ついて来てくれないか」
言いながら既に歩き出しているクロノ。なのはもその後ろについて
「こっちこっち」と手招きしている。
メタビーも二人の後に続いて歩き出したが、ふと振り返り、
(・・・まったく、あいつは・・・!)
「おいイッキ、いつまでキョロキョロしてんだよ? 置いてくぞ」
メタビーの声に、待てよ〜と言いながら追いかけていくイッキ。

「ふーむ、つまりその『メダロット』で戦っている最中に事故が起きたわけね?」
管理局による簡単な手当てと身体検査を受けた後、イッキとメタビーはアースラの
食堂に案内された。そこで待っていたのは一人の女性。
この戦艦の艦長、リンディ・ハラオウンだった。
クロノとなのはも立会い、互いに自己紹介を済ませ今は事情聴取の最中である。
最初の内こそ「別世界って何だ〜!?」とか何とか騒いでいたが、
3人掛かりの熱心な説明により、ようやく理解できたところだ。
「事故っていうか、とにかく電撃を食らって・・・気付いたら砂漠にいたんです」
頭の包帯を指で触りながら、イッキは在りのままを話した。
「なるほどね、イッキくん本人にもなぜだか分からない、か」
顎に指を添え、難しい顔をするリンディ。
9歳の子どもの話からでは、やはり元いた世界の詳しい情報は得られない。
聞く限りでは、どうやらこちらがまだ認知していない世界の住人のようだ。が、
断片的に聞いた内容が、なのはの住む地球のそれと酷似しており、
しかも彼らの世界でも『地球』と呼んでいるらしいことが不可解だった。
ブラックホールを抜けた先に左右が逆なだけの地球が存在するなどという
信じ難い論説があるが、むしろそれを信じる方が楽なくらいだ。

とにかく彼の世界を探索し帰してあげることには職務的にも個人的にも全力を尽くす。
検査の結果、危険因子は発見されなかったし、保護してしばらく様子を見よう。
それにしても、とイッキの隣に視線を移す。
「『おまけ』がこの子か・・・」
「おまけ?」
ポツリと呟やかれた独り言にメタビーが反応する。
「ああ、気にしないで! こちらのことだから」
「?」
独り言のつもりが、実は聞こえていたことに少々慌てる艦長さん。

「それで・・・俺の方からも聞きたいことがあるんですけど」
イッキが口を開く。
「その、なのは・・・ちゃんはなんであんなことができるんですか?」
「ああ、オレもそれは気になってた」
メタビーも同意見のようだ。
イッキの言う『あんなこと』とは、空を飛んだり砲撃を撃ったりといった魔法のこと。
リンディは「そうねぇ」と言い、
「世の中には、『リンカーコア』っていう魔力の源を持つ人がいるの」
「魔力の源?」
「そう。それを持っている人は大小の差はあるけど様々な魔法を使えるわ」
「はぁ」
信じ難い話だ。おとぎ話かメルヘンの産物だと思っていたのだから仕方ないが。
リンディは続ける。
「でもそれはごく少数の人たちで、現になのはさんの世界でもわずか数人しか
確認されてなくてね」
正確には『管理局が認識している魔力保持者』の数であり、
もしかしたらまだ確認されていない者もいるかのもしれない。
「それで、そのごく稀な人たちのほとんどは高い魔力資質を持っていることが多いの。
なのはさんも、そのうちの一人」
「えっ!?」
「つまり、なのはさんは魔法使いってことになるかしらね」
今更ながら、正直驚いた。確かに自分とそれほど変わらない歳の子が
そんな力を持っているなど普通は考えられないだろう。
パッカーンと開いたイッキの口は、しばらく塞がりそうにない。
「ふふっ、まだ小学生の可愛い女の子にそんな力があるなんて思わないわよね」
リンディも初めてなのはのバカ魔力を目の当たりにしたときを思い出した。
あのときはまだ魔道士としての技量は低く、魔力量に頼っている部分も多かったが、
P・T事件、闇の書事件と修羅場をくぐり抜け、よく成長したものだと感心する。

「けど、あのすんげぇビーム見たら納得できるかもな」
と、メタビーは砂漠で見たディバインバスターを思い出す。
巨大ミミズ2頭を一瞬のうちに吹き飛ばしたのは、間違いなく目の前の少女だ。
「えと、あれでも抑え気味だったんだけど・・・」
さらりと怖いことを言うなのは。ミミズたちもあの世でさぞ微妙な心境だろう。
「「・・・・・・(汗」」
「あの・・・イッキくん?メタビーくん?」
イッキとメタビーも何か悪寒を感じたので、その発言はスルーすることにした。


「・・・とにかく、君たちの身柄はしばらくこちらが保護することになる。
なのはの世界ではもう夜も遅いし、今日のところはここまでにしようと思うが」
今まで話の流れを簡潔にまとめ、「よろしいですか?艦長」と尋ねるクロノ。
「そうねぇ。なのはさんもそろそろご家族が心配してるでしょうし」
いくら緊急の用事とはいえ、小学生を夜遅くまで留めておくのは少し問題がある。
ちらりと時計を確認するリンディに対し、
「いえ、仕事によっては遅くなることも家族には話してますし、大丈夫かと・・・」
と弁解するなのは。
「それに、家族のみんなは『無理しない程度に頑張れ』って認めてくれてますから」
「その割には、時折『無理』とか『無茶』を押し通すことがあるようだが?」
「にゃはは・・・(汗」
クロノの指摘に苦笑いを浮かべるなのは。
「確かに、ここのところなのはさんは頑張りすぎかもね」
「そんなぁ〜、リンディさんまで」
艦長にまで追い討ちをかけられた。
「本格的に局の仕事に協力してくれるのは嬉しいけど、本業も忘れちゃダメよ」
「・・・は〜い」
なのはは渋々といった感じで応える。
「うん、良いお返事ね。あ!そういえばイッキくん達の住むところを決めなくちゃ」
思い出したようにポンッと手を打つリンディ。
「オレたちの住むところ?」
「そう。管理局にもちゃんとした居住スペースはあるけど、たぶんあなた達では
息が詰まって暮らしにくいと思うの」

そういえば、とイッキとメタビーは顔を見合わせる。
別世界に飛ばされたとなれば、まずは住むところを探さなければならない。
かといって施設のようなところで暮らすのは正直なところ不安要素が多いわけで。

どうしようかと思案顔をするイッキに、リンディは一つ提案を出した。
「とりあえず今日は私達の家に泊まるといいわ。後のことはまた考えましょう」
「母さ・・艦長!!いきなりそんな!」
予期せぬ提案に一番驚いたのはクロノだった。
「あら、いいじゃないクロノ。別に女の子が泊まるわけじゃないんだし」
「いや男とか女とかの問題じゃなく!決定が急すぎますよ!」
慌てふためくクロノ。

先ほどのすました顔が印象に強かったイッキは、珍しそうな目で今の彼を見る。
(なんだか偉そうなヤツだなって思ってたけど、意外に面白いかも・・・)
内心そんなことを考えていたりする。人は見かけによらないものだったりするわけで。
「なぁ、なのはちゃん。この二人っていつもこんな感じなの?」
「なのはでいいよ。クロノくんがあんなに慌てるのは久しぶりかなぁ」
「ふーん・・・」
やっぱり珍しいのか、とか思いながら相槌を打つイッキ。
その目の前では未だにハラオウン親子の滑稽なやりとりが続行中だ。
本部に掛け合ってみるべきだとか一時的に保護スペースに預けるだとか
まくし立てるクロノを無視し、リンディは「パジャマ用意しなくちゃ」とか言っている。

結局、クロノはリンディにいいように丸め込まれ、承諾させられる破目になった。
「・・・それじゃあ僕と艦長も今日は家に帰るから、なのはもその時でいいか?」
「うん!大丈夫だよ」
「執務官、イッキくんとメタビーくんもでしょ?」
「・・・・保護対象者の天領イッキと+αも一緒に帰宅することになる。以上」
「おい!!なんだその態度の違いは!」
「ってか+αってオレのことかよコラ!!」
あからさまな扱いの違いに、揃って文句を言う二人。それを無視するクロノ。
「まぁまぁ。二人とも落ち着いて」
なのはが仲裁に入り、二人は何とか落ち着きを取り戻す。しかしまだ何か言いたげだ。
「それじゃ、みんな帰りましょうか」
やれやれとリンディが腰を上げ、転送ポートへと向かう一同。
その間、クロノとイッキ達は一言どころか顔も合わそうとしなかった。
そして、彼らの様子を見ながら本日二度目の苦笑いをするなのはであった。

[戻る][目次へ][次へ]
2007年07月21日(土) 14:52:27 Modified by beast0916




スマートフォン版で見る