リリカルBLADE3話

それは小さな願いでした。
微笑みを交わしあうこと……
そっと触れあうこと……
だけど、私たちを迎えたのは戦いの時。
奪われてしまった力……
傷ついてしまった魔導の杖達。
まだはっきりつかめない、戦うべき相手と
自分たちにできること。
だけど、それでも私たちは……

宇宙の騎士リリカルなのはBLADE……
始まります

敵から予想外の攻撃を受け、倒れたなのははまだ眠っていた。
すでに検査は終わっている。後は目が覚めるのを待つだけだという。
エイミィはリンディと二人で本局の廊下を歩きながら、なのはの容態を報告する。
「検査の結果、怪我はたいしたこと無いそうです。」
「そう……。」
エイミィの報告に、リンディは一言だけ返事を返す。
「ただ……魔導師の魔力の源、『リンカーコア』が極端に小さくなってるんです」
「……じゃあやっぱり、一連の事件と同じ流れね」
「はい。間違いないみたいです。」
最近立て続けに発生していた「魔導師襲撃事件」。
リンカーコアが小さくなるという症状は、その被害者に共通していた。
「休暇は延期ですかね。流れ的に、うちの担当になっちゃいそうだし」
「仕方ないわ。そういうお仕事だもの」
二人はそう言い、ツカツカと歩きながら苦笑する。
「……さて。後はもう一つの問題ね……」
リンディは目的地である部屋のドア前で立ち止まった。
「テッカマン……ですか。」
リンディは一言「ええ……」と返事をし、ドアを開ける。
部屋の中にいるのは管理局から借りた服を着て、ぽつんと座っている男だ。
「気分はどう?Dボゥイ」
「…………。」


第3話「お引越し、そして理由無き敵前逃亡」


「ん……」
医務室で目を覚ますなのは。
ゆっくりと横を見ると、暗い表情をしたフェイトが座っていた。
手には包帯を巻いている。シグナムにやられた傷だろう。
「あの……ごめんね。せっかくの再会が、こんなで……怪我、大丈夫?」
自分のせいでは無いのに謝罪するなのは。
「ううん。こんなの、全然。それより……なのはは?」
「私も平気。フェイトちゃん達のおかげだよ!」
なのはは「元気元気!」と笑いながら腕を動かして元気さをアピール。
二人はしばらくお喋りし、しだいに気まずい雰囲気も無くなっていった。
「ところでフェイトちゃん」
「何?なのは」
少し真剣な表情になるなのは。フェイトは「何だろう?」と聞き返す。
「私を助けてくれたあの……テッカマンさん?のことなんだけど……」
フェイトは「やっぱりその話題か」という顔をする。
「それが、まだよくわかって無いんだ。今リンディさんが取り調べしてるらしいけど……」
「そっかぁ。味方……だよね?」
「うん……多分……」
恐る恐る聞くなのはに答えるフェイト。だがやはり自信は無く、「多分」としか言えなかった。


「もう一度聞くわ。あなたは記憶喪失なのよね?」
「そうだ。何度も聞くな」
取調室でDボゥイに尋問するリンディ。
「なら、ラダムって何なの?貴方が頻繁に口にしていたらしいけど……」
ちなみにこれはフェイトからの情報だ。
「俺が倒すべき敵だ。」
「記憶喪失なのにそれは覚えてるのね。ちょっとおかしく無いかしら?」
「俺が覚えているのは、クリスタルを使ってテッカマンに変身できる事と、ラダムを滅ぼさなければならないという事だけだ」
Dボゥイの話を聞き、「はぁ」と溜め息をつくリンディ。

「……わかりました。それは信じます」
「…………。」
これ以上尋問しても埒が明かない。リンディは諦めて次の話へと進むことにした。
「じゃあ、ここからは貴方へのお願いなんだけど……いいかしら?」
「お願いだと?」
聞き返すDボゥイ。
「ええ。聞いてくれるかしら?」
同時にエイミィが二人にお茶を出す。しかもDボゥイの分までミルクと砂糖をいれ始めるリンディ。
「あ、ああ……」
Dボゥイはこの異様な飲み物を凝視しながら返事を返す。
「ふふ……よかった。まぁ、まずはお茶でも」
そう言いこの緑茶に砂糖とミルクを入れた異様な液体を飲み始めるリンディ。
「…………(ゴクッ)。」
リンディを見たDボゥイも、ソレを恐る恐る口に運ぶ。しかし……
「ん?……なかなか……いけるな。」
「そうでしょ〜?この味がわかってくれて嬉しいわ」
Dボゥイの反応に喜ぶリンディ。
横でエイミィが「マジかよコイツ……」というような青ざめた顔でDボゥイを見つめているが、そこは割愛しよう。
「で、Dボゥイ。私達に協力して欲しいんだけど……」
本題に入るリンディ。
「協力だと?」
「ええ。今回の『魔導師襲撃事件』の解決に手を貸して欲しいの。」
そして魔導師襲撃事件の全容を説明するリンディ。
「あの赤いテッカマンもこの事件に関わっているみたいなの。どうかしら?」
しばらく考えるDボゥイ。本来ならこんな組織に協力してやる義理は無いが
確かにエビルと決着をつけるにはその方がいいかもしれない。
しかも協力するならば当面の住居まで用意してくれるらしい。リンディは巧みな話術でDボゥイを引き込む。
「……いいだろう。協力してやる。」
「本当?感謝するわ!じゃあ、これから……」
「ただし!」
「……え?」
リンディはDボゥイの返答に「よろしく」と言おうとするが、大きな声で遮られてしまう。
「ラダムが現れた時はそっちを優先させてもらう!」
「…………。」
再び真剣な表情に戻るリンディ。そして……
「わかりました。どうやらそれが貴方の目的みたいだしね……」
リンディは少し考えたが、その条件を飲む事にした。
ちなみにラダムについても「倒すべき敵」としか教えてもらえなかったという。
ラダムを放っておけば大勢の人間が死に、地球は死の星になる……と。にわかには信じ難いが、まぁ信じるとしよう。


「バルディッシュ……。ごめんね、私の力不足で……」
「いっぱい頑張ってくれて、ありがとう。レイジングハート……今はゆっくり休んでてね……」
傷だらけになったデバイスを眺めるなのはとフェイト。
そしてユーノとクロノが、二人のデバイスの状態と今回の敵が使ってきた魔法の説明をする。
あれは「ベルカ式」というらしく、魔力を込めた弾丸で一時的にパワーを跳ね上げる物だという。
「そういえば……ベルカの騎士って……」
フェイトもシグナムの言葉を思い出し……。


同刻、八神家

「じゃあ、お先にお風呂入らせてもらうわ」
シャマル・ヴィータ・はやての三人は浴室へと向かう。もちろんはやてはシャマルに抱き抱えられながらだ。
「シンヤはいいとして……シグナムは入らないのかよ?お風呂好きが珍しいな」
まるでホストのようにソファに座って足を組んでいるシンヤをちらっと見て、シグナムに質問するヴィータ。
「ああ。明日の朝入らせてもらう。」
その言葉を聞き、三人は浴室へと入っていった。

「……今日の戦闘かい?」
三人が風呂に入ったのを見計らって、おもむろに口を開くシンヤ。
「敏いな。その通りだ」
シグナムは服を上げる。
すると、腹辺りにできた傷が目につく。フェイトの斬撃がかすっていたのだ。
「まさかシグナムの装甲を撃ち抜くとはね……」
「良い師に学んだのだろう。それよりも……」
シンヤを睨むシグナム。
「お前が兄さんと呼んでいた、あの白いテッカマンは何だ?」
「ふふ……聞いての通り、僕の兄さんさ。しかも双子のね」
さらっと答えるシンヤ。
「……いいのか?我らに協力したために実の兄と戦う事になっても。」
「もちろんさ。兄さんは俺以外には殺せない……いや、俺以外には殺させない……。」
ニヤッと不敵に笑うシンヤ。シグナムは黙ってシンヤの話を聞いていた。


数日後、海鳴市。

「ここが俺の家……か。」
なかなか豪勢なマンションを見てぽつりと呟いたDボゥイ。
「そうよ、Dボゥイ。もう貴方は家族も同然なんだから、もっと堂々としなさい」
リンディも笑顔で言う。
「そういう訳だ、Dボゥイ。この荷物運ぶの手伝ってくれ」
「ああ、わかった。」
そこへ大きな荷物を持ったクロノが現れ、Dボゥイに手伝うように言う。Dボゥイは仕方ないと思い、それを手伝う。

なのはとフェイトは二人でマンションの玄関から外を眺めてお喋りしている。本当に楽しそうだ。
数分たって、Dボゥイが荷物を運び終えると、リビングに赤い子犬とフェレットが立っているのが目に入る。
赤い犬の方にはどこか見覚えがあるが……
「新形態、子犬フォーム!」
子犬はどこか聞き覚えのある声でそう言った。
「お前……アルフか!?」
「そうだよ、Dボゥイ!」
Dボゥイは軽く驚く。まさか子犬にも変身できるとは……
「なのはやフェイトの友達の前では、この姿でなくちゃならないんだ」
今度は頭を掻きながらフェレットが口を開く。
「……お前は?」
「僕だよ、ユーノ・スクライア!」
「(そういえば居たな……そんな奴)」
思ったが口には出さない。この雰囲気で存在自体忘れていたなんて流石のDボゥイにも言える訳が無い。
「……お前らも、大変なんだな。」
Dボゥイは少し同情しながら言った。
「うわぁ〜!アルフ小さい!」
「ユーノ君、久しぶり〜!」
そこへなのはとフェイトが入ってくる。二人はすぐにアルフとユーノを抱き抱える。
微笑ましい光景だ。こんな平和な日常、Dボゥイのいた世界では有り得なかっただろう
「なのは、フェイト。友達だよ」
今度はクロノがリビングに戻ってきて、笑顔でそう伝える。
「こんにちわ〜」
「きたよ〜」
さらにその直後、リビングにアリサとすずかが現れる。二人共満面の笑みだ。
そしてリンディの申し出でなのは達はなのはの家族が経営している喫茶翠屋に行く事になった。
クロノとエイミィ、そしてDボゥイは留守番だ。

「ロストロギア……闇の書の最大の特徴はそのエネルギー源にある。」
皆がいなくなった後、リビングに闇の書の画像を表示しながら説明を始めるクロノ。
「闇の書は魔導師の魔力と、魔法資質を奪うために、リンカーコアを喰うんだ。」
「なのはちゃんのリンカーコアも、その被害に……?」
質問するエイミィ。
「ああ、間違いない。リンカーコアは魔力を喰う事でそのページを増やしていく。
そして、最終ページまで全て埋めることで、闇の書は完成する……」
「もし完成したら、どうなるんだ?」
今度はDボゥイが質問する。
「少なくともろくな事にはならない……。」
「そうか……。そんなことにエビルは協力しているのか……」
エビルは一体何のためにそんなことに協力しているのだろうか?
いや……そんなことはどうでもいい。エビルは倒せばいいだけだ。目的など知った事では無い。
「……エビル?あの赤いテッカマンか……?」
Dボゥイの一言を聞き逃さなかったクロノ。
「ああ。奴は俺がこの手で倒す……!」
「…………。」
言いながら拳を握りしめるDボゥイ。クロノは何も言わずに黙ってそれを見つめていた。
まさかこの時「倒す」=「殺す」などとは思っていなかったのだから……。


数時間後、ハラオウン家。

「フェイトか。」
「あ……おかえり、Dボゥイ」
空も暗くなり始め、Dボゥイが海鳴市の散策から帰ってくる。まぁ散策といってもただの散歩だが。
「提督とクロノは?」
テレビを見ているフェイト以外の人影が無い事に気付いたDボゥイ。
「さっき本局へ行ったよ。今日は遅くなるって……」
Dボゥイは一言、「そうか。」と返す。
「それにしても……この世界は本当に平和なんだな。」
「え……?」
突然の言葉に反応するフェイト。
「いや、ラダム樹が一本も生えていなかったからな。」
「……ラダム樹?」
聞き慣れない単語だ。
「いや、何でも無い。気にしないでくれ」
「う、うん……。」
Dボゥイもうっかり口を滑らしそうになったことに気付く。油断は禁物だ。


同刻、海鳴市。とあるビルの屋上。
屋上の扉を開け、ヴィータが走ってくる。
それを見たシグナムが「来たか。」と呟く。
「うん。今、何ページまで来てるっけ?」
「370ページ。この間の白い服の子で、だいぶ稼いだわ」
ヴィータの質問に闇の書をパラパラとめくりながら答えるシャマル。
「おし、半分は越えたんだな!ズバッと集めて、早く完成させよう!それで、はやてとずっと一緒に、静かに暮らすんだ!」
一同は再び決意を固め、ヴィータの顔を見る。
「そろそろ行こうか。もう時間もあまり無い」
そこでシンヤが言う。それを聞いた一同は頷き、シグナムとヴィータはネックレスを、シャマルは指輪を掲げる。
「ゆくぞ、レヴァンティン!」
シグナムの体を騎士甲冑が包んでいく……。
「クラールヴィント!」
「グラーフアイゼン!」
それに続き、シャマルとヴィータもデバイスを起動。三人の体を光が包み、次の瞬間には変身が完了していた。
そして……
「テックセッタァーッ!!」
それに続いてシンヤも赤いクリスタルを掲げる。同時に赤い装甲を身に纏い、テッカマンエビルへと変貌する。
「それじゃあ、夜明け前にまたここで!」
「ヴィータ、あまり熱くなるなよ」
「わかってるよ!」
次の瞬間、ヴォルケンリッターとエビルの5人は光の如き速度でその場から飛び去っていた。


一方、アースラ。
エイミィは本局メンテナンススタッフであるマリーからの通信を受けていた。何やらデバイスの様子がおかしいらしいが……
『部品交換と修理は終わったんですけど、エラーコードが消えなくって……』
モニター越しに困った表情で相談するマリー。
「エラーって……何系の?」
『必要な部品が足りないって……今データ送りますね』
マリーが送信ボタンを押すと、すぐにデータの一覧が届く。
「お、きたきた……ってこれ!?」
エイミィも届いたデータを見て驚く。
「エラー解決のための部品
CVK-792を含む
システムを組み込んで下さい」
『2機共、このメッセージのまま、コマンドを受け付けないんです』
エイミィは驚いた顔でパネルを叩く。
「(レイジングハート、バルディッシュ……本気なの?
CVK-792……ベルカ式カートリッジシステム……!)」
モニターに表示された『お願いします』という文字。エイミィはその文字を見つめる……。


「もう3時か……」
闇の書とテッカマンブレードの出現によりクロノ達はさらに仕事が増え、今日も遅くまで残業だ。
魔導師襲撃事件は正式にアースラメンバーが対応することとなった為、
執務官のクロノと提督兼艦長のリンディの多忙さはさらに加速している。
「もうフェイトも寝てるだろうな。」
コンピュータのパネルをカタカタと叩きながら呟く。クロノも兄として妹を心配しているのだ。
その時……
ピピピピピピッ
通信が入る。誰かと思いながらモニターに回すクロノ。
『クロノ!』
「か、艦長?どうしたんですか?」
相手はリンディだ。たとえ母親といえど仕事中は敬語で話す。
『辺境の世界に、テッカマンと思しき反応が確認されました』
「何だって!?」
『クロノ。わかってると思うけど、フェイトちゃんもなのはちゃんも今は戦えません。行ってくれるわね?』
レイジングハート・バルディッシュは修理中、さらに持ち主は睡眠中と来た。ならば今動けるのはクロノのみ。
「わかりました。すぐに向かいます。」
そう言い、通信を切ったクロノはS2Uを手に立ち上がろうとするが……
ピピピピピピッ
再び鳴り響く通信。
「くそ、誰だこんな時に!」
クロノは苛立ちながらも通信に出る。
しかしモニターには何も表示されない。つまり音声のみということか。
「はい、もしもし!」
『クロノか。俺だ』
「Dボゥイか!?」
『ラダムのテッカマンが現れた。すぐに出動させてくれ!』
「ああ、わかってるよ!僕も今から行くところだ」
こうしてクロノとDボゥイは二人でテッカマンが現れたという辺境の世界へと向かうのだった。



「ふん……テックランサァーーーー!!」
見渡す限り何も無い世界。
エビルは巨大な龍のような敵にテックランサーを突き刺し、切り刻む。
龍の血が飛び散り、体の中身はえぐられ、肉が飛び出す。
龍は悲痛な叫び声をあげる。もう助からないだろう。かなりグロテスクな光景だ。
「もういいわ!止めてシンヤくん!収集できなくなっちゃう!」
そこでシャマルが叫び、エビルの攻撃をストップさせる。
ストップさせた理由の一つとして、これ以上こんな酷い光景を見たくは無いというのもあるが……
シャマルは動けなくなった龍のリンカーコアの収集を開始する。

「フン……毎度ながら敵にトドメを刺せないのはつまらないね……」
「そう言わないの。シンヤ君はいつもやり過ぎなのよ。私達の目的は殺す事じゃ無いのよ?」
残酷なエビルに戒めるように言うシャマル。
「……そんなことはわかっている。ただ、殺せないのはつまらないと言っただけだよ」
「シンヤくん……。」
シャマルは溜め息をつきながらエビルを見る。元々残酷な性格なのだろう。何を言っても無駄だ。

『ブレイズキャノン』
「……な!?」
次の瞬間、彼方から飛んでくる光に気付いたシャマルは咄嗟に飛びのく。
「シンヤくん!?」
だがエビルは微動だにせず、ブレイズキャノンの直撃を喰らう。
そして光が晴れ……
「ククク……やっぱり来てくれたね?兄さぁん!!」
エビルは全くの無傷だ。シャマルも「ぎょっ」とする。
それもそのはず。いかに魔導師であれ人間が放った、しかも「非殺傷設定」付きの
魔法に当たった程度では、核爆発にも堪えるテッカマンの装甲を傷付けるのは不可能だろう。
「シンヤくん……大丈夫なの?」
「当たり前だ。最強のテッカマンであるこの俺がたかが虫けらの技に当たった程度で死ぬ訳が無い」
シャマルはエビルがさらっと言った「虫けら」という言葉に対し少し暗い顔をする。
戦闘になると態度や言葉遣いなど……いろいろと残酷になるのは今に始まった事では無い。
エビル。この男だけは敵に回したくは無い。シャマルはそう思った。
「シャマル。お前は先にこの場所から離れろ。奴らは俺が片付ける」
「う……うん。わかったけど、くれぐれも殺さないでね?」
「ああ。極力ね」
「……じゃあ、ここは任せるわね。」
はやての未来を血で染めたくは無い。だから「殺さないように」と念を押し、シャマルは戦線を離脱した。

「……片方には逃げられたか。」
遠くでシャマルが離脱したのを見て、クロノが言う。
「……エビルッ!」
だがもうそんなことは眼中に無く、Dボゥイの頭は目の前のエビルでいっぱいだった。
そんなDボゥイの目の前にスラスターを一気に噴射させ飛んでくるエビル。
「また会えたね?タカヤ兄さん」
「シンヤ……いや!テッカマンエビルッ!!」
エビルは人間の姿に戻り、ゆっくりと歩いてくる。
「嬉しいよ。また兄さんと戦えるなんて」
「……ああ、俺も嬉しいさ。お前をこの手で殺せるんだからな!」
二人の距離はわずか1m程にまで縮まっている。クロノはすぐ側でそれを見ているが……
次の瞬間、二人は一気にジャンプし、10mほど距離をとった。お互いの手に輝くのは緑と赤のクリスタル。
そして……
「「テェックセッタァーーーーーーーーーッ!!!」」
二人の体を赤と緑の光が包み……
「テッカマンブレードッ!」
「テッカマンエビルッ!」
二人はそう名乗った。クロノは変身したエビルにS2Uを構えるが、エビルの姿はすぐに消える。
「なに!?」
空を見上げれば、緑と赤の閃光が凄まじい速度でぶつかり合っている。
あまりに速過ぎる動きのせいで、スラスターの光がそう見えるのだ。
「クソ……これじゃ照準が定まらない……砲撃も、バインドも……!」
クロノは空で戦う二人を見て、何もできない自分に苛立ちを感じる。
Dボゥイ……いや、ブレードがエビルを弱らせた所をバインドで拘束、本局へ連れ帰るしかない。
「Dボゥイ……!」
クロノは悔しい表情をしながらDボゥイの名前を呼ぶ。


「うおおおおッ!!」
テックランサーを分割し、両手に持ったランサーでエビルを攻撃する。
「甘いよ兄さんッ!!」
エビルはテックランサーで片方のランサーを弾き、もう片方のランサーをラムショルダーで受ける。
そして二人はその場所から再び距離をとる。
「くらえッ!」
エビルは短剣の嵐をブレードに見舞う。
「そんなもの!」
だがブレードはそれをダブルランサーで弾いて弾いて弾きまくる。そうしながら距離をつめ……
「うおおおおおッ!!」
再びダブルランサーを一本のテックランサーに合体させ、振り回しながら突進。
「チッ!」
それを自分のテックランサーで受け止めるエビル。
お互いのテックランサーは激しい火花を散らしながらぶつかり合い、睨み合うエビルとブレード。
二人はまた離れ、再びテックランサーでの突進でぶつかり合う。それがしばらく繰り返される。

「……これならどうだ!」
埒が明かないと踏んだブレードは自分の装甲を変形させる。足や肩、手などといったあらゆる装甲がスリムになってゆく。
「クラッシュイン……トルゥーーーーーードッ!!!」
次の瞬間ブレードはさらに速い、まさに光のような速度に達していた。
それは凄まじい速度で空を駆ける。ブレードが通った後は、まるで空に緑色の絵を描いたかのように輝く。
「うおおおおおッッ!!!」
「く……ぐぁッ!」
右から、左から、あらゆる方向から飛んでくる閃光に翻弄されるエビル。360゚からの攻撃にさらされ、エビルの装甲に傷が入っていく。
「……調子に乗るなァッ!」
だが、流石にエビル相手にずっと同じ攻撃が通用する訳も無く、ついにテックランサーで受け止められる。
ブレードはすぐに変形を解除、テックランサーでエビルを斬ろうとするが……
「死ね!ブレェーーードォッ!!」
エビルは一瞬できた隙を突いてブレードの胸にテックランサーを突き刺す。
「ぐぁあああッ!」
その衝撃でブレードはこれまた凄まじい速度で地面に落下。近くにいたクロノはそれにより生じた砂埃にむせる。
「おい……クロノ……!」
ブレードは自分が地面に落下・激突することでできたクレーターからはい出るように立ち上がる。
「なんだDボゥイ?」
「俺がテックセットしてから……何分たった……?」
「え?……多分、もうすぐ30分くらいだ。それがどうかしたのか……?」
「そうか……!」
ブレードは再び凄まじい速度で空へと飛び上がった。
「(そろそろ決着をつけないと……俺は……!)」
ブレードはエビルと同じ高度で静止。エビルとの距離は……だいたい100mくらいか。
そしてブレードの両肩の装甲が開き、中から巨大なレンズのような物が飛び出す。

「……なんだ?何をする気なんだ、Dボゥイは……!」
クロノは地上で目を見開く。
「エビルゥーッ!!」
ブレードは叫びながら両腕を広げる。まるで何かを発射するような体制だ。
そして両肩のレンズ状の物体が光りを吸い込み輝き出し……
「ハハハハハッ!滑稽だね、兄さん!」
それを見たエビルは高らかに笑い始める。
「まさか俺のPSYボルテッカの効果を忘れた訳じゃ無いだろう!えぇ!?兄さぁんッ!!」
エビルも笑いながら、ブレードと同じように両腕を広げる。同時に胸のボタンのような物が光を吸い込み、輝き始める。
「これで終わりだ、エビルゥーーーッ!!」
「これで最期だ、ブレェーーードォッ!!」
そして……
「ヴォォルテッカァァァーーーーーッッ!!!」
「PSYボォルテッカァーーーーーーーーッッ!!!」
刹那、二人の体から放たれた光が衝突する。凄まじい衝撃に、周囲の物全てが吹き飛びそうになる。
「な……なんて威力だ……!これは……スターライトブレイカーなんかの比じゃないぞ……!」
『プロテクション』
クロノも衝撃だけで吹き飛びそうになり、S2Uで障壁を張る。まさか、直接攻撃された訳でも無いのに、
ましてや味方の放った攻撃の衝撃に堪えるために障壁を張るなんて初めてだ。
「クソ……障壁が……!」
だが例え障壁を張ろうが、反物質粒子の塊であるダブルボルテッカに堪えるのは少しばかりきつい。
だんだんとS2Uの障壁は脆くなってゆき、今にも吹き飛ばされそうだ。
何度も言うが、これはあくまで衝撃に過ぎず、攻撃された訳では無い。

「「うおおおおおおおおッッ!!!」」
二人は叫びながらお互いのボルテッカをぶつけるが、ブレードが放った緑のボルテッカは次第に威力を失っていく。
そして代わりにエビルの発した赤いボルテッカは威力を増していき……
「終わりだね……兄さん!」
「……!?」
エビルのPSYボルテッカはブレードのボルテッカを吸収・無効化し、そのままブレードに直撃する。
「ぐぁああああああああああああッッ!!!」
大きな叫び声と共に再び地面に落下するブレード。
クロノはすぐにブレードに駆け付ける。
「大丈夫か、Dボゥイ!?」
「う……ぅ……」
ブレードはフラフラと立ち上がる。
「まだ戦えるよな?兄さん。威力は絞ったはずだぞ?」
エビルが挑発的に言う。ブレードとクロノはそんなエビルを睨み付ける。
「まだ……戦える!」
「Dボゥイ……!」
ブレードは再び飛ぼうとしたが、そうは行かなかった。
「う……ぐぁあああ!」
突然頭を抱えて苦しみ出したのだ。
「ふふ……タイムアウトだよ、兄さん」
「……ッ!!」
ブレードは最後に一瞬、エビルを睨み付け、そのままスラスター全開で立ち去った。それもクロノを置きざりにして。
「Dボゥイッ!?」
「ハハハハハッ!お前はブレードに見捨てられたのさ!」
エビルはクロノを見てまた高らかに笑い出した。
「(そんな……Dボゥイ……!)」
クロノは悔しい表情で笑いながら立ち去っていくエビルを見るしかできない。



理由無き、敵前逃亡……。

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2007年07月20日(金) 19:37:12 Modified by beast0916




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